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謎の羞恥ポイント

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こうなるともう、おかしいどころの騒ぎではない。
何が反省房だかわからない。

これだから自分はダメなのだ。わかっていてもどうにも変えられない。
そしてそういう自罰的な気分は梨々香さんにも伝わっているようで。

だいぶアブノーマルな逢瀬の後だからなのか、お互いスイッチが切れたように、その後はよそよそしい距離を保とうとする。
歯止めがきかない事を自覚しているが故の、不器用な対応なのだとわかっていながら、どうしていいのかわからないような気持でもある。

眠る間際になって梨々香さんがぽつぽつと呟く中には、勘弁してくれと思うような賛美の言葉がたくさんあった。
その中でも私の顔だの身体についてのものは極端で、「冴子様は本当に完璧なんです」とまで言葉にしてくる有様だった。
そうかと思えば「こんなに身体中熱くなったのは初めてです」と、相手が男なら、いや男ならずとも泣いて喜ぶような言葉も平気で口にする。

…自分自身がそういう事を言われるのに慣れていないとは思わないが、それでもこんな娘に直接、いくつもそんな言葉をかけられたら平常心を保つのは難しい。
更に問題なのはこの娘が恐ろしい攻められセンスの持ち主であるのだから、賛美の言葉をかけられた側としては、否応なく征服欲を刺激されてしまうのだ。
つまり、だから私は彼女に何をしても良いのかもしれないと錯覚するという意味で。

月曜日までの間、結局私たちはずっと一緒な訳で、その間はもしかすると、残り時間を惜しむように焦って激しく交わるばかりになるのかもしれなかった。
それが怖いのもあって、かえってよそよそしく振舞ってしまう気持ちもある。

もう今更それをなかった事にはできないが、おそらくこの数日間の事は、容子社長に筒抜けになるのだろう。
冷静に考えれば、私は勤務先の上役の身内を寝取ったようなもので、とんでもない無礼を働いている事になるのだが、どうせ容子社長にそれを咎める資格などあるものか、と半ば投げやりに思う事でどうにか恐怖心は感じずに済んでいる。
ずるいのは私なのかもしれないが、全ては彼女が望んだ事なのだ、という言い訳が成り立つ分非常にたちが悪い。

この夜はそのまま眠り、翌朝には鏡だらけの部屋をチェックアウトした。

「もうこういうラブホは勘弁してください」
「そうですか?…」
「って嫌じゃなかったんですか…もう、お願いします」

とは言えここを出るなら次の宿を探さなければならない。
そうだ、と思い私は『WS』アプリで滞在型のホテル特集などがないか調べてみる事にした。昨夜あの懐かしい部屋の事も、思い出したから。

「……」

アプリ内に特集記事はあったけど、筆頭に掲載されているのは自社ホテルだった。
さすがに家出先としてそれを選ぶ訳にはいかない。
画面をスライドして他の候補を調べてみると、鎌倉方面のリゾートホテルが目に留まった。

どうせ梨々香さんの車で移動させてもらえる訳だし、反省も何も、もうそういうムードは消え去っているし、こうなったら遊んでやれという気にもなってくる。
美咲さんの事が気にならない訳でもないが、遅かれ早かれ美咲さんは容子社長のお世話になるはずなので、そこについては深く考えるのも無意味な気がするのだ。

「これ…どうですか」
「あら、素敵ですね」

駐車場に泊めたままの車中で、助手席の私が梨々香さんに画面を提示する。
今朝着替えて以降のよそよそしい感じは継続中で、この画面に表示されている場所に到着した後、私たちは再び交わるのかどうか、という事は考えないようにしていた。梨々香さんも同じようで、この場面だけを切り取れば、まるで私が美咲さんとの次の旅行先選びを、梨々香さんに手伝ってもらっているかのようなやり取りなのである。

「ここなら洗濯機もありますよ」
「本当ですか?」

着替えを持ち合わせていない梨々香さんが異様に食いついてくる。
今も、昨夜と同じミニスカメイド姿で運転席に座ってはいるものの、さすがに下着を替えられないのは辛いだろう。

「と言うか梨々香さん洗濯できなかったらどうするつもりだったんですか」
「……その時は、その」

急に顔を赤らめて梨々香さんが下を向いた。
まさか、履かないという選択肢を選ぶつもりだったのかと直感し動揺する。
その前に、仮に私が履くなと命じれば従うような気がしたので、そっち方面について考えてしまった事を微妙に後悔した。

「ナビ、入れますね」

梨々香さんは自分で気を取り直して、ナビに所在地を入力していった。
時間にして約1時間半、と音声が知らせてくる。
同時に私はスマホを手元に戻してそのリゾートホテルの宿泊予約を完了させた。

「あ、そうだ」
「……?」

梨々香さんは、私から離れるつもりはないという事こそ主張しているものの、それ以外なら命令に従うという事でもあるのだから、梨々香さんの不自由は解消してあげたい。
そう思って道中何か所か寄り道をさせ、梨々香さんの必要とする物は買えばいいのだと思いついた。

「あの、梨々香さんって私服はどういうのが好みなんですか」
「え?…そうですね…」

シフトレバーを動かして車を出しながら、梨々香さんは口ごもる。

「やはりあまり派手でないスカートとかワンピースをよく着ているような気がします」
「…そうなんですか」
「冴子様みたいな、かちっとしたビジネススーツは憧れますけど、着る機会も、着てみたいという強い希望もなくて」
「……ふむ」
「あ、でも、愛美とか、容子様がたまに着る物を買ってくれたりする事はあります」
「…どういうのを、ですか?」
「……」

車は通りに出て直線的な幅広の道を進む。
私は変な質問をしたつもりはないが、梨々香さんが妙に沈黙するので緊張した。

「実用性に欠ける服が、多いような気がします」
「…?」
「何と言うか、ドレスっぽい服だとか、下着をもらう事が多いです」
「……」

これはどういう事か。
容子社長は当然だが、もしかするともう一人の養女の娘も、梨々香さんのビジュアルで遊んでしまうような悪戯好きの娘なのかもしれない。
梨々香さん本人は派手好きではないが、言われてみればこの容姿なのだから、原色系の服だって全然着こなせるに違いない。

「梨々香さんなら、似合うだろうから良いんじゃないですか、私だって見てみたいです」
「…そうですか」

再びの緊張、しかも先ほどとは密度が違う気がする。

…そうか、私の「見たい」を命令として解釈するかどうか悩んだのだ、多分。
こうなるといちいち発言するにも注意が必要なのかと思いどっと疲れを感じる。

「先々変な思い出になって嫌になるかもしれないですけど、そしたら私が梨々香さんに似合いそうな服をプレゼントしましょうか」
「…えっ」
「あーちょっと前向いてください」
「す、すみません」

赤信号だから良かったけど、まともにこちらを振り向くのは危な過ぎる。頼むから運転中である事は忘れないでもらいたい。

「多分、現地の近くにアウトレットのショッピングモールがあった気がするし、そこで調達するというのでどうですか」
「わ、私は…どちらでも構いません」
「そうですか、…じゃ、近づいたら知らせるので、寄って……くれる?リリ」
「……っ」

ふざけ半分にタメ口&「リリ」呼びしてみたが反応が露骨過ぎてやはりこちらが緊張した。
これはもう、本人の意志とは無関係という事なのだろうか。

梨々香さんはほとんど聞こえないぐらいの弱弱しい声で、「はい…冴子様の仰せのままにいたします」と呟いた。
そういう台詞は芝居がかって言うぐらいでないとかえって本気っぽくなるから余計緊張するのに、梨々香さんはそういう事を言い慣れているようで、そうでもないのだろうか。

こういう反応を目の当りにすると、ついつい余計な事を考えてしまうので良くない。
それにこちらの接し方次第でどうにでもなる感じが、私自身だんだん楽しくなってきているので危険だ。

とは言え梨々香さんを無駄に緊張させたい訳でもなし、その後はどんな服が似合うだろうかと、時折スマホでリサーチしながら想像を巡らせる事にする。

*-*-*-*-*-

「おおー凄いっ、さすが梨々香さん」
「……」

本人にとってはすこぶる違和感なのだろうが、盛り上がっている私を前にして明確にそれを表明できないのだろう。
アウトレットモールに着いて、自分の服でもここまで熱を入れて選んだ事があったかというぐらいの勢いで私は梨々香さんに似合いのものを物色した。洋服ばかりでなく下着も含めて。

そこで私が選んだ一着は、さながらギリシャ神話の女神様のような、真っ白で生地がたっぷりと使われた、ノースリーブのロングワンピースである。
梨々香さんが身に着けると、まるで物語の登場人物のようでめちゃくちゃはまっていた。

少なくとも着せるまでの間は、私を容子社長や悪戯好きの姉妹と一緒にする事なかれと思っていたのに、結果非常に現実感のないものを選んだ気がしなくもない。
…いや、実用的ではある。間違いなく着て外を歩くのには問題ない。
ただ、問題は目立ち過ぎるという事だけだ。

「梨々香さん、出て、出て」
「……はい」

梨々香さんを試着室から外に出るよう促し、高めヒールのパンプスを履かせれば。

「…やっぱ女神様みたいぃぃぃ、凄くいいっ」

私は神話の類に詳しい訳ではないけど、こう、空から光が差してきて、天上界から地上に女神が降臨する場面が頭に浮かんでくる。
それが目の前のこの人だと言われたとして、「嘘だ」なんて言える気がしないのだ。

「あーそうか、梨々香さんはあれに似てるって事なんだ、多分」
「はぁ…」

本物はもうちょっとグラマラスだけど、世に言うヴィーナス像、あれをもっと現代的にしたようなビジュアル、それが梨々香さんだと思える。
ヴィーナスよりも梨々香さんの方が目は大きい。髪のウェーブもあれよりは少しはっきりしている。脚に関して言えば、現状ロングワンピースで見えないけど、ヴィーナス本人より美しい。少なくとも現代人の私の感性ではそう思うのだ。

当初は私の興奮ぶりに戸惑っていた梨々香さんも、私にじっと見つめられ「いい」を連発された為か、だんだんとその気になってきている。
これがさほどお高くないのだから勿論買いだ。

パンプスはまあ高いヒールの方が見た目には良いけれど、そこは妥協して履きやすい白の中くらいの高さのヒールにした。
あとは下着だけど、頭の中がすっかりヴィーナスイメージに染まっている私は、そのままの勢いで白のレースがふんだんに使われた、インポートライクなデザインのものに目が行く。
容子社長のトレードカラーは黒だけど、梨々香さんには白が本当に良く似合う。
梨々香さんの肌を綺麗に見せるように、総レースでかなり透ける面積の広いものをセットで選ぶ。

「…あ、なんか私の好みを押し付けちゃってるみたいで、すみません」
「いえ…それよりもこんなにたくさん買われるのですか?」
「…だって一式揃えるとなるとこうなりますよね」
「……」

アウトレットとは言え名前の通ったランジェリーブランドの店だ。
下着にしてもフルセットとなれば実はかなりの数になる。
ちょうどこの、透ける総レースのものでいくと、ブラはワイヤー入りとノンパテの2種類、ショーツはノーマルとタンガは当然としてブラジリアンとサイド紐ショーツも揃っている。更にミニスリップとガーターも同じシリーズで揃える事ができるようになっていた。

「じゃショーツだけ減らしましょうか、梨々香さん選んでください」
「え…っと」

梨々香さんは困り顔でショーツを見比べる。
でも最終的にはブラジリアンとサイド紐ショーツを選んだ。
スカート派の梨々香さんなら、サイド紐ショーツでも実用に耐えるだろう。

そのショップではその一揃えを購入したが、店を出た所で近隣にいくつか固まっているランジェリーショップのうち一際セクシー系の品ぞろえが豊富そうな店に目が留まる。

「あっちにも行ってみましょう」
「あ、……はい」

こちらの店は先ほどとはうって変わって、いわゆる男受け狙いに特化した感じの品ぞろえである。値段は先ほどよりもレンジが安価だ。使い捨て感覚と言っても良いだろう。
可笑しかったのは、店のデジタルサイネージに等身大よりは少々小さい程度のサイズで、モデル着用写真が飾られていたのだけれど、このモデルが正に金髪碧眼の外国人女性だったのが何とも言えず笑いを誘った。

写真の女性が身に着けているのは、赤のシースルーベビードールだった。そこから透ける内側には、華奢なデザインの、ほとんど紐ばかりのブラとショーツが見える。

「こりゃまた女神様とは程遠い…煩悩塗れの人間様って感じ」
「あ、あの…」
「あれ?梨々香さんどうしましたか」
「いや、その」

何を焦っているのだろうか。
乱用したくはないがあの手を使うしかないと思いそれを口にする。

「何考えてるんですか?…言って、リリ」
「あっ、はい…あれと似たものを愛美から最近もらったので」
「……」

弄りづらい返しをされたのでこちらが困惑する。

「あれって、どれですか」
「透けてる方のやつです」
「…じゃこのブランドで買ったのかな?その方も」
「わ、わかりませんが…」
「じゃあれは持ってるという事で」
「はい」

恐ろしい。こういう店に来る方が気を使う状況というのがわからない。

「もしやこれに類するものはかなり手持ちがあるとか?」
「いえそれほどでもないですが」
「もし持ってるのと被るようなら、指摘してくださいね」
「って、ここでもお買い物されるんですか?冴子様」
「…そのつもりですけど」
「は、……そうですか、かしこまりました」

…しかし。
身内でエロ下着をプレゼントし合うのって、どういう関係なんだか。
それお言うなら身内で普通に交わってるのだからその程度別に何でもないのかもしれないけど。

ワゴンに無造作に突っ込まれているショーツの一枚を手に取ってみる。
デザインは一見普通のタンガショーツだが、よく見るとクロッチ部分が割れている。光沢のあるサテン生地で、エメラルドグリーンの色はそれでも品があるように見えた。

またしても妙に気持ちがざわめいて--それは多分、梨々香さんを通じて容子社長の存在を意識したからだろうけど、無性に梨々香さんを挑発したくなって抑えられなくなる。
あまり大きな声では言えないので、わざと荒っぽく梨々香さんの身体を自分の真横に引き寄せ、手に取ったタンガショーツをなんとなく手渡しながら耳元で囁いた。

「いいな…リリはみんなからエッチな下着いっぱいもらってるの?」
「そ、そんな事…ないです」

梨々香さんの指がきゅっと握り込まれてショーツに皺が入る。
それと同時にクロッチ部分の割れ目がぱっくりと割れるのが目に入った。

「でも、着なさいって言われたら…リリは従っちゃうんだよね?」
「……」

否定しないのはそうだという意味だろう。
容子社長も義理の姉も、決して彼女を弄んでいるだけとは思えない。そうだとしたらいちいちこんな会話に緊張して受け答えなどしないはずなのだから。
それを言うなら一番彼女を弄んでいるのはこのわたしと言えるのだろうし、彼女もまたそれをわかっているから、こういう会話で緊張と羞恥を存分に味わっているのかもしれない。

「冴子様、私……このお店でも、冴子様に選んでいただいたものを、着たいです」
「ふーん」
「…その代わり、私にも、選ばせていただけませんか、冴子様が身に着けるものを」

私は軽く頷いて承諾した。
同時に引き寄せていた梨々香さんの腰から手を放す。

「じゃ各自相手用のものを選んで来るって事にしましょうか…」
「はい」

若干不安を覚えたものの、こちらはこれだけ梨々香さんで遊ばせてもらっているのだし文句は言えまい。

その後、案外と私は真剣に吟味を重ね、結局淡い紫色のGストリングを選んだ。Gストリングなのに、クロッチが割れているという際どいデザインである。
清楚を絵に描いたような梨々香さんの身体に、これだけ露出度の高いショーツはアンバランスでいやらしく見えるだろうと思ったからだ。

一方の梨々香さんは、先ほどのショップで私が揃えたのと同じかそれ以上の量のものを抱えている。

「何ですか、一体」
「…あの、その」

手に持っている訳なので、見た目におおよそどういう物なのか察しはつくが、にも関わらず梨々香さんは狼狽えている。
抱えているのはどう見ても、下着に用いるような柔らかい布とは別種の、硬そうな素材感のものなのだ。しかも色もダークブラウンと言うのか黒と言うのか、そういうものが塊になっている。

「これです」

売り場の片隅にある白い平台の上に梨々香さんがそれを広げた時、私は本当に倒れるかと思った。

…どこからどうやって身に着けるのか、わからないような代物だったから。
それなのに梨々香さんはまるでこの手のアイテムにかなり精通しているかのように、手際良く構造を説明してくれる。

「これは…後ろで留める感じで着るようになっていて、胸もお尻も完全に露出するから…」

それは真面目に説明するのか。羞恥ポイントが不明過ぎる。

「…でもこれだと、冴子様の場合サイズが合わない可能性もありまして、余ってしまうとあまり恰好良くならないから、ストレッチ性のある柔らかいものでも良いかなと悩んでおります」
「……そうですか」

何、もうボンテージ系デザインは確定事項という訳か。
と言うかこれを着て攻めるというのも、かなりの羞恥と言えば羞恥なのだが。

「…すみません、再度出直して宜しいでしょうか」
「…どうぞ、いや、私は選び終わったので同行します」
「わかりました」

傍で見ていないと何を選んで来るかわかった物ではない。そういう心配もあって、いや既に不安も何も、私もまた丸出し系プレイスーツ着用からはどうやら逃れられないのだが、それでもまだ見届ける方が精神的にましだと思った。

「…やはり、冴子様の胸を強調するようなものとなると、こういった物の中から選ぶのが妥当ではないかと思いまして」

そうですか、とは言葉にはならず。
プレイスーツはプレイスーツでも、候補となっているのは全て胸もお尻も全露出、もしくは紐のような何かが縦だか横だかに一本横切る程度のものである。
正直自力で着られる自信がない。

「あ、でも……」
「?」

梨々香さんは何か思案し、意を決したように言葉を紡ぐ。

「冴子様もその…お話いただけるならで構いませんが、こういったものは既にお持ちなのではないかと…」
「ここまでのは持ってないです」
「…え」

そこで何故意外そうな顔をするのか。
さも持っているのが当然と言わんばかりのリアクションは止めていただきたい。

「…そんな、冴子様にはこういうのが最もお似合いのはずなのに」
「それはまあ、さっきの梨々香さんの洋服と一緒のようなものです、そう思ってもらえれば」
「…そうですか」
「良かったじゃないですか、梨々香さんのお望みの恰好をまだ誰も見てない訳ですから」
「……」

今度は顔を真っ赤にして梨々香さんが視線を反らす。
やっぱり羞恥ポイントが不明だ。

「とりあえず、希望を言ってもいいですか…窮屈過ぎるのとか、痛くなっちゃうのは避けたいです」
「…そうですね、ではこの辺りで」

選ばれた物の中には、残念ながら一般的に言うブラやショーツの類は皆無だった。
フェイクレザーのような素材のボディコン風の上下セットだけど、タイトミニスカートは後ろのお尻部分だけがくり抜かれたように空いていて、上も上でハーフトップ風なのだけれども胸の部分だけがやはりくり抜かれたように穴になっている。
胸がちゃんとこの穴に全部入り切るか怪しいと思ったが、上の素材は伸縮性の高い生地のようで、かなり光沢が強いので下と揃えても違和感がなかった。

黒に限りなく近いけど、厳密にはブラウンなのだろう。光に当たった時にそれがわかる。

「これ一応海賊コスチュームって事だそうです」
「はぁ…そうなんですか」

どこをどう解釈すればそうなるのか不明だが、セット品という事でおもちゃの短刀とガーターベルトも付いている。

いや、真面目な話本当にこれまでの人生においてこんな物は着た事がない。
似合うに違いないと断言されてはいるものの、全く自信などなかった。
そんな事を考えているうちにふと思った事がある。

梨々香さんはもしかすると、元々生まれ育った家はかなり裕福だったのではないか、という事だ。
いかにも女神様然とした服装をさせた時にそんな風に思った。
本来なら毎週のようにドレスアップをしてパーティーやレセプションみたいな所に顔を出すような、そういう生活様式の人だったのではないかと思う。

それにこの…ナチュラルにSM指向な所はまあ、親がどういう趣味だったかは知る由もないとは言え、遺伝子レベルでそういうプレイを嗜む的なものが染みついているのではないかと考えれば腑に落ちる。

まあそれが事実だったにせよ、梨々香さんにはもう過去の事であって、今は容子社長が本当の親なのだ。それ以外何もない、と本人も思っている事だろう。
でも、梨々香さんの本当の…じゃない、辞めた名前は何だったのかな、と気になった。教えてもらう事があるのかどうかはわからないけど。
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