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3章 王宮魔法使い
21ー1.陰謀と誘拐
しおりを挟む「大変だ大変だ!」
やけに慌てた領主が俺の部屋を勢いよく開けたのは訓練終わりの午後だった。
疲れ果てベットでグゥスカ寝ていた俺はいらっとしながら領主を見やる。
ドタバタドタバタしきりに部屋を駆け回っていた。
「一体何事ですか?」
「大変だ大変だ!」
「だから何ですか?」
「大変だ大変だ!」
ブチィィと脳内細胞がブチ切れる音が聞こえた。
「光玉」
大出力の光玉を領主の目の前に爆裂させる。
「ぐ、目がぁ!目がぁぁあ!!」
な、何がしたいんだこいつは...。
「ちょ、ちょっとやめてくれぇ!」
「チッ」
「舌打ち!?」
ムスカは.....違った、領主は目を押さえながら俺に向きなおる。
「大変なんだ......」
「だから何がですか?」
要領を得ない領主にイライラしていると、領主は真剣な顔で俺を改めて見る。
「エミリアが攫われた」
「・・・・・はぁ?・・・・攫われたって、誰が?」
「エミリアがだ」
「え?いや、でも、は?」
な、何言ってんのコイツ。
俺の背中に冷や汗がツーっと流れる。
基本的に屋敷も城もザル警備だというのは知っている。
侵入者も暗殺者も入り放題だ。
実際、ここ最近で怪しい奴を何人も捕らえていたしな。
だからこそ可能性としては十分だ。
「く、詳しく話してください」
「あぁ。あれは朝の仕事が終わり、昼食を取ろうと広間に行ったときのことだーーー」
溜まった仕事を一連終わらした領主は疲れで朦朧としながら広間へ向かった。
その時間帯であればエミリアやルシアなどが仲良くご飯を食べている時間だ。
領主はその風景を眺めて生気を回復しようと体を引きづって広間へ入る———が、仲の良い兄弟の姿はなかった。
なんだもう食べ終わったのか、と消沈するのも少し、何かガサゴソ部屋から聞こえた。
領主は不思議に思い、部屋を少し調べてみることにした。
そしてそのガサゴソ音は部屋の隅のタンスから聞こえていた。
領主は息を殺し、静かにタンスを開ける。
そして中を見て息を飲んだ。
「———中にいたのはルシアだったんだ。それも縄に縛られたね。
話を聞くと、食事中に不審者が現れてエミリアが人質に取られ、ルシアは縛られて無力化されたらしいんだ」
「は?ちょ、ちょっと待ってください。じゃあなんでこんなゆったりしているんですか?」
「・・・・え?あ、ああ。こういう時こそ慎重に行かなければならないからね」
なんだその理論。戦争ん時はあんなに慌てていたのにっ.....。なんでこんな余裕そうにノロノロしてんだ?
「わかりました。僕も探します。何か手がかりは?」
「それが、これなんだ....」
領主は綺麗に整えられた手紙を差し出す。それをひったくると中を取り出した。
【娘を返して欲しければ有り金全て用意しろ。日が沈むまでに用意できなければ娘がどうなるかわかっているだろう?
取引場所はルーマー大聖堂だ。いい取引が出来ることを願っている】
「ルーマー大聖堂......」
街にある周りと比べて一際大きな建物だ。昔は教会として使われていたが、今は廃墟だと聞く。
いかにもゴロツキが根城にしていそうな場所だ。
「お金は用意したんですか?」
「それがね......ちょうど大口の取引をしていてお金が無いんだ。果たしてわずかな金で犯人が満足するかどうか.....」
なんだって?
マジで使えないな.....。
ほんと、びっくりするぐらいに。
「だから君に頼みたい。どうか、エミリアを取り返してきてくれないか?
勿論僕たちも動く。だけど一番強いのは君だ。頼むよ、どうか助けてくれっ!」
領主はその場に土下座した。
こんな奴だが仮にも貴族であり、領主である者が土下座をするとは。
「勿論、僕は最初からそのつもりです。待っててください。必ず奪い返します!
エミリア様を攫った連中なんて骨が残らないまでにメタメタにしてやりますよ!」
「お、おぉぉ!流石だ!頼りになるよ!で、でもそこまでやる必要はないんじゃないかな?」
「は?何いってるんですか。目にモノを見せてやらないと」
「ウ、ウンそうだね」
なんてやってる場合じゃなかった。
俺は勢いよく館を飛び出すと、魔法を駆使しながら一気に街まで駆けおりる。
目指すはルーマー大聖堂。エミリアを攫うなんていい度胸だ。俺がぶっ潰してやる。
「うおぉおおおおお!!」
俺は大声を上げると、さらにスピードを上げた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ボルトン様、奴は誘いに乗りましたか?」
深く椅子に腰掛ける領主の隣でニヤリと笑うのは執事だ。
「ああ。奴はエミリアのこととなれば必死。我らの目論見に喜んで乗っかってくれるよ」
領主は勢いよく駆け出していった奴を思い出してニヤリと笑う。
「さて、我々も準備を進めよう。厄介者は遠ざけた。今のうちに.....ね」
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