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5章 奈落の底の魔法使い
53.期待
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深い深い闇に包まれた洞窟。そこに彼女は300年近く暮らしていた。もちろん好き好んで暮らしているわけでも無い。
そこは"ラグナロクの迷宮"の192階層。なんとか安全にしたその洞窟から一歩踏み出せばS級など目ではないの魔物がウヨウヨしている。さらに抜け出すには迷宮を踏破しなければならない。
そんな彼女は"来たるべき時が来るまで"住むことを決意したのだ。
彼女の名はハクリ・デル・ヴァンディルと言った。
今は絶滅した吸血鬼族の元"王"。
さらに元七大列強4位であり、その戦闘力は計り知れない。
そんな彼女でもこの迷宮を踏破することは不可能だった。
300年間、落とされてから彼女はずっと1人だったのだ。
「あーぁ。暇だ。何か起こらないかの?」
深めにため息をつく。この300年、一番苦痛だったことを問われれば彼女は間違いなく「退屈」と答えるだろう。
それほどまでにする事が無く、またすることも出来なかった。
ズドオオオオォォォォォオンン
そんな時、落下音を聞いた。彼女の耳がピクリと反応する。
確か前回は170年前だっけ、その時は落下の衝撃で藻屑になった死体があったっけな。
そんな過去を思い出しながら彼女は立ち上がった。
約170年ぶりのイベントである。見逃さない手はない。
彼女は衣を纏うと入り口の岩をどかす。
3年ぶりの洞窟の外に武者震いしながら彼女は先へ進んだ。急がなければ死喰いネズミに喰われてしまう。
ズドォオオオオオン
その移動中、再び衝撃を感じる。落ちたのでは無く、ぶつかった音だ。
ぶつかってこんな音が出るのはあの『象』ぐらい。だがあの『象』は目を合わせない限り暴れないはずだ。
ーーーーまさか落ちてきた奴が?
だとしてもそれは自殺行為。子供であれば大したことはないが大人であれば彼女でも苦戦する相手だ。
彼女は落ちてきた者が生きていたことに驚きながら象によってイベントが消え去らないことを祈る。
チュドオオォォォォォンン
今度は別の音が聞こえた。それに続いて何かが崩れ落ちた音がする。
倒れたのが象だったとして、音的に子供の象だったらしい。
しかし、子供の象でも倒せるほどのそこそこの実力者。
彼女は未知の人物に興奮を覚えていた。
面白い。掻っ攫って弄ぶも良し、八つ当たりをするのも良し、場合によっては遊んで嬲り殺そう。
彼女は未知の人物に、死んでくれるなよと念を送り、速度を上げた。
そろそろ遭遇するはずだ。どんな奴だろう。確か罠があるのは20階層ぐらいだったはずだ。
そこまで来れる実力者。冒険者か?騎士か?それとももっと強者か?楽しみだ。
そんな時、彼女は足を止める。そして咄嗟に結界を張った。
ーーーー探索魔法か。これを使えるのは魔導師か精霊ぐらい。どちらにせよ期待が高まる。
「良いねぇ!」
そう呟いた彼女は探索魔法が打ち切られたのを確認すると全力でその場所に向かった。
やがて死喰いネズミに喰われた大人の象が見え、一抹の不安がよぎる。
ネズミは厄介だ。仲間で行動し、あらゆる物を喰らい尽くす。魔法にも耐性があり、彼女でも大群相手では遠慮したいほどだ。
そんなネズミを倒せるのは土魚だけ。しかし土魚は数が少ない。弱いのだ。この世界では圧倒的に。
なぜかネズミにだけは強いが。
そんな土魚が出現してくれるのを期待しながら彼女は細長い通路に突っ込む。
ギュンギュン進み、やっとお望みの者を発見した。
見た目は10歳ぐらいの子供。なぜ子供が?とも思ったが年齢を誤魔化せる厄介者もいた、と彼女は思い直しじっくり観察する。
近くには猫型の精霊を発見し、上級精霊だろうと当たりをつけてから、彼らを試したい、と彼女は強く思った。
そんな彼らは土魚に救われたばかりだった。見たところ魔法使いのようでさすがにネズミは辛かったんだろう。
だが彼女は彼らを見て率直に思う。
ーーーー弱すぎる。周囲への警戒もしていない。まだ土魚は下に潜っているぞ?
そんな時、彼女の思惑通り土魚が彼らの下から飛び上がる。
完全に彼らは対応しきれていなかった。
楽しみにしていたディナーに残念に思うと同時に彼女はせっかくのイベントなんだから、と土魚を王術魔法で爆破する。
いきなりの出来事に狼狽える彼らに、彼女は聞こえるよう、そっと呟いた。
「久しぶりの人間.....」
残念な意味をも込めて。
そこは"ラグナロクの迷宮"の192階層。なんとか安全にしたその洞窟から一歩踏み出せばS級など目ではないの魔物がウヨウヨしている。さらに抜け出すには迷宮を踏破しなければならない。
そんな彼女は"来たるべき時が来るまで"住むことを決意したのだ。
彼女の名はハクリ・デル・ヴァンディルと言った。
今は絶滅した吸血鬼族の元"王"。
さらに元七大列強4位であり、その戦闘力は計り知れない。
そんな彼女でもこの迷宮を踏破することは不可能だった。
300年間、落とされてから彼女はずっと1人だったのだ。
「あーぁ。暇だ。何か起こらないかの?」
深めにため息をつく。この300年、一番苦痛だったことを問われれば彼女は間違いなく「退屈」と答えるだろう。
それほどまでにする事が無く、またすることも出来なかった。
ズドオオオオォォォォォオンン
そんな時、落下音を聞いた。彼女の耳がピクリと反応する。
確か前回は170年前だっけ、その時は落下の衝撃で藻屑になった死体があったっけな。
そんな過去を思い出しながら彼女は立ち上がった。
約170年ぶりのイベントである。見逃さない手はない。
彼女は衣を纏うと入り口の岩をどかす。
3年ぶりの洞窟の外に武者震いしながら彼女は先へ進んだ。急がなければ死喰いネズミに喰われてしまう。
ズドォオオオオオン
その移動中、再び衝撃を感じる。落ちたのでは無く、ぶつかった音だ。
ぶつかってこんな音が出るのはあの『象』ぐらい。だがあの『象』は目を合わせない限り暴れないはずだ。
ーーーーまさか落ちてきた奴が?
だとしてもそれは自殺行為。子供であれば大したことはないが大人であれば彼女でも苦戦する相手だ。
彼女は落ちてきた者が生きていたことに驚きながら象によってイベントが消え去らないことを祈る。
チュドオオォォォォォンン
今度は別の音が聞こえた。それに続いて何かが崩れ落ちた音がする。
倒れたのが象だったとして、音的に子供の象だったらしい。
しかし、子供の象でも倒せるほどのそこそこの実力者。
彼女は未知の人物に興奮を覚えていた。
面白い。掻っ攫って弄ぶも良し、八つ当たりをするのも良し、場合によっては遊んで嬲り殺そう。
彼女は未知の人物に、死んでくれるなよと念を送り、速度を上げた。
そろそろ遭遇するはずだ。どんな奴だろう。確か罠があるのは20階層ぐらいだったはずだ。
そこまで来れる実力者。冒険者か?騎士か?それとももっと強者か?楽しみだ。
そんな時、彼女は足を止める。そして咄嗟に結界を張った。
ーーーー探索魔法か。これを使えるのは魔導師か精霊ぐらい。どちらにせよ期待が高まる。
「良いねぇ!」
そう呟いた彼女は探索魔法が打ち切られたのを確認すると全力でその場所に向かった。
やがて死喰いネズミに喰われた大人の象が見え、一抹の不安がよぎる。
ネズミは厄介だ。仲間で行動し、あらゆる物を喰らい尽くす。魔法にも耐性があり、彼女でも大群相手では遠慮したいほどだ。
そんなネズミを倒せるのは土魚だけ。しかし土魚は数が少ない。弱いのだ。この世界では圧倒的に。
なぜかネズミにだけは強いが。
そんな土魚が出現してくれるのを期待しながら彼女は細長い通路に突っ込む。
ギュンギュン進み、やっとお望みの者を発見した。
見た目は10歳ぐらいの子供。なぜ子供が?とも思ったが年齢を誤魔化せる厄介者もいた、と彼女は思い直しじっくり観察する。
近くには猫型の精霊を発見し、上級精霊だろうと当たりをつけてから、彼らを試したい、と彼女は強く思った。
そんな彼らは土魚に救われたばかりだった。見たところ魔法使いのようでさすがにネズミは辛かったんだろう。
だが彼女は彼らを見て率直に思う。
ーーーー弱すぎる。周囲への警戒もしていない。まだ土魚は下に潜っているぞ?
そんな時、彼女の思惑通り土魚が彼らの下から飛び上がる。
完全に彼らは対応しきれていなかった。
楽しみにしていたディナーに残念に思うと同時に彼女はせっかくのイベントなんだから、と土魚を王術魔法で爆破する。
いきなりの出来事に狼狽える彼らに、彼女は聞こえるよう、そっと呟いた。
「久しぶりの人間.....」
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