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小悪魔の囁き(梨々香SIDE)
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本来であればマコさんの傍から離れる事なく内覧会に参加するべき所だが、愛美に文句を言いに行ったり、そうかと思えば佐藤晴香に「冴子様の現浮気相手」認定をくらったりして、なかなかマコさんの傍に居る事ができずにいる。
その上何故か今は、私は広大なリビングスペースに佐藤晴香と二人で並んで立っているのだ。
当のマコさんは、佐藤晴香の連れと思しき女性と、予期せずトレーニング談義に花を咲かせているので問題はないのだが。
記憶を遡り、今日この部屋の受付に来た時の事を思い出す。
いきなり冴子様に出迎えられたので驚いたが、よく考えればその可能性は非常に高かった訳で、それを想像できていない自分の考えが足りない事に気付いて若干落ち込んだ。
…招待状を提示して、名前を確認してもらう、それだけの事だと自分に言い聞かせて努めて平静を装った。
けれども、こういうフォーマルな席で冴子様は一段と映えるから、私は意識せずとも冴子様の小さな所作までを視線でいちいち追いかけてしまう。
見覚えのない、サーモンピンクのセットアップは最近新調したものだろうか。
それに日頃のオフィシャルなイベントであれば髪は一つに結ぶかアップにするなどしてまとめる事が多い冴子様だけど、今日は招待客限定という場だからか、髪はハーフアップスタイルにしている。
…やっぱり、冴子様の真っすぐでサラサラの長い黒髪は、下ろしてこそ魅力が際立つものだ。
ジャケットとタイトスカートというセットアップスタイルは冴子様がよく身に着けるものだけれど、サーモンピンクという淡い色合いの所為か、それとも髪をほとんど下ろしているスタイルだからか、洋服ではなく襦袢を身に着けた、時代劇のお姫様みたいにも見える気がして私は思わずその姿に見とれてしまった。
けれども冴子様の手首に巻かれた腕時計は高級モダンなデザインだし、所作自体は至って事務的でありスマートで、「時代劇のお姫様」とはだいぶ違う。
そもそも今回私が招待客としてカウントされている事に納得できていないから、今日は当てつけに和服でも着て行ってやろうかとも思っていたが、結局「目だっても仕方ない」と考え直しその案は諦めた。
おそらく、容子様も愛美もこういう時は必ず黒い服を選ぶはずだと考えて、着て行くものは黒のシフォンロングドレスを選んだ。
それはマコさんに言わせれば「むしろ目立つかも」という事だったけれど。
髪は、いつもお団子などにまとめているスタイルが多くなっている事もあり、今日は逆に冴子様と似たようなハーフアップスタイルにしている。
とは言っても私の髪はウェーブのかかった金髪だから、冴子様のそれとは全然違う雰囲気になってしまうのだけれど。
そして普段はあまり履かないが、ドレスの丈が長めなのである程度高さのある黒のエナメルパンプスを選んだ。
デコルテや腕はだいぶ露出しているので、ドレスとのバランスが崩れないような小ぶりのイヤリングと、華奢なチェーンに小さめのダイヤが下がっているだけのネックレスといった、シンプルなアクセサリーを合わせている。
ドレスアップした私の姿を見慣れていないであろう冴子様は、初見で表情こそ変えなかったが、それでもほとんどの人は気付かないであろう一瞬の間、何か違った色を瞳に宿したように思えた。私の勘違いでなければ、の話だけど。
一方同伴しているマコさんは、「男装上等、りりちゃんのエスコート役ポジションで行く」のだと言って、夏を意識したリネン混素材の生成りのパンツスーツを身に着けている。
インナーはちょっとカジュアルに黒のカットソーを合わせているのでビジネス感が薄まって、普段よりもマコさんが大人っぽく見える。
それにパンツスーツがかなり細身のデザインで、女性にしては高め身長のマコさんがますます大きく見える気がした。
マコさんは、冴子様とは全くタイプが違う。
私が少しだけ説明していたから、マコさんは冴子様がどういう人なのかおおよそ理解した上でここへ来ているけれども、冴子様はマコさんの、存在こそ認識しているがそれがどんな女性なのかは知らないはずだった。
私にとっては冴子様の前にマコさん本人を連れ出す事が、一番緊張する事だった。
受付を済ませてマコさんと並んで歩いていると、私にだけ聞こえる小声でマコさんが「わかっちゃった」と呟く。
それは…わからないはずないだろうな、と思う。私の中にある、冴子様への強烈な憧れの気持ちは、きっと隠せないのだ。
義母である容子様、それから愛美をマコさんに紹介してからメインフロアの目立たぬ場所に二人で立ち止まり、フロア全体を眺めてみる。
開始まで少々時間があったので、私はマコさんに断りを入れた上でさっき挨拶したばかりの愛美の元へと向かった。
ちょうど愛美は銀色のトレイに飲み物を並べている所で、私はそんな愛美を人目につかない場所に連行しひとしきり文句を言った。
愛美には「だったら来なければ良かったのでは」と突っ込まれたが、その時私は言葉に詰まり、それがきっかけとなって愛美に逃げられた恰好となる。
しかしマコさんをあまり一人きりにしてしまうのもいけないと思って、気持ちを切り替えその後私はマコさんのもとへと戻った。
私が傍に戻ると、肩の力が抜けたのか、マコさんがこんな事を呟いた。
「なんか…あの人とりりちゃんがしてる所、想像したら興奮するかも」
「何、言ってるの……っ」
こんな所で私と冴子様の交わりについて話すのは、いや考えるのはやめて欲しい、という意味を込めてマコさんの手を掴んで少し力を入れて握る。
その瞬間、私は背中に誰かの強い視線を感じたけれども、誰の視線かを確かめる前に容子様の歓迎の挨拶が始まったので、視線の主を突き止めるのは一時中段された。
容子様の挨拶の直後にその人物--が佐藤晴香と言う事は後から知った訳だが--彼女が直接こちらに向かって来て、有無を言わせぬ口調でマコさんに「彼女借りて良い?」と切り出した所から諸々あって今に至る。
元々今日は半分ヤケになってここへ来たというのもあるからか、全く仲良くはなれそうにない佐藤晴香が勧めるままにアルコールを口にしてしまった。
今日の私は給仕役ではない。だからグラスワインの一杯だろうが二杯だろうが、飲んだ所で誰からも文句は言われないのだ。
「何で自棄っぽく飲んでるんですか」
「いえ、別に」
「そうしたいのは貴女じゃなくて私の方なんですけど」
「じゃ貴女も飲めば良いじゃないですか」
自棄と言っても、私はグラス半分くらいの赤ワインを飲んだだけだ。
勧める側の佐藤晴香だって、既にシャンパンをそこそこ飲んでいるように見えたけど。
私には決してそういう気持ちはないつもりだが、目の前に居る銀髪美少女は、冴子様に関する何かでマウントを取りたくて仕方ないといった様子を見せてきている。
おそらくそういう気持ちから、あんな言葉が引き出されたのだろう。
「教えてあげようか…私と冴子さんが、どんな風にしてたのか」
「……頼んで、ませんけど」
ちらりとこちらの顔を覗くような素振りと共に紡がれた言葉は、私にとって正に「悪魔の囁き」だった。
いや彼女の佇まいを考慮すれば「小悪魔の囁き」と表現する方が適切かもしれない。
ヤケになった理由の一つに、目の前の彼女と冴子様の肢体が絡むシーンを想像し始めてしまったというのもあっただけに、タイミングとしては絶妙、つまり彼女の言葉は私にとってインパクト絶大だった。
本音を言えば、かなり、いや非常に…知りたいけれど。
「はい」という言葉もまた非常に言いにくい。
見るからに強気な娘だから、交わりにおいてもやはりそういう気質が出てくるのだとすれば、彼女が冴子様を攻める側という事だろうか。あるいは逆という事もあるのかもしれない。
……と、勝手に思考している時点で私の負けだ。情けないほどにあさましい自分にがっかりする。
「…ちょっと妄想しちゃったんじゃないですか」
「……」
シャンパングラスを片手に、それこそ小悪魔みたいな微笑を浮かべてこちらを見てくる彼女。
実に腹立たしい。
彼女が職業的に、人からの見られ方を計算し尽くした上で表情をコントロールする事ができるのだとしても、だ。
間違いなく私よりもこの娘の方が年下だろうし、そして彼女は他の人には持ち得ない、特殊な美貌の持ち主でもある。
容姿の素晴らしさで言えば冴子様とも十分に釣り合う、稀有な存在とも言えるだけに、どれだけ汚らしく交わった所でそれら全ては絵になるような情景に違いないと私は思ったのだ。
私はと言えば、ただひたすらに冴子様に奉仕し、冴子様の攻めを半ば惨めな気分で受け止めているだけの事だ。それが冴子様から見て美しいとは到底思われない自信はある。その時の私は多分本当にみっともない姿をしているはずなのだ。
ところが佐藤晴香はどうだ。
何なら、上から目線であの冴子様を組み敷いてしまいかねないほどの威圧感や、エゴイスティックな物言いもできそうである。
「……」
いけない、若干具体的に想像してしまったではないか。
少し離れた所とは言えマコさんも居る場だと言うのに。
「やっぱり、気になるんだ」
「なってません」
佐藤晴香は決して物理的な距離を詰めてきてはいない。
周囲の者には内容が聞こえない程度の距離に立って、こちらに話しかけているだけの事だ。
だが私の感覚としては、他に誰もいないような、空間そのものが他と隔絶されているような気分になる。
私は自分ばかりが性に貪欲であさましい人間だと思っているけれど、目の前にいる佐藤晴香はそのあさましささえ、堂々と開き直ってアピールする事ができるタイプなのかもしれなかった。
だから私は、彼女が交わりの場面で相手をどのように攻めるのか、容易に想像する事ができる。
「ま、いいや…昔の事だしね」
彼女は私から目を反らし、テーブルに並べられたオードブル等の料理を選び始める。
そうしながら、素朴にこう呟くのだ。
「いいな……今の冴子さんに、触れられるなんて」
「いえ…」
タイムリーな状況を伝えるのだとしたら、私もおそらくは彼女と似たような形になりつつある訳で。
マコさんの攻めは、ぎこちないけど大きな慈愛のようなものと一緒に施されるもので、私はそれにとてつもない愉悦を覚えるようになっている。
頻度にしても、私とマコさんの逢瀬は正に「暇さえあれば」のレベルで、冴子様との家出旅行の記憶を上書きされそうなぐらいにたくさん積み重ねられてきているのである。
そう、この所について言えば、私は冴子様と会うための時間を作る事自体ができないぐらい、マコさんと触れ合っているのだ。
だから佐藤晴香の言う「梢ちゃんとのセックスにはまっちゃってそれっきり」という状況と、似ていると言えば似ているような感じもする。
「ほら」
「え?…あ、っ」
何を思ったのか、佐藤晴香がサラミとカッテージチーズの乗ったクラッカーを素手でつまみ、私の口に押し込んでくる。
拒否する訳にもいかず私はそれを租借しながら彼女を睨んだ。
「…っ、何するんですか」
「いや美味しそうだったし」
「ならご自分で召し上がれば良いじゃありませんか…」
確かにこれは美味しかったけれども。
そして私の視線を無視して佐藤晴香が見つめていたのは、少し離れた場所で彼女の連れの女性と談笑しているマコさんだった。
私も遅れてそちらに視線を投げると、談笑していたはずのマコさんが、驚いたような表情でこちらを見ている。
ただ、そこに怒りのような感情は読み取れず、女の子同士が戯れる模様に見とれているだけみたいな、遠巻きに私達の様子を眺めて楽しんでいるみたいな、そういう雰囲気が見えた。
それと同時に、傍にいるマッチョ女子と二人で「尊い~」などと小さいながらも歓声をあげている。
「ほら」と、何でもないような様子で佐藤晴香が呟く。
「って…何ですか…?」
「貴女がどんだけドスケベだったとしても、でいて今正にそういう話題をしていたとしても、遠目にはそんな風には見えないって事ですよ」
「……」
何が言いたいんだろうか、彼女は。
と言うかドスケベな話題を振っているのは私ではなく彼女の方だと思うのだが。
「晴香さん、貴女がって事じゃ…ないんですか…」
「まあ同じぐらいのもんじゃないかと思いますけどね、方向性は違うんだろうけど」
そう言いながら彼女は、私の口に突っ込んだのと同じオードブルを取り、今度は自分で租借している。
彼女の興味関心が私からだいぶ反れた事で、私はようやく少し冷静に考える事ができるようになった。
そうして彼女を眺めていると、やっぱり考えてしまうのは、かつて彼女が冴子様とどんな付き合いをしていたのだろうか、という事になる。
教えてもらう代わりに私についても教えろと言われると実に困るので、尋ねるのは難しいけれど。
「あとさ……気になるのが」
「…?」
独り言なのか何なのか判別できなかったけれど、彼女は誰にともなく尋ねている様子だった。
この場には私しか居ないので、反応せざるを得ないけれども。
「あの人、あんなだったっけ?…めちゃくちゃフェロモン度上昇してる風にしか見えないんだけど」
「……美咲様の、事ですか」
「そう」
彼女はちらりと美咲様の方向に視線を向けてから、すぐにこちらに向き直る。
そんな事は愚問だと思いながら回答しようとしたけれど、これはもしかしてわざと私に何かを言わせようとしての問いなのだろうか。
今日の美咲様の装いは、私も何度か見覚えのあるチャコールグレーのタイトスカートスーツだ。見慣れているだけに、今日は当然ビジネスモード、かつホスト役としてふさわしい装いであると思う。
「…あの人が、冴子さんを導いているみたいな、そういう感じだったはずなんだけどな」
「当時は、という事ですか…」
私は冴子様がどういう状態で美咲様と付き合い出したのか、詳しくは知らない。
年齢がかなり違うので、勿論経験値的には美咲様の方が上回っているというのは自然だろう。
でも、お二人が互いに交わる中で、あるいはそれぞれ浮気なのか遊びなのかも経験しつつ、ある程度長くお付き合いする関係性であるならば、冴子様はどこかの段階で大きく成長を遂げ、美咲様の経験値を超えるほどに花開いたという事もあり得るとは思う。
何と言っても、あの容子様からある程度対等な形で、冴子様は猛者として認識されているのだから。
佐藤晴香は、のんびりと寛いだ様子でグラスのシャンパンに口を付けながら言う。
「って事は何…冴子さんの覚醒に貴女も一役買っている訳だ」
「…それは、わかりませんけど」
「何だか、上から目線で『教えてあげよう』なんて言ってるのが間違っている気がしてきた、こっちが教えてもらうべき立場だったりして」
酔ってきているのか、佐藤晴香はけたけたと声を出さずに笑っている。
「それは…双方の内容がわからないと、比べられないのでは」
「そりゃそうだ、じゃ教えてくれるの?」
「なんでそういう話になるんですか」
「そういう、流れかと思ったんだけどなぁ…貴女そういうの喋らされるのもちょっと興奮するタイプなんじゃないかと思うんですけどね」
「……」
強ち間違いではないが、これについてもやはり「そうだ」とは言い難い。
「ま、冴子さんとあの人がどんなセックスしてるのかは、なんとなく想像つくけど…貴女と、あっちの彼女がどんな風にやってるのか、微妙に想像がつかないんですよね」
「別に、普通です」
とは言ったものの、この場では半ば女性同士で交わるのが「普通」という事になっているの自体、いいのかどうかわからない。
それにそもそも、マコさんと私が親しいのは教えてもいいとして、身体を重ねる関係である件までこの銀髪女子に教える義理はないはずなのに、いちいち気にするのを忘れ始めていたのもあって喋ってしまった。
「普通、とは…?」
「……そ、そこから先については晴香さんについてもお聞きできないと、言えません」
「そうなの?それ全然ハードルになってないけど…」
「……」
失敗したのだろうか。あまり良くわからない。
だが佐藤晴香は、頼まれもしないのに私の左耳に顔を寄せてひそひそ話を始めた。
「彼女、梢ちゃんて言うんだけど…梢ちゃんと私、貝合わせの相性がめちゃくちゃ良いみたいなんだよね」
「……」
言っている側は、普通の楽しい話をしているだけのような風情だが、聞いているこちらは猛烈に恥ずかしくなり、自分でも顔が赤くなったのがわかるほどだ。
「あと、梢ちゃんにはどれだけ長時間、激しく攻めても受け止めてもらえるから、ついついやり過ぎちゃうんだよね」
「っ……」
「そうそう、冴子さんにも喜んでもらえた気がするけれど、私高速ピストン運動が、得意なんだよね、梢ちゃんもそれが好きみたい」
「……」
彼女から私の、左耳に注がれる情報の、量と言い質と言い、めまぐるし過ぎて私は思わず身体を引いた。
ついでに、つい彼女の腰あたりに視線をやってしまう。『高速ピストン』を繰り出すであろうその部位を、思わず確認しようとしてしまったのだ。
「…やっぱドスケベじゃん、りりちゃん♪」
「ちょっと、……」
佐藤晴香は私の視線の動きを敏感に察知して鋭く指摘する。
ついでに、マコさんが私をそう呼ぶのを耳にしたのだろうか、馴れ馴れしく「りりちゃん」呼びまでしてくるとは。
とは言え、お互いに情報開示するという提案に応じただけの事だろうから、私から文句も言いにくいし、『ドスケベ』なのは自認する所でもあって。
「否定は、しませんが」
「お、多少心を開いてくれました?」
「わかりませんが…」
しかしこの銀髪美少女が、事も無げにめちゃくちゃな、激しいセックスをするのかと思うと幾分怖い感じもする。
一方で彼女のようなキャラクターならば強気な振る舞いが似合うのだろうなとも想像がついた。
そして、そんな彼女に夢中になる人の心境も、正直わかる気がする。
イノセントな見た目に反して、笑顔でえぐい攻めをするギャップも魅力的だろうし、気まぐれそうな彼女が、瞬間的にでも自分に関心を寄せて、その時だけは猛然と攻める、そういう彼女の関心を引いているという強烈な自覚が、相手の満足度に繋がるのだ。
冴子様と同じで、彼女もまた手の届かない存在と言えるほどのビジュアルを持っていて、その上、冴子様限定なのかもわからないけど、ある程度奔放な性質を隠さないのだとしたら、この人と付き合う相手はまあまあタフでないと、とてもじゃないが務まらないだろう。
そう考えれば、「梢ちゃん」と呼ばれている連れの女性は、ともすると姉か母親のように彼女を慈しむような目で見ているし、彼女のする事なら何でも許すというような余力も感じさせる人物のように思えた。
…梢さんの方は彼女を全て許すのだろうが、当の佐藤晴香本人は、自分の浮気は許しても、相手の浮気に寛容な風には見えないから、それなりに独占欲は強そうな気がする。
…だとしたら、今のこのシチュエーションは大丈夫なのだろうか。
今の取り合わせは、いかにもインドア派ですという私と佐藤晴香が一緒にいて、そしていかにもスポーツマンですというマコさんと梢さんが別の所で談笑している。
なんとなく、今はマコさんが梢さんに色々質問をして、それに梢さんが答えているみたいなやり取りのようだけれど。
「ほら、こっちは話したんだから貴女も話さないと」
「あ…はい」
極力、マコさんの名誉を傷つけないような形で離さなければならないが、私は自分のやり方というものを客観的に理解できていないから、佐藤晴香のように端的に話をまとめられない事に今更のように気が付いた。
それを察知したのかどうだかはわからないが、ただ待っていても何も出てきそうにないと思ったのか、佐藤晴香の方から少しずつ尋ねてくる。
「貴女が…受け側でしょ」
「そうですね、でも…私の方が経験が多いみたいなので、一方的な感じではないです」
「そうそう梢ちゃん相手だから何も気にせずやってるけど、一般的には攻める側が気を使うものだからね」
「そう、なんですか…?」
「そりゃそうでしょ?…痛いのがいいとか酷い事言われたいとか言っても、いい感じにしなくちゃただの虐待になるでしょ」
「はぁ……」
「あれ、そのへんの感性ぶっ壊れてんの?…そりゃ大変だ」
「すみません」
「で?…いちいちその場で教えてるんですか」
「その…何だかわかりませんけど、漫画とか動画とか、そういう創作物で『勉強』してるんだそうです…」
「……ふーん、真面目な人なんですね、彼女」
「そうだと思います、あと…」
「?」
「凄く力が強いみたいで、その…乱暴にはされないですけど、凄く変わった感じの事は、されてるような」
うっかり冴子様と比較して、という内容に触れてしまいそうになり表現がぼやけてしまう。
「何ですかそれ、わかりにくいんですけど」
「その…抱えて歩き回るのとか」
そこまで言った所で、佐藤晴香の顔色が変わった。
声にこそ出なかったが「うわ…」というような表情になったかと思うと、ほんのりと頬を染めている。
「男の人とは、した事ないですけど…マコさんはそれ以上に動けるのかもしれないです」
「じゃ、手の合う相手に出会ったって事ですね」
「まあ…そうなんだと思います」
そこで私ははっとした。
マコさんの手筋を、今は佐藤晴香にのみ教えたけれども、佐藤晴香が顔色を変えた理由は、それが彼女の連れにもしも知られたら、という事を想像したからかもしれない。
見るからにそうとわかる事ではあるが、マコさんも梢さんも、体力は相当あるはずで、だからと言う訳ではないけど、仮に交わる事があるのだとしたらとんでもなくロングプレイになるとか、アクロバティックになるとか、そういう方向で激しくなりそうな感じがする。
「あー」と言いながら佐藤晴香はシャンパングラスを傾ける。
おそらく、割と鮮明に梢さんとマコさんが交わっている像をイメージできているのかもしれない。
それは現実には起こらない事なのだから、変に想像したりしない方が得策なのだが。
「貴女飲まないんですか」
「じゃ、いただきます」
自分ばかり飲んでいるのが嫌なのだろう。私は佐藤晴香の心情を察して、再び赤ワインのグラスに口を付けた。
「……」
参加人数が限定されているからだろうけど、今夜用意されているものは飲み物も食べ物もグレードが高い。
私はワインに詳しくはないけれど、赤ワインの味が、重厚なのに飲みやすくて、ワインというのがこうも不思議な飲み物なのかと気付いた所だった。
「それで、少しお伺いしたいんですが」
「何ですか?」
私は、フロアの逆サイドに居る、佐藤晴香とよく似た顔立ちの女性が気になっていた。
「あちらの方、晴香さんによく似ているなと思うんですが」
「え?……ぎぇぇ」
その女性の存在には全く気付いていなかったらしく、私の示す方向を一瞥したかと思うと、佐藤晴香はそちらに背を向けるようにして苦々しい表情を浮かべた。
「……?」
「姉ですが、あんまり関わりたくないんで、紹介しろとか言うのは辞めてください」
「はぁ……」
佐藤晴香によく似たその女性の傍には、小柄なキャリアウーマン風の女性がいて。
彼女は容子様と何か話をしている様子だった。
一方容子様の傍にはいつの間にか木下光江様がおり、出しゃばる事なく控え目な距離感で彼女らの会話に加わっているように見える。
「えーなんでお姉ちゃん達までここにいるの……」
佐藤晴香は何を思ったのか、パーティバッグからスマホを取り出して、それからまた思い直したようにスマホをしまったりしている。
明らかに動転しているご様子だ。
「差し支えなければ…お姉様のご勤務先を教えていただけませんか」
佐藤晴香の答えた社名には覚えがある。
確か容子様の手がける一部のホテルでは、その企業の取り扱うアメニティグッズを導入しているはずだ。
…それに、そこは美咲様の古巣でもある訳で。取引先というだけではなく個人的にも知った人物なら、今日の内覧会に招かれていても何ら不思議はない。
佐藤晴香の姉という人よりも、主賓はおそらくその連れの小柄な女性の方だろう。
容子様が最も接待したい相手の一人が、彼女ではなかろうか。
「あーもうマジでカオスなんだけど」
「まあ……こちらからはアクションを取らずにおけば宜しいんじゃないでしょうか…」
「ったく…めちゃくちゃ面倒くさいっ」
バッグからスマホを出したり入れたりする手の動きは落ち着いたようだ。
「あの、お姉様とは仲良くないんですか…?」
「別にそうじゃないですけど、乱れた生活するなとか、口が悪いとか態度が悪いとか、顔を合わせれば小言ばかり言ってくるので」
「……そこは貴女にも心当たりがあるのでは」
「…、うっさいなー」
梢ちゃんこと佐藤晴香の連れの女性は、多分に彼女を甘やかしてくれそうな印象を振り撒いている。
会いたくない相手が居るので本来の気質はそこまで発揮されていないのかもしれないが、佐藤晴香の人柄を一言で言い表すなら「傍若無人」と言って差し支えないだろう。
お姉さんの方は、古風な言い回しで良ければ才色兼備を具現化したような雰囲気がある。隣に居る小柄な女性も含め、とても知的な印象も感じさせるし、佐藤晴香とはかなり感じが違うので、こういうあつかましい性格の妹に対して寛容になれない優等生の姉、という構図はよくある事かもしれないなと思った。
…それに。
私は、佐藤晴香の姉と、同伴している小柄な女性の関係性が気になって仕方ない。
まるで容子様の傍に控える光江様と同じように、お姉さんは小柄な女性の傍で、気配を消すかのように控え目に振る舞っているように見えたから。
光江様が容子様に対して抱く憧憬と、佐藤晴香の姉が小柄な女性に対して抱く憧憬には、似たものがあるのではないかと、まるで線対象のようなポジションで語らう四人を見ていると、そんな気がしてならなかった。
「お姉様、うるさく言ってくるんですかね…」
「?」
「貴女と、梢さんとの事、言えるのかな」
「…いやよく知りませんけど」
「…そういうお話、聞いてないんですか?」
「お姉ちゃんが誰と付き合ってるかとかそういう話、ですか」
「そうです」
「…どうだったかな、それほど知らないなぁ」
「……」
だいたいあの二人もこの内覧会に招かれているのだから、佐藤晴香の姉だけがノンケという事でもないような気がするのだけれど。
あるいは佐藤晴香はそうではない件について姉から叱責を受けるような事を派手にしているのだろうか。
あちらの四人には美咲様も加わり、今は五人で談笑している。
…おそらく冴子様なら、あのお二方の関係性について把握できているのではないか。
しかしわざわざ冴子様に尋ねるのも、無意味な気がしてきた。
「もー帰ろうかな…」
「大丈夫ですよ、多分…私達とどうこうという事は、ないと思います」
「なんでそう思うんですか」
「それは……」
私にわかる範囲で、という事にはなるが、おそらく容子様にとっての主賓はあの小柄な女性と、光江様なのだろう。
その事は彼女達との接し方を見ていても明らかだ。
仮にその二人のどちらか、または両方が望めば、容子様は身体を使った接待も、やる気であるように思える。
勿論、それは自身を切り売りするような種類のものではなくて、あくまでも気が乗って、そして相手もその気になって、といった、純粋な欲求のぶつけ合いから始まるものなのだという事を、私は理解しているつもりだけど。
仮にそちらの接待が行われる事になるのだとすれば、どこか隔絶された空間で、大人の女性達だけで戯れる事になるだろう。
だから「こちらには影響なし」と私は判断したのだが、その思考過程を佐藤晴香に話した所で、きっと半分も理解されないように思ったので、詳細を伝えるのは省いた。
「せっかくだしもう少し食事も堪能しましょう」
「はぁ…そうですね、たくさんあるし勿体無い」
そこからは、私から積極的に佐藤晴香に笑顔で食事やお酒を勧めたりして、主に使えるメイド宜しく佐藤晴香と過ごした。
気が緩んでくると、佐藤晴香はやたらと「梢ちゃん」についてほとんどのろけ話のようにあれこれと話をしてくる。
「そういうお話はご本人にもされてるんですか」と尋ねてみると、佐藤晴香は顔を赤くして「そんなの、恥ずかしいしいちいち言えないですよ」と否定した。
とんだツンデレ小悪魔という所だろうか。まあ当の梢さんは彼女のこういう性質は十分に理解できているのだろう。面倒くさいが可愛いと言えば可愛いのだろうし。
「じゃそろそろあちらに合流しましょうか」
「そ、そうですね…」
かなり長い事マコさん達と離れて過ごしてしまっていたし、佐藤晴香も程良く酔ってお腹も膨れた所だと思われたので、私達はマコさんと梢さんの傍へと歩を進めた。
「…あれ、マコさんどうしましたか?」
「あ、いえ…何でもありません」
「?」
何か内緒話でもしていたのだろうか。
梢さんは含み笑いをしているし、マコさんは赤くなってしどろもどろになっている。
「梢ちゃん、まさか彼女におかしな話を吹き込んだんじゃないよね…?」
「んー、おかしな話は特にしてないかな?」
マコさんも梢さんの言葉に頷いている。
顔色はもう普通の感じに戻っているし、佐藤晴香が心配するほどの話にはなっていないのだろう。
…と言うか。
自分が私にしてきた話はよほど「おかしい」内容だったではないか。
佐藤晴香の方こそ上から目線で梢さんを叱る立場にないだろう、と思ったが私は黙っておいた。
その上何故か今は、私は広大なリビングスペースに佐藤晴香と二人で並んで立っているのだ。
当のマコさんは、佐藤晴香の連れと思しき女性と、予期せずトレーニング談義に花を咲かせているので問題はないのだが。
記憶を遡り、今日この部屋の受付に来た時の事を思い出す。
いきなり冴子様に出迎えられたので驚いたが、よく考えればその可能性は非常に高かった訳で、それを想像できていない自分の考えが足りない事に気付いて若干落ち込んだ。
…招待状を提示して、名前を確認してもらう、それだけの事だと自分に言い聞かせて努めて平静を装った。
けれども、こういうフォーマルな席で冴子様は一段と映えるから、私は意識せずとも冴子様の小さな所作までを視線でいちいち追いかけてしまう。
見覚えのない、サーモンピンクのセットアップは最近新調したものだろうか。
それに日頃のオフィシャルなイベントであれば髪は一つに結ぶかアップにするなどしてまとめる事が多い冴子様だけど、今日は招待客限定という場だからか、髪はハーフアップスタイルにしている。
…やっぱり、冴子様の真っすぐでサラサラの長い黒髪は、下ろしてこそ魅力が際立つものだ。
ジャケットとタイトスカートというセットアップスタイルは冴子様がよく身に着けるものだけれど、サーモンピンクという淡い色合いの所為か、それとも髪をほとんど下ろしているスタイルだからか、洋服ではなく襦袢を身に着けた、時代劇のお姫様みたいにも見える気がして私は思わずその姿に見とれてしまった。
けれども冴子様の手首に巻かれた腕時計は高級モダンなデザインだし、所作自体は至って事務的でありスマートで、「時代劇のお姫様」とはだいぶ違う。
そもそも今回私が招待客としてカウントされている事に納得できていないから、今日は当てつけに和服でも着て行ってやろうかとも思っていたが、結局「目だっても仕方ない」と考え直しその案は諦めた。
おそらく、容子様も愛美もこういう時は必ず黒い服を選ぶはずだと考えて、着て行くものは黒のシフォンロングドレスを選んだ。
それはマコさんに言わせれば「むしろ目立つかも」という事だったけれど。
髪は、いつもお団子などにまとめているスタイルが多くなっている事もあり、今日は逆に冴子様と似たようなハーフアップスタイルにしている。
とは言っても私の髪はウェーブのかかった金髪だから、冴子様のそれとは全然違う雰囲気になってしまうのだけれど。
そして普段はあまり履かないが、ドレスの丈が長めなのである程度高さのある黒のエナメルパンプスを選んだ。
デコルテや腕はだいぶ露出しているので、ドレスとのバランスが崩れないような小ぶりのイヤリングと、華奢なチェーンに小さめのダイヤが下がっているだけのネックレスといった、シンプルなアクセサリーを合わせている。
ドレスアップした私の姿を見慣れていないであろう冴子様は、初見で表情こそ変えなかったが、それでもほとんどの人は気付かないであろう一瞬の間、何か違った色を瞳に宿したように思えた。私の勘違いでなければ、の話だけど。
一方同伴しているマコさんは、「男装上等、りりちゃんのエスコート役ポジションで行く」のだと言って、夏を意識したリネン混素材の生成りのパンツスーツを身に着けている。
インナーはちょっとカジュアルに黒のカットソーを合わせているのでビジネス感が薄まって、普段よりもマコさんが大人っぽく見える。
それにパンツスーツがかなり細身のデザインで、女性にしては高め身長のマコさんがますます大きく見える気がした。
マコさんは、冴子様とは全くタイプが違う。
私が少しだけ説明していたから、マコさんは冴子様がどういう人なのかおおよそ理解した上でここへ来ているけれども、冴子様はマコさんの、存在こそ認識しているがそれがどんな女性なのかは知らないはずだった。
私にとっては冴子様の前にマコさん本人を連れ出す事が、一番緊張する事だった。
受付を済ませてマコさんと並んで歩いていると、私にだけ聞こえる小声でマコさんが「わかっちゃった」と呟く。
それは…わからないはずないだろうな、と思う。私の中にある、冴子様への強烈な憧れの気持ちは、きっと隠せないのだ。
義母である容子様、それから愛美をマコさんに紹介してからメインフロアの目立たぬ場所に二人で立ち止まり、フロア全体を眺めてみる。
開始まで少々時間があったので、私はマコさんに断りを入れた上でさっき挨拶したばかりの愛美の元へと向かった。
ちょうど愛美は銀色のトレイに飲み物を並べている所で、私はそんな愛美を人目につかない場所に連行しひとしきり文句を言った。
愛美には「だったら来なければ良かったのでは」と突っ込まれたが、その時私は言葉に詰まり、それがきっかけとなって愛美に逃げられた恰好となる。
しかしマコさんをあまり一人きりにしてしまうのもいけないと思って、気持ちを切り替えその後私はマコさんのもとへと戻った。
私が傍に戻ると、肩の力が抜けたのか、マコさんがこんな事を呟いた。
「なんか…あの人とりりちゃんがしてる所、想像したら興奮するかも」
「何、言ってるの……っ」
こんな所で私と冴子様の交わりについて話すのは、いや考えるのはやめて欲しい、という意味を込めてマコさんの手を掴んで少し力を入れて握る。
その瞬間、私は背中に誰かの強い視線を感じたけれども、誰の視線かを確かめる前に容子様の歓迎の挨拶が始まったので、視線の主を突き止めるのは一時中段された。
容子様の挨拶の直後にその人物--が佐藤晴香と言う事は後から知った訳だが--彼女が直接こちらに向かって来て、有無を言わせぬ口調でマコさんに「彼女借りて良い?」と切り出した所から諸々あって今に至る。
元々今日は半分ヤケになってここへ来たというのもあるからか、全く仲良くはなれそうにない佐藤晴香が勧めるままにアルコールを口にしてしまった。
今日の私は給仕役ではない。だからグラスワインの一杯だろうが二杯だろうが、飲んだ所で誰からも文句は言われないのだ。
「何で自棄っぽく飲んでるんですか」
「いえ、別に」
「そうしたいのは貴女じゃなくて私の方なんですけど」
「じゃ貴女も飲めば良いじゃないですか」
自棄と言っても、私はグラス半分くらいの赤ワインを飲んだだけだ。
勧める側の佐藤晴香だって、既にシャンパンをそこそこ飲んでいるように見えたけど。
私には決してそういう気持ちはないつもりだが、目の前に居る銀髪美少女は、冴子様に関する何かでマウントを取りたくて仕方ないといった様子を見せてきている。
おそらくそういう気持ちから、あんな言葉が引き出されたのだろう。
「教えてあげようか…私と冴子さんが、どんな風にしてたのか」
「……頼んで、ませんけど」
ちらりとこちらの顔を覗くような素振りと共に紡がれた言葉は、私にとって正に「悪魔の囁き」だった。
いや彼女の佇まいを考慮すれば「小悪魔の囁き」と表現する方が適切かもしれない。
ヤケになった理由の一つに、目の前の彼女と冴子様の肢体が絡むシーンを想像し始めてしまったというのもあっただけに、タイミングとしては絶妙、つまり彼女の言葉は私にとってインパクト絶大だった。
本音を言えば、かなり、いや非常に…知りたいけれど。
「はい」という言葉もまた非常に言いにくい。
見るからに強気な娘だから、交わりにおいてもやはりそういう気質が出てくるのだとすれば、彼女が冴子様を攻める側という事だろうか。あるいは逆という事もあるのかもしれない。
……と、勝手に思考している時点で私の負けだ。情けないほどにあさましい自分にがっかりする。
「…ちょっと妄想しちゃったんじゃないですか」
「……」
シャンパングラスを片手に、それこそ小悪魔みたいな微笑を浮かべてこちらを見てくる彼女。
実に腹立たしい。
彼女が職業的に、人からの見られ方を計算し尽くした上で表情をコントロールする事ができるのだとしても、だ。
間違いなく私よりもこの娘の方が年下だろうし、そして彼女は他の人には持ち得ない、特殊な美貌の持ち主でもある。
容姿の素晴らしさで言えば冴子様とも十分に釣り合う、稀有な存在とも言えるだけに、どれだけ汚らしく交わった所でそれら全ては絵になるような情景に違いないと私は思ったのだ。
私はと言えば、ただひたすらに冴子様に奉仕し、冴子様の攻めを半ば惨めな気分で受け止めているだけの事だ。それが冴子様から見て美しいとは到底思われない自信はある。その時の私は多分本当にみっともない姿をしているはずなのだ。
ところが佐藤晴香はどうだ。
何なら、上から目線であの冴子様を組み敷いてしまいかねないほどの威圧感や、エゴイスティックな物言いもできそうである。
「……」
いけない、若干具体的に想像してしまったではないか。
少し離れた所とは言えマコさんも居る場だと言うのに。
「やっぱり、気になるんだ」
「なってません」
佐藤晴香は決して物理的な距離を詰めてきてはいない。
周囲の者には内容が聞こえない程度の距離に立って、こちらに話しかけているだけの事だ。
だが私の感覚としては、他に誰もいないような、空間そのものが他と隔絶されているような気分になる。
私は自分ばかりが性に貪欲であさましい人間だと思っているけれど、目の前にいる佐藤晴香はそのあさましささえ、堂々と開き直ってアピールする事ができるタイプなのかもしれなかった。
だから私は、彼女が交わりの場面で相手をどのように攻めるのか、容易に想像する事ができる。
「ま、いいや…昔の事だしね」
彼女は私から目を反らし、テーブルに並べられたオードブル等の料理を選び始める。
そうしながら、素朴にこう呟くのだ。
「いいな……今の冴子さんに、触れられるなんて」
「いえ…」
タイムリーな状況を伝えるのだとしたら、私もおそらくは彼女と似たような形になりつつある訳で。
マコさんの攻めは、ぎこちないけど大きな慈愛のようなものと一緒に施されるもので、私はそれにとてつもない愉悦を覚えるようになっている。
頻度にしても、私とマコさんの逢瀬は正に「暇さえあれば」のレベルで、冴子様との家出旅行の記憶を上書きされそうなぐらいにたくさん積み重ねられてきているのである。
そう、この所について言えば、私は冴子様と会うための時間を作る事自体ができないぐらい、マコさんと触れ合っているのだ。
だから佐藤晴香の言う「梢ちゃんとのセックスにはまっちゃってそれっきり」という状況と、似ていると言えば似ているような感じもする。
「ほら」
「え?…あ、っ」
何を思ったのか、佐藤晴香がサラミとカッテージチーズの乗ったクラッカーを素手でつまみ、私の口に押し込んでくる。
拒否する訳にもいかず私はそれを租借しながら彼女を睨んだ。
「…っ、何するんですか」
「いや美味しそうだったし」
「ならご自分で召し上がれば良いじゃありませんか…」
確かにこれは美味しかったけれども。
そして私の視線を無視して佐藤晴香が見つめていたのは、少し離れた場所で彼女の連れの女性と談笑しているマコさんだった。
私も遅れてそちらに視線を投げると、談笑していたはずのマコさんが、驚いたような表情でこちらを見ている。
ただ、そこに怒りのような感情は読み取れず、女の子同士が戯れる模様に見とれているだけみたいな、遠巻きに私達の様子を眺めて楽しんでいるみたいな、そういう雰囲気が見えた。
それと同時に、傍にいるマッチョ女子と二人で「尊い~」などと小さいながらも歓声をあげている。
「ほら」と、何でもないような様子で佐藤晴香が呟く。
「って…何ですか…?」
「貴女がどんだけドスケベだったとしても、でいて今正にそういう話題をしていたとしても、遠目にはそんな風には見えないって事ですよ」
「……」
何が言いたいんだろうか、彼女は。
と言うかドスケベな話題を振っているのは私ではなく彼女の方だと思うのだが。
「晴香さん、貴女がって事じゃ…ないんですか…」
「まあ同じぐらいのもんじゃないかと思いますけどね、方向性は違うんだろうけど」
そう言いながら彼女は、私の口に突っ込んだのと同じオードブルを取り、今度は自分で租借している。
彼女の興味関心が私からだいぶ反れた事で、私はようやく少し冷静に考える事ができるようになった。
そうして彼女を眺めていると、やっぱり考えてしまうのは、かつて彼女が冴子様とどんな付き合いをしていたのだろうか、という事になる。
教えてもらう代わりに私についても教えろと言われると実に困るので、尋ねるのは難しいけれど。
「あとさ……気になるのが」
「…?」
独り言なのか何なのか判別できなかったけれど、彼女は誰にともなく尋ねている様子だった。
この場には私しか居ないので、反応せざるを得ないけれども。
「あの人、あんなだったっけ?…めちゃくちゃフェロモン度上昇してる風にしか見えないんだけど」
「……美咲様の、事ですか」
「そう」
彼女はちらりと美咲様の方向に視線を向けてから、すぐにこちらに向き直る。
そんな事は愚問だと思いながら回答しようとしたけれど、これはもしかしてわざと私に何かを言わせようとしての問いなのだろうか。
今日の美咲様の装いは、私も何度か見覚えのあるチャコールグレーのタイトスカートスーツだ。見慣れているだけに、今日は当然ビジネスモード、かつホスト役としてふさわしい装いであると思う。
「…あの人が、冴子さんを導いているみたいな、そういう感じだったはずなんだけどな」
「当時は、という事ですか…」
私は冴子様がどういう状態で美咲様と付き合い出したのか、詳しくは知らない。
年齢がかなり違うので、勿論経験値的には美咲様の方が上回っているというのは自然だろう。
でも、お二人が互いに交わる中で、あるいはそれぞれ浮気なのか遊びなのかも経験しつつ、ある程度長くお付き合いする関係性であるならば、冴子様はどこかの段階で大きく成長を遂げ、美咲様の経験値を超えるほどに花開いたという事もあり得るとは思う。
何と言っても、あの容子様からある程度対等な形で、冴子様は猛者として認識されているのだから。
佐藤晴香は、のんびりと寛いだ様子でグラスのシャンパンに口を付けながら言う。
「って事は何…冴子さんの覚醒に貴女も一役買っている訳だ」
「…それは、わかりませんけど」
「何だか、上から目線で『教えてあげよう』なんて言ってるのが間違っている気がしてきた、こっちが教えてもらうべき立場だったりして」
酔ってきているのか、佐藤晴香はけたけたと声を出さずに笑っている。
「それは…双方の内容がわからないと、比べられないのでは」
「そりゃそうだ、じゃ教えてくれるの?」
「なんでそういう話になるんですか」
「そういう、流れかと思ったんだけどなぁ…貴女そういうの喋らされるのもちょっと興奮するタイプなんじゃないかと思うんですけどね」
「……」
強ち間違いではないが、これについてもやはり「そうだ」とは言い難い。
「ま、冴子さんとあの人がどんなセックスしてるのかは、なんとなく想像つくけど…貴女と、あっちの彼女がどんな風にやってるのか、微妙に想像がつかないんですよね」
「別に、普通です」
とは言ったものの、この場では半ば女性同士で交わるのが「普通」という事になっているの自体、いいのかどうかわからない。
それにそもそも、マコさんと私が親しいのは教えてもいいとして、身体を重ねる関係である件までこの銀髪女子に教える義理はないはずなのに、いちいち気にするのを忘れ始めていたのもあって喋ってしまった。
「普通、とは…?」
「……そ、そこから先については晴香さんについてもお聞きできないと、言えません」
「そうなの?それ全然ハードルになってないけど…」
「……」
失敗したのだろうか。あまり良くわからない。
だが佐藤晴香は、頼まれもしないのに私の左耳に顔を寄せてひそひそ話を始めた。
「彼女、梢ちゃんて言うんだけど…梢ちゃんと私、貝合わせの相性がめちゃくちゃ良いみたいなんだよね」
「……」
言っている側は、普通の楽しい話をしているだけのような風情だが、聞いているこちらは猛烈に恥ずかしくなり、自分でも顔が赤くなったのがわかるほどだ。
「あと、梢ちゃんにはどれだけ長時間、激しく攻めても受け止めてもらえるから、ついついやり過ぎちゃうんだよね」
「っ……」
「そうそう、冴子さんにも喜んでもらえた気がするけれど、私高速ピストン運動が、得意なんだよね、梢ちゃんもそれが好きみたい」
「……」
彼女から私の、左耳に注がれる情報の、量と言い質と言い、めまぐるし過ぎて私は思わず身体を引いた。
ついでに、つい彼女の腰あたりに視線をやってしまう。『高速ピストン』を繰り出すであろうその部位を、思わず確認しようとしてしまったのだ。
「…やっぱドスケベじゃん、りりちゃん♪」
「ちょっと、……」
佐藤晴香は私の視線の動きを敏感に察知して鋭く指摘する。
ついでに、マコさんが私をそう呼ぶのを耳にしたのだろうか、馴れ馴れしく「りりちゃん」呼びまでしてくるとは。
とは言え、お互いに情報開示するという提案に応じただけの事だろうから、私から文句も言いにくいし、『ドスケベ』なのは自認する所でもあって。
「否定は、しませんが」
「お、多少心を開いてくれました?」
「わかりませんが…」
しかしこの銀髪美少女が、事も無げにめちゃくちゃな、激しいセックスをするのかと思うと幾分怖い感じもする。
一方で彼女のようなキャラクターならば強気な振る舞いが似合うのだろうなとも想像がついた。
そして、そんな彼女に夢中になる人の心境も、正直わかる気がする。
イノセントな見た目に反して、笑顔でえぐい攻めをするギャップも魅力的だろうし、気まぐれそうな彼女が、瞬間的にでも自分に関心を寄せて、その時だけは猛然と攻める、そういう彼女の関心を引いているという強烈な自覚が、相手の満足度に繋がるのだ。
冴子様と同じで、彼女もまた手の届かない存在と言えるほどのビジュアルを持っていて、その上、冴子様限定なのかもわからないけど、ある程度奔放な性質を隠さないのだとしたら、この人と付き合う相手はまあまあタフでないと、とてもじゃないが務まらないだろう。
そう考えれば、「梢ちゃん」と呼ばれている連れの女性は、ともすると姉か母親のように彼女を慈しむような目で見ているし、彼女のする事なら何でも許すというような余力も感じさせる人物のように思えた。
…梢さんの方は彼女を全て許すのだろうが、当の佐藤晴香本人は、自分の浮気は許しても、相手の浮気に寛容な風には見えないから、それなりに独占欲は強そうな気がする。
…だとしたら、今のこのシチュエーションは大丈夫なのだろうか。
今の取り合わせは、いかにもインドア派ですという私と佐藤晴香が一緒にいて、そしていかにもスポーツマンですというマコさんと梢さんが別の所で談笑している。
なんとなく、今はマコさんが梢さんに色々質問をして、それに梢さんが答えているみたいなやり取りのようだけれど。
「ほら、こっちは話したんだから貴女も話さないと」
「あ…はい」
極力、マコさんの名誉を傷つけないような形で離さなければならないが、私は自分のやり方というものを客観的に理解できていないから、佐藤晴香のように端的に話をまとめられない事に今更のように気が付いた。
それを察知したのかどうだかはわからないが、ただ待っていても何も出てきそうにないと思ったのか、佐藤晴香の方から少しずつ尋ねてくる。
「貴女が…受け側でしょ」
「そうですね、でも…私の方が経験が多いみたいなので、一方的な感じではないです」
「そうそう梢ちゃん相手だから何も気にせずやってるけど、一般的には攻める側が気を使うものだからね」
「そう、なんですか…?」
「そりゃそうでしょ?…痛いのがいいとか酷い事言われたいとか言っても、いい感じにしなくちゃただの虐待になるでしょ」
「はぁ……」
「あれ、そのへんの感性ぶっ壊れてんの?…そりゃ大変だ」
「すみません」
「で?…いちいちその場で教えてるんですか」
「その…何だかわかりませんけど、漫画とか動画とか、そういう創作物で『勉強』してるんだそうです…」
「……ふーん、真面目な人なんですね、彼女」
「そうだと思います、あと…」
「?」
「凄く力が強いみたいで、その…乱暴にはされないですけど、凄く変わった感じの事は、されてるような」
うっかり冴子様と比較して、という内容に触れてしまいそうになり表現がぼやけてしまう。
「何ですかそれ、わかりにくいんですけど」
「その…抱えて歩き回るのとか」
そこまで言った所で、佐藤晴香の顔色が変わった。
声にこそ出なかったが「うわ…」というような表情になったかと思うと、ほんのりと頬を染めている。
「男の人とは、した事ないですけど…マコさんはそれ以上に動けるのかもしれないです」
「じゃ、手の合う相手に出会ったって事ですね」
「まあ…そうなんだと思います」
そこで私ははっとした。
マコさんの手筋を、今は佐藤晴香にのみ教えたけれども、佐藤晴香が顔色を変えた理由は、それが彼女の連れにもしも知られたら、という事を想像したからかもしれない。
見るからにそうとわかる事ではあるが、マコさんも梢さんも、体力は相当あるはずで、だからと言う訳ではないけど、仮に交わる事があるのだとしたらとんでもなくロングプレイになるとか、アクロバティックになるとか、そういう方向で激しくなりそうな感じがする。
「あー」と言いながら佐藤晴香はシャンパングラスを傾ける。
おそらく、割と鮮明に梢さんとマコさんが交わっている像をイメージできているのかもしれない。
それは現実には起こらない事なのだから、変に想像したりしない方が得策なのだが。
「貴女飲まないんですか」
「じゃ、いただきます」
自分ばかり飲んでいるのが嫌なのだろう。私は佐藤晴香の心情を察して、再び赤ワインのグラスに口を付けた。
「……」
参加人数が限定されているからだろうけど、今夜用意されているものは飲み物も食べ物もグレードが高い。
私はワインに詳しくはないけれど、赤ワインの味が、重厚なのに飲みやすくて、ワインというのがこうも不思議な飲み物なのかと気付いた所だった。
「それで、少しお伺いしたいんですが」
「何ですか?」
私は、フロアの逆サイドに居る、佐藤晴香とよく似た顔立ちの女性が気になっていた。
「あちらの方、晴香さんによく似ているなと思うんですが」
「え?……ぎぇぇ」
その女性の存在には全く気付いていなかったらしく、私の示す方向を一瞥したかと思うと、佐藤晴香はそちらに背を向けるようにして苦々しい表情を浮かべた。
「……?」
「姉ですが、あんまり関わりたくないんで、紹介しろとか言うのは辞めてください」
「はぁ……」
佐藤晴香によく似たその女性の傍には、小柄なキャリアウーマン風の女性がいて。
彼女は容子様と何か話をしている様子だった。
一方容子様の傍にはいつの間にか木下光江様がおり、出しゃばる事なく控え目な距離感で彼女らの会話に加わっているように見える。
「えーなんでお姉ちゃん達までここにいるの……」
佐藤晴香は何を思ったのか、パーティバッグからスマホを取り出して、それからまた思い直したようにスマホをしまったりしている。
明らかに動転しているご様子だ。
「差し支えなければ…お姉様のご勤務先を教えていただけませんか」
佐藤晴香の答えた社名には覚えがある。
確か容子様の手がける一部のホテルでは、その企業の取り扱うアメニティグッズを導入しているはずだ。
…それに、そこは美咲様の古巣でもある訳で。取引先というだけではなく個人的にも知った人物なら、今日の内覧会に招かれていても何ら不思議はない。
佐藤晴香の姉という人よりも、主賓はおそらくその連れの小柄な女性の方だろう。
容子様が最も接待したい相手の一人が、彼女ではなかろうか。
「あーもうマジでカオスなんだけど」
「まあ……こちらからはアクションを取らずにおけば宜しいんじゃないでしょうか…」
「ったく…めちゃくちゃ面倒くさいっ」
バッグからスマホを出したり入れたりする手の動きは落ち着いたようだ。
「あの、お姉様とは仲良くないんですか…?」
「別にそうじゃないですけど、乱れた生活するなとか、口が悪いとか態度が悪いとか、顔を合わせれば小言ばかり言ってくるので」
「……そこは貴女にも心当たりがあるのでは」
「…、うっさいなー」
梢ちゃんこと佐藤晴香の連れの女性は、多分に彼女を甘やかしてくれそうな印象を振り撒いている。
会いたくない相手が居るので本来の気質はそこまで発揮されていないのかもしれないが、佐藤晴香の人柄を一言で言い表すなら「傍若無人」と言って差し支えないだろう。
お姉さんの方は、古風な言い回しで良ければ才色兼備を具現化したような雰囲気がある。隣に居る小柄な女性も含め、とても知的な印象も感じさせるし、佐藤晴香とはかなり感じが違うので、こういうあつかましい性格の妹に対して寛容になれない優等生の姉、という構図はよくある事かもしれないなと思った。
…それに。
私は、佐藤晴香の姉と、同伴している小柄な女性の関係性が気になって仕方ない。
まるで容子様の傍に控える光江様と同じように、お姉さんは小柄な女性の傍で、気配を消すかのように控え目に振る舞っているように見えたから。
光江様が容子様に対して抱く憧憬と、佐藤晴香の姉が小柄な女性に対して抱く憧憬には、似たものがあるのではないかと、まるで線対象のようなポジションで語らう四人を見ていると、そんな気がしてならなかった。
「お姉様、うるさく言ってくるんですかね…」
「?」
「貴女と、梢さんとの事、言えるのかな」
「…いやよく知りませんけど」
「…そういうお話、聞いてないんですか?」
「お姉ちゃんが誰と付き合ってるかとかそういう話、ですか」
「そうです」
「…どうだったかな、それほど知らないなぁ」
「……」
だいたいあの二人もこの内覧会に招かれているのだから、佐藤晴香の姉だけがノンケという事でもないような気がするのだけれど。
あるいは佐藤晴香はそうではない件について姉から叱責を受けるような事を派手にしているのだろうか。
あちらの四人には美咲様も加わり、今は五人で談笑している。
…おそらく冴子様なら、あのお二方の関係性について把握できているのではないか。
しかしわざわざ冴子様に尋ねるのも、無意味な気がしてきた。
「もー帰ろうかな…」
「大丈夫ですよ、多分…私達とどうこうという事は、ないと思います」
「なんでそう思うんですか」
「それは……」
私にわかる範囲で、という事にはなるが、おそらく容子様にとっての主賓はあの小柄な女性と、光江様なのだろう。
その事は彼女達との接し方を見ていても明らかだ。
仮にその二人のどちらか、または両方が望めば、容子様は身体を使った接待も、やる気であるように思える。
勿論、それは自身を切り売りするような種類のものではなくて、あくまでも気が乗って、そして相手もその気になって、といった、純粋な欲求のぶつけ合いから始まるものなのだという事を、私は理解しているつもりだけど。
仮にそちらの接待が行われる事になるのだとすれば、どこか隔絶された空間で、大人の女性達だけで戯れる事になるだろう。
だから「こちらには影響なし」と私は判断したのだが、その思考過程を佐藤晴香に話した所で、きっと半分も理解されないように思ったので、詳細を伝えるのは省いた。
「せっかくだしもう少し食事も堪能しましょう」
「はぁ…そうですね、たくさんあるし勿体無い」
そこからは、私から積極的に佐藤晴香に笑顔で食事やお酒を勧めたりして、主に使えるメイド宜しく佐藤晴香と過ごした。
気が緩んでくると、佐藤晴香はやたらと「梢ちゃん」についてほとんどのろけ話のようにあれこれと話をしてくる。
「そういうお話はご本人にもされてるんですか」と尋ねてみると、佐藤晴香は顔を赤くして「そんなの、恥ずかしいしいちいち言えないですよ」と否定した。
とんだツンデレ小悪魔という所だろうか。まあ当の梢さんは彼女のこういう性質は十分に理解できているのだろう。面倒くさいが可愛いと言えば可愛いのだろうし。
「じゃそろそろあちらに合流しましょうか」
「そ、そうですね…」
かなり長い事マコさん達と離れて過ごしてしまっていたし、佐藤晴香も程良く酔ってお腹も膨れた所だと思われたので、私達はマコさんと梢さんの傍へと歩を進めた。
「…あれ、マコさんどうしましたか?」
「あ、いえ…何でもありません」
「?」
何か内緒話でもしていたのだろうか。
梢さんは含み笑いをしているし、マコさんは赤くなってしどろもどろになっている。
「梢ちゃん、まさか彼女におかしな話を吹き込んだんじゃないよね…?」
「んー、おかしな話は特にしてないかな?」
マコさんも梢さんの言葉に頷いている。
顔色はもう普通の感じに戻っているし、佐藤晴香が心配するほどの話にはなっていないのだろう。
…と言うか。
自分が私にしてきた話はよほど「おかしい」内容だったではないか。
佐藤晴香の方こそ上から目線で梢さんを叱る立場にないだろう、と思ったが私は黙っておいた。
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