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7章 エルフの里

75ー2.狂乱のお兄様

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 「・・・まだ知らせはこないのか!」

 シガナの森へと進軍して早30分、亜人王はまだ来ぬ知らせにイライラしていた。

 シガナの森は領土面積が一国家を名乗れるほど大きな森。そこへ潜伏されては流石の大群の理を生かしても発見するのは難しい。
 だからこそ、亜人王は先に盗賊団らに依頼を出しておいたのだ。それもA級指名手配を受ける腕のいい盗賊たちを中心に。100人ぐらいは送り込んだはずだ。
 しかし、やはり人間は人間。やはり使えなかった。

 「まあまあそう焦ることもありません。
 直ぐに有翼族の知らせもありましょう」

 そばに控える黒服は慌てず騒がず冷静に告げる。単純に考えれば、追放され数を減らしたと言ってもエルフは100単位の族。そのエルフが村を形成すれば空から見れば一発なはずだ。
 しかし、黒服も凄腕の仲間と連絡が取れないことに少し違和感を感じていた。
 仲間は全員S級冒険者に匹敵するほどの実力者。まさかエルフ如きにやられるはずが.....。

 「報告します!有翼族がとある大樹を発見!エルフ族はそこにいる模様です!」

 そんな時、首を長くして待っていた報告が入る。
 亜人王同様、黒服も内心でニヤリと笑うと、

 「さあ、進撃ですぞ」

 と告げ、作戦の成功を確信したのであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「い、一大事だ!!」

 エルフの村へと何やかんやありながらも上がり込み、少女とお兄様の接待を受けていると、いきなり息を荒くした男が転がり込んできた。
 転がるイケメン。転がりすぎて吐いて醜態を晒せ。なんて思ったのは俺だけだろう。
 どうやら周りがイケメンすぎてちょっと心が僻んできた。

 「どうした!何があったのだ!」

 「あ、亜人族の王が....進撃してきました!!」

 「な、なに!!!???」

 お兄様は大袈裟にも持っていた酒瓶を落とす。
 その酒瓶を少女が見事キャッチ。なぜか酒瓶に謝っていた。
 う、うん、なんだこれ。

 「して数は!?」

 「お、およそ1000!ほとんどが亜人族です!」

 それを聞き、お兄様はぎりっと歯ぎしりをした。
 
 「今すぐ戦えるものを集めろ!女子供は大樹の祠へ避難だ!」

 「はっ!」

 じゃあ俺もそこの祠へ避難ーーー

 「すまないがそこのお二人の協力が欲しい。一緒に戦ってくれますか?」

 ですよねー!!

 「もちろんじゃ!」
 「も、もちろんだとも!」

 「おお!なんて頼もしい!」

 ここでわざわざ断って祠へ避難して将来のブラピたちに散々いびられるのは回避したい。それにこの森で唯一頼れるのはこいつらだけだ。断った結果森を出られません。なんてことは嫌だしな。

 「それで、戦える者は何人おるのじゃ?」

 「警備団が23名、それに村の男衆を足しても50名に満たないでしょう。
 追放されたゆえ、族を抜けたものもおりますので.....」

 うーん、1000対50ね.....。
 どうにもこうにも勝機があるとは思えないのだが。50が全員精鋭ならともかく、俺の魔力で倒れるほどの実力者たち。あまり凄腕とは思えない。
 なるほど、ここはーーー

 「作戦を立てようか」

 「「作戦?」」

 「ああ、わざわざ数的不利な場面を作る必要はない。相手の数をじりじり減らしていくんだ。
 それとーーー内通を利用しよう」

 「内通?一体どうやって?」

 「えーっと、確かあなたの名前は」

 「コルンだ。コルン・エルフィン」

 「ではコルフィンさん。一役買ってくれ。それと、さっき言ってた森獣とはなんだ?」

 「それは......」

 「言いたくなければ言わなくてもいいが....」

 「いや、言いましょう。森獣とはこの森に住む妖狐のことです。もともとこの森は妖狐のもので、我々エルフは勝手に借りさせて貰っていて。
 だから仲は良くなくてですね。それに森獣は強いから我らじゃ太刀打ちできない。だから逃げ回ってるわけです」

 妖狐.....なかなか使える駒だ。
 ふふふ、地球で散々歴史書とかこちとら読んでんだ。異世界の諸葛孔明とは俺のことよ!
 ・・・なんてな。

 「よし、作戦は考えた!あとは実行するだけーーーだけど、さっきの婆さんはいるか?」

 先ほど喧嘩別れして会いたくないが、あの婆さんがやはりババ様。エルフたちを動かすに当たってババの発言は有効だ。

 「ここにいるぞぉ」

 いつの間にか横にいた。
 体は湯婆婆の頭は美女。そんな妖怪がいつの間にか横にいたのだ。驚きすぎて心臓が口から飛び出ると思った。

 「ずっと聞いておったぁ。お前たちの会話全てなぁ。確かにお前たちは信用できるぅ、だが、信頼はできぬぅ。
 しかぁし。今回は私情を捨てぇ、お前たちを信頼してみようではないかぁ。だから」

 「ながい。もっと早くするのじゃ」

 「ふぉ!??
 ・・・ごほんっ。だから信じるから勝手にやって良いのじゃぁ!もう儂は知らんぅ!」

 そう言ったきり、ババ様はのしのし歩いて行った。
 しかし、なんで急にあんな態度変わったんだ?さっきまでは人間しね!!!だったのに信じる?意味がわからん。

 「急にどうしたのじゃろうなぁ?」

 うんうん、と頷いていると、横から手が上がる。

 「あのぅ.....」

 「うん?どうした?」

 そこには目をうるうるさせる謝罪少女。

 「わ、わたしがやりましたっ!!!」

 そして代名詞の土下座。いやなにがだよ。

 「わ、わたしがこの人たちが"王"だってことババ様に言ったから....」

 「なにいぃぃいいい!!??この人たちは"王"なのかあぁぁぁ!!??」

 うん、どうしたお兄様。
 
 「って、最初から伝わってなかったのか?」

 「伝わるも何も、えぇえ?伝わってたら最初からVIP待遇する....ぇぇえ??」

 お兄様が壊れた。

 「だ、だからババ様に醜態を晒させてしまって....ぅぅうごめんなさい....。死んで詫びます....」

 「いやいやいや!」

 少女も壊れた。

 「くっ!ならば我々は飛んだご無礼を!!
 全員死んで詫びますっ!!!」

 「だからなんで!??」

 「な、なんでも何も、"王"は最高権力者であり至高のお方々!我々が喋ることさえ本来あってはならないのです!」

 いやそんな強気で言われても....。

 「ならば命令じゃ。黙れ」

 「!!!」

 やはりハクリは手慣れているのか、めんどくさそうにお兄様を黙らす。そして俺に作戦を言えと合図した。

 「えーっと?作戦だが、つまり嘘の内通者を向こうへ送ってこちらの有利な場所へ誘き出すんだ。向こうさんもこんなでっかい森に潜まられては嫌なはず。短期決戦を望んでるはずだ。だから必ず乗ってくるはずだ。
 さらに、この森は通れる道が狭い。ということは大勢が一斉に来れないということだ。その伸びた軍勢を分断して、一気に叩く!」

 「お、おおおお!!!流石は"王"の方々!なんという知略!!感服しました!!」

 「あ、この方は王ではないです」

 あ、それは言わなくても

 「な、なんだとぉぉぉおおおおお!!!??」

 ほらな。
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