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本編

痛みはどうにでもなる

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 「それでシノちゃん、忘れてたけど痛い所とかないの?」
 「頭痛が少し。それ以外はなんともありません」
 「そうかぁ。一応エリー呼んでくるね。シノちゃんは休んでて」

 トキさんはそう言うと、俺の返事も聞かずに行ってしまった。
 
 エリーとは誰だろう?治療師の方だろうか?それよりもノアール様があの場所から助けてくれたのだろうか、、、
 様々な疑問が頭の中を駆け巡る.

 考え込んでいるとこの部屋に近づく足音が聞こえた。ドアに視線を移すと、トキさんと見知った顔の人が入ってきた。エリック・ミドルフ。腰まであるきれいな茶髪の髪の毛。ふちのない丸眼鏡。白衣を着て胸には白い薔薇のバッチを付け、知的な雰囲気を醸し出している男。
 「エリック様」
 エリック様は王都白薔薇騎士団四番隊隊長。治癒魔法の天才である。
 「ノアール様が『診てほしい人がいる』って言われて来てみれば、シノ君でびっくりしたよ」
 「すみません」
 エリック様は話しながらも俺の体を触りながら傷を見ている。その後ろでトキさんは嘘くさい笑顔で立っている。エリック様には何かと世話になったことがある。

 「傷も異常ないし意識もはっきりしている。トキから聞いたけど、頭以外は痛いところはない?」
 「はい。あの家で倒れる前までは全身すごく痛かったんですけど、今は全く大丈夫です」
 「それはよかった。ノアール様に感謝だよね」
 それから、トキさんとエリック様からことの詳細について話を聞いた。まず、俺はあの部屋から脱出した後、ノアール様によって助けられたらしい。俺が倒れた後、ノアール様は魔力暴走を起こしかけクラエス家が氷漬けになりかけたらしい。しかし、何とか落ち着きを取り戻して今居るノアール様の家まで連れてこられたらしい。そして、エリック様に治療して頂き意識を取り戻したらしい。
 怪我は全身の打撲・右手の骨折。頭部が一番ひどかったらしく、血が中々止まらず治療が難航したらしい。熱も下がらず一週間意識朦朧状態がだったらしく、ノアール様が看病してくれていたらしい。俺はその時のことを全く覚えていない。
 今日は外せない会議があるらしく、城に行ってしまったというわけである。
 
 早くノアール様帰ってこないかなぁ、、、助けてもらったお礼も言えてない。それに一刻も早く顔を見たい。

 「あらら。熱また上がってきたね。無理させちゃったよね。僕たちは出ていくからゆっくり休んで」
 事の成り行きを聞き終わると、エリック様が俺の額に手を当ててきた。
 冷たくて気持ちがいい。意識がほあほあしてきて、自然と涙が出てきそうになる。

 「、、、でも、ノアール様に、、、」
 このまま起きていたい。寝てはだめだ。そうしないとノアール様に会えないかもしれない。

 「あー。ノアールには帰ってきたら起こすように言ってあげるから。安心して寝なー」
 トキさんは今日一の優しい顔をしてめくれていた布団をかけながら言った。
 
 トキさんは俺に笑顔で手を振り、エリック様は『また来るね』と言い部屋を去っていった。

 静寂が訪れた。聞こえるのは俺の熱っぽい息遣いと時計の音だけだった。

 この部屋は落ち着かない。昔のことを思い出す。嫌なあの日のこと。大きな怒鳴り声。物を壊す音。俺たち家族を睨みつける大人たち。剣を抜く屈強な男達。諦めた表情の父。俺を守るように抱きしめる母。何もできず震える俺。
 そして、。すべての煌びやかな思い出を焼き払っていく。

 熱い。熱いよ。それなのに寒いよ。。。
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