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6話 栞とリュウノスケ
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龍之介の部屋にあるシオリと連携をきった栞は、リュウノスケの目の前に寝転がって、リュウノスケを見つめた。
「頭の中、整理しなきゃ」
独り言を言いながら、龍之介の言葉を理解しようとするが無理だった。考えようとするたび、頭の中を
「リュウノスケを回収する」
という龍之介の言葉が頭の中を駆け巡るのだ。
「いなくなるなんて!」
栞は、初めて龍之介にキスされた直後、龍之介が連携を切ったリュウノスケの唇の感触を指で確かめた。それ以降、連携していないリュウノスケに触れることはなかった。
起動していないロボットに触れてはいけないという規約はない。栞が勝手に触ってはいけないと自らに線引きしていた。それは龍之介とリュウノスケに対する栞の「マナー」であり「誠意」だった。
しかし、リュウノスケを明日回収するという事態が栞を突き動かした。
「あなたが来た時、邪魔だって思ったの」
栞はリュウノスケに告白する。
「でも、明日、あなたがいなくなるって?」
栞は起き上がると、起動していないリョウノスケの頬に手を当てた。室温と同じリュウノスケは質感だけがやけに生々しい「物体」だ。
「私は――」
栞は躊躇なくリュウノスケを抱きしめた。
「嫉妬されるのかな? 嫉妬されてもいい。あなたがいなくなることを受け入れろって、無理だよ」
涙が自然と溢れてきた。別れるという感情が、栞を呑み込む。寂しい、あなたがいない明日以降を考えることができない!
リュウノスケに抱いてもらいかたった。龍之介から刺激だけでなく、リュウノスケを抱きしめ、しがみつきたかったのに。
栞はリュウノスケを抱きしめ続けた。栞の体温でリュウノスケが温まってくる。人肌の感覚が増してくる。
「龍之介……」
栞はますますわからなくなってきた、私が嫌なのはリュウノスケがいなくなることなのか? 龍之介がいなくなることなのか?
栞は一晩リュウノスケを抱きしめ続けた。途中で疲れた栞は、リュウノスケを横倒しにした。リュウノスケをベッドに運ぶのは無理だったので、栞は床に転がったリュウノスケにぴったり密着して浅い眠りについた。
部屋に朝日が差し込み、栞は目を覚ます。リュウノスケと密着していた時間が栞の混乱を鎮めてくれていた。
「独りでは耐えられない状況なんだけどな」
もっさりと起き上がるとしっかり目覚めたくてコーヒーを淹れた。
「リュウノスケといっしょに飲みたかった」
再び、感情はざわめき始める。コーヒーを飲み終わるとすぐにリュウノスケに駆け寄って密着した。
回収を知らせるベルが鳴るまで、栞はリュウノスケを抱きしめ離れることはなかった。ベルが鳴ったと同時に栞はリュウノスケにキスをした。
「あなたと暮らした二か月間、楽しかった。好きだよ、大好きだよ」
回収作業が終わった部屋は広く、がらんとして、栞は呆然として座り込んだまま動けなかった。
「私、こんな寂しいところで平気で暮らしていたの? 今までずっと?」
信じられない、と栞はつぶやいた。
初めて気が付く。自立して以来、ずっと一人ぼっちだった。見合いサイトで龍之介と出会い、リョウノスケが起動した。リュウノスケの存在が栞の生活に溶け込んで自分が一人で暮らしていたことを忘れていた。
思い出した。
「私は一人ぼっち」
栞は自分を抱きしめる。寒かった。
「龍之介……」
とはいえ。リュウノスケに嫉妬し、栞からリュウノスケを取り上げた龍之介に今、ノコノコ助けを求める気にはなれなかった。気持ちはグラグラと揺れている。栞はベッドに倒れこんだ。そのまま、寝具に顔を押し当てた。何かに包まれていないと、何かに触れていないと耐えられそうになかったからだ。
私は、リュウノスケに抱きしめてもらえないまま。たった一度キスされただけ、栞は龍之介にぶつけられない想いをじっと抱えて耐える。
「変だよね、好きなのに嫌いだよ、龍之介」
枕に顔を押し付けたまま栞は肩を震わせ、泣き続けた。
龍之介は動かぬシオリを見つめていた。
「なんで、こんなことしてしまったのか」
栞との仲を中継する自分のロボットに嫉妬したあげく、愛してる栞との仲をぶち壊してしまったのだ。
龍之介はしでかしたしまった失敗に頭を抱えた。
(つづく)
「頭の中、整理しなきゃ」
独り言を言いながら、龍之介の言葉を理解しようとするが無理だった。考えようとするたび、頭の中を
「リュウノスケを回収する」
という龍之介の言葉が頭の中を駆け巡るのだ。
「いなくなるなんて!」
栞は、初めて龍之介にキスされた直後、龍之介が連携を切ったリュウノスケの唇の感触を指で確かめた。それ以降、連携していないリュウノスケに触れることはなかった。
起動していないロボットに触れてはいけないという規約はない。栞が勝手に触ってはいけないと自らに線引きしていた。それは龍之介とリュウノスケに対する栞の「マナー」であり「誠意」だった。
しかし、リュウノスケを明日回収するという事態が栞を突き動かした。
「あなたが来た時、邪魔だって思ったの」
栞はリュウノスケに告白する。
「でも、明日、あなたがいなくなるって?」
栞は起き上がると、起動していないリョウノスケの頬に手を当てた。室温と同じリュウノスケは質感だけがやけに生々しい「物体」だ。
「私は――」
栞は躊躇なくリュウノスケを抱きしめた。
「嫉妬されるのかな? 嫉妬されてもいい。あなたがいなくなることを受け入れろって、無理だよ」
涙が自然と溢れてきた。別れるという感情が、栞を呑み込む。寂しい、あなたがいない明日以降を考えることができない!
リュウノスケに抱いてもらいかたった。龍之介から刺激だけでなく、リュウノスケを抱きしめ、しがみつきたかったのに。
栞はリュウノスケを抱きしめ続けた。栞の体温でリュウノスケが温まってくる。人肌の感覚が増してくる。
「龍之介……」
栞はますますわからなくなってきた、私が嫌なのはリュウノスケがいなくなることなのか? 龍之介がいなくなることなのか?
栞は一晩リュウノスケを抱きしめ続けた。途中で疲れた栞は、リュウノスケを横倒しにした。リュウノスケをベッドに運ぶのは無理だったので、栞は床に転がったリュウノスケにぴったり密着して浅い眠りについた。
部屋に朝日が差し込み、栞は目を覚ます。リュウノスケと密着していた時間が栞の混乱を鎮めてくれていた。
「独りでは耐えられない状況なんだけどな」
もっさりと起き上がるとしっかり目覚めたくてコーヒーを淹れた。
「リュウノスケといっしょに飲みたかった」
再び、感情はざわめき始める。コーヒーを飲み終わるとすぐにリュウノスケに駆け寄って密着した。
回収を知らせるベルが鳴るまで、栞はリュウノスケを抱きしめ離れることはなかった。ベルが鳴ったと同時に栞はリュウノスケにキスをした。
「あなたと暮らした二か月間、楽しかった。好きだよ、大好きだよ」
回収作業が終わった部屋は広く、がらんとして、栞は呆然として座り込んだまま動けなかった。
「私、こんな寂しいところで平気で暮らしていたの? 今までずっと?」
信じられない、と栞はつぶやいた。
初めて気が付く。自立して以来、ずっと一人ぼっちだった。見合いサイトで龍之介と出会い、リョウノスケが起動した。リュウノスケの存在が栞の生活に溶け込んで自分が一人で暮らしていたことを忘れていた。
思い出した。
「私は一人ぼっち」
栞は自分を抱きしめる。寒かった。
「龍之介……」
とはいえ。リュウノスケに嫉妬し、栞からリュウノスケを取り上げた龍之介に今、ノコノコ助けを求める気にはなれなかった。気持ちはグラグラと揺れている。栞はベッドに倒れこんだ。そのまま、寝具に顔を押し当てた。何かに包まれていないと、何かに触れていないと耐えられそうになかったからだ。
私は、リュウノスケに抱きしめてもらえないまま。たった一度キスされただけ、栞は龍之介にぶつけられない想いをじっと抱えて耐える。
「変だよね、好きなのに嫌いだよ、龍之介」
枕に顔を押し付けたまま栞は肩を震わせ、泣き続けた。
龍之介は動かぬシオリを見つめていた。
「なんで、こんなことしてしまったのか」
栞との仲を中継する自分のロボットに嫉妬したあげく、愛してる栞との仲をぶち壊してしまったのだ。
龍之介はしでかしたしまった失敗に頭を抱えた。
(つづく)
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