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番外編 ~攻略者達の記憶~

記憶の片鱗ー3

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「なあ?なんかおかしくね?」

そう彼が告げたのはもうすぐ村に着こうかという時だ。
確かにいつもは何人かすれ違うはずの村人の姿を見ない。
もう周りは暗く、子供2人が帰っていなければ少しは見回りにも来るはずなのに。

私は一抹の不安を抱きながら村へと歩みを早める。
何か、言いようがない嫌な予感が警笛を打ち鳴らしていた。


そしてその予感は正しかった。


「な、なんで煙が上がってんだ!?」

村が目前に迫った時、村から一本、いや何本も煙が上がっているのが見えた。

そして村が目前というのに全く物音も村人の姿もない。
何かが起こっている。

「・・・・急ご」

彼を先頭に私たちは走り始める。

そして村の入り口になる門をくぐり、私達は見てはいけないものを見てしまった。

「な、なんだこれ.......」

白目を向いた顔、下半身がなく血が大量に飛び散った後のあるその亡骸は私も知っている人だった。

それだけじゃない。見慣れた風景の村はすでに存在しなかった。
木で出来ている簡素な家は崩れ、その下から赤いものが滲み出ている。

ーーーあの噴水の広場には喉を剣で刺された死体が転がっていた。
見間違えることのない、彼の父親だった。

「な、な、なんで親父が.......」

ひどく動揺した様子で彼は父親の死体を揺する。
一体誰がこんなことをーーー


「やっと帰ってきたんだね」


私は声が聞こえた方へと振り返る。
それは私の親友の声、いつも聞き慣れている声。
ちがう。そんなはずはない。こんな場所でやけに明るく喋る得体の知れない声が彼女の声のはずがない。


そう、思いたかった。


「信じられないって顔してるね。そして疑問も浮かんでいるようだ。教えてあげようか?アンタが聞きたくない事実を」

それは紛れもない彼女だった。

片手に血がべったりついた片手剣を持ち、元々赤かった髪は鮮血で更に鮮やかさを増している。

彼女の後ろの方、一際大きい私の家では黒い物体が荒々しく家を破壊していた。

「お、お前?何やってんだよ?こ、これお前がやったのか?」

彼はそう彼女に問いながら私の横に並ぶ。
彼の手は血まみれで、小さく震えていた。

「そうさ!私がやった。と言ってアンタは信じるかい?」

私は彼と彼女が何を言っているかわからなかった。
ただ、彼女の瞳の奥に復讐の炎が燃えているのに気付き、背筋が凍る。

「ベヘドール」

彼女がそう言うと村長の家を壊し続けていた黒い物体が俊敏な動きで彼女のそばにやって来た。黒い物体だと思っていたものは、魔物だった。魔物の額には召喚獣の刻印が付いている。おそらくこの魔物が村を全壊させたのだろう。

「なんで私がこんなことやったと思う?忘れた?私の両親が死んだ理由」

彼女の両親。どうして亡くなったんだっけ。確かーーそうだ。母から階段から落ちたと聞いた。けど葬儀には誰も行かなかったのが不思議だった。両親の棺の前で泣き続ける彼女を私が励ましたっけ。

「表向きには事故死になっているはずよね?だけど、本当は違う」

彼女はそう言い、指を鳴らした。その瞬間、彼女の肌の色が白から黒へと変わる。

「私の家族はダークエルフだったのよ。アンタらエルフから差別されてるね。それに気付いた村の者が、今まで騙されていたことに怒って殺したのさ。そして他の村人も決して助けてくれたりはしなかった」

彼女は自嘲気に笑った。

「つまり、お前は復讐したってことかよ!?」

隣で彼が震えている。先ほどの動揺の震えとは違い、今度は怒りの震えだ。

「ええ。そうよ。そして町から帰ってきたあなた達の凍りつく顔を見たかった」

そういい彼女はニヤリと笑う。
それに反発して彼がいい放った。

「最低だ!!絶対許さねえ!!」

しかしその言葉を彼女は気にも留めず鼻で笑った。

「あなた達2人は、せめて私の手で殺してあげる」

突如、彼女が片手剣を振りかぶって近づいてきた。

「おい!逃げろ!」

彼は私の前に出ると彼女と相対した。
その後ろ姿には怒りが纏わされている。

「ベヘドール」

さっきまで大人しくしていた魔物が、私と彼女の間に入った彼を邪魔するなとばかりに一瞬で押し倒した。
魔物は大きな爪で彼の肩を地面に押し付け、その不器用な顔を彼の顔の目前にやり、恐ろしい地響きのように唸る。
彼は不意打ちを食らった形で必死に抵抗していたが抜け出すのは無理だろう。

「待つのよベヘドール。まだその時じゃない」

そして彼女は私に歩み寄ってきた。
逃げなきゃ、そう思うのになぜか足は動かない。石のように微動だにしなかった。

彼女は私の肩を掴み、強引に地面に押し倒す。
無理やり倒されたことで背中に石畳の硬い感触がした。焼け付くような痛みがする。

彼女はそのまま私に覆いかぶさり、片手剣を私の首元に突きつけた。
滴り落ちる彼女の赤い髪の隙間から彼女の笑い顔が見える。

「ねえ、死にたいの?なぜ何もしないの?私が最後の最後で助けるとか思ってんの?なんで私がアンタと仲良くしてたと思う?アンタが村長の娘だったからよ。私が生き残る為にはアンタと仲良くするしかなかったわけ」

・・・・・は?嘘だ。そんなの嘘に決まってる。

「そして私の思惑通りアンタと仲良くしてたお陰で、私は助かった。アンタのお陰よ。そしてアンタのせいよ。この死体の山も、私がこうなったのも」

「・・・・・・だ」

「は?今なんて」

「嘘だっ!!!そんなの嘘だっ!」

「・・・まあいいわ。アンタにはお礼も兼ねて選ばせてあげる。このままじゃアンタも、魔物にやられてる彼も死ぬわ。選ぶのよ。アンタ達が死ぬか、アンタが私を殺すか」

私の心に、ぽとりと黒い液体が落ちた。

「なにいってるの....!?そんなの選ばないっ!どっちも死なない!死なせないっ!」

そう張り上げると彼女はため息をついた。
そして私に剣の柄を握らせる。

「いい?アンタにそんな選択は無いの。早く決めて。アンタが死ぬか私を殺すか」

そう言い彼女はカウントダウンを始めた。

私の心に真っ黒な液体が流れ落ちていく。

「3」

なんで、なんで。

「2」

どうして私だけ。

「1」


カウントダウンが終わる間近、私の目の前が真っ暗になる。
「そう、それでいいのよ」と哀しい、小さな声が聞こえた気がした。


そうして私の心は真っ黒になった。





 ーーーーーーーーーーーーーーー





ベッドから起き上がり、寝ぼけた目で周囲を見渡す。

また遠い昔の夢を見ていたことにうんざりしながら私はベッドから立ち上がった。

あの時の彼女は何をしたかったのか今でもよくわからない。
私に殺して欲しかったのかもしれない。
私に殺しをさせたかったのかもしれない。
復讐した後はどうでも良かったのかもしれない。
ただ、わかるのは彼女が最後まで私を思っていてくれたことだ。

私はため息をつきながら、ふと机の上に1つの手紙が置いてあるのに気付いた。

差出人が見覚えのある名前だった。

【無口な幼馴染のフウ様へ  やっと俺はやっとS級冒険者になれたぜ!お前も今はきっと凄い魔法使いになってるんだろうな。今度会ったら俺のパーティメンバーを紹介してやるよ!それじゃ、いつかまた会おう!  元赤髪の少年セブルスより】

その短い手紙を見て思わず笑いが漏れる。元気なところは昔と変わらないらしい。


また、会いたいな。いつかまた。
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