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君とともに歩む未来(ヤマト編)
25話 前へ!(ヤマト編完結)
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アデルの予想レポートは管理センターで精査され、正式に発表された。
数年後から食料の消費が生産を上回り備蓄食料の放出を始めなければならないこと、その回避のためにパートナー型アバターの修理部品の生産を再開すること――この一見つながらない二つの事項が原因と結果であることを、世界の人々は驚きを持ちながらも肯定的に受け入れた。
管理センターの発表直後、センターを支持する発言がリリカの両親リロイとユリカから発信されたことが大きかった。
管理センターの発表の数日前から仮想空間に食料が不足するという噂が流れていたことも影響があった。ニーナの仮想空間への訴えも、噂を裏付けるような内容に変化していた。
「旧世代をないがしろにした状態は世界に悪影響を及ぼす事態を引き起こします」
と。
「お見事なことで」
パートナー型アバターの部品供給が始まったことを確認したヤマトが、建設中の居住区の配管工事をしていたアデルに声をかけた。
「出荷始まったんだ、良かったね」
答えながら、アデルは顔をあげようともせず、作業を続けていた。
「この設計は、やっぱりアホだ!」
怒った声で文句を言うのは、アデルの照れ隠しなのだ。ヤマトはアデルの反論することなく
「ごめんよ、アホな設計で」
とだけ答えた。
管理センターの発表にアデルの名前は一切出てこない。
アデルが拒否したのだ。ネットでの噂話、ニーナの発言内容、リリカの両親のセンターの支持――裏で画策した張本人は、のほほんと結果だけを喜んでいた。
仮想空間の同じ場所に連日出現していたニーナがいなくなった。仮想空間でニーナのいた空間を眺めながらアデルは
「監禁とけたんだね。良かったね、お姉ちゃん」
とつぶやいた。
リリカが遠くからアデルを見つめているのを、アデルは気が付かなかった。ヤマトと両親の話し合いを聞いた後、リリカは連日、仮想空間のニーナの訴えを遠くから聞くようになっていた。
圧倒的なオーラをまといながら、一方で儚さを併せ持つニーナの存在感は、リリカを惹き付けた。アデルがそのニーナと何回か接触していたのも知っていた。似ているとは思っていた。印象は全く違うけれど、とリリカは思う。
そのニーナがいなくなった場所で、アデルがニーナを「お姉ちゃん」と呼んだ。リリカは情報を探し出し、アデルとニーナの関係を初めて知った。
リリカは遠くに見えるアデルに心の中で言った。
「ヤマトはあなたに預けるよ」
リリカは前を向く。一連の動きは次の段階に入った。振り返ることはあるかもしれないけれど、その時また立ち止まればいい。それもまた人間くさくていいかもしれない。リリカは仮想空間をログアウトした。
ヤマトとアデルは、キスを繰り返していた。
「ハァ、ハァ……」
息をつく暇をようやく与えられたアデルが肩で息をする。
「ゆっくりし……んんっ‼」
再び、ヤマトがアデルの唇をふさぐ。
ベッドに二人で倒れこみ、互いを飽きることなく何度も求め貪りあう。
アデルの裸体が反応し揺れ動くのを、ヤマトは更に執拗に攻めていく。
動きをヤマトの力で制限されつつ、アデルは腕をのばして、キャンディみたいな個包装のそれをいつもの場所から引っ張り出す。
「こ、これ」
「うん」
手慣れた自然の流れで、ヤマトとアデルは一体になり、二人は絡まり、溶けていった。
事が終わって、二人はベッドの中で抱き合いながら、時間を過ごしていた。
「ねぇ、実習が終わったら、ヤマトはどうするの?」
アデルがかすれた声でたずねた。
「まだ、だいぶ先の話だよ、予定から大幅に遅れているわけだし」
ヤマトが苦笑して言う。
「君に会ってから、相当ひどい目にあっているよな、いろいろと、さ」
「自業自得じゃん」
アデルは拗ねて反論する。
「新しいタウン建設現場に行きたいんだ」
ヤマトはそう言うと、ヤマトの胸に顔をうずめていたアデルの顎を引き上げる。
「結婚して欲しい」
「え?」
アデルが目を見開き、顔が真っ赤に染まっていく。
「実習終わったら、結婚して同じ現場で働かないかってこと」
ヤマトは、繰り返す。
「結婚しようよ」
アデルはヤマトを見つめたまま固まっている。
「返事きかせてよ」
「うん……」
アデルが、消え入りそうな声で答えた。
次の日も作業は続く。二人だけの婚約。そして実習に明け暮れる日常が再び続くのだ。
「ヤマト! 早く現場行こう!」
先に作業現場に飛び出したアデルの声が元気に響く。
ヤマトは外に出ると風が冷たく刺さるのを感じた。澄み切った空は放射冷却現象を起こしている。北海道は初冬を迎えていた。太陽の光がまぶしい。
ヤマトは目を閉じて太陽の光を全身で感じた。力が湧いてくる。前へ!
(「君ととも歩む未来」(ヤマト編)完結)
挿絵
ミカスケ様のフリーイラスト
ツイッター:@oekakimikasuke
インスタグラム:https://www.instagram.com/mikasuke28/
プロフィール:https://profile.coconala.com/users/1055136
後書き
ヤマト編、書き始めて一か月。完結しました。本編の内容ともリンクさせた内容になりました。
正直見切り発車で始めた話でした。途中で本編も含め、整合性とれない部分の修正をしています。
誤字脱字、まだたくさんあると思いますが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
なんとか終わった!
数年後から食料の消費が生産を上回り備蓄食料の放出を始めなければならないこと、その回避のためにパートナー型アバターの修理部品の生産を再開すること――この一見つながらない二つの事項が原因と結果であることを、世界の人々は驚きを持ちながらも肯定的に受け入れた。
管理センターの発表直後、センターを支持する発言がリリカの両親リロイとユリカから発信されたことが大きかった。
管理センターの発表の数日前から仮想空間に食料が不足するという噂が流れていたことも影響があった。ニーナの仮想空間への訴えも、噂を裏付けるような内容に変化していた。
「旧世代をないがしろにした状態は世界に悪影響を及ぼす事態を引き起こします」
と。
「お見事なことで」
パートナー型アバターの部品供給が始まったことを確認したヤマトが、建設中の居住区の配管工事をしていたアデルに声をかけた。
「出荷始まったんだ、良かったね」
答えながら、アデルは顔をあげようともせず、作業を続けていた。
「この設計は、やっぱりアホだ!」
怒った声で文句を言うのは、アデルの照れ隠しなのだ。ヤマトはアデルの反論することなく
「ごめんよ、アホな設計で」
とだけ答えた。
管理センターの発表にアデルの名前は一切出てこない。
アデルが拒否したのだ。ネットでの噂話、ニーナの発言内容、リリカの両親のセンターの支持――裏で画策した張本人は、のほほんと結果だけを喜んでいた。
仮想空間の同じ場所に連日出現していたニーナがいなくなった。仮想空間でニーナのいた空間を眺めながらアデルは
「監禁とけたんだね。良かったね、お姉ちゃん」
とつぶやいた。
リリカが遠くからアデルを見つめているのを、アデルは気が付かなかった。ヤマトと両親の話し合いを聞いた後、リリカは連日、仮想空間のニーナの訴えを遠くから聞くようになっていた。
圧倒的なオーラをまといながら、一方で儚さを併せ持つニーナの存在感は、リリカを惹き付けた。アデルがそのニーナと何回か接触していたのも知っていた。似ているとは思っていた。印象は全く違うけれど、とリリカは思う。
そのニーナがいなくなった場所で、アデルがニーナを「お姉ちゃん」と呼んだ。リリカは情報を探し出し、アデルとニーナの関係を初めて知った。
リリカは遠くに見えるアデルに心の中で言った。
「ヤマトはあなたに預けるよ」
リリカは前を向く。一連の動きは次の段階に入った。振り返ることはあるかもしれないけれど、その時また立ち止まればいい。それもまた人間くさくていいかもしれない。リリカは仮想空間をログアウトした。
ヤマトとアデルは、キスを繰り返していた。
「ハァ、ハァ……」
息をつく暇をようやく与えられたアデルが肩で息をする。
「ゆっくりし……んんっ‼」
再び、ヤマトがアデルの唇をふさぐ。
ベッドに二人で倒れこみ、互いを飽きることなく何度も求め貪りあう。
アデルの裸体が反応し揺れ動くのを、ヤマトは更に執拗に攻めていく。
動きをヤマトの力で制限されつつ、アデルは腕をのばして、キャンディみたいな個包装のそれをいつもの場所から引っ張り出す。
「こ、これ」
「うん」
手慣れた自然の流れで、ヤマトとアデルは一体になり、二人は絡まり、溶けていった。
事が終わって、二人はベッドの中で抱き合いながら、時間を過ごしていた。
「ねぇ、実習が終わったら、ヤマトはどうするの?」
アデルがかすれた声でたずねた。
「まだ、だいぶ先の話だよ、予定から大幅に遅れているわけだし」
ヤマトが苦笑して言う。
「君に会ってから、相当ひどい目にあっているよな、いろいろと、さ」
「自業自得じゃん」
アデルは拗ねて反論する。
「新しいタウン建設現場に行きたいんだ」
ヤマトはそう言うと、ヤマトの胸に顔をうずめていたアデルの顎を引き上げる。
「結婚して欲しい」
「え?」
アデルが目を見開き、顔が真っ赤に染まっていく。
「実習終わったら、結婚して同じ現場で働かないかってこと」
ヤマトは、繰り返す。
「結婚しようよ」
アデルはヤマトを見つめたまま固まっている。
「返事きかせてよ」
「うん……」
アデルが、消え入りそうな声で答えた。
次の日も作業は続く。二人だけの婚約。そして実習に明け暮れる日常が再び続くのだ。
「ヤマト! 早く現場行こう!」
先に作業現場に飛び出したアデルの声が元気に響く。
ヤマトは外に出ると風が冷たく刺さるのを感じた。澄み切った空は放射冷却現象を起こしている。北海道は初冬を迎えていた。太陽の光がまぶしい。
ヤマトは目を閉じて太陽の光を全身で感じた。力が湧いてくる。前へ!
(「君ととも歩む未来」(ヤマト編)完結)
挿絵
ミカスケ様のフリーイラスト
ツイッター:@oekakimikasuke
インスタグラム:https://www.instagram.com/mikasuke28/
プロフィール:https://profile.coconala.com/users/1055136
後書き
ヤマト編、書き始めて一か月。完結しました。本編の内容ともリンクさせた内容になりました。
正直見切り発車で始めた話でした。途中で本編も含め、整合性とれない部分の修正をしています。
誤字脱字、まだたくさんあると思いますが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
なんとか終わった!
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