上 下
4 / 4

宿題を巡る夏

しおりを挟む
 『日々の宿題への取り組み方は人それぞれだが、その傾向がろこつに現れるのが夏休みや冬休みである。

 夏休みに対する高岡姉妹の取り組み方の違いを見てみよう』



 一子いちこは夏休みがスタートして三日間で課題の九割を終わらせるタイプである。

「なぜかって? 後回しにしたら、ずっと気が重いだけだからに決まってるじゃん」

 一子はそう言うと、二子つぎこに視線をじっとりと投げかけた。

「お姉ちゃんのそういうところが苦労性なんだよ」

 二子は寝そべって、ゴロゴロと転がった。解放感に浸っているのが伝わってくる。

「夏休みなんだから、夏休みを堪能すればいいんだよ。じゃあ、そろそろ行くかな」

 二子はあっという間に出かける準備して、家を出て行った。



「二子ちゃん、最近は何に興味あるんだろう?」

 三子すえこが一子に問いかけるが、一子は宿題の処理に没頭しつつあった。

「興味がコロコロ変わるから。でもとっ散らかっている印象もない、謎」

 なるほど。お姉ちゃんは、無意識の時に言うことが一番鋭いんだよな、と三子は思う。



 『一子は、当初の計画どおり三日間で宿題の九割を終了した。夏休み開始後、三日で達成感に浸る顔は、天下人のそれを彷彿とさせる。しかし、ここで重要なのは九割であるということだ。残り一割を、どこで着手するのだろうか、注目点である』

 

 「二子ちゃん、この問題、わかる?」

 三子が家の中では暇そうにしている二子に、尋ねた。

「ん? それなら、わかるけど」

 二子に尋ねるのは三子の興味をひきそうな科目だ。苦手な科目は眺めようともしない。二子の返事を確認した三子は、それ以上、尋ねることもなく

「そっか」

 それだけ言って、開いた部分を伏せて二子の元から立ち去った。二子は、三子の伏せた部分を広げる。

「三子ちゃん、今、この部分習ってるんだ」

 言いながら、問題の答えを声に出した。

「好きな科目だけ、ずっと解けるなら幸せなんだけどなぁ」

 部屋の外で録音していた三子の口元が緩んだ。

「コツコツ、いくぞ」



 『二子は、大方の予想通り、先延ばして着実に自らを窮地に追いやっていた。結局やらなければならないことはわかっているのだが、嫌いなことは徹底的に後回しにするのが幸せだと感じるらしい。

 一子と二子は、極端というまとめ方をすれば、同じ仲間ということになると思われる』



「お姉ちゃん、一問だけ教えて?」

 一子にはストレートに頼むのがベストなのだ。

「一問だけ、だよ」

 一子は面倒だけれど、お願いされたら仕方ないと、態度で表してみせる。しかし、それは演技だと三子は見抜いていた。一子は宿題を片付けて「暇を持て余している」のだから。

「面倒そうな問題をチョイスするのは、さすが三子と言うべきか」

 一子は呆れたように言うが、持て余していた暇をつぶすには程よい手ごたえを楽しんでいるのは明白だった。

「そんなことに頭使うなら、問題だって解けると思うのに」

 お姉ちゃんならそうするだろうと三子は心の中で言う。一子の言うところの『そんなこと』にこそ、頭を使いたいのだと三子は心の中で続けたのであった。



 『課題タイプには一向に手を付けないが、創作・自由研究系は気分の赴くがまま、二子は楽しく進めていた。つまり、対局にある一子が、頑なに目を向けない宿題群こそ、まさしく二子のそれであった』



 三子は『夏休み毎日クイズ』に出題する問題を課題の中から選択すると、文章を変えた。コピペが駄目なのは抜かりなく知っているからだ。

「考察の過程を書いてね☆」

 答えより、知りたいのは解き方だ。文章を読み直すと、SNSへ投稿した。毎日、定期的に出題するので、ファンが付き始めていた。

 一子と二子、ネットを使い分けて、三子は課題を埋めていく作戦をとっていた。

 ほどなく、出題に対する回答が届き始めた。複数の回答を照らし合わせれば、ほぼ正解にたどりつけるというわけだ。



 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 夏休み、ラストの日。



 「て、手伝って!」

 案の定、涙目の二子がついに叫び始めた。

「当たりまえだけど、学年が上の二子ちゃんの宿題を、私が解けると思ってないよね」

 三子がぴしゃりと言って二子を切り捨てた。二子は当然のように一子へ視線を移す。三子も一子に視線を合わせた。

「なんで、私ばっかり背負わなきゃならないんだよっ」

 一子は言いながらも二子の課題を手伝い始めた。結局、泣きつかれると、手を差し伸べるのだ。

「いや、それだけじゃないよ。お姉ちゃんだって、交換条件があるから手伝っているんだよね」

 三子が一子に言う。一子の肩がビクッと揺れた。

「図星」

 三子がニッコリと笑って追い討ちをかけた。

「三子に関係ないんだから、黙ってよ!」

 一子は鉛筆を走らせながら、怒鳴るが、三子はひるむことはない。

「関係はあるんだ。それより、お姉ちゃんも交換条件をさっさと二子ちゃんに教えてあげたらいいと思うよ」

 三子の爆弾発言に、涙目の二子が顔を上げた。

「交換条件?」

 一子がちっと舌打ちをしながら、ハァと息を吐きだした。

「二子が撮影した写真、五枚ほど欲しい」

 二子が説明を求めようとする言葉を遮ったのは三子だった。

「お姉ちゃん、創作系の宿題用に、二子ちゃんの写真を物色していたもの」

 そう言うと、三子は自分のスマホの証拠写真を二人に見せた。一子が二子のスマホの写真を見ている姿がそこに映っていた。

「お、お姉ちゃん……」

 二子が、がっかりしたと言わんばかりに一子を見る。一子は居直って怒鳴った。

「写真くれないなら、宿題の手伝いは中止するけど?」

 一子の脅迫めいた言葉に、二子はムッとするが、ここで手伝いを放棄されても困るのだ。

「わかったよ、写真はあげるよぉ」



 『結局、助け合う(?)ことでようやく宿題をこなしたというのが高岡姉妹の実情である。この実情を踏まえると、宿題の適正量とは何かが疑問になってくる。高岡姉妹は、各自には得意不得意がある。それぞれ融通しあえる分、姉妹であることは有利であったといえる』



「三子ちゃんは、どう関係してるの?」

 一子が猛スピードで二子の宿題を片付けている横で、見通しのたった二子が、ふと三子に質問した。

「お姉ちゃんと二子ちゃんが、自由研究の観察対象だからだよ」

 そう言いながら、三子は締めの言葉を結んだ。



 『これを兄弟姉妹に頼ることが出来ない、一人で全て背負うには、夏休みの宿題の量は多すぎるのではないかと、強く問いたい』



 読み直すと、表紙部分にタイトルを書いた。



 『感想文及び自由研究

 夏休みの宿題の対応方法から見える、夏休みの宿題量への感想と考察

 高岡 三子』




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 感想文と自由研究を兼ねた三子から提出物は、三子の担任の先生からの報告で、高岡両親にも共有された。

 課題をネットにクイズ形式で出題していたことについて問題視された三子は、大目玉を食らう結果となった。




(『宿題を巡る夏』おわり)
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

皇ひびき
2021.12.19 皇ひびき

サムネイル可愛い(•ө•)♡
三姉妹の話好きです。

解除

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

お隣の犯罪

原口源太郎
ライト文芸
マンションの隣の部屋から言い争うような声が聞こえてきた。お隣は仲のいい夫婦のようだったが・・・ やがて言い争いはドスンドスンという音に代わり、すぐに静かになった。お隣で一体何があったのだろう。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。