怪談居酒屋~幽へようこそ~

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はやっ①

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 夜道之幽子さんはとても美人である。艶やかな長い黒髪のロングヘアは腰まであり、磁気の様に白い肌は血色がとてもよく自然のチークがかかっていてとてもプリティー。
 つい目が行く大きな胸は、完璧なボディーを持つと言われる某姉妹の妹のようであり、思わずメロンかっ!? と言いたくなる。
 背も結構高いんでまさにモデルの様に見えるのだ。うん、誠に絶世の美女である。

 僕は幽子さんに悪い虫がつかないよう日々カウンターで目を光らせるのが日課である。どうも幽には幽子さん目当てと思しきスケベっぽい客がちらほらといる。
 タクシー運転手の剛さんもその一人だ。名前はつよしと読むのだが、格好つけてゴウと名乗っている。
 この店、怪談居酒屋幽に来るだけあって、無駄に霊媒体質で、よく道路の怪異に行き会うそうだ。

 そのまま事故ってくれても僕は何も困らないが、悪運だけは妙に強いらしく怪異に出会ってもいつも無事に生還するのが剛さんなのである。

 剛さんは給料日の後なのか、いつものみみっちいちびちび飲みではなく、幽で一番高い天狗舞の吟醸酒をカパカパ開け、これまた今日一番の豪華なつまみである飛騨牛のすき焼きを食べていた。
 逆にいつものごとく原稿の依頼の無い僕は、熱燗についてくる野沢菜漬けをつまみながら慎ましく酒を嗜んでいた。

 そしてこの店のある意味負のシンボルであるところの齋藤夢幻和尚は先日の女子大生二人からの依頼で法要を上げた後なせいか、同じく幽では高級な部類に入る菊姫の純米酒にカキの鍋なんぞをつまんでいる。

 生臭坊主と不良運転手に金があり、清廉潔白なことこの上ない僕にお金がないとは。
 グローバル化が進めば貧富の格差は拡大し、社会はどんどん壊され荒んでいくと言うが、全く世知辛い風潮はこの田舎の飲み屋にも訪れているのだろうか?

 いや、それにしても身体が冷える。幽は暖房が効いてポカポカだが。酒に野沢菜だけでは妙に冷え込んでしまうわ。何か温かいものを食べよう。
「幽子さん、かけそばください」
 と僕がいうと、
「はい、かき揚おまけしましょうか?」
 幽子さんはどこまでも優しいのである。

 目の前にかき揚天ぷらそばがやってくると、僕は小躍りしそうなテンションでそれを食べた。ああ……温かい、心まで温かくなる美味さである。汁は出汁が効いていて濃厚なうまみがあるし、そばは甘くて香りが立つ、そこにサクサクのかき揚が……。
 
 僕が美味しくそばを食べていると剛さんが絡んできた。この人は酒癖が悪く、これまで絡まれた時には碌な目に会わなかった。
「作家殿はわしの話信じてくれるよな?」
「はぁ……何の話でしたっけ?」
 美しい幽子さんの話ならともかく、こんな小汚いオヤジの話など聞いてすらいなかったので僕は曖昧な返事しか出来なかった。

「だから嘘じゃないって信じてくれるよな?」
「はぁ……まあ」
 剛さんの連れの運転手仲間がゲラゲラ笑っている。笑っていないでこのオヤジを引き取ってほしいのだが。

「見たんだよ。確かに」
 剛さんがふと真面目な顔をするんで、僕も一応真面目に話を聞こうと思った。
「何を見たんです?」

「見たんだよ……ターボババアだよっ!」
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