異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし

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4章 ラグナロクの大迷宮

43.不穏

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「なんでドラゴンがこんなとこに.....」
唖然とするルカクさんの口から漏れる。

「間違いねえ!赤竜だ!どうするんだリーダー?」
「ふむ。赤竜か....。そうだの。前衛と中衛は周りの魔物を、わしと後衛は赤竜に付く!」
「「「了解」」」

赤竜。確かSランクの魔物で討伐されたのは過去僅か3体のみの魔物だ。鬼強い、はず。

「・・・火炎龍」
先ほど大量の魔物を塵へと帰した龍が生成される。
真っ赤な鱗を持つ竜対体が燃え盛る龍。
そんな暑苦しい光景が空洞の上層部には広がっていた。

「グオォォォォォオ!!!!」

赤竜が雄叫びを上げ、グゥオオオと息を吸い込む。息を吸い込む音自体が地響きのようだ。
直感的にわかった。てか誰でもわかるだろう。"ブレス"がくる。

赤竜が息を吸い込んだ瞬間、生成し終わった10mはあろうかという火炎龍が赤竜に突っ込んだ。
そして赤竜がそれを見て溜め・・を解いた。

「まずいっ!ブレスだ!」
フレッドの声で我に帰る。
あ、そうか。これ俺たちも巻き添え食らうのか。

水滝ウォーターフール!」

俺の目前に極大の滝を発生させる。これぐらいあれば大丈夫だ。.....多分。
大丈夫じゃなかったら死ぬなこれ。

「グオォォ!!!」
滝に遮られてわからなかったが、赤竜がブレスを吐いたであろうその声が聞こえた瞬間、空洞内の気温が一気に上がった。

視界に赤色が一気に増え、滝が一瞬で蒸発していく。
「ちょっ!水滝ウォーターフール水滝ウォーターフール!」
取り敢えずヤバそうなので追加しておく。
まあ滝作った瞬間蒸発するんだけどね。
なんて言ってる場合じゃない!死ぬっ!

絶対零度アブソリュートゼロ!」

そう唱えた瞬間、体内の魔力が大量に抜けていく。水魔法の派閥系統、氷ーー俺が勝手にそう解釈しているだけだがーーの帝級魔法だ。
つい先日、マーリンに教えてもらったばかりのな。
この魔法を使うと周囲の水蒸気、というかありとあらゆるものが凍る。

実際、今も蒸発しかけていた水滝は瞬間的に凍り、燃え迫っていた炎でさえも凍っている。中々奇異な光景だ。

「ふぅ。あぶね」

額の汗を拭おうとしてーー凍っていることに気がついた。
.......これって俺にも効果及ぶの?
背筋がゾッとした。

「どうなった!?みんな無事か!?」

フレッドの大声が聞こえる。
そうだ。あんな炎、魔法が得意でない前衛に防げるはずがない。いや、フレッドは無事だから大丈夫なのか?

「アドルフとエーミールがまずい!炎を食らってる!」

ガーリスのそんな声が聞こえた。いつもの片言じゃない辺り、よっぽど切羽詰まっているんだろう。
俺も急いで声の元へと走る。

「おい!しっかりしろ!」
そこに着くと2人が横たわっていた。
肌が少し黒ばんで焦げている。炎にやられたのか。
幸い意識はあるようだった。

「ミルフィーユ!早く治癒を!」
「わ、わかってるよ。.......偉大なる治癒の精霊よ、その加護と寵愛を我が手に、目の前の者を救い賜らん、命の躍動を汝の胸に『天光治癒エンジェルヒール』!」

おそらく超級以上の治癒魔法がかけられた、が表面の焦げが多少とれただけで全身の傷は治っていない。

「えっ.....帝級でも治らないなんて....」
「帝級までしか出来ないのか?」
「うん....。それに炎自体に治りにくくする呪いがかかってるみたい」
「......くそっ!なんとかならないのか!」

......帝級でも治らないのか。俺が使える治癒魔法は上級までだ。何もできない。一体どうすれば.....。

「・・・またブレスがくる」

そんな時、フウの無情な声が聞こえた。
どうやらシルクとフウで無傷の赤竜を足止めしていたらしい。
赤竜は相当怒っている様子だった。
再び地響きのような"吸い"が空洞を揺さぶる。

「まずい!次来たら防ぎきれない!」
ルカクさんが悲痛な声を上げる。どうやらさっきはフウとシルク、それにガーリスが皆を守ったらしい。
アドルフとエーミールはそれが届かない遠い場所にいたのだ。

.......くっそ。俺は自分しか守ってないじゃねぇか......。


「来るぞ!」
フレッドが一際大きな声を上げた。覚悟を決めたような声にも聞こえる。
シルクとフウは赤竜を足止めするのに大量に魔力を使っていてとても防げそうじゃない。ガーリスもアドルフとエーミールで手一杯だ。
俺だ。俺しかいないんだ。

「グオォォォォォオ!!!!」

赤竜が"吐いた"。赤竜の口からうねり狂う業火が渦を巻いて迫ってくる。
......くっそ!やってやるよ!

「魔壁!!」

残っていた全ての魔力を使う気持ちで空中に魔壁を作り出す。
一瞬の大量の放出に思わず気を失いそうになるがなんとか踏みとどまった。

赤竜の逆鱗のような業火が魔壁にぶち当たる。ジリジリと強い衝撃が魔壁を押すが、俺も負けじと魔力をどんどん継ぎ足していく。ここで負けたら一生の恥だ!負けるかよ!


そうしてどれぐらい過ぎたかわからない。
気づけばブレスを防ぎきり、ほとんどの魔力を使い果たした衝動で俺はその場に崩れ落ちた。
「守りきった.....!」

「レイ.....お前....!!」
フレッドが歓喜の声を上げる。
「いえ、それよりも赤竜を.....いや、倒せないのか」
倒れこみながら喋る。
もう体が動かない。全部使い切った、って感じだ。
まあまだ赤竜は元気ピンピンに健在しているがな。ほんとあいつどんだけ強いんだよ。
詰んでいる気がするのは俺だけじゃないはずだ。

「いや、あいつはエーミールが復活すれば倒せる。そのためにも、ルカク!お前復活の薬を持っているよな?」
「......あ、ああ。そうだね」

らしくなくぼーっとしていたルカクさんは慌てて背負っていたカバンを開けた。
カバンの中には大量の袋やビン、薬が入っていた。
よく街中で売っている薬や王宮でしか見ない薬まで入っている。さらには北が産地の珍しい袋入りのものまで入っていた。
ここまで集めるのはすごいな。これなら治りそうだ。

ーーーーん?
何か、何か引っかかる。何だ?

そんな俺を尻目にルカクさんは北産地の袋を手にした。あれが復活の薬らしい。

ーーーー北の産地?
そんな言葉どっかでーーーー


『衛兵さんから呼ばれたんです。王様が砂糖を欲しがっていると』

『......そういえば砂糖が珍しい北の辺境の産出だったぐらいですかね?』


ふと甦ったのは事情を聞いたメイドの声。

その瞬間、俺の中で歯車がカチリと合った音がした。
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