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5話 考え方の違い
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二人がロボットを通じて互いの部屋で過ごすようになって、二ヶ月がたった。
栞は龍之介に不満を抱えるようになっていた。もやもやを抱えたまま、我慢の限界を越えようとしていた。
栞の部屋のリュウノスケを起動して、龍之介が来た日のことだ。ひとしきりしゃべると、龍之介が言った。
「じゃあ、そろそろ戻るよ」
ついに栞がぶちきれた。龍之介がリュウノスケを定位置に戻そうと移動を始めた時――。
栞はリュウノスケに飛びついた。
「なぜ、私の部屋で一晩過ごさないの? ねぇ? そんなにこの部屋が嫌?」
リュウノスケの背中に栞はかじりついて、定位置に戻ろうとするリュウノスケを阻止しようと邪魔をする。栞は怒っていた。
リュウノスケの動きをとめ、龍之介は背中にしがみつく栞が落ち着くのを待った。栞が疲れるのを待つ。
興奮が少しおさまった栞から、からだを離すと龍之介が言った
「ここで話したくない」
「なんで?」
「僕の話を聞く気があるなら、僕の部屋に来て」
龍之介は言い捨てると、背中にかじりついている栞を振り切り、リュウノスケを定位置に戻した。すぐに連携がきれて、リュウノスケは沈黙してしまう。
「意味わかんない!」
栞は怒りながら一人部屋の中で叫んだが、このままでは埒が明かない。仕方なく、龍之介の部屋のシオリを起動した。
シオリの起動を、龍之介が待っていた。
「説明して」
栞が龍之介に迫った。返ってきた答えは想像を飛び越えていた。
「さっき、見合いサイトにリュウノスケの回収を申請した」
「何言っているの?」
栞の頭を龍之介の言葉が素通りしていく。全く受け止められないのだ。
龍之介が、シオリの肩を両手で掴み、シオリの奥の栞に視線をまっすぐ見据えた。
「リュウノスケに君を触らせたくないんだよ!」
栞は呆然としたままだ。更に混迷が深くなる。
「え?」
「嫉妬しているんだよ、君と四六時中いっしょにいる『あいつ』に!」
栞は混乱したまま、尋ねた。
「リュウノスケは、龍之介だよね?」
「違う、『あいつ』は僕じゃない、別物だ!」
「わからない……」
「『あいつ』が君にキスした時に僕は違和感があった。その感情は嫌悪と嫉妬になって膨張し続けているんだ!」
龍之介が吐き捨てる。
「この部屋で過ごすことと、何が違うの?」
「君は、シオリと一体感があるんだよな?」
栞は龍之介の剣幕に腰が引けそうになった。
「あなたとの間にシオリを感じるけれど、それはしょうがないことじゃない?」
栞は続けた。
「だって非接触のお試し同居なのだから」
栞は、シオリが愛撫される感触の中で、独りベッドで過ごす現実との乖離を納得させる言葉を出した。あの感覚を龍之介は味わってないじゃない、栞はその言葉を呑み込んだ。
「そうだ、非接触のお試しだ。だから僕にとってシオリは」
龍之介が、シオリを壁に押し付けた。
「君を近くに感じるためのアイテム」
龍之介の言葉に栞は心の中で反発する。栞の感じる虚しさを知らない龍之介が、シオリをアイテムと言い切るのは容認できなかった。
「あなたが壁に押し付けているシオリは愛していない、と?」
「そうだ、アイテムだ。君じゃない」
龍之介は吐き出す。
「もっと我慢できないのは 君にキスした『あいつ』だ!」
龍之介の顔が苦し気に歪む。
「キスしたかったのは僕だ、でも栞とキスしたのは『あいつ』だ。僕じゃなかった」
龍之介のからだは怒りで震えていた
「あいつがそれ以上、君に触れるのは耐えられない、だから君の部屋では無理だ」
ようやく栞が口を挟んだ。
「リュウノスケはアイテムでないの?」
「アイテムに嫉妬するんだろうか? 僕は『あいつ』に嫉妬を感じるんだ」
龍之介の顔が苦痛で更に歪む
「僕の勝手な考えだ、支離滅裂なのはわかっているんだ」
重い沈黙の時間が果てしなく続く。
「嫉妬でおかしくならないうちに、別れるか結婚して欲しい」
これはプロポーズといっていいのだろうか? と栞はぼんやり考える。
龍之介がシオリを壁に更に押し付けた。
「君に会いたい! 君を抱きしめたいんだ!」
そのままシオリを抱きしめながら、龍之介は叫んだ。龍之介の混乱した感情がシオリから栞に伝わってきた。
シオリを通して龍之介のもどかしさは伝わってくる。一方で栞は、リュウノスケに抱きしめてもらえない。シオリから伝わる刺激しかない時間を、龍之介が理解したくもないということが悲しかった。
「考える時間が欲しい」
ようやくの想いで栞が言葉をふり絞った。シオリを抱きしめる龍之介の力が抜ける。
「わかった。ただ、リュウノスケは回収は決定事項だ」
「ひどい!」
「リュウノスケは、契約上は僕の分身だ。僕の判断が優先する」
「ま、待って……」
「ごめん、君が考える時間は待つ。でも回収は待てない」
「シオリはどうするの?」
「君の判断だ」
栞は頭がクラクラした。感覚と実体の乖離に不満を募らせる栞と、ロボットに嫉妬する龍之介とでは考え方があまりにも違う。
「サイトから連絡きた。明日回収だって。まだ一晩も我慢しろというのか」
栞にも見合いサイトから連絡が来た。
「龍之介様のオーダーに従い、明日、ロボットの回収に伺います」
「私、帰る」
リュウノスケが明日いなくなる? 栞はショックでへたり込みそうだった。龍之介の強引で勝手な言い分を理解もできない。なのに、リュウノスケまで回収されると? これ以上、龍之介の話を聞いていたくはなかった。
回収されてしまうまでの時間をリュウノスケと過ごしたい、栞はシオリとの連携を切った。
(つづく)
栞は龍之介に不満を抱えるようになっていた。もやもやを抱えたまま、我慢の限界を越えようとしていた。
栞の部屋のリュウノスケを起動して、龍之介が来た日のことだ。ひとしきりしゃべると、龍之介が言った。
「じゃあ、そろそろ戻るよ」
ついに栞がぶちきれた。龍之介がリュウノスケを定位置に戻そうと移動を始めた時――。
栞はリュウノスケに飛びついた。
「なぜ、私の部屋で一晩過ごさないの? ねぇ? そんなにこの部屋が嫌?」
リュウノスケの背中に栞はかじりついて、定位置に戻ろうとするリュウノスケを阻止しようと邪魔をする。栞は怒っていた。
リュウノスケの動きをとめ、龍之介は背中にしがみつく栞が落ち着くのを待った。栞が疲れるのを待つ。
興奮が少しおさまった栞から、からだを離すと龍之介が言った
「ここで話したくない」
「なんで?」
「僕の話を聞く気があるなら、僕の部屋に来て」
龍之介は言い捨てると、背中にかじりついている栞を振り切り、リュウノスケを定位置に戻した。すぐに連携がきれて、リュウノスケは沈黙してしまう。
「意味わかんない!」
栞は怒りながら一人部屋の中で叫んだが、このままでは埒が明かない。仕方なく、龍之介の部屋のシオリを起動した。
シオリの起動を、龍之介が待っていた。
「説明して」
栞が龍之介に迫った。返ってきた答えは想像を飛び越えていた。
「さっき、見合いサイトにリュウノスケの回収を申請した」
「何言っているの?」
栞の頭を龍之介の言葉が素通りしていく。全く受け止められないのだ。
龍之介が、シオリの肩を両手で掴み、シオリの奥の栞に視線をまっすぐ見据えた。
「リュウノスケに君を触らせたくないんだよ!」
栞は呆然としたままだ。更に混迷が深くなる。
「え?」
「嫉妬しているんだよ、君と四六時中いっしょにいる『あいつ』に!」
栞は混乱したまま、尋ねた。
「リュウノスケは、龍之介だよね?」
「違う、『あいつ』は僕じゃない、別物だ!」
「わからない……」
「『あいつ』が君にキスした時に僕は違和感があった。その感情は嫌悪と嫉妬になって膨張し続けているんだ!」
龍之介が吐き捨てる。
「この部屋で過ごすことと、何が違うの?」
「君は、シオリと一体感があるんだよな?」
栞は龍之介の剣幕に腰が引けそうになった。
「あなたとの間にシオリを感じるけれど、それはしょうがないことじゃない?」
栞は続けた。
「だって非接触のお試し同居なのだから」
栞は、シオリが愛撫される感触の中で、独りベッドで過ごす現実との乖離を納得させる言葉を出した。あの感覚を龍之介は味わってないじゃない、栞はその言葉を呑み込んだ。
「そうだ、非接触のお試しだ。だから僕にとってシオリは」
龍之介が、シオリを壁に押し付けた。
「君を近くに感じるためのアイテム」
龍之介の言葉に栞は心の中で反発する。栞の感じる虚しさを知らない龍之介が、シオリをアイテムと言い切るのは容認できなかった。
「あなたが壁に押し付けているシオリは愛していない、と?」
「そうだ、アイテムだ。君じゃない」
龍之介は吐き出す。
「もっと我慢できないのは 君にキスした『あいつ』だ!」
龍之介の顔が苦し気に歪む。
「キスしたかったのは僕だ、でも栞とキスしたのは『あいつ』だ。僕じゃなかった」
龍之介のからだは怒りで震えていた
「あいつがそれ以上、君に触れるのは耐えられない、だから君の部屋では無理だ」
ようやく栞が口を挟んだ。
「リュウノスケはアイテムでないの?」
「アイテムに嫉妬するんだろうか? 僕は『あいつ』に嫉妬を感じるんだ」
龍之介の顔が苦痛で更に歪む
「僕の勝手な考えだ、支離滅裂なのはわかっているんだ」
重い沈黙の時間が果てしなく続く。
「嫉妬でおかしくならないうちに、別れるか結婚して欲しい」
これはプロポーズといっていいのだろうか? と栞はぼんやり考える。
龍之介がシオリを壁に更に押し付けた。
「君に会いたい! 君を抱きしめたいんだ!」
そのままシオリを抱きしめながら、龍之介は叫んだ。龍之介の混乱した感情がシオリから栞に伝わってきた。
シオリを通して龍之介のもどかしさは伝わってくる。一方で栞は、リュウノスケに抱きしめてもらえない。シオリから伝わる刺激しかない時間を、龍之介が理解したくもないということが悲しかった。
「考える時間が欲しい」
ようやくの想いで栞が言葉をふり絞った。シオリを抱きしめる龍之介の力が抜ける。
「わかった。ただ、リュウノスケは回収は決定事項だ」
「ひどい!」
「リュウノスケは、契約上は僕の分身だ。僕の判断が優先する」
「ま、待って……」
「ごめん、君が考える時間は待つ。でも回収は待てない」
「シオリはどうするの?」
「君の判断だ」
栞は頭がクラクラした。感覚と実体の乖離に不満を募らせる栞と、ロボットに嫉妬する龍之介とでは考え方があまりにも違う。
「サイトから連絡きた。明日回収だって。まだ一晩も我慢しろというのか」
栞にも見合いサイトから連絡が来た。
「龍之介様のオーダーに従い、明日、ロボットの回収に伺います」
「私、帰る」
リュウノスケが明日いなくなる? 栞はショックでへたり込みそうだった。龍之介の強引で勝手な言い分を理解もできない。なのに、リュウノスケまで回収されると? これ以上、龍之介の話を聞いていたくはなかった。
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(つづく)
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