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スーパーマーケットミステリー
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ミス・マープルは言った。
「謎は日常に転がっている」
私はスーパーマーケットの隣のアパートに住んでいる。ゆえにスーパーを「我が家の冷蔵庫」と呼んでいた。年がら年中、愛用しまくっていた。
『光る切り身』
スーパーマーケットは「我が家の冷蔵庫」である。一日一回、冷蔵庫を覗きに行くのは当然だ。まとめ買いをしないですむし、当日か翌日までに生鮮食品なら使ってしまう。
というわけで、必然的に見切り商品愛用者になっていく。
その日も見切り商品を見つけた。魚の切り身だ。何の魚なのかよくわからないが白身の魚だ。最近、魚食べていないなぁと見切りシールが付いた切り身のパックを買い物かごに入れた。
買い物から帰宅して冷蔵庫に購入品を入れようとした私の手が止まった。
その日は曇りがちの日で、アパートの部屋の中がいつもより暗かった。それゆえ、気が付いた。買い物袋の中の切り身のパックがボオっと光っていたのだ。
いや、青魚の表面がテラテラ光るのは知っていた。しかし、切り身の皮でなく身がパックの状態になってテラテラどころでなく、まさしく発光していたのだ。
青光どりなんていう生易しいどころでない輝度だ。
「な、なんで切り身が光っているんだよ?」
触るのさえ、無気味なほど、それはボウっと光り続けていた。
これは食べていいのか? いやその前に部屋に置いていいものなのか? 何かとんでもない事態なのではなかろうか?
問うてみても自分以外、誰もいないわけで。私は震える手でそのパックを摘まみだし、小さめの袋にパックごとぶちこんだ。パックに直接触れたくなかったからだ。
幸い、購入した店は「我が家の冷蔵庫」だ。すぐに持って返品するしか思いつかなかった。でも、たくさんの人がいる店に持ち込んでいいものなのか? いや、それを言ったら、この家に光る切り身といっしょにいるのが正解なのかよ? 混乱しつつも、まず、光っているのを再度確認しよう、私は、カーテンで部屋を暗くした。
「ひ、ひか、ひかっ! 光っているよ!」
間違いなかった。何かの拍子で太陽光が反射したとかでない、切り身は間違いなく自力で発光していた。
私はもう限界だった。光った切り身パックをぶら下げて「我が家の冷蔵庫」たるスーパーに駆け込み、カウンターの人に訴えた。
「切り身が発光しているんです!」
半べその混乱状態で私が差し出した切り身の入った袋を店員さんが恐る恐るのぞき込む。何せ発光している切り身だからな。
しかし、スーパーの中は明るい。
「光っていますか?」
店員さんが私に問うた。
「もうちょい、暗くないと、わからない……」
さすがにスーパーの明かりを凌駕するほど発光していなかったので、確認できない。でも私は見たのだ。嘘じゃないんだよ! スーパーの常連だからなんとか、不審者扱いされないですんだのは間違いない。
「鮮魚担当、呼びますね」
困惑しながら、カウンターの店員さんが連絡をとった。当然、会話がきこえてくる。
「お客様が切り身は発光していると、現物を持って……」
ごめんよ、困らせて、でも困っているのは私もなのだ。
ほどなくして鮮魚担当らしい店員さんがやってきた。
「この場所じゃ、確認できないですが、光っているんです、ほんとです!」
言いながら、切り身の発光が終わっていたら、私の立場はどうなるんだろう?と自問せずにはいられなかった。鮮魚担当の店員さんは、パックを見て、大きく頷いた。
「あー、これ値引きのやつだから」
「へ?」
「鮮度落ちると、光ることあるんですよ」
「はあ?」
「鮮度落ちてくると発光物質が増えて発光することがあるんです」
「まじですか?」
「食べても害ないですが、返品しますか?」
さすがに切り身が発光することを頭が理解できなかった私は、返品をお願いしたのであった。
鮮度が落ちた見切り品の魚の切り身は光ることがある、それを承知で見切りの切り身魚は購入するべし。私は一つ賢くなった。
『和牛』
私は肉売り場で固まった。「オーストラリア産 和牛」と「北海道産 牛肉」が置いてあったからだ。
じっと見比べて うむむむと悩んだ。どう考えても、オーストラリアが「和」なのか理解できなかった。ちょうど肉売り場担当の人がいたので、尋ねた。
「なぜ、オーストラリアなのに「和」なんですか? 北海道産のは「和」でないのですか?」
呼び止めた担当さんは、責任者ではないようで、パックの表示を見て、悩み始めた。
「ちょっと責任者、呼びます」
「お手数おかけします」
呼び止めた担当さんが、責任者を連れてバックヤードから出てきた。
「和牛って品種なんですよ」
「品種?」
「品種なので、オーストラリア産の和牛もあるんです」
「北海道産のが 牛肉なのは?」
「和牛でないからです」
「ほぉおおぉお」
まだちょっと混乱していたが、表示が間違っているわけではないことが判明した。私の後ろで、責任者が若い担当者に説明し始めていた。お互い、賢くなれて良かったね、と私は心の中で声をかけた。
『貝が?』
味噌汁用の貝を買おうと思った。我が家の冷蔵庫と化しているのが逆にネックになるのが貝だ。砂出しする時間がないまま使いたくなるからだ。
とはいえ、貝の味噌汁は美味しい。そこそこの頻度で買うお気にいりの商品である。
ある日、店内の貝のパックを見て私は、うーんとうなった。パックになった貝が口を開けていたからだ。パックした上からちょっとつついてみる。無論、いたずらではない。貝は口を開けたままだ。
その日、なぜか私は貝の味噌汁が無性に食べたくて、諦めきれなかった。
売り場の担当者がいないので、私はまたしても、カウンターに行った。
「すみません、貝が死んでいるようなんです。生きているのありませんか」
カウンターにいた店員さんが驚いた。
「え? 生きているのが欲しいって言いました?」
その驚きの表情に、こちらが困惑した。
「えっと、貝は生きているのを売ってるはずなんですけど」
「本当に⁉」
その店員さんはスーパーで「生き物」を売っていることに衝撃を受けていた。その店員さんの衝撃で、私も改めて気が付いた。
日本のスーパーにも生き物が売り物であるんだよなぁ、と。店員さんが、鮮魚担当に連絡をとった。しばらくして来た鮮魚担当が、私の持っている貝のパックを見て
「あー、これ駄目ですね、すみません」
「生きているのありますか」
「あります、出してあるの全部こんな感じでした?」
「ですね」
「今、出します、ちょっとお時間ください」
鮮魚担当について、私が歩き出した後ろで、カウンターの店員さんがつぶやいた。
「貝って生きたまま売るんだ……」
しみじみ言うなよ、と私は内心で苦笑するしかなかった。生きたままって連呼されると罪悪感が募るんだよぉ。
「謎は日常に転がっている」
私はスーパーマーケットの隣のアパートに住んでいる。ゆえにスーパーを「我が家の冷蔵庫」と呼んでいた。年がら年中、愛用しまくっていた。
『光る切り身』
スーパーマーケットは「我が家の冷蔵庫」である。一日一回、冷蔵庫を覗きに行くのは当然だ。まとめ買いをしないですむし、当日か翌日までに生鮮食品なら使ってしまう。
というわけで、必然的に見切り商品愛用者になっていく。
その日も見切り商品を見つけた。魚の切り身だ。何の魚なのかよくわからないが白身の魚だ。最近、魚食べていないなぁと見切りシールが付いた切り身のパックを買い物かごに入れた。
買い物から帰宅して冷蔵庫に購入品を入れようとした私の手が止まった。
その日は曇りがちの日で、アパートの部屋の中がいつもより暗かった。それゆえ、気が付いた。買い物袋の中の切り身のパックがボオっと光っていたのだ。
いや、青魚の表面がテラテラ光るのは知っていた。しかし、切り身の皮でなく身がパックの状態になってテラテラどころでなく、まさしく発光していたのだ。
青光どりなんていう生易しいどころでない輝度だ。
「な、なんで切り身が光っているんだよ?」
触るのさえ、無気味なほど、それはボウっと光り続けていた。
これは食べていいのか? いやその前に部屋に置いていいものなのか? 何かとんでもない事態なのではなかろうか?
問うてみても自分以外、誰もいないわけで。私は震える手でそのパックを摘まみだし、小さめの袋にパックごとぶちこんだ。パックに直接触れたくなかったからだ。
幸い、購入した店は「我が家の冷蔵庫」だ。すぐに持って返品するしか思いつかなかった。でも、たくさんの人がいる店に持ち込んでいいものなのか? いや、それを言ったら、この家に光る切り身といっしょにいるのが正解なのかよ? 混乱しつつも、まず、光っているのを再度確認しよう、私は、カーテンで部屋を暗くした。
「ひ、ひか、ひかっ! 光っているよ!」
間違いなかった。何かの拍子で太陽光が反射したとかでない、切り身は間違いなく自力で発光していた。
私はもう限界だった。光った切り身パックをぶら下げて「我が家の冷蔵庫」たるスーパーに駆け込み、カウンターの人に訴えた。
「切り身が発光しているんです!」
半べその混乱状態で私が差し出した切り身の入った袋を店員さんが恐る恐るのぞき込む。何せ発光している切り身だからな。
しかし、スーパーの中は明るい。
「光っていますか?」
店員さんが私に問うた。
「もうちょい、暗くないと、わからない……」
さすがにスーパーの明かりを凌駕するほど発光していなかったので、確認できない。でも私は見たのだ。嘘じゃないんだよ! スーパーの常連だからなんとか、不審者扱いされないですんだのは間違いない。
「鮮魚担当、呼びますね」
困惑しながら、カウンターの店員さんが連絡をとった。当然、会話がきこえてくる。
「お客様が切り身は発光していると、現物を持って……」
ごめんよ、困らせて、でも困っているのは私もなのだ。
ほどなくして鮮魚担当らしい店員さんがやってきた。
「この場所じゃ、確認できないですが、光っているんです、ほんとです!」
言いながら、切り身の発光が終わっていたら、私の立場はどうなるんだろう?と自問せずにはいられなかった。鮮魚担当の店員さんは、パックを見て、大きく頷いた。
「あー、これ値引きのやつだから」
「へ?」
「鮮度落ちると、光ることあるんですよ」
「はあ?」
「鮮度落ちてくると発光物質が増えて発光することがあるんです」
「まじですか?」
「食べても害ないですが、返品しますか?」
さすがに切り身が発光することを頭が理解できなかった私は、返品をお願いしたのであった。
鮮度が落ちた見切り品の魚の切り身は光ることがある、それを承知で見切りの切り身魚は購入するべし。私は一つ賢くなった。
『和牛』
私は肉売り場で固まった。「オーストラリア産 和牛」と「北海道産 牛肉」が置いてあったからだ。
じっと見比べて うむむむと悩んだ。どう考えても、オーストラリアが「和」なのか理解できなかった。ちょうど肉売り場担当の人がいたので、尋ねた。
「なぜ、オーストラリアなのに「和」なんですか? 北海道産のは「和」でないのですか?」
呼び止めた担当さんは、責任者ではないようで、パックの表示を見て、悩み始めた。
「ちょっと責任者、呼びます」
「お手数おかけします」
呼び止めた担当さんが、責任者を連れてバックヤードから出てきた。
「和牛って品種なんですよ」
「品種?」
「品種なので、オーストラリア産の和牛もあるんです」
「北海道産のが 牛肉なのは?」
「和牛でないからです」
「ほぉおおぉお」
まだちょっと混乱していたが、表示が間違っているわけではないことが判明した。私の後ろで、責任者が若い担当者に説明し始めていた。お互い、賢くなれて良かったね、と私は心の中で声をかけた。
『貝が?』
味噌汁用の貝を買おうと思った。我が家の冷蔵庫と化しているのが逆にネックになるのが貝だ。砂出しする時間がないまま使いたくなるからだ。
とはいえ、貝の味噌汁は美味しい。そこそこの頻度で買うお気にいりの商品である。
ある日、店内の貝のパックを見て私は、うーんとうなった。パックになった貝が口を開けていたからだ。パックした上からちょっとつついてみる。無論、いたずらではない。貝は口を開けたままだ。
その日、なぜか私は貝の味噌汁が無性に食べたくて、諦めきれなかった。
売り場の担当者がいないので、私はまたしても、カウンターに行った。
「すみません、貝が死んでいるようなんです。生きているのありませんか」
カウンターにいた店員さんが驚いた。
「え? 生きているのが欲しいって言いました?」
その驚きの表情に、こちらが困惑した。
「えっと、貝は生きているのを売ってるはずなんですけど」
「本当に⁉」
その店員さんはスーパーで「生き物」を売っていることに衝撃を受けていた。その店員さんの衝撃で、私も改めて気が付いた。
日本のスーパーにも生き物が売り物であるんだよなぁ、と。店員さんが、鮮魚担当に連絡をとった。しばらくして来た鮮魚担当が、私の持っている貝のパックを見て
「あー、これ駄目ですね、すみません」
「生きているのありますか」
「あります、出してあるの全部こんな感じでした?」
「ですね」
「今、出します、ちょっとお時間ください」
鮮魚担当について、私が歩き出した後ろで、カウンターの店員さんがつぶやいた。
「貝って生きたまま売るんだ……」
しみじみ言うなよ、と私は内心で苦笑するしかなかった。生きたままって連呼されると罪悪感が募るんだよぉ。
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