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逃げ出したいほどの
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「ど、どうしようっ、冴子助けて」
友紀からの電話は土曜日の朝、ちょうど時計が8時を過ぎたとほとんど同時に着信したようだった。
その着信音で目を覚ました私は、ぼんやりとした思考のまま「うん」と応じる。
そうしながら、きっと友紀は友紀なりに、週末の夜に私が美咲さんと水入らずで過ごす時間を極力邪魔しないように、ギリギリここまでは待ったのかもしれないなと考えていた。
「…ちょっと、落ち着いて話してよ、眠いし」
「うん、ごめん」
なんでも、話を聞けば友紀はほんの2、3時間前までシティホテルの客室に居たのだと言う。しかも真下課長と二人きりで。
焦りまくりでしかも泣き出す寸前のような様子の割には、友紀の念願は叶ったのだとわかった。
晴香ちゃんにそそのかされるままノーパンで売上トップのお祝いステーキディナーに赴いたは良いが、その事が予期せず真下課長にばれてしまい、そこからはどんどんいやらしい空気になり挙句ホテルに駆け込んでしこたま変態じみた交わりに興じてしまったのだ、とは友紀の談である。
…私からすれば、そんな状況で何故「助けて」などと言うのか、友紀の考えがわからない。
「でも今、一人なんだよね?」と友紀に尋ねると「うん」と陰気な声が返って来た。
「どうして?真下課長も帰ったって事?」
「う…」
思いが通じてそんなに濃密な一夜を過ごした仲なのだから、モーニングぐらい二人で食べてのんびり帰って来れば良かったのに。
「その…気付いたら二人とも寝ちゃってて、で5時過ぎぐらいに私だけ目が覚めて、急いで帰って来ちゃった」
「…え?じゃ真下課長の事部屋に置いて来ちゃったの?」
「う…うん、そうなるよね」
ただならぬ空気と、相手が友紀だというのがわかったからか、起き上がった私のすぐ横で眠っていた美咲さんも覚醒して静かに私の様子を伺っている。
美咲さんを起こしてしまったのが申し訳ない気がして、私は少しでもうるさくならないようにと思いながら、わずかに美咲さんに背を向け手で口を覆うようにしつつ友紀との通話を続ける。
「真下課長置き去りってそれ…いいのかな…」
「…だって、……うぅ」
「ちょっと、とにかく落ち着いて」
そんな言葉を言い終わった所で、いきなり背後から腕が伸びてきた。
それは美咲さんの腕に決まっているのだけど、私は反射的にそれをかわしそうになり、そうしておきながらそれはそれで失礼かもしれないなどと思って中途半端に身体をよじってしまう。
無造作に伸ばされた美咲さんの腕は、私の腰辺りにほんの少し触れて、そこから私の身体を軸にして腕に力を込めて起き上がったようだった。
すかさず自分の身体が美咲さんの両腕に包まれて、あたふたしてしまう。
美咲さんは視線で「邪魔しないから」というような薄い笑顔を向けてくるけど、あまり油断できない。
友紀の緊急事態にうっかり甘い声などこぼしてしまったら、それこそ友紀に失礼だ。
「あの…気持ち通じ合ったんじゃないの?…違うって事なの?」
「うーん……わからない」
「わからない、って…」
「私の気持ちは伝えたけど、向こうの気持ちは聞いてない」
「……」
「だって、怖かったんだもの」
夜通し睦み合ったのなら、もはや聞くまでもなさそうな気がするのだが、友紀としては真下課長の心と身体は別物という認識のようである。
「怖いのは…それだけじゃなくて」
「うん?」
静かに友紀の言葉を待っていると、その間に美咲さんが勝手に私の身体をまさぐってくる。
動きとしては緩慢だけど、なぜか身体が溶けそうな心地良さを感じてしまった。
どうにか吐息が漏れないようこらえつつ、友紀の言葉に耳を傾ける。
一応、宣言通り美咲さんはそれ以上、性的な欲情を煽る触り方はしないつもりらしい。
「気持ちが通じ合ったら通じ合ったで、なんか…怖いよ」
「どうして」
「だって、毎日顔を合わせて仕事するんだよ?区別つかなくなっちゃうよ」
「……」
そういうものなのだろうか。
私個人としては、仕事でもずっと好きな人と一緒という状況は喉から手が出るほど欲しいのに手に入らないから、友紀の言う意味は今一つわからなかった。
…いや、ひょっとすると。
「友紀、あの…その、言いにくいんだけど…そう思うって事は、その…」
「……」
友紀にしてみれば耳を背けたくなる内容を口にしようとしているだけに、指示代名詞ばかりが口をついて出てしまう。
「昨日の夜の、その…それにはまっちゃったって事…?」
「…だと思う」
「……そっか」
具体的には何をしたんだろうか。非常に気になる。
でもまあ一般的に言われる女性同士の交わりでする事は一通り、プラスで何かアブノーマルな行為にも及んだという事なのだろう。
しかもそれが友紀にとって人生観を揺るがすレベルの快楽だったという事かもしれない。
「…だったら、良かったんじゃないの」
「なんでよ」
「いや…理由はわからないけど」
「もう、私真下課長の事いやらしい目でしか見られなくなりそう」
「…まあ、そのうち慣れると思うけどな」
「でも、明後日にはまた顔を合わせるんだよ?…それに単なる遊びだったかもしれないし、気まずいよ」
「友紀が知らん顔してれば、いいんじゃないの」
「……」
どちらかと言えば、いくら部下が誘ったからと言ってまともな管理職ならほいほいその身体に乗っかりはしないのだ。
友紀の証言一つで真下課長はセクハラで刺されるリスクを負っている。
誘惑に流されたと言っても、言い訳のきく程度に留めなければ、それこそ真下課長の目指しているであろう出世には差し障る事を、本人がわかっていないはずはないのだ。
だからこそ、夜を徹して睦み合ったと聞いた時に私は、真下課長の覚悟を感じた。
仮に友紀に対する恋愛感情がなかったとしても、友紀を信頼しているのは間違いないし、こんなにも危険な秘密を共有するのは半端な事ではない。
惜しいのは、友紀が身体の関係をいわゆるワンチャンなりラッキーなりと解釈できず、考えの深さの所為で苦しんでいる事だ。
高級ステーキ宜しく「ご馳走様」と軽く流せない性格なのは、私もよく知っている。
起きている現象として考えれば、友紀がただそうして軽くごっつぁんエッチをいただきましたという心持にさえなれれば全てクリアするのだけれど。
それに気の毒なのは、状況だけ見れば半ばヤリ捨てされている真下課長の方である。
友紀の心持はともかく、やられた事だけ振り返れば完全にヤリ捨て被害だ。
しかも、あの友紀の真面目で清楚な感じの出で立ちでノーパン誘惑からの、熱の入った愛の告白を受けてかなり深いプレイまでしてしまって、そこからの一人ぼっちって。かなり辛い気がする。
本来は親友の友紀に肩入れしなければならないのだが、考えれば考えるほど、真下課長が気の毒に思えて仕方ない。
私の複雑な心境をよそに、美咲さんの手は私のフェイスラインや耳、髪を撫でていたかと思うと突然その手を滑らせて服の上から胸を揉んできたりして、予測のつかない動きに時折気が散ってしまいそうになった。
「もし、真下課長が友紀の気持ちに応えようとしてくれているなら、今きっと寂しいんじゃないのかな」
「え……」
考えてみればこの所の友紀はおかしかった。
ふざけて真下課長に誘惑メッセージを送信しろと煽れば素直に従おうとしていたし、晴香ちゃんのアドバイス云々という所からしても、晴香ちゃんのぶっきらぼうな言い回しを鵜呑みにして従ってしまったのなら、相当に過激な誘惑を友紀から仕掛けたのかもしれない。
晴香ちゃんはモデルとしてお金をもらって不特定多数の閲覧者を撃ち抜く威力を求められているし、どうも基準が高い気がするから、その辺の加減を繊細に友紀にレクチャーしている風にはとても思えなかった。
友紀と晴香ちゃんは顔もよく似ていて、ましてや友紀は誰が見ても間違えようのない美貌の持ち主である。
熱に浮かされていたとは言えそんな友紀がエッチな誘惑のギアを高い所に入れたなら、相手にとっては抵抗するのはなかなか難しいだろう。
ある意味、友紀の真面目さを知っている人なら尚更、ギャップが大きくて卒倒しそうになるかもしれない。
かく言う私だって、友紀の全力の誘惑モードはお目にかかった事がない。
だから想像する事しかできないが、何かこう、友紀の特別な一面を見られた気がしてすごく優越感を覚えてしまいそうだな、とは思う。
だが友紀にすれば慣れない事をしたが為に、淫欲の魔法が解けた後から色々恐ろしくなってしまったのだろう。
実際にはそこまで焦る内容ではないのだけれど。
「…もう一度、真下課長ときちんと話をしてみたら?」
「そ、そうだよね…酷い事しちゃったよね、私」
友紀の声がほとんど聞こえないぐらい小さくなってしまった。
「今からでも電話して、謝ればきっと大丈夫だよ」
「そうかな…」
「うん、きっと大丈夫」
「ありがとう」
友紀がほんの少し元気を取り戻した気配があったので、私もつられてほっとした。
そのタイミングを狙っていたのか、美咲さんの手がすっと私の両内腿の間に挟まるように滑り込んでくる。
秘部には触れてこないけど、見た目に卑猥な感じがして私は息を止めた。
「…でも、何を話せばいいのか…ちょっとだけ考えてから、電話してみるね」
「うん、頑張ってね」
「…そうだよね、冴子にこんな話…嫌だったよね」
いつもの、思いやりのある友紀が戻って来たような感じがした。
「嫌だなんて事ないよ、気まずい気持ちは確かにそうだろうと思うから」
「…うん、とにかく、勢い任せで真下課長の身体をその、いっぱい触っちゃって少し反省してるから、それを伝えてみる」
「うん」
通話を切った所でようやく、私はこらえていた吐息を一気に声にして漏らした。
「はぁ……ん」
「エッチな声」
「だって、お姉さまがぁ…ん」
「おはよう、冴子」
振り向きざまに甘く唇を重ねられ、私はもどかしげな鼻息を漏らしてしまった。
それが多分、客観的には物欲しそうに聞こえてしまうに違いない。
「ん、ふ……ぁ」
重ねられた唇の動きや触れる力加減、絡められている舌の動きも、果てしなく穏やかだと言うのに、気持ちばかりが高揚してしまう。
私と美咲さんも、友紀に負けないぐらいに夜通し激しく求め合って、何度も果てを見たと言うのに。
それなのに、こうして軽い触れ合いだけでまた身体が熱を持ち始めてしまうのだ。
休んで回復してから触れると更に感じる、とは美咲さんが出会った頃に言っていた事ではあるけれど。
…でも、友紀の恋の行方を案じる時間も与えられずこうして美咲さんの愛撫に夢中になっている自分が、どこか情けなく、同時に背徳感に興奮していたりもして、自分自身を嘆かずにはいられない。
そもそもその時間を「与えられない」のは私の解釈であって、軽い愛撫で興奮しまくる私の身体や感度に問題があるのだろうけど。
「冴子は…」
昨夜の交わりの序盤にされたみたいに、身体を押し倒されて美咲さんが私を見下ろしながら聞いてくる。
「…はい」
「今の娘…佐藤さん?みたいに、誰かに打ち明けたりしなかったの?」
「してません」
「なんで?」
半分面白がるように美咲さんがぐっと顔を近づけてくる。
どういう訳だか寝巻用のワンピースが胸の上まで押し上げられていて、私は裸の胸を美咲さんの手で押されていた。
「勿体ない…からです」
「ん?」
「誰かに話してしまったら…それは私だけの記憶ではなくなりそうで、勿体ないと思うから…」
「へー」
態勢としてはとても恥ずかしい恰好をさせられているので、まともに美咲さんを見上げるのは辛かったけど、どうにか一生懸命に美咲さんの顔を見ながら私は答えた。
「私にとってお姉さまとの時間は…幸福でしかないです、葛藤なんて…一つもないから」
「あら、そうなんだ」
…友紀みたいにあれこれ考えるほど頭の回転も速くないし、性的な経験値や自覚している欲望の大きさなど、友紀とは全然違う。
私にとっては、あった事、起きた事、それが全てなような気がしているけど、果たしてこの考え方は美咲さんと出会って以降に養われたものだったろうか。記憶が曖昧だ。
「ま、私に言わせれば…」
そう言いながら美咲さんは柔らかく淫靡な表情を一瞬変化させ、ちょっと闘争心を露わにしたような目をした。
「冴子を軽くバカにした女でしょ?その娘の相手って」
「……」
返答としては「はい」なんだろうけど、半ば生々しい美咲さんの表情に声が出ない。
それに私にとってはもう過ぎた事だ。友紀との会話の中ではむしろその真下課長に感情移入するほど、例の件はどうでも良くなっているのに。
「貴女は、大事な友達の、好きな人を…その娘と同じように思う事ができる、人の気持ちに寄り添える器の大きな人間なのよ、私なんかよりずっと立派だわ」
「…へ?」
故に誰彼構わず身体を許す緩い所があると言うのに、いいのだろうか。
「そうでしょ?冴子」
「あの…」
「ちょっと前まで真下みすずは貴女の恋敵かもしれなかったのよ?そしてあの嫌がらせの話を聞いて、今度は冴子が狙われたのかと思うと、私ならいっそ佐藤さんが持って行ってくれたら都合がいいとか考えて、そういう理由で佐藤さんを応援するかもしれない」
「……」
あ、そうか。そんな事は全く考えていなかった。
だって、いくら私が抵抗した所で真下課長に一定以上の魅力があれば、美咲さんがなびいても仕方ないと思っていたし。
それにどちらかと言うと、敵を遠ざける手法よりも、自分自身が誰かに抱かれて本命の嫉妬を買いがちなので、そういう手法ばかりに気を取られていた。
美咲さんが真下課長とどうにかなったとして、その時生まれる嫉妬心をどう押し殺すかばかり考えていた。
「…あの、お姉さま…」
「私なら、耐えられない」
どきりとした。これまでと違う、本気の独占欲とプライドを剥き出しにした美咲さんを見た気がする。
これまでにも身体中にキスマークを付けられたり、嫉妬していると言葉で言われた事はあったのに。
そういう物とは種類が違った。
「…冴子」
え、何故美咲さんが泣きそうになっているんだろう。
どうすれば良いかわからなくて、私はそっと美咲さんの頬に触れた。
「…しよう?冴子、もっともっと…本当に身体がくっついて離れられなくなるぐらいに」
言うが早いか力いっぱい抱きつかれ、これでもかという強さで唇を吸引される。
抱き締められる力の強さと、呼吸への配慮を無視したキスが苦しくて、頭の中が真っ白になった。
過去のどの恋人からも、こうも性急に、そして激しく求められた事などなかった。
理由も動機も関係なしに、ただこの人がひたすら私を求めている、それだけで全てが塗りつぶされてしまって、何もわからなくなる。
「あ…あんっ」
「そう、いっぱい聞かせて…私だけに、ね」
「はいっ…あ、あふ…んっ」
美咲さんの唇が身体中を這い回り、どこもかしこもきつい力で吸引される。
噛んではいないみたいで痛みはないが、あまりに忙しい動きについていけず、私はただされるままになってしまった。
「誰にも渡さないわ、ましてあの女の妄想のえじきになるのも、絶対認めない」
「そんな、の…あ…ん」
そんな事、認めないと言われても止めようがない事ではないのか。
人の思考や心までも制限し支配したいと思うのか、美咲さんは。
それでいて、そういう醜い本音はずっと押し隠していたのだろうか。
それと同時に思うのは、他の誰もが想像し得ないぐらいに、私を乱れさせたくて、今こうしているのだろうという事。
ただ単に感じる声や顔を見せるだけでは満足しないと言われているようで、背筋が寒くなりながらも、言い知れぬ幸福感も覚えている。
「お姉さま、して…誰にもしないようないやらしい事、いっぱい…」
「うん」
そうは言っても、ここまでの交際期間中にたくさん、色んなプレイに興じた。
今美咲さんが見せている獰猛さも、きっと誰にも見せていない姿なのだろうと思う。
私が言いたかったのは、やる内容というよりもそういう気持ちをぶつけて欲しい、そうでないともう満足できない気さえするという事。
「あっ…や…また…っ」
昨晩もベッドの上で暴れ回った事を物語るように、シーツには互いの愛液が飛び散って染みているし、皺もたくさん付いてしまっている。
交わる前にはシャワーも浴びたけれど、汗と、生々しい蜜の匂いは身体にこびりついているに違いない。
そういうものも全部ひっくるめて、再び美咲さんは私の全身を嬲り、噛みつくような愛撫を繰り返し、思うままに私の内側を犯す。
私は犬みたいに鳴いて、それなのに美咲さんに「もっと」と激しい行為をねだる。
気使いもなくメチャクチャにされているのに、私の秘部からはだらしないほどに蜜が溢れて止まらなかった。
それを美咲さんは舐め回し、指で攪拌して、もっともっとと言うようにその出所を刺激してくる。
美咲さんの顔や身体を汚すのもお構いなしに、私はその後もたくさん愛蜜をこぼして潮を吹いた。
何度もそうしてはしたないものを垂れ流しているのに、美咲さんは飽きもせず更にそれを繰り返そうとする。
「だめ、また…イっちゃう…またイくの…お姉さまぁ」
「イって冴子…いくらでもしてあげる」
もうこちらから美咲さんを攻めようとか、気持ち良くしてあげたいとか、それさえも考える余裕はなくなっていた。
ただひたすら美咲さんの攻めを受け止め身体で反応する。こんな一方的な交換はした事がないけど、私はもう何も考えられなくなっていた。
執拗と言うよりも、狂ったように施される愛撫をもろに全部受け止めながら、私もまた狂ったように喘ぎまくる。
そうしてふと思ったのは、絶頂の前後を除いては、実はうっすらとでも美咲さんからの見られ方や、美咲さんの身体の状態などを気にしながら行為に及んでいたのだな、という事。
本当の意味で、遠慮なしに何も気にせずただ快感に身を任せる時間は、実質そう長くなかったという事だ。
けれども今はあらゆる意味で余裕がないから、施される愛撫から逃げ出したいぐらいになっているし、故に何も考えられない。
美咲さんではない誰かにかつて「セックスしてる間もどこか余裕そうに見える」と言われたのをふと思い出した。
「だ…あんっ、ダメですっ…もう…わかんなくなっちゃう」
「わかんなく、なって欲しいのよ」
「なんで……あ、あ、あひっ」
あんなに夜中までたくさん交わったのに。
また朝日の時間帯にこんなに乱れてしまっている。
それに友紀の事だって心配だと言うのに。
もっと、どうせなら何もかもがわからなくなって構わないタイミングでそうしてもらいたかったのだが、うまくいかないものだ。
「あ、お姉さまぁ…大好き、です…っ…あふぅ…ん」
「私もよ、冴子」
猛烈な勢いで指を膣穴に突っ込みながら、美咲さんは優しいキスをしてくれた。
私はえづくように「んぐ、んんっ」ともがいて、みっともないほど声を漏らし快感を訴える。
「まだでしょ?冴子…この後もっと大きいのでいっぱい突いてあげるからね」
「…はいっ」
「でもその前に…」
激しいが、それでも恐ろしく的確な動きで美咲さんの指先は私の感じるポイントを擦ってくる。
その場所に触れられた瞬間に軽く、そして強く刺激された時には数回で、と私は何度も絶頂を迎えた。
「あぁ…あんっ、イっちゃうっ…」
申告の数と実数は全く一致していない。実数の方がはるかに多くなっているのだ。
それさえももう、だんだんとどうでも良く思えてきていた。
そんな事は、申告せずともおおよそ美咲さんにはわかっている事だろうから。
自分でも予期しない角度に身体が捻じれ、予期しないタイミングで痙攣する事によりベッドの上はますます目も当てられないほどに乱れていった。
今は身体をほとんど押さえつけられてはいないので、四肢はじたばたと動きまわっているけれど、それでも美咲さんの指は私の一番感じる場所をぴたりと捉えてずれる事もない。
…逃げられない、この絶頂の嵐からもう、逃げられないのだと思うとそれは絶望にも似た、不思議な気分をもたらす。
幸せ過ぎるから逃げたいのだろうか。何故なんだろう。
それは、今朝がたホテルの部屋に真下課長を残して友紀が逃げてきたのと、さほど違わない理由なのかもしれないと思った。
よく知ってなじんでいるはずの美咲さんの指で何度も何度も絶頂へと追い立てられ、あらゆるものが尽きたのではないかと思う私に、今度は偽竿による刺激が襲い掛かってくる。
幸せなのに、セックスに対してどこか怖いような気がして、でもそれはきっと期待感の裏返しなのだと理解し黙ってそれを受け入れた。
「あぁんっ…はぁっ……」
「これはこれで感じちゃんでしょ、冴子」
そう言う美咲さんは微笑んでいる。
腰をゆるゆると回すように動かして私の膣肉をあらかたほぐして広げた所で、今度は無遠慮にどかどかと私の奥を掘り起こしてきた。
「ひ、あぁぁ…だめぇ、イくの…」
言いながら二度、三度と達したかもしれない。
かつて一度のセックスでこうもたくさん絶頂した事があっただろうか。
波の大きさは様々だけど、とにかく始終連続絶頂するという特殊な芸当でも披露している気分だ。
「ねえ、誰にされててもこんなイきまくっちゃうの?…冴子は」
「は…あ…んん」
そんな事、わかっている癖に何故いちいち聞いてくるのだろう。
「こんなの…ないです、初めて…あぁっ」
「…そうなんだ」
白々しい言い回しに思わず恨めしい顔で美咲さんを見てしまった。
ポイントをわざと外すように挿入しながら会話してくる辺りも憎らしい。
「そこ、じゃなくて…もっと…」
「…ここ?」
「きゃっ、あ、あ…そこは…っぁぁ」
かすめるように擦っていた偽竿が、ここぞとばかりにその場所に突き刺さる。
その瞬間私はまた、美咲さんの腕の中で四肢を痙攣させ果てを見た。今度のそれは深い。
…そうだ、今日は多分、まだ失神はしていない。
もしかして美咲さんがそうなるようにコントロールしているのだろうか。
だとしたら、あらゆる事を掌握され、私はただ踊っているだけにすぎないのかもしれない。
美咲さんが、自分の見たいと思う私の姿を、自分の手で作り上げているのだろうか。
「あっあの…」
「…何?」
耳元に吹き込まれるのはあの艶めかしい声。
私は「うっ」とうめいてまた絶頂した。
偽竿はゆるゆると揺れていただけなのに。
「冴子耳でもイっちゃうのね…いやらしい」
「…だって」
口答えしようとすると、偽竿が激しく出し入れされ私はまた喘ぐだけになった。
「あぁっ、あんっ、は……っ」
気が付くと、私の秘部に偽竿が出し入れされるぐちゅぐちゅという音と、自分のはしたない喘ぎ声のみが室内に響いていた。
それが猛烈に恥ずかしいのに、この状況を打開できない。
「あんっ、あ…またイっちゃう」
もう美咲さんは何も言わなかった。
私は涙を溜めた瞳で美咲さんを見上げながら、瞳を閉じる事なく何度も絶頂する。
もういいと思ってもそれは延々と続き、食事をするのも忘れて、私が疲れ果てて眠ってしまうまで、休む事なく続いたのだった。
友紀からの電話は土曜日の朝、ちょうど時計が8時を過ぎたとほとんど同時に着信したようだった。
その着信音で目を覚ました私は、ぼんやりとした思考のまま「うん」と応じる。
そうしながら、きっと友紀は友紀なりに、週末の夜に私が美咲さんと水入らずで過ごす時間を極力邪魔しないように、ギリギリここまでは待ったのかもしれないなと考えていた。
「…ちょっと、落ち着いて話してよ、眠いし」
「うん、ごめん」
なんでも、話を聞けば友紀はほんの2、3時間前までシティホテルの客室に居たのだと言う。しかも真下課長と二人きりで。
焦りまくりでしかも泣き出す寸前のような様子の割には、友紀の念願は叶ったのだとわかった。
晴香ちゃんにそそのかされるままノーパンで売上トップのお祝いステーキディナーに赴いたは良いが、その事が予期せず真下課長にばれてしまい、そこからはどんどんいやらしい空気になり挙句ホテルに駆け込んでしこたま変態じみた交わりに興じてしまったのだ、とは友紀の談である。
…私からすれば、そんな状況で何故「助けて」などと言うのか、友紀の考えがわからない。
「でも今、一人なんだよね?」と友紀に尋ねると「うん」と陰気な声が返って来た。
「どうして?真下課長も帰ったって事?」
「う…」
思いが通じてそんなに濃密な一夜を過ごした仲なのだから、モーニングぐらい二人で食べてのんびり帰って来れば良かったのに。
「その…気付いたら二人とも寝ちゃってて、で5時過ぎぐらいに私だけ目が覚めて、急いで帰って来ちゃった」
「…え?じゃ真下課長の事部屋に置いて来ちゃったの?」
「う…うん、そうなるよね」
ただならぬ空気と、相手が友紀だというのがわかったからか、起き上がった私のすぐ横で眠っていた美咲さんも覚醒して静かに私の様子を伺っている。
美咲さんを起こしてしまったのが申し訳ない気がして、私は少しでもうるさくならないようにと思いながら、わずかに美咲さんに背を向け手で口を覆うようにしつつ友紀との通話を続ける。
「真下課長置き去りってそれ…いいのかな…」
「…だって、……うぅ」
「ちょっと、とにかく落ち着いて」
そんな言葉を言い終わった所で、いきなり背後から腕が伸びてきた。
それは美咲さんの腕に決まっているのだけど、私は反射的にそれをかわしそうになり、そうしておきながらそれはそれで失礼かもしれないなどと思って中途半端に身体をよじってしまう。
無造作に伸ばされた美咲さんの腕は、私の腰辺りにほんの少し触れて、そこから私の身体を軸にして腕に力を込めて起き上がったようだった。
すかさず自分の身体が美咲さんの両腕に包まれて、あたふたしてしまう。
美咲さんは視線で「邪魔しないから」というような薄い笑顔を向けてくるけど、あまり油断できない。
友紀の緊急事態にうっかり甘い声などこぼしてしまったら、それこそ友紀に失礼だ。
「あの…気持ち通じ合ったんじゃないの?…違うって事なの?」
「うーん……わからない」
「わからない、って…」
「私の気持ちは伝えたけど、向こうの気持ちは聞いてない」
「……」
「だって、怖かったんだもの」
夜通し睦み合ったのなら、もはや聞くまでもなさそうな気がするのだが、友紀としては真下課長の心と身体は別物という認識のようである。
「怖いのは…それだけじゃなくて」
「うん?」
静かに友紀の言葉を待っていると、その間に美咲さんが勝手に私の身体をまさぐってくる。
動きとしては緩慢だけど、なぜか身体が溶けそうな心地良さを感じてしまった。
どうにか吐息が漏れないようこらえつつ、友紀の言葉に耳を傾ける。
一応、宣言通り美咲さんはそれ以上、性的な欲情を煽る触り方はしないつもりらしい。
「気持ちが通じ合ったら通じ合ったで、なんか…怖いよ」
「どうして」
「だって、毎日顔を合わせて仕事するんだよ?区別つかなくなっちゃうよ」
「……」
そういうものなのだろうか。
私個人としては、仕事でもずっと好きな人と一緒という状況は喉から手が出るほど欲しいのに手に入らないから、友紀の言う意味は今一つわからなかった。
…いや、ひょっとすると。
「友紀、あの…その、言いにくいんだけど…そう思うって事は、その…」
「……」
友紀にしてみれば耳を背けたくなる内容を口にしようとしているだけに、指示代名詞ばかりが口をついて出てしまう。
「昨日の夜の、その…それにはまっちゃったって事…?」
「…だと思う」
「……そっか」
具体的には何をしたんだろうか。非常に気になる。
でもまあ一般的に言われる女性同士の交わりでする事は一通り、プラスで何かアブノーマルな行為にも及んだという事なのだろう。
しかもそれが友紀にとって人生観を揺るがすレベルの快楽だったという事かもしれない。
「…だったら、良かったんじゃないの」
「なんでよ」
「いや…理由はわからないけど」
「もう、私真下課長の事いやらしい目でしか見られなくなりそう」
「…まあ、そのうち慣れると思うけどな」
「でも、明後日にはまた顔を合わせるんだよ?…それに単なる遊びだったかもしれないし、気まずいよ」
「友紀が知らん顔してれば、いいんじゃないの」
「……」
どちらかと言えば、いくら部下が誘ったからと言ってまともな管理職ならほいほいその身体に乗っかりはしないのだ。
友紀の証言一つで真下課長はセクハラで刺されるリスクを負っている。
誘惑に流されたと言っても、言い訳のきく程度に留めなければ、それこそ真下課長の目指しているであろう出世には差し障る事を、本人がわかっていないはずはないのだ。
だからこそ、夜を徹して睦み合ったと聞いた時に私は、真下課長の覚悟を感じた。
仮に友紀に対する恋愛感情がなかったとしても、友紀を信頼しているのは間違いないし、こんなにも危険な秘密を共有するのは半端な事ではない。
惜しいのは、友紀が身体の関係をいわゆるワンチャンなりラッキーなりと解釈できず、考えの深さの所為で苦しんでいる事だ。
高級ステーキ宜しく「ご馳走様」と軽く流せない性格なのは、私もよく知っている。
起きている現象として考えれば、友紀がただそうして軽くごっつぁんエッチをいただきましたという心持にさえなれれば全てクリアするのだけれど。
それに気の毒なのは、状況だけ見れば半ばヤリ捨てされている真下課長の方である。
友紀の心持はともかく、やられた事だけ振り返れば完全にヤリ捨て被害だ。
しかも、あの友紀の真面目で清楚な感じの出で立ちでノーパン誘惑からの、熱の入った愛の告白を受けてかなり深いプレイまでしてしまって、そこからの一人ぼっちって。かなり辛い気がする。
本来は親友の友紀に肩入れしなければならないのだが、考えれば考えるほど、真下課長が気の毒に思えて仕方ない。
私の複雑な心境をよそに、美咲さんの手は私のフェイスラインや耳、髪を撫でていたかと思うと突然その手を滑らせて服の上から胸を揉んできたりして、予測のつかない動きに時折気が散ってしまいそうになった。
「もし、真下課長が友紀の気持ちに応えようとしてくれているなら、今きっと寂しいんじゃないのかな」
「え……」
考えてみればこの所の友紀はおかしかった。
ふざけて真下課長に誘惑メッセージを送信しろと煽れば素直に従おうとしていたし、晴香ちゃんのアドバイス云々という所からしても、晴香ちゃんのぶっきらぼうな言い回しを鵜呑みにして従ってしまったのなら、相当に過激な誘惑を友紀から仕掛けたのかもしれない。
晴香ちゃんはモデルとしてお金をもらって不特定多数の閲覧者を撃ち抜く威力を求められているし、どうも基準が高い気がするから、その辺の加減を繊細に友紀にレクチャーしている風にはとても思えなかった。
友紀と晴香ちゃんは顔もよく似ていて、ましてや友紀は誰が見ても間違えようのない美貌の持ち主である。
熱に浮かされていたとは言えそんな友紀がエッチな誘惑のギアを高い所に入れたなら、相手にとっては抵抗するのはなかなか難しいだろう。
ある意味、友紀の真面目さを知っている人なら尚更、ギャップが大きくて卒倒しそうになるかもしれない。
かく言う私だって、友紀の全力の誘惑モードはお目にかかった事がない。
だから想像する事しかできないが、何かこう、友紀の特別な一面を見られた気がしてすごく優越感を覚えてしまいそうだな、とは思う。
だが友紀にすれば慣れない事をしたが為に、淫欲の魔法が解けた後から色々恐ろしくなってしまったのだろう。
実際にはそこまで焦る内容ではないのだけれど。
「…もう一度、真下課長ときちんと話をしてみたら?」
「そ、そうだよね…酷い事しちゃったよね、私」
友紀の声がほとんど聞こえないぐらい小さくなってしまった。
「今からでも電話して、謝ればきっと大丈夫だよ」
「そうかな…」
「うん、きっと大丈夫」
「ありがとう」
友紀がほんの少し元気を取り戻した気配があったので、私もつられてほっとした。
そのタイミングを狙っていたのか、美咲さんの手がすっと私の両内腿の間に挟まるように滑り込んでくる。
秘部には触れてこないけど、見た目に卑猥な感じがして私は息を止めた。
「…でも、何を話せばいいのか…ちょっとだけ考えてから、電話してみるね」
「うん、頑張ってね」
「…そうだよね、冴子にこんな話…嫌だったよね」
いつもの、思いやりのある友紀が戻って来たような感じがした。
「嫌だなんて事ないよ、気まずい気持ちは確かにそうだろうと思うから」
「…うん、とにかく、勢い任せで真下課長の身体をその、いっぱい触っちゃって少し反省してるから、それを伝えてみる」
「うん」
通話を切った所でようやく、私はこらえていた吐息を一気に声にして漏らした。
「はぁ……ん」
「エッチな声」
「だって、お姉さまがぁ…ん」
「おはよう、冴子」
振り向きざまに甘く唇を重ねられ、私はもどかしげな鼻息を漏らしてしまった。
それが多分、客観的には物欲しそうに聞こえてしまうに違いない。
「ん、ふ……ぁ」
重ねられた唇の動きや触れる力加減、絡められている舌の動きも、果てしなく穏やかだと言うのに、気持ちばかりが高揚してしまう。
私と美咲さんも、友紀に負けないぐらいに夜通し激しく求め合って、何度も果てを見たと言うのに。
それなのに、こうして軽い触れ合いだけでまた身体が熱を持ち始めてしまうのだ。
休んで回復してから触れると更に感じる、とは美咲さんが出会った頃に言っていた事ではあるけれど。
…でも、友紀の恋の行方を案じる時間も与えられずこうして美咲さんの愛撫に夢中になっている自分が、どこか情けなく、同時に背徳感に興奮していたりもして、自分自身を嘆かずにはいられない。
そもそもその時間を「与えられない」のは私の解釈であって、軽い愛撫で興奮しまくる私の身体や感度に問題があるのだろうけど。
「冴子は…」
昨夜の交わりの序盤にされたみたいに、身体を押し倒されて美咲さんが私を見下ろしながら聞いてくる。
「…はい」
「今の娘…佐藤さん?みたいに、誰かに打ち明けたりしなかったの?」
「してません」
「なんで?」
半分面白がるように美咲さんがぐっと顔を近づけてくる。
どういう訳だか寝巻用のワンピースが胸の上まで押し上げられていて、私は裸の胸を美咲さんの手で押されていた。
「勿体ない…からです」
「ん?」
「誰かに話してしまったら…それは私だけの記憶ではなくなりそうで、勿体ないと思うから…」
「へー」
態勢としてはとても恥ずかしい恰好をさせられているので、まともに美咲さんを見上げるのは辛かったけど、どうにか一生懸命に美咲さんの顔を見ながら私は答えた。
「私にとってお姉さまとの時間は…幸福でしかないです、葛藤なんて…一つもないから」
「あら、そうなんだ」
…友紀みたいにあれこれ考えるほど頭の回転も速くないし、性的な経験値や自覚している欲望の大きさなど、友紀とは全然違う。
私にとっては、あった事、起きた事、それが全てなような気がしているけど、果たしてこの考え方は美咲さんと出会って以降に養われたものだったろうか。記憶が曖昧だ。
「ま、私に言わせれば…」
そう言いながら美咲さんは柔らかく淫靡な表情を一瞬変化させ、ちょっと闘争心を露わにしたような目をした。
「冴子を軽くバカにした女でしょ?その娘の相手って」
「……」
返答としては「はい」なんだろうけど、半ば生々しい美咲さんの表情に声が出ない。
それに私にとってはもう過ぎた事だ。友紀との会話の中ではむしろその真下課長に感情移入するほど、例の件はどうでも良くなっているのに。
「貴女は、大事な友達の、好きな人を…その娘と同じように思う事ができる、人の気持ちに寄り添える器の大きな人間なのよ、私なんかよりずっと立派だわ」
「…へ?」
故に誰彼構わず身体を許す緩い所があると言うのに、いいのだろうか。
「そうでしょ?冴子」
「あの…」
「ちょっと前まで真下みすずは貴女の恋敵かもしれなかったのよ?そしてあの嫌がらせの話を聞いて、今度は冴子が狙われたのかと思うと、私ならいっそ佐藤さんが持って行ってくれたら都合がいいとか考えて、そういう理由で佐藤さんを応援するかもしれない」
「……」
あ、そうか。そんな事は全く考えていなかった。
だって、いくら私が抵抗した所で真下課長に一定以上の魅力があれば、美咲さんがなびいても仕方ないと思っていたし。
それにどちらかと言うと、敵を遠ざける手法よりも、自分自身が誰かに抱かれて本命の嫉妬を買いがちなので、そういう手法ばかりに気を取られていた。
美咲さんが真下課長とどうにかなったとして、その時生まれる嫉妬心をどう押し殺すかばかり考えていた。
「…あの、お姉さま…」
「私なら、耐えられない」
どきりとした。これまでと違う、本気の独占欲とプライドを剥き出しにした美咲さんを見た気がする。
これまでにも身体中にキスマークを付けられたり、嫉妬していると言葉で言われた事はあったのに。
そういう物とは種類が違った。
「…冴子」
え、何故美咲さんが泣きそうになっているんだろう。
どうすれば良いかわからなくて、私はそっと美咲さんの頬に触れた。
「…しよう?冴子、もっともっと…本当に身体がくっついて離れられなくなるぐらいに」
言うが早いか力いっぱい抱きつかれ、これでもかという強さで唇を吸引される。
抱き締められる力の強さと、呼吸への配慮を無視したキスが苦しくて、頭の中が真っ白になった。
過去のどの恋人からも、こうも性急に、そして激しく求められた事などなかった。
理由も動機も関係なしに、ただこの人がひたすら私を求めている、それだけで全てが塗りつぶされてしまって、何もわからなくなる。
「あ…あんっ」
「そう、いっぱい聞かせて…私だけに、ね」
「はいっ…あ、あふ…んっ」
美咲さんの唇が身体中を這い回り、どこもかしこもきつい力で吸引される。
噛んではいないみたいで痛みはないが、あまりに忙しい動きについていけず、私はただされるままになってしまった。
「誰にも渡さないわ、ましてあの女の妄想のえじきになるのも、絶対認めない」
「そんな、の…あ…ん」
そんな事、認めないと言われても止めようがない事ではないのか。
人の思考や心までも制限し支配したいと思うのか、美咲さんは。
それでいて、そういう醜い本音はずっと押し隠していたのだろうか。
それと同時に思うのは、他の誰もが想像し得ないぐらいに、私を乱れさせたくて、今こうしているのだろうという事。
ただ単に感じる声や顔を見せるだけでは満足しないと言われているようで、背筋が寒くなりながらも、言い知れぬ幸福感も覚えている。
「お姉さま、して…誰にもしないようないやらしい事、いっぱい…」
「うん」
そうは言っても、ここまでの交際期間中にたくさん、色んなプレイに興じた。
今美咲さんが見せている獰猛さも、きっと誰にも見せていない姿なのだろうと思う。
私が言いたかったのは、やる内容というよりもそういう気持ちをぶつけて欲しい、そうでないともう満足できない気さえするという事。
「あっ…や…また…っ」
昨晩もベッドの上で暴れ回った事を物語るように、シーツには互いの愛液が飛び散って染みているし、皺もたくさん付いてしまっている。
交わる前にはシャワーも浴びたけれど、汗と、生々しい蜜の匂いは身体にこびりついているに違いない。
そういうものも全部ひっくるめて、再び美咲さんは私の全身を嬲り、噛みつくような愛撫を繰り返し、思うままに私の内側を犯す。
私は犬みたいに鳴いて、それなのに美咲さんに「もっと」と激しい行為をねだる。
気使いもなくメチャクチャにされているのに、私の秘部からはだらしないほどに蜜が溢れて止まらなかった。
それを美咲さんは舐め回し、指で攪拌して、もっともっとと言うようにその出所を刺激してくる。
美咲さんの顔や身体を汚すのもお構いなしに、私はその後もたくさん愛蜜をこぼして潮を吹いた。
何度もそうしてはしたないものを垂れ流しているのに、美咲さんは飽きもせず更にそれを繰り返そうとする。
「だめ、また…イっちゃう…またイくの…お姉さまぁ」
「イって冴子…いくらでもしてあげる」
もうこちらから美咲さんを攻めようとか、気持ち良くしてあげたいとか、それさえも考える余裕はなくなっていた。
ただひたすら美咲さんの攻めを受け止め身体で反応する。こんな一方的な交換はした事がないけど、私はもう何も考えられなくなっていた。
執拗と言うよりも、狂ったように施される愛撫をもろに全部受け止めながら、私もまた狂ったように喘ぎまくる。
そうしてふと思ったのは、絶頂の前後を除いては、実はうっすらとでも美咲さんからの見られ方や、美咲さんの身体の状態などを気にしながら行為に及んでいたのだな、という事。
本当の意味で、遠慮なしに何も気にせずただ快感に身を任せる時間は、実質そう長くなかったという事だ。
けれども今はあらゆる意味で余裕がないから、施される愛撫から逃げ出したいぐらいになっているし、故に何も考えられない。
美咲さんではない誰かにかつて「セックスしてる間もどこか余裕そうに見える」と言われたのをふと思い出した。
「だ…あんっ、ダメですっ…もう…わかんなくなっちゃう」
「わかんなく、なって欲しいのよ」
「なんで……あ、あ、あひっ」
あんなに夜中までたくさん交わったのに。
また朝日の時間帯にこんなに乱れてしまっている。
それに友紀の事だって心配だと言うのに。
もっと、どうせなら何もかもがわからなくなって構わないタイミングでそうしてもらいたかったのだが、うまくいかないものだ。
「あ、お姉さまぁ…大好き、です…っ…あふぅ…ん」
「私もよ、冴子」
猛烈な勢いで指を膣穴に突っ込みながら、美咲さんは優しいキスをしてくれた。
私はえづくように「んぐ、んんっ」ともがいて、みっともないほど声を漏らし快感を訴える。
「まだでしょ?冴子…この後もっと大きいのでいっぱい突いてあげるからね」
「…はいっ」
「でもその前に…」
激しいが、それでも恐ろしく的確な動きで美咲さんの指先は私の感じるポイントを擦ってくる。
その場所に触れられた瞬間に軽く、そして強く刺激された時には数回で、と私は何度も絶頂を迎えた。
「あぁ…あんっ、イっちゃうっ…」
申告の数と実数は全く一致していない。実数の方がはるかに多くなっているのだ。
それさえももう、だんだんとどうでも良く思えてきていた。
そんな事は、申告せずともおおよそ美咲さんにはわかっている事だろうから。
自分でも予期しない角度に身体が捻じれ、予期しないタイミングで痙攣する事によりベッドの上はますます目も当てられないほどに乱れていった。
今は身体をほとんど押さえつけられてはいないので、四肢はじたばたと動きまわっているけれど、それでも美咲さんの指は私の一番感じる場所をぴたりと捉えてずれる事もない。
…逃げられない、この絶頂の嵐からもう、逃げられないのだと思うとそれは絶望にも似た、不思議な気分をもたらす。
幸せ過ぎるから逃げたいのだろうか。何故なんだろう。
それは、今朝がたホテルの部屋に真下課長を残して友紀が逃げてきたのと、さほど違わない理由なのかもしれないと思った。
よく知ってなじんでいるはずの美咲さんの指で何度も何度も絶頂へと追い立てられ、あらゆるものが尽きたのではないかと思う私に、今度は偽竿による刺激が襲い掛かってくる。
幸せなのに、セックスに対してどこか怖いような気がして、でもそれはきっと期待感の裏返しなのだと理解し黙ってそれを受け入れた。
「あぁんっ…はぁっ……」
「これはこれで感じちゃんでしょ、冴子」
そう言う美咲さんは微笑んでいる。
腰をゆるゆると回すように動かして私の膣肉をあらかたほぐして広げた所で、今度は無遠慮にどかどかと私の奥を掘り起こしてきた。
「ひ、あぁぁ…だめぇ、イくの…」
言いながら二度、三度と達したかもしれない。
かつて一度のセックスでこうもたくさん絶頂した事があっただろうか。
波の大きさは様々だけど、とにかく始終連続絶頂するという特殊な芸当でも披露している気分だ。
「ねえ、誰にされててもこんなイきまくっちゃうの?…冴子は」
「は…あ…んん」
そんな事、わかっている癖に何故いちいち聞いてくるのだろう。
「こんなの…ないです、初めて…あぁっ」
「…そうなんだ」
白々しい言い回しに思わず恨めしい顔で美咲さんを見てしまった。
ポイントをわざと外すように挿入しながら会話してくる辺りも憎らしい。
「そこ、じゃなくて…もっと…」
「…ここ?」
「きゃっ、あ、あ…そこは…っぁぁ」
かすめるように擦っていた偽竿が、ここぞとばかりにその場所に突き刺さる。
その瞬間私はまた、美咲さんの腕の中で四肢を痙攣させ果てを見た。今度のそれは深い。
…そうだ、今日は多分、まだ失神はしていない。
もしかして美咲さんがそうなるようにコントロールしているのだろうか。
だとしたら、あらゆる事を掌握され、私はただ踊っているだけにすぎないのかもしれない。
美咲さんが、自分の見たいと思う私の姿を、自分の手で作り上げているのだろうか。
「あっあの…」
「…何?」
耳元に吹き込まれるのはあの艶めかしい声。
私は「うっ」とうめいてまた絶頂した。
偽竿はゆるゆると揺れていただけなのに。
「冴子耳でもイっちゃうのね…いやらしい」
「…だって」
口答えしようとすると、偽竿が激しく出し入れされ私はまた喘ぐだけになった。
「あぁっ、あんっ、は……っ」
気が付くと、私の秘部に偽竿が出し入れされるぐちゅぐちゅという音と、自分のはしたない喘ぎ声のみが室内に響いていた。
それが猛烈に恥ずかしいのに、この状況を打開できない。
「あんっ、あ…またイっちゃう」
もう美咲さんは何も言わなかった。
私は涙を溜めた瞳で美咲さんを見上げながら、瞳を閉じる事なく何度も絶頂する。
もういいと思ってもそれは延々と続き、食事をするのも忘れて、私が疲れ果てて眠ってしまうまで、休む事なく続いたのだった。
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