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入院(数子視点)
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金曜日、手術後の経過を見守るため、お父さんは一日だけICUに入る事になり、私は電話で会社に事情を説明し、有休を取った。
お父さんは直ぐに目を覚まし、ホッと一安心。
状況が飲み込めず少し混乱しているお父さんに、看護師さんは驚きもせず丁寧に説明してくれた。
あれ、なんでこんな……!?
みたいな患者さんは、結構多いのだそうだ。
そうこうしているうちに、鈴田先生が入って来た。
先生が執刀して下さったと知った時のお父さんの驚きようと言ったら。
目を見開いて「……本当に…君が手術をしてくれたのか!!?」と。
「ええ、高校の時、メスでざっくざくに切り刻んでやるって約束したの覚えてますか? 僕は約束は守る男です」
鈴田先生は悪びれもせずにそう言って、三日月のような唇の端を上向かせた。
「意識が朦朧とする中、『先生っ、先生!!』って君の慌てた声が聞こえたような気がしたが、現実だったとはなぁ……」
閉じた瞼に押し出された大粒の涙が、頬を伝う。
「いや、それは完全に夢ですね。僕は全然慌ててませんでしたし」
「ははは、きっとそうだな……。こんなに立派になりやがって……」
その後のお父さんの泣き笑いやむせび泣きは、まるで離れ離れになっていた愛しい息子と再会できた父親のようで、見ている私まで胸がいっぱいになった。
*
土曜日、お父さんの経過は順調で、一般病棟(個室)に移る事が出来た。
「……数子を嫁に行かせたらいつ死んでも良いんだけど、父親の役目を果たすまでは生きててやらないとな」
「じゃあ私、ずうっとお父さんの傍にいようかな」
「ははは嬉しいけど、お前の花嫁姿を見るのが楽しみで生きてるようなもんだから……。鈴田…先生は結婚してるのか?」
「お父さんその言い方、先生はもう生徒じゃないのよ!」
「ははは、良いんですよ。忙しくて奥さんどころか彼女もいません。月並みですけど仕事が永遠の恋人ですかね」
「君、昔から顔だけは良いんだからモテるだろう?」
「また失礼な事言って!」
でも確かにもの凄いイケメン!
顔のパーツも顎のラインもシャープでカッコ良く、映画やドラマで即主役がはれそうだし、背も高く、かりにパリコレのモデルをしていたと言われても、不思議には思わない。
それに冷たい感じの美男だけれど、微笑む時は春の日差しのように暖かで柔らかな印象になり、可愛らしくさえ見える。
もともとの美形に加え、そのギャップに嵌る女性はそうとう多いに違いない。
そう言えば、優君の笑顔も素敵だったなぁぁ……ととと
恋なんてもうコリゴリ。
なぁんて考えていると、あ、目が合った。
口元だけ微かに上向かせるイケメンドクター。
そして楽し気に口を開く。
「さあどうですかね、ハハハ」
「数子に彼氏がいなかったら、君にやってもいいんだけどな……」
「お、お父さんっ!!」
「先生、お嬢さん困ってますよ。綺麗な花嫁姿が見たいのなら一刻も早く良くなって、気兼ねなく彼氏とデートさせてあげないと駄目ですよ」
あはは、デートする相手がもういませ~ん。
なぁんて言えるはずも無く、曖昧に微笑むことしか出来ない私。
お父さんには、お付き合っている人が社内にいるとだけ言っている。
騙しているようで心苦しいけれど、余計な心配をさせたくないので、別れた事は当分伏せておこうと思っている。
願わくば、今後彼氏の話が出ませんように!!
それにしても救急車で運び込まれて緊急手術なんて、もうあんな経験は絶対したくないけど、不思議なめぐり合わせで鈴田先生に主治医になってもらえて、本当に良かった。
お父さん、もの凄く嬉しそうだもの……。
お父さんは直ぐに目を覚まし、ホッと一安心。
状況が飲み込めず少し混乱しているお父さんに、看護師さんは驚きもせず丁寧に説明してくれた。
あれ、なんでこんな……!?
みたいな患者さんは、結構多いのだそうだ。
そうこうしているうちに、鈴田先生が入って来た。
先生が執刀して下さったと知った時のお父さんの驚きようと言ったら。
目を見開いて「……本当に…君が手術をしてくれたのか!!?」と。
「ええ、高校の時、メスでざっくざくに切り刻んでやるって約束したの覚えてますか? 僕は約束は守る男です」
鈴田先生は悪びれもせずにそう言って、三日月のような唇の端を上向かせた。
「意識が朦朧とする中、『先生っ、先生!!』って君の慌てた声が聞こえたような気がしたが、現実だったとはなぁ……」
閉じた瞼に押し出された大粒の涙が、頬を伝う。
「いや、それは完全に夢ですね。僕は全然慌ててませんでしたし」
「ははは、きっとそうだな……。こんなに立派になりやがって……」
その後のお父さんの泣き笑いやむせび泣きは、まるで離れ離れになっていた愛しい息子と再会できた父親のようで、見ている私まで胸がいっぱいになった。
*
土曜日、お父さんの経過は順調で、一般病棟(個室)に移る事が出来た。
「……数子を嫁に行かせたらいつ死んでも良いんだけど、父親の役目を果たすまでは生きててやらないとな」
「じゃあ私、ずうっとお父さんの傍にいようかな」
「ははは嬉しいけど、お前の花嫁姿を見るのが楽しみで生きてるようなもんだから……。鈴田…先生は結婚してるのか?」
「お父さんその言い方、先生はもう生徒じゃないのよ!」
「ははは、良いんですよ。忙しくて奥さんどころか彼女もいません。月並みですけど仕事が永遠の恋人ですかね」
「君、昔から顔だけは良いんだからモテるだろう?」
「また失礼な事言って!」
でも確かにもの凄いイケメン!
顔のパーツも顎のラインもシャープでカッコ良く、映画やドラマで即主役がはれそうだし、背も高く、かりにパリコレのモデルをしていたと言われても、不思議には思わない。
それに冷たい感じの美男だけれど、微笑む時は春の日差しのように暖かで柔らかな印象になり、可愛らしくさえ見える。
もともとの美形に加え、そのギャップに嵌る女性はそうとう多いに違いない。
そう言えば、優君の笑顔も素敵だったなぁぁ……ととと
恋なんてもうコリゴリ。
なぁんて考えていると、あ、目が合った。
口元だけ微かに上向かせるイケメンドクター。
そして楽し気に口を開く。
「さあどうですかね、ハハハ」
「数子に彼氏がいなかったら、君にやってもいいんだけどな……」
「お、お父さんっ!!」
「先生、お嬢さん困ってますよ。綺麗な花嫁姿が見たいのなら一刻も早く良くなって、気兼ねなく彼氏とデートさせてあげないと駄目ですよ」
あはは、デートする相手がもういませ~ん。
なぁんて言えるはずも無く、曖昧に微笑むことしか出来ない私。
お父さんには、お付き合っている人が社内にいるとだけ言っている。
騙しているようで心苦しいけれど、余計な心配をさせたくないので、別れた事は当分伏せておこうと思っている。
願わくば、今後彼氏の話が出ませんように!!
それにしても救急車で運び込まれて緊急手術なんて、もうあんな経験は絶対したくないけど、不思議なめぐり合わせで鈴田先生に主治医になってもらえて、本当に良かった。
お父さん、もの凄く嬉しそうだもの……。
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