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27.獣
しおりを挟む――視界が闇から開けると、そこは湖の側にあった大樹の下だった。
空は晴れ、雲ひとつない。
「...外、なんだよね?」
きょろきょろ辺りを見回している私。くすくすとミオちゃんの笑い声が聞こえる。
「心配しなくても大丈夫よ、アカリ。ここはダンジョンじゃない。その証拠にレベル制限が外れているでしょ?」
ステータスを確認してみるとちゃんと解除されていた。
「あ、ホントだ...って、ん?あれ?」
その時、ステータス画面の端にある日時表示に目がいった。
んん?あれ、ダンジョン入ったのって...確か3/4だったよね。表示されている日付は3/6だ。
「どうしたの、アカリ」
「えっと、ダンジョン内で大体三ヶ月たってたでしょ?なのに今日が三月六日なんだよ。ダンジョン行ったのが三月四日だったのに...時計壊れた?」
「...ふむ」
「これ、どうやって直すんだろう。ステータスの時計の直し方なんて知らないよ...」
「アカリ、それは壊れてないわ。ダンジョン内とこちらではおそらく時間の流れが違っていたのよ」
「な、なんですと!?」
「結構あることよ。でも、ここまでズレるのも珍しいけど...」
「へえ、なるほど...」
まあ、何はともあれ。初ダンジョンクリアー!!やたー!!
「よし街もどろーっか!安心したらお腹すいちゃったよ、あはは!」
「ふふ、そうね。ゆっくり休んだら良いわ」
こうして長い鍛錬の旅は一先ずの終わりを見、私達は街への帰路へとついたのだった。
「...ん?」
ふとあるものが視界に入った。
「んんん?」
それはよく見ると、人の胴体。
「...ちょ、ちょ、ミオちゃん...」
私がそれを指差すと、彼女がそれをふよふよと宙を漂い見にゆく。
「これは、プレイヤーね。私達と同じように街へと行く途中だったのね。可哀想に」
手を合わせるミオちゃん。私も手を合わせる。
「ねえ、この人...どうしたのかな。なんかこの傷跡って獣に喰われた感じだよね?この付近ってヤバいモンスターでるの?」
「いいえ。基本的には」
含みのある言い方に不安を覚える。これは言及するしかない。なにせ唐突にランクBのモンスターと戦わせる無茶振りちゃんだからね。気をつけなきゃ。
「基本的には、ってナニ?」
「...アカリも一度は耳にしたことがあるんじゃないかしら。【エリアボス】って言葉...」
「え、エリアボス...」
【エリアボス】
各エリアに生息し、徘徊ているボスモンスター。いくつものクランや軍との合同チームでやっと倒せるレベルのモンスター。俗に言うレイドボスというやつである。
倒されると一定期間いなくなるが、復活し再び人を襲い出す。
「ふ、復活してたんだ...」
「みたいね。でも、まあ、エリアボスとのエンカウント率はかなり低いし、巣に行かない限りは大丈夫だと思うわよ」
「そ、そう。じゃあこの亡くなられている人は、運が無かったんだね...」
「そうね」
運が悪かった、か。でも私も運が悪ければ、こうしてダンジョン内で死んでいたんだよね。このゲーム内では死は直ぐ側にある。今では安全な街中ですら同じだ。
「でもね、アカリ」
ミオちゃんが口を開く。
「多分、このエリアボスと戦っても倒せはしないかもだけど、逃げることは出来るはずよ」
「...足、遅いの?そのボス」
「あはは、そうじゃなくて。あなたはおそらくエリアボスとも対等に渡り合えるわ。レベル制限の無いここで、あなたはどのプレイヤーよりも強い」
「...」
じーっと、疑いの眼差しを向ける私。
「なにその目。ホントの事よ」
「えー、だってエリアボスだよ?沢山のプレイヤーで倒すモンスターだよ?対等に戦えるなんて信じらんないよ」
「その沢山のプレイヤーって、レベルが50にも満たないのが大半でしょう。あなたは90...限界値とよばれるレベル80を大きく越えているのよ」
「うーむ」
「それに、レベルだけじゃない」
「レベルだけじゃない?」
「そう。あなたには戦うセンスがある。それはレベルを上げるだけじゃ得られない」
な、なんだか嬉しい。認めてくれるのはやっぱり嬉しい。
「だからアカリはもっと自信を持ちなさい」
「...う、うっす」
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