竜の姫君と巫女

Yuki

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消えた死体

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「これは――魔法で実体を作り出していたのか」ルークは呟く。

「分身魔法《アバウル》ですね」

「分身に油を詰めて自爆させたんだ」

 つまり、ドモンジョはまだ生きている。そして此処にはいない。偽物を残して逃げたか、あるいは、

「始めから、追っ手を消すための罠だ」

「酒場の店主が嘘をついたのですか?」

「わからない」

 そのとき、先ほどの女中が盆に夕食を乗せて二階にあがってきた。

「どうかなさいましたか?」

「この部屋に泊まっている男は、いつから此処にいるのですか」ルークはきく。

「ドモンジョ様は七日前からお泊まりに。あら? いらっしゃらないわ。先ほどお見かけしましたのに」

「どうも、ありがとう」ルークはいった。「美味しそうだね」

 盆を手渡した少女は、ぺこりと頭を下げて階段を降りていった。



「どう思う、ロベリア?」ルークは自分たちの宿泊部屋で、妹と一緒に芋と魚のスープを食べながらきいた。

「とっても美味しいですわ」ロベリアは笑顔だ。

「そりゃ、よかった……」たしかに美味だった。安宿の食事にしては手の込んだ一品だ。「それで?」

「臭いますわね」ロベリアがいった。

「ああ。だか実際には臭っていなかった」ルークは頷く。「あれだけの爆発で、煙ひとつ残らなかった。それだけじゃない。ロベリアが被った油が、すべて燃え尽きたとは考えにくい。だがお前はとても綺麗だ」

「まあっ!」ロベリアが照れる。「油は分身の肉と一緒に、転送魔法《テレジア》したのですね」

「そうだ。そしてさっきの女中さんだけど、おかしいとは思わないか?」

「爆発にまったく気づいていない様子でした。宿にいる他の人間も。何故です?」

「爆音がしなかったからだ」

「部屋には防火魔法《サラリ》が施されていました。そのうえに防音魔法《サイレント》まで使って、宿に損害を与えたくなかった?」

「可能性は高い。その理由はまだわからない。だかもしそうなら、ドモンジョは単なるならず者ではなさそうだ」
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