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ほっかい豆いんこ(いんこ小噺集)
飛ばないインコと飛べない人間
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インコが雛から成鳥に至る過程に触れてみようと思う。
歩くのもおぼつかなかったヒナが、成長するに従い羽ばたく練習を始め、やがてよろよろと危なげな飛行を開始するようになる。飛行感覚が掴めないのだろう、壁の手前で旋回しようとして失敗し壁にぶち当たったり、電灯のカサにでもとまろうとして案の定斜め状のカサに着地できずにズルリ~ンと落下したり。
飼い主がヒヤヒヤする日々が幾日か続く。しかし、飼い主の心配などインコには屁のかっぱ。飛行練習を始めてしばらくすると 「飛ぶ」ことが楽しくてしかたがないのか、はたまた「飛ぶ」のが物珍しいのか、飛べない飼い主の思考など知ったことかと言わんばかりに、相当いい気になって部屋の中をビュンビュンと飛び回るようになる。
飼い主の頭の横を掠め飛んで、飼い主をからかい始めると
「ああ、一人前の鳥になったんだなぁ」
という感慨で、飼い主を小バカにする態度に多少の怒りを覚えつつも、すでに見向きもしないヒナ餌をすくったスプーンをそっと置く飼い主の姿がそこにある(しんみり)。
当のインコは飼い主の心鳥知らずとばかり、部屋ん中をズババババババ、バサササササ、ビュンビュンビュ-ンと羽音もやかましく飛び回り、やがて胸の筋肉もりっぱに盛り上がり、一人前のインコへとまさしく飛翔を遂げるのだ。
そして同時に始めるのが、歩いたり走ったりする脚力強化だ。
空を飛べるという特権を持った数少ない生き物であるインコは、床の疾走訓練を始めるのだ。
無論、三次元移動が必要な場合は飛ぶのであるが、二次元的な移動、要するに床面をあっちからこっちまで動く時は、走る法を選択するのだ。どう考えても、飛行すれば早く着くにも拘らず、彼らは走ることを選択する。
脚力を鍛えたインコはしまいに素晴らしい速度で走るようになっていく。
下手に飛ぶより走る方が手っ取り早いとばかりに走ることに特化し、飛ぶのをほとんどやめてしまうインコも出てくるのだ。
飼われてる立場であるからその安全性は、危険な自然界とは天と地ほどの差があるわけで、それはつまり、危険がなければ、飛ぶ必要を感じないということなのか?という疑問が湧き上がる。そして、答えはおそらくイエスだ。
インターネットサービスが始まった時代、まだ鳥類の祖先は恐竜であるというのは、仮説だったが、その後仮説は定説になった。
恐竜が次々絶滅する中で、ほんの一握りの種が羽という手段で空に舞い上がってかろうじて生き残りを果たしたのが鳥なのだ、というのであれば、飛ぶのは種を保存する緊急避難の方法だったということになる。
つまり鳥だって好きで飛んでいるわけではないかもしれないのだ。ほんとは、飛ぶのなんか面倒だと思っているのが本音かもしれない。でも、飛ばないと生き抜けないから、鳥は飛ぶのだ。
野鳥が鳴きながら飛んでいるのを、飛べない人間はうらやましく眺めるが、当の野鳥は飛びながら
「かったりーなー、飛ぶのやめたいんだけど」
とぶつくさ文句言ってるだけかもしれないし、はたまた飛ぶ気力を絞り出す為に
「うおりゃーっ、とりゃーっ、だあぁぁーーっ!」
と叫んでるだけなのかもしれない。
このように考えれば、飛ばずに走り回ってばかりの飼われインコが出てくるのも納得がいくわけで
「なんでわざわざ、エネルギー使って飛ばなきゃならんのよ? 重力に逆らって面倒な飛行をする意味ないじゃ~ん」
と考えても不思議はない。
面倒くさいことが嫌いなのは、何も人間に限ったことでもなうだろう。
しかし、我々人間は! 飛びたくても飛べないという立場なのであって、昔から「空を自由に飛びたい」という欲望を持っていた。
飛ぶことは人類共通の夢であり、だからこそ飛行機やらロケットやら開発されてきたわけで。そんな人間からすると、飛ぶという能力をもちながら、飛ぶのが面倒だという理由でインコが飛ばないのであれば、正直腹がたつのが本音だ。
宝の持ち腐れとはまさにこのこと、飛べない人間にとっては許しがたいとばかり、飛べるんだから飛べや、こんにゃろーっ! とインコを空中に放り出す飼い主が、私であるが、え? 何か文句ある? こちとらどんなに飛びたくたって飛べないんじゃっ! 飛べるなら飛べやっ! 手を抜いて走るな!
というわけで、飼い主に空中に放り出されたインコは、緊急事態ゆえ仕方なく飛行するわけだ。
そして、素早い判断で一番楽な着地点にとっとと降りると、いきなり何をやらかすんだ、この飼い主は!(怒)というオーラを発散させちゃうのである。しかし、これはインコの失態である。そういう反感的態度は、飼い主の逆鱗に触れ、目にも止まらぬ早さで飼い主に再び掴まえられたインコは、再び空中に放り投げられてしまうのである。
さすがに尋常でない飼い主の状態に気づいたインコは、飼い主の手の届かぬ高さまで上昇を余儀なくされ、タンスの上などの飼い主の手の届かない場所に着地する。ここなら飼い主に捕まえられないだろうと、インコはゼェハァ荒い息をしながら飼い主を見下ろすのだ。
この時点でインコは相当頭にきているので、羽を怒りのポーズに広げ、飼い主に激しく抗議の意思を現す。このポーズは同時に、体温の上昇を抑えるのにも役立つので、荒かった息も次第に落ち着いてくる。
一方の飼い主は、といえば、自分でインコを放り飛ばしておきながら、己の手の届かない場所で休息とってるインコに腹を立て、しまいには脚立を引っ張り出して、タンスの上に顔のドアップで登場しインコの度肝を抜くと、また放り飛ばそうと手をのばす。
しかし、何度も掴まれてすっかり嫌気がさしているインコは、自ら飛び逃げる。まさしく緊急避難的行動、絶滅寸前の恐竜時代を生き抜いた鳥の原点がそこに繰り広げらるのだ。
納得していない飼い主は脚立を持ちながら、なおもインコを追いかける。まだやるのかよ、とうんざりしながら飛び回るインコ。
陳腐な鬼ごっこは、飼い主もインコもゼェハァと息が上がって、ようやく終止符をうつのだった。
太古の昔、恐竜であったかもしれないインコは、あこぎな飼い主に飛ばされて面倒くさそうに部屋を旋回しては、飼い主に付き合ってやるしかないのだ、飼われインコなのだから。
飼われインコが選んだ種の保存の道なのだ、とため息をついているのかどうかは、飼い主にはわからないw
歩くのもおぼつかなかったヒナが、成長するに従い羽ばたく練習を始め、やがてよろよろと危なげな飛行を開始するようになる。飛行感覚が掴めないのだろう、壁の手前で旋回しようとして失敗し壁にぶち当たったり、電灯のカサにでもとまろうとして案の定斜め状のカサに着地できずにズルリ~ンと落下したり。
飼い主がヒヤヒヤする日々が幾日か続く。しかし、飼い主の心配などインコには屁のかっぱ。飛行練習を始めてしばらくすると 「飛ぶ」ことが楽しくてしかたがないのか、はたまた「飛ぶ」のが物珍しいのか、飛べない飼い主の思考など知ったことかと言わんばかりに、相当いい気になって部屋の中をビュンビュンと飛び回るようになる。
飼い主の頭の横を掠め飛んで、飼い主をからかい始めると
「ああ、一人前の鳥になったんだなぁ」
という感慨で、飼い主を小バカにする態度に多少の怒りを覚えつつも、すでに見向きもしないヒナ餌をすくったスプーンをそっと置く飼い主の姿がそこにある(しんみり)。
当のインコは飼い主の心鳥知らずとばかり、部屋ん中をズババババババ、バサササササ、ビュンビュンビュ-ンと羽音もやかましく飛び回り、やがて胸の筋肉もりっぱに盛り上がり、一人前のインコへとまさしく飛翔を遂げるのだ。
そして同時に始めるのが、歩いたり走ったりする脚力強化だ。
空を飛べるという特権を持った数少ない生き物であるインコは、床の疾走訓練を始めるのだ。
無論、三次元移動が必要な場合は飛ぶのであるが、二次元的な移動、要するに床面をあっちからこっちまで動く時は、走る法を選択するのだ。どう考えても、飛行すれば早く着くにも拘らず、彼らは走ることを選択する。
脚力を鍛えたインコはしまいに素晴らしい速度で走るようになっていく。
下手に飛ぶより走る方が手っ取り早いとばかりに走ることに特化し、飛ぶのをほとんどやめてしまうインコも出てくるのだ。
飼われてる立場であるからその安全性は、危険な自然界とは天と地ほどの差があるわけで、それはつまり、危険がなければ、飛ぶ必要を感じないということなのか?という疑問が湧き上がる。そして、答えはおそらくイエスだ。
インターネットサービスが始まった時代、まだ鳥類の祖先は恐竜であるというのは、仮説だったが、その後仮説は定説になった。
恐竜が次々絶滅する中で、ほんの一握りの種が羽という手段で空に舞い上がってかろうじて生き残りを果たしたのが鳥なのだ、というのであれば、飛ぶのは種を保存する緊急避難の方法だったということになる。
つまり鳥だって好きで飛んでいるわけではないかもしれないのだ。ほんとは、飛ぶのなんか面倒だと思っているのが本音かもしれない。でも、飛ばないと生き抜けないから、鳥は飛ぶのだ。
野鳥が鳴きながら飛んでいるのを、飛べない人間はうらやましく眺めるが、当の野鳥は飛びながら
「かったりーなー、飛ぶのやめたいんだけど」
とぶつくさ文句言ってるだけかもしれないし、はたまた飛ぶ気力を絞り出す為に
「うおりゃーっ、とりゃーっ、だあぁぁーーっ!」
と叫んでるだけなのかもしれない。
このように考えれば、飛ばずに走り回ってばかりの飼われインコが出てくるのも納得がいくわけで
「なんでわざわざ、エネルギー使って飛ばなきゃならんのよ? 重力に逆らって面倒な飛行をする意味ないじゃ~ん」
と考えても不思議はない。
面倒くさいことが嫌いなのは、何も人間に限ったことでもなうだろう。
しかし、我々人間は! 飛びたくても飛べないという立場なのであって、昔から「空を自由に飛びたい」という欲望を持っていた。
飛ぶことは人類共通の夢であり、だからこそ飛行機やらロケットやら開発されてきたわけで。そんな人間からすると、飛ぶという能力をもちながら、飛ぶのが面倒だという理由でインコが飛ばないのであれば、正直腹がたつのが本音だ。
宝の持ち腐れとはまさにこのこと、飛べない人間にとっては許しがたいとばかり、飛べるんだから飛べや、こんにゃろーっ! とインコを空中に放り出す飼い主が、私であるが、え? 何か文句ある? こちとらどんなに飛びたくたって飛べないんじゃっ! 飛べるなら飛べやっ! 手を抜いて走るな!
というわけで、飼い主に空中に放り出されたインコは、緊急事態ゆえ仕方なく飛行するわけだ。
そして、素早い判断で一番楽な着地点にとっとと降りると、いきなり何をやらかすんだ、この飼い主は!(怒)というオーラを発散させちゃうのである。しかし、これはインコの失態である。そういう反感的態度は、飼い主の逆鱗に触れ、目にも止まらぬ早さで飼い主に再び掴まえられたインコは、再び空中に放り投げられてしまうのである。
さすがに尋常でない飼い主の状態に気づいたインコは、飼い主の手の届かぬ高さまで上昇を余儀なくされ、タンスの上などの飼い主の手の届かない場所に着地する。ここなら飼い主に捕まえられないだろうと、インコはゼェハァ荒い息をしながら飼い主を見下ろすのだ。
この時点でインコは相当頭にきているので、羽を怒りのポーズに広げ、飼い主に激しく抗議の意思を現す。このポーズは同時に、体温の上昇を抑えるのにも役立つので、荒かった息も次第に落ち着いてくる。
一方の飼い主は、といえば、自分でインコを放り飛ばしておきながら、己の手の届かない場所で休息とってるインコに腹を立て、しまいには脚立を引っ張り出して、タンスの上に顔のドアップで登場しインコの度肝を抜くと、また放り飛ばそうと手をのばす。
しかし、何度も掴まれてすっかり嫌気がさしているインコは、自ら飛び逃げる。まさしく緊急避難的行動、絶滅寸前の恐竜時代を生き抜いた鳥の原点がそこに繰り広げらるのだ。
納得していない飼い主は脚立を持ちながら、なおもインコを追いかける。まだやるのかよ、とうんざりしながら飛び回るインコ。
陳腐な鬼ごっこは、飼い主もインコもゼェハァと息が上がって、ようやく終止符をうつのだった。
太古の昔、恐竜であったかもしれないインコは、あこぎな飼い主に飛ばされて面倒くさそうに部屋を旋回しては、飼い主に付き合ってやるしかないのだ、飼われインコなのだから。
飼われインコが選んだ種の保存の道なのだ、とため息をついているのかどうかは、飼い主にはわからないw
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