55 / 77
キスと嫉妬と甘い・・・ 1(司)
しおりを挟む
翌日(日曜日)
午後二時半ごろ、色々な思いを抱えながらマンションへ帰ると、数子がリビングの方から姿を見せ、お帰りなさい、とにこやかに迎えてくれた。
反射的に口元が綻ぶ。
それにしても昨日あれほど綺麗に見えたのに、今日は更にしっとり色っぽくて、可愛く見えるのは気のせいだろうか?
立ったまま二,三分当たり障りのない会話をしたあと、
「昨日は元カレも一緒だったのか?」
と唐突に聞くと、数子は少し驚いたような表情を見せた。
「うん、彼は二次会から」
「ふぅん、二次会だけ?」
「二次会だけだけど、司君、どうしたの?」
小首を傾げて不安そうに聞いてくる。
「別に……。数子、俺と付き合ってから別の奴とキスした?」
数子は答える代わりにサッと表情を硬くし、決まり悪そうに視線を逸らした。
「どうしてそんな事聞くの……?」
目を逸らしたまま小さな声で、質問で返してくる。
やはりか……
俺だってあの夜無理やりだったとはいえ梨々花とキスしたんだし、言えた義理じゃないのは分かっている。
でも嫌だ!
考えるより先に数子を抱き寄せ、花びらのような唇を奪っていた。
蹂躙するように甘い蜜の滴る口内を味わう。
俺の腕の中で怯えるようにキスを返す数子が愛おしくて堪らない。
誰にも渡したくない。
ロンドンになんて行かせるもんか……。
唇を浮かせ潤んだ瞳を見つめながら、切なく囁いた。
「今すぐ数子が欲しい……」
数子は困惑したように瞳を揺らし、半歩退いた。
じくりと胸が疼き、仄暗い場所で息を潜めていた嗜虐心が煽られる。
俺は、二人の間に出来た隙間を埋めるかのように無言で踏み出した。
狼に怯える子兎のような表情をしてじりじりと後退する数子を、壁際に追い詰める。
レモンイエローのひらひらしたブラウスの上から、マシュマロのような膨らみにそっと触れ、濡れて艶めく唇にもう一度口付けようとすると、数子は抵抗するように力を込めて俺の手を引きはがし、ふいっと顔を背けてキスを拒んだ。
あいつのキスは拒まなかったんだろう……?
恋愛感情などまるで感じられない怯えた表情と、俺の腕から逃れようともがく姿に、苛立ちや嫉妬心、独占欲が勢いを増す。
数子の背中に回していた片手に無意識に力がこもり、折れるくらい強く抱き締めた。
「俺に抱かれるの、嫌?」
意図せず冷たい声が出た。
そんな俺から視線を逸らしたまま、数子はたどたどしくもはっきり拒絶を口にする。
「……司君…怒ってるから…、いまは嫌……」
「数子、こっち見ろよ!」
苛立たし気に言いながら、顎を掴んで俺の方を向かせ、戸惑いが滲む黒真珠のような瞳を覗き込んだ。
もの言いたげに少し潤んで、吸い込まれそうなほど綺麗だ。
「怒ってない……、ただちょっとイライラしてるだけだ」
「それを怒ってるって言うんでしょう?」
「怒らせるような事したのは数子だろう!」
思わず声を荒らげると、数子はびくりと肩を震わせ身を強張らせた。
数子を大切にしたいのに怖がらせるようなまねをして、俺はいったい何をやってるんだ。
嘆息し、数子から少し体を離した。
「ごめん、これじゃまるで拗ねて癇癪起こしてる子供だな……。あんまり寝てないから、脳ミソ膿んでるみたいだ」
言い訳しながら苦笑すると、数子の表情が少し和らいだ。
「だけど、未だあいつを好きなのか?」
「違っ」
数子は否定するように、頭を素早く振った。
「もう恋愛感情は無いの、本当に。……言い訳だけど急にキスされて……、でも色々軽率だったと思ってる」
その言葉を聞いた途端、心に立ち込めていた濃い霧が、さぁっと晴れる。
本当に単純すぎて情けないくらいだ。
数子はあの日(土曜日)何があったか話してくれた。
彼女が望んでキスしたわけでは無いと分かり、俺は心底ホッとしたが、あいつと二人っきりで会っていたと聞かされると、またモヤモヤと嫉妬せずにはいられなかった。
それにしてもあの男、ストーカーかよ……。
まあ、つけこまれる原因を作ったのは俺だけど。
「もとはと言えば(梨々花の所へ行った)俺が悪いな……」
自嘲気味に言って肩を竦めると、数子も小さく笑ってくれた。
「でもどうしてキスのこと知ってるの?」
「元カレから『ロンドンに行こう』ってプロポーズされたことも知ってるぞ?」
数子は息を飲み、零れ落ちんばかりに目を見開いた。
「どうして……」
「教えるかっ! 秘密なんてバレるもんだ! ったく黙ってるつもりだったんだなぁ? ホントに悪いヤツだ」
意地悪く言って一呼吸置いて、一番聞きたいことを問い掛ける。
「プロポーズ、ちゃんと断ったのか?」
数子は、うん、と小さく頷いた。
良かった……
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「伊丹の研修から帰って来た夜、電話で。二人っきりで会う勇気はなかったから。でも……」
なんだか歯切れが悪い。
「でもどうした?」
「ロンドンに行く直前にもう一度返事聞かせてって」
往生際の悪い奴だ。
それだけ数子を好きなんだろうけど。
「いっそロンドン行くって答えるか?」
鼻先で笑って言った冗談は、『行くわけ無いでしょ』と返ってくるのを見越してのものだったが、
「じゃぁ、そう言おうかな?」
数子は俺の心を見透かしたように曖昧な言葉を口にし、いたずらな春風のように可愛らしく微笑んで、俺から数歩離れた。
彼女は気付いていないだろう、その笑顔や仕草がどれほど魅惑的で、俺の劣情を刺激したかなんて。
いや違うな……、そもそも俺はさっき帰って来た瞬間から、数子が欲しくて堪らなかった。
午後二時半ごろ、色々な思いを抱えながらマンションへ帰ると、数子がリビングの方から姿を見せ、お帰りなさい、とにこやかに迎えてくれた。
反射的に口元が綻ぶ。
それにしても昨日あれほど綺麗に見えたのに、今日は更にしっとり色っぽくて、可愛く見えるのは気のせいだろうか?
立ったまま二,三分当たり障りのない会話をしたあと、
「昨日は元カレも一緒だったのか?」
と唐突に聞くと、数子は少し驚いたような表情を見せた。
「うん、彼は二次会から」
「ふぅん、二次会だけ?」
「二次会だけだけど、司君、どうしたの?」
小首を傾げて不安そうに聞いてくる。
「別に……。数子、俺と付き合ってから別の奴とキスした?」
数子は答える代わりにサッと表情を硬くし、決まり悪そうに視線を逸らした。
「どうしてそんな事聞くの……?」
目を逸らしたまま小さな声で、質問で返してくる。
やはりか……
俺だってあの夜無理やりだったとはいえ梨々花とキスしたんだし、言えた義理じゃないのは分かっている。
でも嫌だ!
考えるより先に数子を抱き寄せ、花びらのような唇を奪っていた。
蹂躙するように甘い蜜の滴る口内を味わう。
俺の腕の中で怯えるようにキスを返す数子が愛おしくて堪らない。
誰にも渡したくない。
ロンドンになんて行かせるもんか……。
唇を浮かせ潤んだ瞳を見つめながら、切なく囁いた。
「今すぐ数子が欲しい……」
数子は困惑したように瞳を揺らし、半歩退いた。
じくりと胸が疼き、仄暗い場所で息を潜めていた嗜虐心が煽られる。
俺は、二人の間に出来た隙間を埋めるかのように無言で踏み出した。
狼に怯える子兎のような表情をしてじりじりと後退する数子を、壁際に追い詰める。
レモンイエローのひらひらしたブラウスの上から、マシュマロのような膨らみにそっと触れ、濡れて艶めく唇にもう一度口付けようとすると、数子は抵抗するように力を込めて俺の手を引きはがし、ふいっと顔を背けてキスを拒んだ。
あいつのキスは拒まなかったんだろう……?
恋愛感情などまるで感じられない怯えた表情と、俺の腕から逃れようともがく姿に、苛立ちや嫉妬心、独占欲が勢いを増す。
数子の背中に回していた片手に無意識に力がこもり、折れるくらい強く抱き締めた。
「俺に抱かれるの、嫌?」
意図せず冷たい声が出た。
そんな俺から視線を逸らしたまま、数子はたどたどしくもはっきり拒絶を口にする。
「……司君…怒ってるから…、いまは嫌……」
「数子、こっち見ろよ!」
苛立たし気に言いながら、顎を掴んで俺の方を向かせ、戸惑いが滲む黒真珠のような瞳を覗き込んだ。
もの言いたげに少し潤んで、吸い込まれそうなほど綺麗だ。
「怒ってない……、ただちょっとイライラしてるだけだ」
「それを怒ってるって言うんでしょう?」
「怒らせるような事したのは数子だろう!」
思わず声を荒らげると、数子はびくりと肩を震わせ身を強張らせた。
数子を大切にしたいのに怖がらせるようなまねをして、俺はいったい何をやってるんだ。
嘆息し、数子から少し体を離した。
「ごめん、これじゃまるで拗ねて癇癪起こしてる子供だな……。あんまり寝てないから、脳ミソ膿んでるみたいだ」
言い訳しながら苦笑すると、数子の表情が少し和らいだ。
「だけど、未だあいつを好きなのか?」
「違っ」
数子は否定するように、頭を素早く振った。
「もう恋愛感情は無いの、本当に。……言い訳だけど急にキスされて……、でも色々軽率だったと思ってる」
その言葉を聞いた途端、心に立ち込めていた濃い霧が、さぁっと晴れる。
本当に単純すぎて情けないくらいだ。
数子はあの日(土曜日)何があったか話してくれた。
彼女が望んでキスしたわけでは無いと分かり、俺は心底ホッとしたが、あいつと二人っきりで会っていたと聞かされると、またモヤモヤと嫉妬せずにはいられなかった。
それにしてもあの男、ストーカーかよ……。
まあ、つけこまれる原因を作ったのは俺だけど。
「もとはと言えば(梨々花の所へ行った)俺が悪いな……」
自嘲気味に言って肩を竦めると、数子も小さく笑ってくれた。
「でもどうしてキスのこと知ってるの?」
「元カレから『ロンドンに行こう』ってプロポーズされたことも知ってるぞ?」
数子は息を飲み、零れ落ちんばかりに目を見開いた。
「どうして……」
「教えるかっ! 秘密なんてバレるもんだ! ったく黙ってるつもりだったんだなぁ? ホントに悪いヤツだ」
意地悪く言って一呼吸置いて、一番聞きたいことを問い掛ける。
「プロポーズ、ちゃんと断ったのか?」
数子は、うん、と小さく頷いた。
良かった……
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「伊丹の研修から帰って来た夜、電話で。二人っきりで会う勇気はなかったから。でも……」
なんだか歯切れが悪い。
「でもどうした?」
「ロンドンに行く直前にもう一度返事聞かせてって」
往生際の悪い奴だ。
それだけ数子を好きなんだろうけど。
「いっそロンドン行くって答えるか?」
鼻先で笑って言った冗談は、『行くわけ無いでしょ』と返ってくるのを見越してのものだったが、
「じゃぁ、そう言おうかな?」
数子は俺の心を見透かしたように曖昧な言葉を口にし、いたずらな春風のように可愛らしく微笑んで、俺から数歩離れた。
彼女は気付いていないだろう、その笑顔や仕草がどれほど魅惑的で、俺の劣情を刺激したかなんて。
いや違うな……、そもそも俺はさっき帰って来た瞬間から、数子が欲しくて堪らなかった。
1
お気に入りに追加
1,385
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる