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5章 奈落の底の魔法使い

52.討伐

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 ズドドドドドドドドドドドド

後ろから聞こえる、死の足音が。

俺は全力で通路を逆行していた。今ならチーターとでも張り合えそうだ。
火事場の馬鹿力というやつだろう。

 「レイ、頑張れー」

そんな時に腹がたつのがマーブルクオリティ。

 「なんでお前空飛んでんだよ!?」

 「ん?精霊だから」

だったら足止めぐらいしてくれよ、と思うが。しかしこのまま鬼ごっこをしても埒があかない。

俺は"魔装"で体を強化すると一気に踏み込む。そして一歩、また一歩と踏み出した。

加速し、開いた象との差を利用して一気に振り返る。
こいつは中途半端な攻撃じゃ死なない。ならば最大火力で攻撃するのみだ。

使うは"魔導"。
イメージ、イメージするんだ。一点に力を集中させて貫くイメージを。


 「魔槍グングニル!!」

自然と技名はついた。その瞬間、俺のほとんどの魔力と引き換えに一点集中の魔導が飛び立った。
その魔槍は加速すると象の眉間を食い破り、魔槍はそのまま貫通して過ぎ去っていく。

そして目から光を失った象はヨロヨロと倒れこみながら俺の寸前で崩れ去る。
危機一髪だ。

 「あ、危ねえ~」

俺は思いっきりため息をついた。寿命が縮まったぜ全く。
これで生贄問題は解決か。
多分この魔物に生贄されていたんだろう。
ちょっと拍子抜け感はあるが、まあいいさ。

 「それにしてもグングニルってのはちょっと恥ずかしいな」
 「レイのドヤ顔面白かったよ」

マーブルの心を抉る一言も相まって俺はその場に座り込む。いきなり魔力を大量消費したからか目眩が半端ない。

魔物がコイツだけで良かっーーー


 ズゥーーンズゥーーンズゥーーン

俺たちが逃げてきた洞窟から聞こえてくる音は心をも揺さぶる音だった。
それは先ほど聞いた音よりも大きく、恐ろしい。

間違いのない、この象の足音だ。

 「・・もしかしてコイツが生贄の魔物じゃないのか?」

 「みたいだね」

・・・おいおい。マジかよ。こんなのともう一回戦闘出来る魔力はもう無いぜ?

 「ーーしかも一直線にこっち向かってる」

俺はマーブルの言葉にげんなりした。
位置バレしてたらどうしようも無いだろコレ。

 「あ、ちょっと待って。向かってきたやつ死んだ」

 「........ん?死んだ?」

 「何だろう.....小さい、これはネズミ?」

マーブルが目を閉じてウンウン唸りながら気配を感じ取っている。だがあまり当てにならないようだ。
ネズミは無いだろうネズミは。

そんなことを思っていると何やら小さな足音が聞こえてきた。

 「ネズミが来てる。それも....100匹ぐらい」

マーブルは青ざめながら言った。
ネズミ100匹とか誰得だよマジで。

 「よし。マーブル行け。猫だろお前」

 「折角だけど遠慮しとく。ネズミはあまり好きじゃない」

ドラ○もんかお前は。
だがネズミだろ?そんな大したことは無い。100匹でも気持ち悪いぐらいだ。

その足音がだんだん近づいてくる。
そしていよいよ間近に迫ってきた時、目の前の像の死体が一瞬で骨になった。

 「え?」
 
 「「「ギィー!キィー!キィ!」」」

眼下に迫る100匹のネズミ。その口はぷくりと膨らんでいる。
・・・この巨体を一瞬で?

 「灼熱アブレーション!」

咄嗟に放った火魔法で目の前のネズミたちに灼熱の炎が広がる。
しかし途端に火が消えていった。火の中で焼かれていたはずのネズミも無傷だ。

 「まじかよ!?」

ネズミは獲物を見つけたとばかりに俺を見ると次々と襲いかかってくる。
突っ込んでくる速さは弾丸のようだ。

だがそんなネズミも突如床下から現れた茶色の魚によって丸呑みされた。
地面だった場所からいきなり魚が出てきたのだ。それも100匹相当のネズミを丸呑み出来るほど大きな魚が。

 「一体どうなってる!?」

俺も負けじと電撃を魚に繰り出すが、魚は何も感じてないようにネズミを咀嚼する。
そのうち地面に潜り、洞窟はまた静かになった。

 「・・・マーブル、今の何?」

 「・・・さあ?生きのいい魚じゃない?」

生きが良さすぎるだろ。
なんなんだアレは。こんなんじゃ命がいくつあっても駄目だ。
まずいな。圧倒的に足りない。実力が圧倒的に足りないのだ。

 「こんなのどうすれば....」

そう漏らす。
その時、目の前の地面が揺らぎ、さっきの魚が大きく口を開けて飛び込んできた。
ふいをつかれた俺は動けない。

一瞬で魚の口に飲み込まれーーーようとした瞬間、魚は命を散らせた。
内側から爆発したように吹き飛んだのだ。

あまりの一瞬の出来事に口をあんぐりと開ける。呆然とするしかなかった。
一瞬で死にかけ、一瞬で謎の現象に命を救われたのだ。

 「久しぶりの人間....」

唖然とする俺たちに、マーブルが言ったのでもなく俺ももちろん言ってなどいない、小さな声が聞こえた。


その瞬間、俺の意識は謎に満ちたまま刈り取られた。
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