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六話 新しきを知る

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「あ、そうだ、伯父さんのすきなものってなに?」 

 祖父にも聞いてみたから伯父にも聞いてみることにした。伯父のことだって知りたい。 

「今日はよく質問するね。伯父さんこれでも忙しいんだけど……好きなものか……うーん……。……髪イジったりは好きだけど、それは仕事だしなあ……。あっ、ハマってるのは筋トレ。ああそうそう! プロテイン買えたんだよ! AZSアズサプロテイン! 亜希子ちゃんにはAZSコラーゲン買ってあげたし、伯父さんこっそりウコンとクレアチンも買っちゃったんだよねー!」 

 面倒くさそうにしていたが、趣味の話になるとテンションが高くなる。普段からテンションは高いが、今は際立って高く、声音からして嬉しそうなのが見て取れる。筋トレ用具も合わせて購入したようだ。リビングには一人用マッドが敷いてあり、ダンベルやローラーなどの器具が置かれている。本格的に筋トレを行うつもりらしい。 

「キントレって体をうごかすこと? わたしもできる?」
「うん、出来るよ。ダンベルとか軽いのだったらね。学校の体育でさ、ラジオ体操とか準備運動するでしょ。アレも立派な筋トレだよ」
「そうなんだ」
「そうそう。じゃあ~はい、伯父さんは忙しいからここで質問コーナーは終わり~。部屋に戻ってお勉強でもしときな」
「えっえっ」 

 ぐいぐいと背中を押されてリビングから追い出されてしまった。言われてみれば宿題で漢字ドリルや計算ドリルがあったことを思い出し部屋に戻った。ケージの中を覗き込み、床材をくわえて遊んでいるクックに声をかける。 

「クックさんただいま」
「ピギョッ」
「さいきん、なき声かわったね」 

 雛から小雛へ成長すると、個体差はあるが体つきの他に鳴き声も変化する。 雛の時は甲高い鳴き声のみだったが、小雛になってからはやや低い鳴き声を出すようになった。

「どんどんせいちょうしてるね。あしもなおったみたいだし、ちゃんとそだってよかった。……そうだ、クックさんおいで」
「ピョ?」 

 ケージから出して自分の目の前に置いた。それから一歩離れると、クックはついて行こうと歩き出す。 

「まって! ストップ!」 

 大きな声を出して止まるように指示するが止まってはくれない。足元にやってきて擦り寄ってくる。 

 あ、かわいい。……って、そうじゃないや 

「クックさん、ストップって言ったらまつんだよ」 

 言葉で理解出来ているかはわからないがとりあえず説明をする。それからクックを離してストップと言ってまた近寄ってきてと繰り返している。何度が繰り返すうちに【ストップ】は覚えたのかその場で止まるようになった。 

「ストップっておぼえられたかな? クックさんすごいね。じゃあごほうびにクックさんのすきなのあげる」 

 お世話ファイルの『しつけをしてみよう』というページが興味深くてやってみたかった。読む前はあまり興味は無かったのだが、読んでいる内に気になってきたのだ。躾も芸も繰り返すこと、出来たら必ず褒めてご褒美をあげるといいと書いてあった。
 クックが好きなものはトウモロコシで、成功する度に一粒ずつ与えては撫でてやった。

「じゃあね、ここからレベルアップするよ」 

 またクックを一歩離れた床に置いてから「ストップ」と声をかける。
 クックは学んだようにぴたりとその場で止まっている。 

「さっきね、伯父さんがキントレすきって言ってたの。ラジオ体そうもキントレなんだって。ラジオ体そうするからクックさんもやろ。わたしやるから見てて」 

 まずは深呼吸から、ラジオ体操の手順を一から行っていく。深呼吸で始まり深呼吸で終わる。 

「どうかな? できる?」
「ピギョ?」 

 一回見ただけで覚えるなんて到底無理なことであり、そもそも鳥が出来る動きには限りがある。
 ココロが再び一からラジオ体操を始めると、じっとココロを見て首を傾げていたり、啄んで羽繕いをしたり寝転がるなど自由にしている。 

「うーん……レベルアップしすぎかな。よこのステップとかインコさんがやってるのよく見るんだけどな」 

 左右にステップを踏んで両腕を挙げるという同じ動きを繰り返して見せるが、クックの反応はいまいちで真似をしてくれそうにない。
 カゴの中の棒につかまっているインコをイメージして出来そうな動きだと考えていたが、そう簡単に出来るわけがなかった。 

「ピヨさんって空はとべないけど、ジャンプくらいはできるかな。ほらクックさん、ジャンプだよ」 

 試しにその場でぴょんぴょんと何度もジャンプを繰り返すと、真似ているのかたまたまなのかクックも翼を羽ばたかせながらジャンプしている。 

「そうそう、クックさんじょうずだよ」
「ピィ~」
「はあ……でもあんまりやるとつかれちゃうね……」 

 今日は探検をしてその後に郵便局まで行き、よく出歩いた。それに加えてラジオ体操なんて中々な運動量だ。
 ココロがジャンプするのをやめるとクックは近づいてきて足元で寝転がる。
 しゃがんでその姿を眺め、指でつついたり撫でたりしてやる。 

「つかれたから少しねちゃおっかな。ドリルはあとでやろうっと」 

 休むのに布団を敷く為、クックをケージに戻した。さすがに一緒に寝ることは出来ないのだが、名残惜しそうにケージの柵越しにクックを見る。 

「ストップもジャンプもできたね。今日ですごくレベルアップしてクックさんはすごいね。……わたしは、ちゃんとできてるかな」 

 優しく語りかけていたが、急にしおらしくなる。いつにも増して眉が下がる。 

「そだてるのホントにわたしでだいじょうぶなのかな? ヤなことあったらちゃんと言ってね。わかんないけど。クックさんともお話できたらいいのになあ……」 

 漠然とした不安や願望を口に出してみると多少は落ち着く。すっきりした顔で布団を敷き、温かな掛布に包まれると、ちょっとしたことなんか忘れて眠りについた。 
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