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葛藤と苦悩から生まれる世界(ユリカ編)
4話 依存
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数日、リロイとカーラは店に顔を出さなかった。ユリカは二人のことを思い出すことはなかった。日を追うごとに店は忙しくなってきたからだ。
「コロニーに人が集まってきているのを実感するね」
昼時の忙しさが一段落した時、ユリカがアールに声をかけた。
「まぁ、この忙しさもいつまで続くかね?」
アールが言う。あと一か月もすれば、新しい店が開店することが決まって、準備が始まっていた。工事の音がにぎやかに聞こえてくる。
「いいんじゃない? 新しい店が出来ることは悪いことじゃないと思う。相乗効果って言葉に期待しているよ」
「楽観的なオーナーだねぇ」
アールは食器の片付けを再び始める。店内に食器の音がカチャカチャと響く。それが息抜きの時間だった。一時間もすれば、仕事の休憩や散歩の人々で再び、にぎやかになるのだ。
ユリカはサザンクロスの鉢の土をチェックした。土が乾いている。水やりをしながら、ふとリロイは買うのは辞めたのだろうかと思い出した。
その状態から顔を上げて、ヒッと声を上げた。考えていた相手が目の前にぼーっと突っ立っていたからだ。
「び、びっくりさせないでよ!」
ユリカは接客を忘れて怒った。
「す、すみませ……」
申し訳なさそうに言うリロイは、今にも消失してしまいそうなうなだれ方をする。
「あ、いや、申し訳ありません、お客様に私ったら! こちらこそすみません」
慌てて謝りながら、ユリカは納得する。カーラがパマっぽいと感じたが、この状態では自分もパマ化しそうだと思ったのだ。
「カーラさんは?」
「後で来ます、ここで待ち合わせ……」
「じゃあ、奥の飲食スペースへどうぞ」
ユリカが接客モードを取り戻し、リロイを促そうとした時だった。リロイがサザンクロスを指さした。
「これ、ください」
カーラが言ってた通りだ、悩んで結局欲しくなるわけか、とユリカは心の中で思う。
「ありがとうございます。準備しておきます」
ユリカはリロイを飲食スペースへ案内した。
「アール、お願いします」
「こんにちは、ご注文は? 前回と同じですか?」
アールがにこやかにリロイを迎えいれた。リロイを引き渡し、ユリカは気づかれないようにふうと息を吐く。今まで分散型居住区にいたのだから、人付き合いが苦手なのは、みな同じはずだ。なのに実際タウンに人が集まって、適応力にこんなに差が出るものなのかと、とユリカは感じた。
サザンクロスを持ち帰るために包装する。サザンクロスのマークの入った包装紙にサザンクロスを包むのがおかしかった。ユリカの顔が緩んだ。
包み終わって顔を上げると、カーラが近づいてくるのが見えた。急いでいるのがわかる、リロイを独りにしておくのが心配なのかな、とユリカは思った。
「いらっしゃいませ。奥の軽食コーナーですよ」
ユリカからカーラに声をかけた。カーラは笑ってうなづくとそのまま通り過ぎようとするので、ユリカは慌てて付け加える。
「お帰りの時、サザンクロス忘れないでくださいね」
カーラは立ち止り、
「やっぱり頼んだんだ」
「ですね」
二人で笑いあう。と、店内のリロイがカーラに気が付いた。
「ここ」
カーラを急かしている。やっぱりカーラがいないとダメなようだ、とユリカは心の中で思う。
(変な人)
ユリカはその気持ちをこめて、アールに視線を送った。
(そうか?)
アールが目で答えてきた。どういう意味だろう? ユリカは首をひねったが、それ以上突っ込むことはできなかった。
「すみません」
客がユリカに声をかけてきた。
「あ、いらっしゃいませ」
再び、忙しい時間が戻ってきたのだ。
その日の夕食が終わると、ユリカとアールはいつものように店の話を始めた。今日の話題は当然、リロイとカーラだ。
「私は目配せしたとき、同意しなかったのはどうして?」
ユリカが尋ねるとアールは、ユリカの肩を抱き寄せて言った。
「君は違うのかい?」
「ん?」
「僕も随分君に頼られていると思っていたんだが、違ったのか。悲しいなぁ」
「あ、え、いや……、えぇー」
ユリカは反論もできなければ肯定もできないで口ごもった。アールは口をとがらせてそっぽを向くユリカの顎を持ち上げ、唇を重ねた。
軽くキスをすると、今度はユリカの耳もとで囁く。
「僕は、いくらでも依存されたいんだよ」
ユリカは耳まで赤くなる。
「な、なんでそんなキザなこと言うかなっ、もう!」
ユリカは言葉と裏腹にアールに更にもたれかかると、二人は再び長いキスを交わした。
(つづく)
「コロニーに人が集まってきているのを実感するね」
昼時の忙しさが一段落した時、ユリカがアールに声をかけた。
「まぁ、この忙しさもいつまで続くかね?」
アールが言う。あと一か月もすれば、新しい店が開店することが決まって、準備が始まっていた。工事の音がにぎやかに聞こえてくる。
「いいんじゃない? 新しい店が出来ることは悪いことじゃないと思う。相乗効果って言葉に期待しているよ」
「楽観的なオーナーだねぇ」
アールは食器の片付けを再び始める。店内に食器の音がカチャカチャと響く。それが息抜きの時間だった。一時間もすれば、仕事の休憩や散歩の人々で再び、にぎやかになるのだ。
ユリカはサザンクロスの鉢の土をチェックした。土が乾いている。水やりをしながら、ふとリロイは買うのは辞めたのだろうかと思い出した。
その状態から顔を上げて、ヒッと声を上げた。考えていた相手が目の前にぼーっと突っ立っていたからだ。
「び、びっくりさせないでよ!」
ユリカは接客を忘れて怒った。
「す、すみませ……」
申し訳なさそうに言うリロイは、今にも消失してしまいそうなうなだれ方をする。
「あ、いや、申し訳ありません、お客様に私ったら! こちらこそすみません」
慌てて謝りながら、ユリカは納得する。カーラがパマっぽいと感じたが、この状態では自分もパマ化しそうだと思ったのだ。
「カーラさんは?」
「後で来ます、ここで待ち合わせ……」
「じゃあ、奥の飲食スペースへどうぞ」
ユリカが接客モードを取り戻し、リロイを促そうとした時だった。リロイがサザンクロスを指さした。
「これ、ください」
カーラが言ってた通りだ、悩んで結局欲しくなるわけか、とユリカは心の中で思う。
「ありがとうございます。準備しておきます」
ユリカはリロイを飲食スペースへ案内した。
「アール、お願いします」
「こんにちは、ご注文は? 前回と同じですか?」
アールがにこやかにリロイを迎えいれた。リロイを引き渡し、ユリカは気づかれないようにふうと息を吐く。今まで分散型居住区にいたのだから、人付き合いが苦手なのは、みな同じはずだ。なのに実際タウンに人が集まって、適応力にこんなに差が出るものなのかと、とユリカは感じた。
サザンクロスを持ち帰るために包装する。サザンクロスのマークの入った包装紙にサザンクロスを包むのがおかしかった。ユリカの顔が緩んだ。
包み終わって顔を上げると、カーラが近づいてくるのが見えた。急いでいるのがわかる、リロイを独りにしておくのが心配なのかな、とユリカは思った。
「いらっしゃいませ。奥の軽食コーナーですよ」
ユリカからカーラに声をかけた。カーラは笑ってうなづくとそのまま通り過ぎようとするので、ユリカは慌てて付け加える。
「お帰りの時、サザンクロス忘れないでくださいね」
カーラは立ち止り、
「やっぱり頼んだんだ」
「ですね」
二人で笑いあう。と、店内のリロイがカーラに気が付いた。
「ここ」
カーラを急かしている。やっぱりカーラがいないとダメなようだ、とユリカは心の中で思う。
(変な人)
ユリカはその気持ちをこめて、アールに視線を送った。
(そうか?)
アールが目で答えてきた。どういう意味だろう? ユリカは首をひねったが、それ以上突っ込むことはできなかった。
「すみません」
客がユリカに声をかけてきた。
「あ、いらっしゃいませ」
再び、忙しい時間が戻ってきたのだ。
その日の夕食が終わると、ユリカとアールはいつものように店の話を始めた。今日の話題は当然、リロイとカーラだ。
「私は目配せしたとき、同意しなかったのはどうして?」
ユリカが尋ねるとアールは、ユリカの肩を抱き寄せて言った。
「君は違うのかい?」
「ん?」
「僕も随分君に頼られていると思っていたんだが、違ったのか。悲しいなぁ」
「あ、え、いや……、えぇー」
ユリカは反論もできなければ肯定もできないで口ごもった。アールは口をとがらせてそっぽを向くユリカの顎を持ち上げ、唇を重ねた。
軽くキスをすると、今度はユリカの耳もとで囁く。
「僕は、いくらでも依存されたいんだよ」
ユリカは耳まで赤くなる。
「な、なんでそんなキザなこと言うかなっ、もう!」
ユリカは言葉と裏腹にアールに更にもたれかかると、二人は再び長いキスを交わした。
(つづく)
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