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君とともに歩む未来(ヤマト編)
16話 鳴き砂の浜
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白老から一時間、自動運転車が止まった。
「ここかな?」
アデルが尋ねるが、ヤマトが答えることはできない。マップでは室蘭のイタンキ浜はここだという表示がされているのみだ。
「確かめてみればいいだけだ、行ってみよ?」
ヤマトがアデルの腕を掴み、自動運転車の外に二人は降り立った。
白老で降り立った砂浜より広けている。自動運転車から降り立って二人は砂浜に進入する。サクサクから、やがてザクザクと靴が砂に沈み込む。
「これが鳴き砂の音?」
ヤマトがアデルに尋ねる。ヤマトにとって海の知識は皆無であり、ネットでの検索をすっ飛ばして尋ねる相手はアデルしかいないわけで。
とはいえ、鳴き砂の正体を知らないアデルも答えに詰まるのだ。
「靴底で摩擦を起こすと鳴るみたい。うーん?」
アデルが靴底をひねると、靴が砂に埋もれていく。
「違う場所で試してみよう」
鳴き砂は石英粒の成分が高い場所で鳴りやすいらしい。砂浜を靴底でグリグリしながら歩きまる。
と、キュッツキュッ。
「あ!これだ!」
先に鳴らしたのはヤマトだった。
「え、私も鳴らしたい」
アデルが駆け寄ってきた。ヤマトの腕を支えにして、靴底でこすると鳴き砂がキュッキュッと鳴いた。
二人がしばらく互いを支えあい、砂を鳴らし続けた。
キュッキュッキュッ……。
鳴き砂の音をききながら、アデルはネットのアーカイブを漁っていた。
「綺麗な状態で鳴き砂は鳴る。大戦前、人が溢れていた時は、鳴き砂は鳴らなくなった。今、鳴るのは海が綺麗だから……か」
アデルはキュッキュッと鳴らし続ける。
「鳴き砂の音を聞きたい人がたくさんいた時には、鳴き砂は鳴らなかった」
キュッキュッ
「鳴らす人がいない砂浜になって、鳴るのに誰も鳴らさなくなった」
キュッキュッキュッ。
二人は鳴き砂を鳴らし続けた。
しばらくして。
「戻ろうか」
ヤマトがアデルを促す。アデルは黙ってうなずいた。
二人は自動運転車に戻ると、海側のドアを大きく開けて、サンドイッチを食べ始めた。
「なんとなく、砂浜で食べることできないね」
ヤマトが言うとアデルも首を縦にふった。
「汚せないよね」
言いながら、サンドイッチのパンくずがポロリと落ちる。
「これだもんね、汚しちゃうもの」
アデルはサンドイッチを食べ終わると、車内にこぼしたパンくずを拾いながら言う。
「でも、次はだれが鳴き砂鳴らすのかな?」
アデルの問いにヤマトは答えられない。
鳴き砂が鳴る日は、再び訪れるのか? 二人に未来はわからない。
二人ぼっちで鳴き砂の浜にきた。鳴き砂が鳴るのを楽しんだ。潮風にふかれながら、キュッキュッと音を出した。鳴き砂が鳴った。綺麗な海だから鳴った。人がいないから鳴る砂を、二人ぼっちで鳴らした。ただそれだけだった。
ヤマトはぶるっと震えた。世界から取り残されたような孤独感だった。旧世代は分散型居住区で孤独を感じていないのだろうか? タウンのにぎやかさから取り残されて、静かにパートナー型アバターと生きている。それで充分だと感じているのだろうか? 遺伝子上の父親のカイトは、ニーナだけを見て、この孤独な空の下で生きているのか――
ヤマトがまた遠い目をしていることにアデルは気が付いた。どこを見ているのだろうか? アデルはまたヤマトに置いてきぼりをくらった感覚になる。独りぼっちになるのは嫌だ。孤独の中に置いていかれるのが嫌だった。置いていかないで。いっしょにいたいよ!
アデルがヤマトの手を強く握りしめた。ヤマトがアデルを手を握り返す。二人の指が強く絡み合う。
同時に二人の視線がぶつかった。
お互いを見つめる視線に、言葉はない。
――君が必要なんだ
――あなたが必要なんだ
(つづく)
「ここかな?」
アデルが尋ねるが、ヤマトが答えることはできない。マップでは室蘭のイタンキ浜はここだという表示がされているのみだ。
「確かめてみればいいだけだ、行ってみよ?」
ヤマトがアデルの腕を掴み、自動運転車の外に二人は降り立った。
白老で降り立った砂浜より広けている。自動運転車から降り立って二人は砂浜に進入する。サクサクから、やがてザクザクと靴が砂に沈み込む。
「これが鳴き砂の音?」
ヤマトがアデルに尋ねる。ヤマトにとって海の知識は皆無であり、ネットでの検索をすっ飛ばして尋ねる相手はアデルしかいないわけで。
とはいえ、鳴き砂の正体を知らないアデルも答えに詰まるのだ。
「靴底で摩擦を起こすと鳴るみたい。うーん?」
アデルが靴底をひねると、靴が砂に埋もれていく。
「違う場所で試してみよう」
鳴き砂は石英粒の成分が高い場所で鳴りやすいらしい。砂浜を靴底でグリグリしながら歩きまる。
と、キュッツキュッ。
「あ!これだ!」
先に鳴らしたのはヤマトだった。
「え、私も鳴らしたい」
アデルが駆け寄ってきた。ヤマトの腕を支えにして、靴底でこすると鳴き砂がキュッキュッと鳴いた。
二人がしばらく互いを支えあい、砂を鳴らし続けた。
キュッキュッキュッ……。
鳴き砂の音をききながら、アデルはネットのアーカイブを漁っていた。
「綺麗な状態で鳴き砂は鳴る。大戦前、人が溢れていた時は、鳴き砂は鳴らなくなった。今、鳴るのは海が綺麗だから……か」
アデルはキュッキュッと鳴らし続ける。
「鳴き砂の音を聞きたい人がたくさんいた時には、鳴き砂は鳴らなかった」
キュッキュッ
「鳴らす人がいない砂浜になって、鳴るのに誰も鳴らさなくなった」
キュッキュッキュッ。
二人は鳴き砂を鳴らし続けた。
しばらくして。
「戻ろうか」
ヤマトがアデルを促す。アデルは黙ってうなずいた。
二人は自動運転車に戻ると、海側のドアを大きく開けて、サンドイッチを食べ始めた。
「なんとなく、砂浜で食べることできないね」
ヤマトが言うとアデルも首を縦にふった。
「汚せないよね」
言いながら、サンドイッチのパンくずがポロリと落ちる。
「これだもんね、汚しちゃうもの」
アデルはサンドイッチを食べ終わると、車内にこぼしたパンくずを拾いながら言う。
「でも、次はだれが鳴き砂鳴らすのかな?」
アデルの問いにヤマトは答えられない。
鳴き砂が鳴る日は、再び訪れるのか? 二人に未来はわからない。
二人ぼっちで鳴き砂の浜にきた。鳴き砂が鳴るのを楽しんだ。潮風にふかれながら、キュッキュッと音を出した。鳴き砂が鳴った。綺麗な海だから鳴った。人がいないから鳴る砂を、二人ぼっちで鳴らした。ただそれだけだった。
ヤマトはぶるっと震えた。世界から取り残されたような孤独感だった。旧世代は分散型居住区で孤独を感じていないのだろうか? タウンのにぎやかさから取り残されて、静かにパートナー型アバターと生きている。それで充分だと感じているのだろうか? 遺伝子上の父親のカイトは、ニーナだけを見て、この孤独な空の下で生きているのか――
ヤマトがまた遠い目をしていることにアデルは気が付いた。どこを見ているのだろうか? アデルはまたヤマトに置いてきぼりをくらった感覚になる。独りぼっちになるのは嫌だ。孤独の中に置いていかれるのが嫌だった。置いていかないで。いっしょにいたいよ!
アデルがヤマトの手を強く握りしめた。ヤマトがアデルを手を握り返す。二人の指が強く絡み合う。
同時に二人の視線がぶつかった。
お互いを見つめる視線に、言葉はない。
――君が必要なんだ
――あなたが必要なんだ
(つづく)
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