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君とともに歩む未来(ヤマト編)

24話 ヤマト

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 リリカは仮想空間でじっと様子を伺う。
 いつまでも顔を上げないヤマト。
 あぁ、弁解もないのだ、取り繕うことすらしないのだ――リリカは溢れてくる涙がこぼれないように、上を見上げた。
 終わった、何度もそう思ってきて、そしてやっぱり今回も思い知った。
「バカだね、あんな奴、いつまでもひきずってさ」

 沈黙に根負けして口を開いたのはユリカだった。
「リリカのことを許したわけではないが、本題を聞きたい」
 ようやく、ヤマトがユリカにゆっくり視線を向ける。険しい顔をしながらも、ユリカが小さく頷き、ヤマトに話を進めることを促した。
 ヤマトは姿勢を正すと、視線は斜め下を向けたまま、話を始めた――


 パートナー型アバターの新型の生産と、部品の生産が終了して数年たつ。
最終モデルのアバターの部品交換が発生し始めてきた。そこに事件が起こった。落雷事故であるパートナー型アバターが壊れたのだ。破損が激しいアバターは部品交換では再起動できなかった。
 アデルを助けるために支援アバターが壊れた、その比でない衝撃を旧世代は受けた。
 動かないアバターが回収される直前、アバターを抱えてともに暮らしていた第一世代が自ら命をたったのである。
 第一世代にとってパートナーを失うことは、生きている半分をもぎとられることにとに等しい。部品の生産が終了した状態でアバターが故障し再起動できなくなることは、パートナーを失い分散型居住区で孤独になることを意味する。
 パートナーの故障を怖れるあまり、一番極端な行動に出たのが札幌区のカイトだった。パートナーのニーナから一切の仕事を取り上げ行動に制限をかけ、壊さないための監禁したのだ。
 パートナーを監禁し、分散型居住区内の作業を一人で全部行おうとカイトは躍起になっている。
 カイトの行動は極端だったが、旧世代はパートナーの行動に何らかの制限をかけるウエイトが増加傾向にあった。

 ヤマトがようやくリロイとユリカに視線を合わせた。
「分散型居住区で実習を始めて実感していますが、アバターなしでは居住区内を管理しきれないのが実情です。重要な働き手であるアバターの労働を抑制することは、必然的に生産量が落ちるということです」
 リロイとユリカが、ヤマトに話の先を促した。

 個人の生産量には波があり、旧世代は個々の生産量しか気にしていない。アバターの労働を抑制して生産量が落ちれば、物々交換に出す生産物が減るだけだ。旧世代は非常に狭い世界しかを見ていない。
 一方、世界の人々は食料の生産を旧世代にいまだに大きく依存していることを、忘れかけている実態がある。新しい無人の穀物生産基地の稼働実験が始まり、人々は安心しきっているのだ。

 「実際は、世界で消費する食料は年々増加していて、仮に実験基地が成功しても、旧世代の生産量の依存度は高い水準であることに変わりありません。
 一方旧世代による生産量は、アバターの労働抑制が原因で減産傾向に転じて、すでに供給バランスの崩壊が始まっています。それが数年先には目に見える形で露呈するというのがアデルのたどりついた予測です」
 リロイが尋ねる。
「無人の穀物生産基地で補なえないというのか?」
「食料の供給予測に、パートナー型アバターの労働抑制という因子が全く考慮されていません」
 ヤマトは答え更に続けた。
「アバターの故障率が上がれば、旧世代が、カイトと同じくアバターを監禁しはじめる可能性が高い。つまり、食料生産減が更に加速するということです。結果として、世界の食料不足は更に前倒しで起こります」
 ユリカがヤマトに尋ねる。
「解決の鍵は、パートナー型アバター、ということですか?」
 ヤマトが頷いた。
「一番効果的な解決策として、パートナー型アバターの部品供給の再開を提案したいのです」
 ヤマトが続ける。
「部品供給が再開すれば、旧世代のアバターの労働抑制は解除されると、僕たちは見込んでいます。繰り返しますが、一人では居住区の管理をしきれませんから。
 しかしパートナー型アバターの部品供給再開と食料危機の回避が関連していることを、僕やアデルが主張したところで、説得力が全くありません。
 ニーナでも、母のユキコでも無理です。二人とも部品供給再開で直接利益を受ける側ですから」
 リロイがうなった。
「そこで、私たちを呼び出した、と。私たちの過去の傷を知って、えぐり出すことをわかって、あえて言っていると?」
 ヤマトは再び汗が額から噴き出すのを感じた。しかし、ここで失敗するわけにはいかないのだ。
「パートナー型アバターを降格させたお二人の支持があって、初めてこの予測に説得力と信頼性が生れ、人々が耳を傾けると信じて、お願いしています」
 ヤマトは再び、頭を下げた。
「母のためではない、実の父のためでもない。絶滅しかけた人が再び絶滅の淵に立たないために、力を貸して欲しいのです」
 汗が再び、床に落ちて沁みが広がった。




(つづく)




 

 
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