僕の恋、兄の愛。4

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水曜日ディナー本番。

市井兄と唐所長、再び。①

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「・・・唐所長。
お手洗いですか?」

「うん、そう。
あと君たちはどうしてるかなと思っ・・・???
市井くん大丈夫?
顔色が随分悪いよ?」

取り合えず顔を上げて返事をすると、唐所長が焦ったように俺に近づいてくる。

そうだ、唐所長だ!

唐所長が俺達を帝王ホテルココに招待してくれたんだ、つまりこの人がココの事を一番知っている。

「あの・・・白金属を今すぐ用意する方法ってありますか??
できればPtが望ましいんですが、いえ、あの、すいません、独り言です。
ちょっと食べ過ぎまして。」

藁を掴む気持ちで聞いてみるが、流石に無理だよな、と話題を逸らす。

いっそ健に本当の事を言って謝ろうか。
健は優しいから怒らないだろう。
でもガッカリするだろうな、健。

・・・どうしよう。

ダメだ、思考がグルグル回るだけで解決策に辿り着かない。

そんな俺を横目に、唐所長はキョトン顔になった。

「白金属?
Ptって元素記号のプラチナの事だね。
白金属がいるの??
今???」

「はい。無理ですよね、すいません。」

「え?
簡単だよ?
本当に要るの?」

唐所長がキョトン顔のまま、事もなげにそう言った。

「白金属のPtです。
必要です。
今、今すぐ必要なんです。」

「??
研究に使うのなら、ラボから注文した方がいいよ?
プライベートなの?
金属は、白限定?貴金属ならなんでもいい?」

「研究には使いません。
完全プライベートです。
え?手に入るんですか??」

混乱している俺に微笑みながら唐所長は続ける。

「うん、大丈夫、簡単だよ。
白金属なら何でもいいの?」

「あの・・・出来れば吟味したいんです。
ですが、時間もなくて・・・、貴金属の方が選択肢は広がりますか?」

指輪は必要なんだが、妥協もしたくはない。

混乱したまま、何とか返事をする。

「いや、ソレもあるけど・・・だからね、市井くん。
市井くんに、今、必要なのは、貴金属の何?
標本?装飾品?絵画?食器?検査機器?」

???

・・・。

待て、待て待てイケオヤジ。
俺達ディナー中、だぞ?

健介を待たせて、急いで白金属の標本を買い求める俺。

・・・馬鹿みたいじゃないか。

「ふふ、君がそんなに焦ってるなんて、新鮮だよ。
“貴金属”って、『金属の中でも、化合物をつくりにくく希少性のある金属の総称。』であって、その製品に指定は無い。
白金属も貴金属だから、選択肢が増えるけど、何を必要としてるか分からなければ準備のしようがなくてね。」

そう言われて、気付く。

そういや、何が欲しいのか唐所長に伝えてない。
白金属は・・・素材だ。

「すいません。
プラチナの指輪が欲しいんです。」

「必要なのは指輪だね。
ふふふ、しっかり者の君も混乱する事があるんだね。」

「今、余裕無いんで、からかわないで下さい。」

「ふは、ごめん、ごめん。
大丈夫だよ、市井くん。
装飾品やアクセサリーなら現物は小さいから、すぐ準備できる(んじゃないかな)。
夫婦でディナー記念の指輪?」

「いえ・・・。
・・・出来れば俺と健で、お揃いかペアの指輪を。
・・・婚約指輪とか結婚指輪が好ましいんですが。」

唐所長が少し驚いた顔になった。

ええ、そうですよ。

弟を口説いて新婚恋人夫婦名乗っておいて、指輪しるしを渡す発想の無いダメ男なんですよ俺は。

・・・巻き込んで、すいません。

「指輪か、いいねそれ。
弟くん、好みのブランドとかある?」

持ち直した唐所長がニッコリ微笑む。

ツラくなるので、優しい目で見ないで下さい。









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