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宇宙の片隅にて

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 「東京なんて、宇宙の田舎だぁー! 空からみたらこの田舎も東京も距離なんてないじゃないかぁ~っ!」
 真っ暗な海岸の波打ち際で私は叫ぶ。あと二か月で卒業と同時に遠距離恋愛になる彼とドライブに来た、いつもの海で。
「宇宙規模で叫んじゃうのかよ……」
 ザザ~と波が打ち寄せては引いていく音に紛れて苦笑する彼の声を悟られぬように胸に刻みつける。愛おしい彼の声。

 数年の間、遠距離恋愛になる彼との関係が、破たんしないかほんとは不安で仕方がない。押しつぶされそうになる心を今の叫びで彼にばれたしまった――彼の声音から、彼の心情がわかる程には真剣に付き合ってきた。
 後悔したが、あとの祭りだ。私とこれからの関係に私以上に不安なのは、彼なのはわかってる、充分に。

 都会に就職する彼を追わずに地元に留まることを決めたのは、私自身だ。結婚しよう、だからついてきてほしいといった彼の希望を振り切ったのは私の方だった。

 繰り返し打ち寄せる波は私と彼の心のように常にさざ波だっている。
 未来に対する不安を持ちながら闇の中、二人は並んでたたずんでいた。
 落ちてきそうなほどの星と波の狭間にある、このど田舎で小さな二つの命は出会った。宇宙の中のほんの一瞬と偶然の出会いは奇跡だ。その奇跡を私は手放そうとしているのだ。

 「あのさ」
 彼は私の肩を抱きながら囁いた。
「宇宙スケールでは俺たちが付きあうと別れようと無視される因子であることは間違いないけどさ」
「うん……」
 彼は続けた。
「宇宙では無視される要因だとしても、僕たち二人にとって試練なのは事実だ」
 私が彼について行かないことを責められているようで、彼の言葉が突き刺さる――心の中で私は泣いた。彼と親を天秤にかけた。結局、数年結婚を待って欲しいという親の意向に背くほど親不孝になれなかった。親の意向と言いながら、迷った結果を出したのは私だ。卒業後すぐに結婚する決心をつけることができなかった。
 そんな私がこれからの人生で彼の心を繋ぎとめておけるのか、それは全くわからない。友人は言っていた。
「遠距離恋愛は、難しいよ」

「試練かもしれないけどさ」
 彼は打ち寄せる波を見ながら、続ける。
「ん?」
 私は彼の言葉を促した。そうするしか出来ないもの……。
「俺たちがどうなろうと、宇宙の中では無視される出来事なんだからさ」
 そういうと思っっていた――と、彼は背後からそっと私を抱きしめて言った。
「こんなことも宇宙の片隅でやってしまえるのだな」
 彼の唇が私の唇を捉えた。
「ちょっと……」
 形ばかりの私の抵抗を彼は無視する。
「宇宙スケールでは無視できる要因でしかない。だろ?」
 いたずらっぽく言うと再び。

 宇宙の片田舎で二人だけの時間がさざ波と響きあう。未来はわからない。全部、宇宙の中では一瞬。無視される因子でしかない。



(終わり)


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