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8章 勇者の国

81ー2.異世界道中膝栗毛2 一部改稿

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 謎のイノシシ鍋パーティーを終え、すっかり夜だったのでその場で一夜を過ごした。
 そして今日もめくるめく荒野を歩くのである!
 .......やめたい。
 なんで異世界ってのはこうも不便なんだ。自動車ないのかよ。田舎かよ。いや田舎でも自動車あるわ。もっと、こう、魔法陣でバビューンとズビューンとガビューンとなぁ....。

 ま、それが出来れば苦労はしねえかーーーって、いや、出来ないことはないのか.....?
 そういえば迷宮でも頻繁に転移はあったし確か転移の"魔法陣"もあった気がする。
 こ、これは......。

 「は、ハクリ、お前はまさか転移の魔法陣を知っているとか言わないよな?」
 威厳みち溢れる王のことだ。可能性は大である。
 「は?知っているわけないじゃろうが」
 .....一蹴された。せめてもっと溜めろよ。

 「転移の魔法陣は古代に失われたものじゃぞ?今使えるものはおらんよ」
 「へー300年生きててもわかんないんだな」
 「お主は何度失礼なことを言っても懲りないのじゃな」
 この後むっちゃ叩かれた。


 まあ、そんなこんなで旅は進み、アンやカルナとも段々打ち解けてきたように思える。
 道中は辛すぎて誰も喋ろうともしないが、食事や休憩の度にアンとカルナは仲良くやっている。時々ハクリも加わって楽しそうだ。

 ・・・あれ?俺ハブられてね?そういえば俺がカルナに話しかけても「は、はい」や「ごめんなさぃぃぃい」としか言わない気がする。
 どんだけなんだ、俺。 
 よし、もっと仲良くなろう。

 「なあ、アン。いつもカルナとは何を話しているんだ?」
 もう通常姿勢となってしまった俺の背中におんぶされるアンに尋ねる。
 まずは相手の趣向を知ることが大事だ。相手を知れば自然と仲良くなれるって妹が言っていた。空想の。

 「カルナ?うむぅーー。私は肉の話をしているぞ!」
 「お前はどうでもいい。カルナは何の話をするんだ?」
 「だから肉の話.....」
 「引き摺り下ろすぞ」
 「主に故郷の話だ!お兄様は素晴らしかったとか、族長は残忍で最低でゴミ屑のようだったけど実は本当にクズだったとかだな!」
 「族長の風評被害ぱねぇな」
 悪評しかないじゃないか。カルナもあんな顔してゴミとか屑とか連呼しているのか。
 ・・・怖っ!女の子怖っ!
 
 俺も湯婆婆の頑固さと変わり身の早さは知っているがそこまでかなあ?
 まあ、けど人は噂で判断しちゃいけないって俺にメロメロの幼馴染が言ってた。空想の。

 「それよりもレイ!次のご飯はいつなのだ?もうお腹が減って減って....」
 同時にグーギュルギュルと腹がなる。見事なアラーム設定だ。
 
 「そうだなあ、気が向いたらだな」
 「鬼!!!」
 アンは俺の背中をげしげししてくるが、幼女なので大して痛くない。むしろ丁度いいマッサージだったりする。
 連日の歩きっぱで俺は疲れているのだ。俺をタクシーか何かと勘違いしているアンこいつと違ってな。

 「よし、お前もう歩け」
 「ふぁっ!!??なぜなのだ!私は貧弱な少女なのだぞ!歩くことなど許されないのだぞ!」
 アンが頬をふくらませてポコポコなぐる。
 普段は肉の話しかしないくせにこんな時に限って"貧弱"とか使いやがって.....。

 「いいか?お前が歩くことによって俺はお前の体重、つまり30kg程度負担が軽減される。
 つまり俺は無駄な30kgを積んでいるんだ。
 だからその30kgがなくなればもっと狩れる魔物の量が増えるかもしれないぞ?
 つまり、ご飯が増える」
 「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ」
 そう言いアンはしぶしぶ背中を降りる。まだ正直なところが幼女らしくて可愛い。

 「きょ、今日だけだからなのだぞ!」
 さて、アンはいつデレデレしてくれるのかが今から楽しみだ。

 
 「あ、あの、れ、レイさん....」
 そんなニヤけていた俺の肩をツンツンとつつく指。見るとカルナが不安そうに怯えていた。
 そんなに俺に話しかけるのが嫌なのか。おじさん悲しくて死んじゃう。俺の方が100近く年下だけど。

 「どうしたんだい?」
 なるべくニコッとしてカルナの目を見た。俺の顔面偏差値ではエルフの野郎どもには到底及ばないどころかゴミに等しい。
 だ、だが何らかの科学的エネルギーが働いてカオスなエネルギッシュな相対性理論的なものが働くに違いない。
 実際、カルナには余計怯えさせる効果があったようだしな!俺の顔頑張れ!

 「ま、前の方で戦いが起きてるようなんです」
 よう、と言うのはカルナが自然の声を聞けるスーパー天然少女だからだろう。いやバカにしてるとかなしに。
 「戦い?何人ぐらいだ?」
 「たぶんーーーー5対100とかです」
 「ーーー随分圧倒的だな。まあたぶん商人と盗賊ってとこだろ」
 テンプレ的に。
 しかしその俺の思惑は外れたようでハクリが反論を挙げた。
  
 「いや、レイよそれはおそらくない」
 「なんでだ?」
 「ここは通称"勇者の国"と呼ばれる武力のみでは最強の国じゃ。そんな国で治安が乱れるなど滅多にないのじゃぞ?」
 ほう、勇者の国か。要は王様がリアルチーレムしてる国ってことだろ?滅んでしまえ。

 「じゃあ一体戦っているのは誰なんだ?」
 そう俺が聞くと、ハクリはニヤリと笑う。

 「知らん。見てくればいいのでは?」
 「あ、ああ.....」
 なんか腑に落ちない。が、まあダッシュでいけばちゃっちゃと終わるだろう。

 「わかった。行ってくるよ」
 
 俺は駆け出し、突然の乱戦に備えられるよう氷槍も数本生成しながら走った。
 景色が変わる変わる変わっていき、やがて喧騒が聞こえてきたかと思えばすぐに何が起きていたのか確認できた。

 「野郎どもっ!絶対に逃すんじゃねえぞぉ!!」
 「「「「ウオオオオオ!!!!」」」」

 屈強な男たちが口々に雄叫びを上げて、武器を携帯している。

 やはり盗賊に違いない。何がそんな事はないだよハクリのバーカ!やーいやーい!
 そんな盗賊に囲まれるようにして一台の荷車があった。数人の剣士がその荷車を守っており、見事な剣筋でもう何人もの盗賊たちを殺している。
 なかなかの腕前だ。

 さて、どうするかな。助ける義理はないし、むしろ面倒に思える。
 が、一応盗賊を倒しておいた方がいいだろう。商人に顔がつながれば色々と得だし、それに俺の株も上がる。冒険者ランクも上がって褒美には絶世の美女.....!望みのテンプレ展開待ったなしだ。むふふふ.....

 よし、盗賊はーーーと.......なっ!!!
 その時、俺はとんでもないことを発見してしまった。

 ーーーーそう、例の剣士がイケメンだったのだ。いや、それならばまだ良い。問題は彼が守っている荷馬車。その中にあった。

 「大丈夫だ、落ち着け。お前は俺が守る!」

 剣士はまた1人捌き、荷馬車で震える美しい女性ににこりと微笑みかけていた。

 「ぐっ....!」
 こんなとこでイチャコラするなどなんて不貞な野郎だ。非リアな俺にはそれだけで大ダメージ。どうせ生還したら結婚でもするんだろう。
 「チッ!!」
 まあどうでもいいか。
 それよりもこの苛立ちを盗賊共にぶつけよう。

 「ふははははは!!氷槍アイスランス!!!」

 俺の怒りの数だけ生成された100を超える槍は目にも留まらぬ速さで盗賊を撃ち抜いていく。

 「な、なんだーーーグォハッ!」
 「と、棟梁!!ゲォハッ!」
 「ふ、副棟梁!!!ボィパッ!」

 コントのように3人死んだ。てか最後のやつボイパとか言ってなかったか?
 いや、んなことはどうでも良い。それよりも例の剣士が俺を英雄を見るかのように見るのが中々素晴らしいぞ、うむ。

 「な、なんてことだ!救援が来てくれたのか!」
 例の剣士が嬉しそうな顔をする。
 べ、別に助けに来たわけじゃないんだからねっ!

 まあそんな冗談はさておき、盗賊団の棟梁は片付けた。残るは残党のカス共だけだ。わざわざ捕らえるまでもない。

 「氷槍アイスランス
 俺を再び槍を発生させると残党共を一掃した。
 100人の盗賊が一瞬で0だ。むふふ、中々気持ちいい。
 
 ーーーと、その時俺には飛んでくる一本の矢。突然で反応は遅れたがしっかりキャッチする。
 
「な、何者だっ!!」

 まだ盗賊が残っていた?まさか、全員殺したはずーーー
 その時、俺は新たに現実を確認した。俺の昂ぶっていた気持ちは一瞬にして静まり、萎えていく。
 無残に転がる原型を留めていない死体。それが俺の残り僅かな良心を揺らした。
 確かに悪党は悪党。しかし日本ではほぼ見かけなかったと言ってもいい死の光景だ。

 ・・・まだ俺に日本人の心は残っているのだろうか。こんな簡単に人を殺せるようになるとはーーー。
 うむむ、どうやら死の迷宮に長く留まったせいで殺しの感覚が曖昧になっているらしい。危うく殺戮マシーンになるとこだった。自重だ、自重。必要な時しか殺さない。そうするべきだろう。人間をやめたくないならば。
 
 「・・・何者?ーーーハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!お前面白いなぁ!」

 青ざめた俺の前に、そう笑いながら出てきたのは青年ーーいや少年だった。おそらく16歳ぐらいだろう。
 燃えるような赤色の髪に加え、みるからに豪胆そうな表情をしている。
 その手には美しい剣を携わえ、翻している赤いマントには「師」の文字があった。

 「あんなに強い奴が何青ざめてんだよ。プッ、やっぱ面白ぇわお前!クハハハ!」
 何が面白いのか燃えるような「今すぐにでも水へザブンして欲しいランキング第一位」の男はずっと笑っている。しかし馬鹿にするような笑いではなく、ただ可笑しくて笑っている感じだ。
 本当、厨二病みたいにーーー

  
 ところが、この出会いが今後、世界を揺るがすことになろうとはこの時は思いもしなかったのであった。




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