上 下
63 / 119
5章 奈落の底の魔法使い

53.期待

しおりを挟む
 深い深い闇に包まれた洞窟。そこに彼女は300年近く暮らしていた。もちろん好き好んで暮らしているわけでも無い。

 そこは"ラグナロクの迷宮"の192階層。なんとか安全にしたその洞窟から一歩踏み出せばS級など目ではないの魔物がウヨウヨしている。さらに抜け出すには迷宮を踏破しなければならない。

 そんな彼女は"来たるべき時が来るまで"住むことを決意したのだ。

 彼女の名はハクリ・デル・ヴァンディルと言った。
 今は絶滅した吸血鬼族の元"王"。
 さらに元七大列強4位であり、その戦闘力は計り知れない。

 そんな彼女でもこの迷宮を踏破することは不可能だった。

 300年間、落とされてから・・・・・・・彼女はずっと1人だったのだ。

 「あーぁ。暇だ。何か起こらないかの?」

 深めにため息をつく。この300年、一番苦痛だったことを問われれば彼女は間違いなく「退屈」と答えるだろう。
 それほどまでにする事が無く、またすることも出来なかった。

 ズドオオオオォォォォォオンン

 そんな時、落下音を聞いた。彼女の耳がピクリと反応する。
 確か前回は170年前だっけ、その時は落下の衝撃で藻屑になった死体があったっけな。
 そんな過去を思い出しながら彼女は立ち上がった。

 約170年ぶりのイベントである。見逃さない手はない。
 彼女はを纏うと入り口の岩をどかす。

 3年ぶりの洞窟の外に武者震いしながら彼女は先へ進んだ。急がなければ死喰いネズミデッドイーターに喰われてしまう。

 ズドォオオオオオン

 その移動中、再び衝撃を感じる。落ちたのでは無く、ぶつかった・・・・・音だ。
 ぶつかってこんな音が出るのはあの『象』ぐらい。だがあの『象』は目を合わせない限り暴れないはずだ。

 ーーーーまさか落ちてきた奴が?

 だとしてもそれは自殺行為。子供であれば大したことはないが大人であれば彼女でも苦戦する相手だ。
 彼女は落ちてきた者が生きていたことに驚きながら象によってイベントが消え去らないことを祈る。

 チュドオオォォォォォンン

 今度は別の音が聞こえた。それに続いて何かが崩れ落ちた音がする。
 倒れたのが象だったとして、音的に子供の象だったらしい。

 しかし、子供の象でも倒せるほどのそこそこの実力者。
 彼女は未知の人物に興奮を覚えていた。

 面白い。掻っ攫って弄ぶも良し、八つ当たりをするのも良し、場合によっては遊んで嬲り殺そう。

 彼女は未知の人物に、死んでくれるなよと念を送り、速度を上げた。
 そろそろ遭遇するはずだ。どんな奴だろう。確か罠があるのは20階層ぐらいだったはずだ。
 そこまで来れる実力者。冒険者か?騎士か?それとももっと強者か?楽しみだ。

 そんな時、彼女は足を止める。そして咄嗟に結界を張った。

 ーーーー探索魔法か。これを使えるのは魔導師か精霊ぐらい。どちらにせよ期待が高まる。

 「良いねぇ!」

 そう呟いた彼女は探索魔法が打ち切られたのを確認すると全力でその場所に向かった。
 やがて死喰いネズミデッドイーターに喰われた大人の象が見え、一抹の不安がよぎる。

 ネズミは厄介だ。仲間で行動し、あらゆる物を喰らい尽くす。魔法にも耐性があり、彼女でも大群相手では遠慮したいほどだ。

 そんなネズミを倒せるのは土魚だけ。しかし土魚は数が少ない。弱いのだ。この世界では圧倒的に。
 なぜかネズミにだけは強いが。

 そんな土魚が出現してくれるのを期待しながら彼女は細長い通路に突っ込む。

 ギュンギュン進み、やっとお望みの者を発見した。

 見た目は10歳ぐらいの子供。なぜ子供が?とも思ったが年齢を誤魔化せる厄介者もいた、と彼女は思い直しじっくり観察する。

 近くには猫型の精霊を発見し、上級精霊だろうと当たりをつけてから、彼らを試したい、と彼女は強く思った。
 
 そんな彼らは土魚に救われたばかりだった。見たところ魔法使いのようでさすがにネズミは辛かったんだろう。
 だが彼女は彼らを見て率直に思う。

ーーーー弱すぎる。周囲への警戒もしていない。まだ土魚は下に潜っているぞ?

 そんな時、彼女の思惑通り土魚が彼らの下から飛び上がる。
 完全に彼らは対応しきれていなかった。

 楽しみにしていたディナーに残念に思うと同時に彼女はせっかくのイベントなんだから、と土魚を王術魔法で爆破する。

 いきなりの出来事に狼狽える彼らに、彼女は聞こえるよう、そっと呟いた。

 「久しぶりの人間.....」

 残念な意味をも込めて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

絆の力-私たち夫婦の愛の物語-

マッシー
恋愛
「絆の力-私たち夫婦の愛の物語-」は、夫と妻の物語です。 彼らはお互いに恋に落ち、一緒に過ごす時間を大切にし、お互いを支えあいました。 彼らは、お互いの絆が深まり、子供を授かった後、幸せな家庭を築きました。 彼らの愛の物語は、何が起ころうとも、お互いを支える力となりました。 この物語は、愛が何よりも大切であり、絆がある限り、どんな困難でも克服できることを示しています。」は、夫と妻の物語です。 彼らはお互いに恋に落ち、一緒に過ごす時間を大切にし、お互いを支えあいました。 彼らは、お互いの絆が深まり、子供を授かった後、幸せな家庭を築きました。 彼らの愛の物語は、何が起ころうとも、お互いを支える力となりました。 この物語は、愛が何よりも大切であり、絆がある限り、どんな困難でも克服できることを示しています。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

処理中です...