異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし

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8章 勇者の国

94.ギルド長

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 お昼を少し過ぎたお昼下がり、シュウスイに真っ黒焦げになったドラゴンがやってきた。それも身体がなく、切断された頭のみで。
 街の南門付近には焦げ臭い匂いが立ち込め、でっかい龍の首が安置された。

 すでに住民たちにはカルナ達が伝えていたらしく、住民達は初めて見る列強と黒龍(頭)にてんやわんやだ。
 すぐに火神は囲まれ、全く身動きが取れなくなる。

 そんな風景を、俺は後ろから眺めていた。
 未だにさっき見た圧倒的な強さがまぶたの裏に残っている。一瞬で黒龍が炙られ、首が落とされ、料理されていくのを・・・。

 

 黒龍と火神の一騎打ち。
 火神がワンパンで黒龍を屠り、燃え盛る火の中で黒龍が死に至るまでは目撃した。
 黒龍は最後の雄叫びをあげ、その黒いウロコをギラつかせながら死んだのだ。まったく笑えない死に方である。

 そんな当人の火神様といえば、

 「火神様!!握手を!!」
 「私にも握手をー!!」

 「・・・・」

 スッ

 無言でファンサービスに応じていた。
 応じるんかい。


 とその時、チョイチョイと俺の袖が引っ張られた。なんだ?迷子の子供か?
 と、側を見ると確かに迷子の子だった。

 「レイ、レイ」

 「なんだアンか。どうした?」
 
 「アレは食べていいのだ?」

 と、アンは黒龍の首を指差す。
 は?

 「おまえ、食い意地張りすぎだろ!!?」

 開口一番がそれなんだな。
 というか何故アンがこんな所に。いつもなら試食を求めてその辺をうろちょろしているはずじゃ.....。
 いや、じゃあ何もおかしいことはないか。通常運転だった。

 「でもなアン、アレは食べたらダメなんだ」

 「なんでなのだ?」

 「大事なものだから」

 アレがあることで住民達が安心できる。今はまだなくてはならないものだ。

 「だからな、もう宿に帰ーーーーって、もういないし」

 いつの間にかアンの姿が消えていた。どうせどこからか香る美味しそうな匂いに釣られてどこかへ行ったんだろう。
 さて、俺もそろそろ宿に帰るとするか。
 
 俺は団子状態の民達を避けながら宿へ戻ろうとーーー

 「ちょっと失礼そこのお方」

 歩みかけた足を止めた。
 振り向くと白いちょび髭を生やしたシルクハットの老人がにこやかに笑っていた。まるで執事みたいな佇まいをしている。

 「すまないね呼び止めて。君はレイ・スペルガー君で間違いないね?」

 な、何故俺の名前を!!!と言いたいところだが、案外マーリの野郎の側近として名前が広まっていたりする。この若い見た目でも色々な噂が立っているらしい。

 「はい、確かに自分ですが、何かご用で?まずあなたはどちら様でしょう?」

 「いやはや気がはやった。私はペンシル。冒険者ギルドシュウスイ支部のギルド長をやっているものです」

 「ギルド長!?」

 いくら支部のギルド長ともいえお偉いさんだ。シュウスイの冒険者ギルドには一度も顔を出していないが、この人がギルド長だったのか。
 確かに全身から気品が溢れている。

 「ほほほ、そんな大層なものでもござらんよ。たかが田舎地方の職員じゃ。
 ところで午後からマーリ様との会談を予定しているのじゃが、マーリ様はどちらにお出でで?」

 「ああ、それなら」

 と、ついでに案内することにした。
 ていうかマーリの野郎、のんびりしてる風に見えて有力者にはきちんと声掛けしているようだ。

 「ほほ、そういえば確かレイ殿は半年前に冒険者登録なされたような・・・」

 案内中、ペルシルさんはそんな事を聞いてきた。

 「ええ、確かそのはずです」

 確か初クエストの途中で緊急招集されたんだったなあ。もう半年も前のことか。
 しかしせっかくの冒険者ギルドも一回しか利用していないとは残念なものだ。後で一回顔を出してみよう。

 「ほほ、つまらぬ事ですが、レイ殿は確かアリア王国の王宮魔法使いも務めてらっしゃったはず。それがなぜこんな辺境に?」

 思わず言葉に詰まる。
 だってラグナロクの迷宮をクリアしたら転移してました、だなんて言いにくい。ラグナロクの迷宮がどう処理されたのかもわからず仕舞いだし。

 「それに、レイ殿とマーリ様との接点はこれまでに特になかったはず・・・・。
 ほほほ、なんででしょうな?」

 ペルシルさんはさらりと恐ろしいことを言う。核心をさらっと言うのはやめてくれ。

 しかし、さらにペルシルさんは続ける。
 
 「それに、確かレイ殿の出身地、ウルスア領のご令嬢が反乱中のアリア王国に留められているとか。大丈夫なのですかな?」

 ・・・コイツ。
 この言い方、まさかエミリア達を盾に脅そうと?

 「おっと、そのような怖い顔をしなくても。ただ、私はレイ殿に協力したいと考えておりましてね。
 ご令嬢を救うために不本意・・・でマーリ様に従っているのなら、私が力になりますが?」

 そこでギルド長は俺の顔を覗き込んできた。
 そうか、こいつの腹は読めたぞ。多分、コイツはすでに他の候補の配下だ。マーリの勢力を削るために、俺を無力化しようとしているのか。

 「・・・いいえ?まったく何のことだかわかりませんね。それより着きましたよ、ここがマーリ様のいる場所です」

 そう言ってニッコリ笑いかけるとペルシルさんは厳しい顔つきで俺を見限り、建物へと入っていった。
 
 「・・・どうなっても知りませんぞ」

 そう一言呟いて・・・・。

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
年内最後の更新となります!(ギリギリ)
最後らしくない不穏な締めくくりになりましたが(笑)

来年もまた、この作品、そして他二作品ともよろしくお願いします!
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