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6章 吸血鬼と魔法使い

63.三人の帰還者

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 誰かが火でも灯さない限り暗闇に光が差すこともない遥か地下洞窟の197階層。
 そこへは裏技を使わない限り到達するのはほぼ不可能であり、到達したとしてもS級相当の魔物が簡単に死ぬような場所。
 そこでご飯を食べるなど考えられないことであり、普通は避けるべきことだ。

 そんなところにも関わらず、小さな小洞窟のようなところでガツガツ食べ物を漁っている者たちがいた。
 1人は300年ほど前に世間を騒がせた「地獄の吸血鬼ヘルヴァンパイア」と呼ばれし者で、彼女ならここにいても何ら不思議はない。

 しかしその隣、地獄の吸血鬼に並ぶように喰っている男の名はあまり知られておらず、また僅か8歳にしてシリル公国の大将を倒したと噂されているが真偽は不明である。

 そのような2人が197階層で食べ物魔物を食べている頃、地上ではトンデモナイことが起こっていた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 
 「なに?もう一度言え」

 「ハッ、それが4つの迷宮の内、3つがフェイクである事が判明いたしました。本物はエーミール隊の迷宮です」

 淡白な男に跪く兵士はどこか緊張しているように見える。
 それもそのはずで報告相手が宰相という1兵士如きでは歯も立たない相手だったからだ。

 「そこではない。その後だ」

 「ハッ、それぞれの迷宮からの帰還者は各々1人ずつ・・・・です」

 その報告を聞き、宰相ベディヴィエールは眉をひそめる。
 
 本来ならフェイクの迷宮、いわば大した事がない迷宮で王国精鋭軍団の攻略チームが帰還者1人で帰ってくるわけがないのだ。

 それはすなわち迷宮内で意図的に攻略チームが消されたことを指している。
 しかしそんな一筋縄では行かない強さを持っているのが攻略チームだ。一体誰がそんなことを.....。
 ベディヴィエールは眉間にしわを寄せる。

 「・・・帰還者3名とは誰だ?」

 「西の迷宮が至高の魔法使いマーリン様、東の迷宮がヨハネの騎士団団長ガスパル様、北が水神アルクヌス様です」

 「マーリンにヨハネの騎士、それに水神か....」

 ベディヴィエールから言わせればどいつもこいつも怪しい奴ばかりである。
 特に、マーリンは。

 「わかった。下がって良い」

 ハッ、と兵士が応えドアから出て行った。
 それを確認し、ベディヴィエールは事実・・の確認を直下の配下に命じる。
 話では迷宮は攻略されると瞬く間に姿を消し、残った跡地に攻略者がいたのだそうだ。

 となれば中身・・はどこへ行ったのかが問題である。
 最初から迷宮に存在していた物、それならば消えても何ら不思議はない。

 しかしこちらが投入した戦力、人、鎧、装備品などが消えてはおかしいのだ。
 それは自然の摂理に反する。
 ベディヴィエールは迷宮などが自然に従って出現することを理解していた。

 「ならば転移・・か......」

 ベディヴィエールは目を細めて確信したように頷いた。




 *




 同時刻、レイ・スペルガーの出身地ウルスア領ではある報が入り、慌ただしくなっていた。

 騎士団全員が軍備を整え、団長であるガドは迷宮に入ったという息子を心配しながらも鎧を装着していた。

 「やぁ、ガド。準備はどうだい?」

 そこへ貴族風の服を着た男、金髪の派手な者がガドへと声をかける。
 いつも通りのハイテンションかと思いきや声には少しの震えがある。緊張しているようだった。

 そんな領主ボルトン・ファクトリアを見て自身の緊張が解けたのかガドは小さく笑った。

 「む、なにがおかしいんだ?」

 「普段とのギャップが」

 「・・・プッ、ハッハッハ!そうだな!怯えんのは俺の柄じゃないわ!
 お前のことは信頼してる。頼むぞ!」

 ボルトンはガドの胸に手をドンと置き、ニカっと笑う。ガドはそれに答えて「あぁ!」と笑う。

 そうしてガドは遥か地平線のを見るように遠くを眺めた。

 その時・・・を待つように、ずっと。



 どのぐらい時間が経ったか、上り始めていた太陽が沈み始めた頃、1人の騎士から一報が入る。

 「奴らが進軍!真っ直ぐこちらへ向かってきています!」

 「来たか.....」

 ガドは小さくそう呟き、一歩歩き出した。
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