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その後の世界で君とともに(本編)
12話 再会
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食事時にいっしょに座って会話をすることが、カイトとニーナが出会ってからの習慣になっている。
ユキコからの申し出を、その日の夕食時、カイトはニーナに話した。
「僕はユキコの申し出を受けてみようと思うのだけど、君に相談すること自体残酷かもしれない」
カイトが言うと、
「そんな、残酷なんて……。私に相談する必要はないのに」
ニーナは反論した。
「それでも、やっぱり相談したい。君にはちゃんと話したい」
とカイト。
「あなたの選択を全力でサポートする」
ニーナはチリチリと思考にノイズが走るのを抑えながら答えた。カイトは気が付いていた。
「ごめん。本当にごめん。ただ、ユキコの希望を「友人」として叶えたい」
そう言いながら、「友人」という一線を越えた行為だよなとカイトは思った。しかしカイトとユキコの関係にぴったり当てはまる言葉は見つからなかった。
ユキコとバートに了承を伝え、打ち合わせが開始した。
バートいわく、妊娠に適した三日間ほどのセックスを予定したいと言う。
「三日間⁉」
驚くカイトにバートは、チャレンジするなら妊娠の成功率を上げたいから三日間の時間が欲しいと重ねて伝えてきた。
カイトとニーナが千歳地区に出かけることに決まった。カイトはニーナに
「無理して付いてくることはない」
と言ったが、ニーナは首を横に振る。
「常にあなたの側に寄り添うのが、アバターの使命だから」
二人は三日間分の出かける準備を整え、ユキコの「排卵日」の連絡を待った。
仮想空間で事前にバーチャルセックスで練習しようかという話が出たが、ライルがそれを止めた。
「気まずくなるばっかりだぞ、やめておけ。練習にはならないから」
カイトとユキコは経験者の言うことに素直に従うことにする。
ほどなくバートから連絡が入った。
カイトとニーナは自動運転車の乗り込んで千歳地区に向かって移動を開始した。
「生まれてこの方、一度も札幌地区から出たことなかったんだよなぁ」
カイトは流れる景色を見ながら、ぼんやりつぶやいた。ニーナの同意はない。ニーナはカイトが18才の誕生日を迎える日、チャイナ集中管理センターから千歳空港を経て札幌まで移動していたからだ。
千歳地区まで小一時間でユキコの居住区に到着した。バートの出迎えでリビングルームに案内された。
「いらっしゃい」
リビングでユキコがカイトとニーナを出迎えた。
「お久しぶり?かな」
カイトが首を傾げる。ユキコも苦笑した。
「リアルでは三年ぶりなのだけど、ね。仮想空間でしょっちゅう会っているから」
そして続けた。
「変な感じ!」
ユキコが言うと、カイトは笑った。緊張が少しほぐれた。そんなユキコを見てニーナは思う。強い信念を持って美しく成長したユキコがニーナには眩しかった。同時にニーナは再びチリチリと思考が乱れるのを感じた。
カイトとユキコが食事をとった後、しばらく四人で穏やかな会話が続いた。その流れを断ったのは、どうやら場を仕切っているらしいバートだった。
「そろそろ、ベッドルームに移動して欲しい」
その声でカイトはニーナを見た。ユキコでなくて私を見てくれた、ニーナは小さく微笑み行ってらっしゃいと声を出さずに口の形で、カイトに伝えた。
カイトはニーナから視線を外すとユキコの手を取った。
「じゃあ、行こう」
ユキコが真っ赤にになって黙って頷く。二人は手を繋いでベッドルームに入って行った。
二人がベッドルームに入っていく時、ニーナは目を伏せていた。再び、チリチリと思考が揺れ始める。バートが、
「外に行こうか」
とニーナを促した。
満天の星空を見上げながら、バートは言う。
「アバターなのが悲しいよね」
「悲しい?」
ニーナは首を傾げる。悲しいというより――
「おそらく、私は嫉妬している状態なのだと思う」
とニーナはつぶやいた。
バートとニーナは、そのまま無言で星空を見上げ続けていた。
(つづく)
ユキコからの申し出を、その日の夕食時、カイトはニーナに話した。
「僕はユキコの申し出を受けてみようと思うのだけど、君に相談すること自体残酷かもしれない」
カイトが言うと、
「そんな、残酷なんて……。私に相談する必要はないのに」
ニーナは反論した。
「それでも、やっぱり相談したい。君にはちゃんと話したい」
とカイト。
「あなたの選択を全力でサポートする」
ニーナはチリチリと思考にノイズが走るのを抑えながら答えた。カイトは気が付いていた。
「ごめん。本当にごめん。ただ、ユキコの希望を「友人」として叶えたい」
そう言いながら、「友人」という一線を越えた行為だよなとカイトは思った。しかしカイトとユキコの関係にぴったり当てはまる言葉は見つからなかった。
ユキコとバートに了承を伝え、打ち合わせが開始した。
バートいわく、妊娠に適した三日間ほどのセックスを予定したいと言う。
「三日間⁉」
驚くカイトにバートは、チャレンジするなら妊娠の成功率を上げたいから三日間の時間が欲しいと重ねて伝えてきた。
カイトとニーナが千歳地区に出かけることに決まった。カイトはニーナに
「無理して付いてくることはない」
と言ったが、ニーナは首を横に振る。
「常にあなたの側に寄り添うのが、アバターの使命だから」
二人は三日間分の出かける準備を整え、ユキコの「排卵日」の連絡を待った。
仮想空間で事前にバーチャルセックスで練習しようかという話が出たが、ライルがそれを止めた。
「気まずくなるばっかりだぞ、やめておけ。練習にはならないから」
カイトとユキコは経験者の言うことに素直に従うことにする。
ほどなくバートから連絡が入った。
カイトとニーナは自動運転車の乗り込んで千歳地区に向かって移動を開始した。
「生まれてこの方、一度も札幌地区から出たことなかったんだよなぁ」
カイトは流れる景色を見ながら、ぼんやりつぶやいた。ニーナの同意はない。ニーナはカイトが18才の誕生日を迎える日、チャイナ集中管理センターから千歳空港を経て札幌まで移動していたからだ。
千歳地区まで小一時間でユキコの居住区に到着した。バートの出迎えでリビングルームに案内された。
「いらっしゃい」
リビングでユキコがカイトとニーナを出迎えた。
「お久しぶり?かな」
カイトが首を傾げる。ユキコも苦笑した。
「リアルでは三年ぶりなのだけど、ね。仮想空間でしょっちゅう会っているから」
そして続けた。
「変な感じ!」
ユキコが言うと、カイトは笑った。緊張が少しほぐれた。そんなユキコを見てニーナは思う。強い信念を持って美しく成長したユキコがニーナには眩しかった。同時にニーナは再びチリチリと思考が乱れるのを感じた。
カイトとユキコが食事をとった後、しばらく四人で穏やかな会話が続いた。その流れを断ったのは、どうやら場を仕切っているらしいバートだった。
「そろそろ、ベッドルームに移動して欲しい」
その声でカイトはニーナを見た。ユキコでなくて私を見てくれた、ニーナは小さく微笑み行ってらっしゃいと声を出さずに口の形で、カイトに伝えた。
カイトはニーナから視線を外すとユキコの手を取った。
「じゃあ、行こう」
ユキコが真っ赤にになって黙って頷く。二人は手を繋いでベッドルームに入って行った。
二人がベッドルームに入っていく時、ニーナは目を伏せていた。再び、チリチリと思考が揺れ始める。バートが、
「外に行こうか」
とニーナを促した。
満天の星空を見上げながら、バートは言う。
「アバターなのが悲しいよね」
「悲しい?」
ニーナは首を傾げる。悲しいというより――
「おそらく、私は嫉妬している状態なのだと思う」
とニーナはつぶやいた。
バートとニーナは、そのまま無言で星空を見上げ続けていた。
(つづく)
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