上 下
84 / 119
7章 エルフの里

71.久しぶりの地上

しおりを挟む
 まぶたを開けると、目を焼き尽くさんばかりの太陽の光が見えた。
 息を吸うと、埃臭い曇った空気ではなく、自然の澄んでいる空気が肺を潤す。
 それがあまりにも気持ち良くて何度も深呼吸していると、隣のハクリも同じ動作をしていて笑えた。

 なんだろう。これが牢屋を出た囚人の気持ちなのか。念願のシャバだー!とか言った方がいいのか。

 「やっとだ.....!」
 「やっとじゃのぅ....!」

 「「地上だ!!」」

 


 ーー




 遡ること1時間前、失われた魔法と誓約の指輪を手にした俺とハクリは早速力を使ってみることにした。
 ハクリの指輪の能力は「瞬間治癒」。
 指輪に溜め込んでおいた魔力の分だけ発動時に体を治癒するという物らしい。迷宮で好きな時に治癒することが出来なかった俺たちにとって優れものなのは言わずもがなわかるだろう。

 そして俺の失われた魔法ロストマジック、「破壊の魔法」はとんでもないものだった。
 破壊の魔法、と聞いて思い浮かべるは200層の守護者が使っていた魔法だ。あのなんでも破壊する膜、そう、あれこそが破壊の魔法だったのだ。
 あのチートが俺にも使える日が来るとはな..。
 これで俺の二つ名が「破壊の帝王」とかになる日も近い.....!ウヒヒヒヒ!

 なんて思っていたら、破壊の魔法は思ったよりチートじゃなかった。いや、チートだけどもその弊害が恐ろしかったのだ。

 まずに、破壊の魔法について本から伝わってきた情報から、基本情報はなんとなく理解できていた。
 基本的、というか破壊の魔法の全てであり初歩である3つの技がある。

 「接触破壊バーストタッチ」「破壊の絶対領域」「破壊の装甲」の3つだ。

 要は、触ったら壊れる、膜に当たったら壊れる、鎧に当たったら壊れる。そんな感じだ。
 とにかく壊すことしか考えてない脳筋魔法。
 それが破壊の魔法だった。

 そして触れば勝てるチート魔法な破壊の魔法には、当然見返りが存在する。
 それは、"莫大な魔力"。そして、"破壊した分の痛み"だ。
 まあ破壊した分の痛みはどうにかなる。岩でガンガン殴られても大した痛みは無いようになってきたからな。

 しかし問題は"莫大な魔力"の方だ。
 破壊の魔法は、「接触破壊」「破壊の絶対領域」「破壊の装甲」の順に、威力が高く、魔力消費も多くなっている。

 そして、問題の魔力消費なのだが.....一番魔力消費の低い「接触魔法」で魔力が尽きる。

 ・・・ん?って感じだが本当なのだ。
 実際、興味本位に「接触魔法」をちょいとやってみたらぶっ倒れた。うん、初めての魔力枯渇だ。
 今まで、魔力が足りない!少ない!と散々言いながら魔力が本当に枯渇することは無かったが、今回初めて枯渇したのだ。
 結果、半日立つことすら出来なかった。
 魔力枯渇って怖い。

 っとそんなことはどうでもいい。
 とにかく破壊の魔法は魔力消費が半端では無かった。それだけの話。使い所がないので多分あまり使わないだろう。

 そして、褒美を授かってからおよそ12時間後、多分仕組まれていたのであろう帰還の魔法陣が突如現れ、地上の、それも大森林の中に転移されたのはもっとも最近の出来事だ。

 それで今、スーハースーハー深呼吸しているわけである。

 「うーん、今って朝だったんだな」

 東方向にある太陽から光が差されているからな。
 ・・・そういえばこの世界の天体関係はどうなってるんだ?
 もしかしたら某天才ならぬ天災バ○ボンの歌詞の通り、西から昇って東へ沈むかもしれない。

 なんて疑問は「そうじゃのう...」と返したハクリの一言で解決した。
 地球とあまり変わらないらしい。夜を照らす月はこの世界には無いが。

 「うむ....気持ちのいい朝じゃ。肌を刺す微妙な痛みがまた....」

 「ああ、そうだ.....な...?」

 あれ?今更だがハクリは日光に当たっていいのか?一応吸血鬼なはずだが.....。
 それに少し危ない発言が聞こえた気が。

 「そ、そういえば日光は大丈夫なのか?」

 「ん?ああ、妾級にもなると無害なのじゃよ」

 「へえー」

 ファンタジーの情緒もへったくれもないな。

 「じゃがやはり日光は肌を焼くようでな。その痛みがマッサージのようで気持ちいいのじゃよ」

 「へぇ、気持ち悪いな」

 「きもっ...!?」

 そんな会話をしながら周囲を観察していく。転移された先は神殿のような建物で、こじんまりとした神殿のど真ん中に魔法陣はあった。
 今はもう光っておらず、もう機能することは無い。ハクリによると、迷宮攻略されたラグナロクの迷宮は消滅するらしい。

 そんな神殿の周りには、ジャングルのような大森林が広がっていた。
 今にでもターザンが「アーアアー!」とか言ってきそうだ。
 ・・・うん、てかここどこだ?周りを見ても、木!木!木!!!だし、目印となるものは一つも無い。

 「ハクリ、ここがどこだかわかるか?」

 そんな時に便利なハクリペディア。きっと知っていることだろーーー

 「知らん」

 詰んだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
破壊の魔法の三つの技の名称は変更するかもしれません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

絆の力-私たち夫婦の愛の物語-

マッシー
恋愛
「絆の力-私たち夫婦の愛の物語-」は、夫と妻の物語です。 彼らはお互いに恋に落ち、一緒に過ごす時間を大切にし、お互いを支えあいました。 彼らは、お互いの絆が深まり、子供を授かった後、幸せな家庭を築きました。 彼らの愛の物語は、何が起ころうとも、お互いを支える力となりました。 この物語は、愛が何よりも大切であり、絆がある限り、どんな困難でも克服できることを示しています。」は、夫と妻の物語です。 彼らはお互いに恋に落ち、一緒に過ごす時間を大切にし、お互いを支えあいました。 彼らは、お互いの絆が深まり、子供を授かった後、幸せな家庭を築きました。 彼らの愛の物語は、何が起ころうとも、お互いを支える力となりました。 この物語は、愛が何よりも大切であり、絆がある限り、どんな困難でも克服できることを示しています。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

処理中です...