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第9章

かご抜けで素敵なインコライフ!

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 人間からインコになった生活に随分慣れてきた。
飼い主が慌ただしく、朝出かけたのを見届けたある日。私は遂に決行の時を迎えたのだ。
準備は万端、やり方も頭の中で何度もシミュレーションした。できる、私はできる!
 
 私の個かごは、かごの出入り口が上下することで開閉できるタイプだ。これなら私はかご抜けが出来るはずだ。
しつこく言うが、人間だった時、セキセイインコ飼っていた。その中でかご抜けの術を会得したインコがいたのでそのやり方をじっくり観察していたのだ。
そりゃあ、最初みた時はびっくりしたが、人間はインコが想定外のことをやらかしたら、それをじっくり観察して対策をする生き物だ。
 当然、かご抜けのやり方を充分観察し終わった段階でかごにナスカンを取り付けた。入り口の上下の開閉がこれによって不可能になった。
 飼い主が見守っていない時間に、飼っているインコが勝手に部屋を歩き回るのは危険きまわりない行為だ。ナスカンで入り口を開閉できなくなった時、セキセイインコはかなりの時間、入り口をガタガタ揺らしていたが、やがて諦めた。そして、かご抜けのやり方を忘れた。

 だが、元人間の私は違う。飼い主のいる時にかご抜けにチャレンジする愚行はしない。かご抜けできることがわかればナスカンの刑が待っている。
かごから出る術なんか知らないという顔で飼い主を騙し、飼い主の留守中に好き勝手に歩き回るのだ。これぞ、元人間のインコライフの醍醐味といえるだろう。
 
 そして、イッツワンダホーライフの決行の時。
 私は入り口の開閉部分の下側を嘴でくわえると一気にからだを伸ばして、開いた空間にからだを移動し、入り口の開閉部分から嘴を離して、背中で入り口が閉まるのを防いだ。うん、順調だ。からだはすでに半分かごの外である。 
 外の着地地点を見定め、ポンと降りた。背後でかごの入り口がガシャンと閉まった。
 かごの外に出ることに成功した私を見て、他の3羽が驚いた顔で私に注目していた。
いやぁ、注目を浴びるのはきらいじゃないねぇ。気分よく、次の段階だ。
 私は、迷うことなくオカメ女のグリ子とセキセイ男のハル男のいる大きなかごに近付いた。
メインの入り口は上から下に大きく開けるタイプで、これをセキセイが開閉するのは技術的にも重さ的にもサイズ的にも不可能だ。しかし、餌の出し入れ用の入り口は上下に開閉するタイプだ。
 これならいける。私は、餌入れの引っ掛けてある部分までかごをよじのぼった。
 かごに張り付きながら、餌入れの出し入れグチを嘴でガタガタ揺らした。揺らしながら、体を最適と思われる位置に修正した。
 嘴で餌の出し入れ口を上に持ち上げ、からだをかごの中に半分入れる。嘴を離して背中で入り口は閉まるのを阻止して、かごの中の目の前にいたハル男に
「そこ、邪魔!」
 と一喝した。ハル男は素直に場所を移動したので、そこにからだを移動した。逆かご抜けも成功だ。

 ふっふっふ、これで部屋の中はどこでも行き放題である。グレ子もハル男も、私がマウンティングを繰り返していたので、私がかごに侵入しても何も言わない。
 かごの中の餌箱には、まだ朝の餌が残っていた。チェックするとヒマワリの種がある。ヒマワリなんてこの家にあったっけ? あったけ? って……あるんだな、現にあるしな。おそらく図体のでかいオカメのグリ子のおやつだ。当然、私はヒマワリをくわえた。
「あ、私の……」
 オカメのグレ子が言いかけたが、ギロリと睨んで黙らせる。
 わかるよ、飼い主。随分大きなヒマワリの種をグリ子に与えているその理由。
 私はほくそ笑んだ。このサイズならセキセイ男のハル男は開けるのを諦めるサイズと殻の硬さだからだ。セキセイには、カロリーが多すぎるが、オカメにおやつ程度与えたい、夜は私があさる可能性があるから、朝の餌にこっそり飼い主が混ぜていたのだろう。カナリーシードも抜いたオカメ用の対策だろう。
 飼い主を出し抜いた爽快感があった。さっそくヒマワリを味わうことにする。殻が固いのが当然難関だが、端からちみちみと攻めていけば、セキセイの力でも殻は開けることができた。中身が露出すると、そのジューシーな見た目は間違いなく極上の逸品であることがわかる。
 コクのある味わいが口内に広がった。カナリーシードを凌駕する旨さだ。私が恍惚の表情で味わうのを、隣かごのセキセイ女グリ子とセキセイ男のハル男は謎だらけの顔で見つめていたが、ヒマワリの味を知るオカメ女のグレ子は絶望した視線を私に向けていた。

 飼い主が気づかない程度にしよう。カナリーシードの惨劇を繰り返してはならない。私は餌箱にもう2粒残ったヒマワリを名残惜しく見つめたが、人間の理性で誘惑を断ちきった。
「邪魔したな。また明日くるから、グレ子、ヒマワリは一粒は私のために残しておくように(命令)」
「……じゃあ、今日、頭突きなしだよ。頭突いたら、残さないから」
 グレ子よ、お前もただぼーっと生きているわけじゃないのだな。
「わかった。頭突きなしだ、ヒマワリにかけて誓う。それじゃあね」
 私は、餌箱の出し入れ口を抜けて、大きなかごの外に出ると、さっさと自分のかごに戻った。

 かごの外にフンを残さないためだ。かごの外のあり得ないところにフンが落ちていたら、飼い主が私がかご抜けできることに気が付く可能性がある。
 インコは時に大胆な行動にでることがある。いつもは行かない場所、飼い主に禁止されている場所への冒険。飼い主の目を盗んで成功させた喜びと興奮で、一発現場証拠を残すことが多々あるのだ。
 証拠を残しては完全犯罪(←かご抜けは犯罪なのかよw)は成立しない。初めて味わったヒマワリの消化状態を把握していないのだから、今日の散歩はさっさと切り上げるべきである、それが私の下した判断だった。
 いやぁ、自分で言うのもなんだが、完璧に飼い主の目を欺く快感はなかなか楽しいものがある。

 こうして、私の慎重かつ大胆な散歩は日課になった。

 ちなみに、他の3羽からかご抜けの仕方を教えて欲しいとかなりせがまれたので、嘘のやり方を伝授した。3羽とも一向にかご抜け出来ないで苦戦したあげく諦めた。
「あんた達、アホだねぇ」
 と心からの言葉を3羽に送り、かご抜けをうかつに覚えることを阻止したことをほくそ笑む。私ほど慎重でないあいつらが、かご抜けを覚えて危険な目に合わせるわけにいかない。飼い主に申し訳が立たない。
……な~んてな。他のインコがかご抜け覚えたら、ナスカンの刑が待っているだけだ。てめらがかご抜けの術を会得することは、未来永劫全力で阻止してやるのみ!



(つづく)


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