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3章 王宮魔法使い

32.世界最強

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甘い香水のような甘美な匂いが鼻をくすぐった。
まぶたを静かに開けると、いつもと同じ天井が見える。天蓋つきのベッドなので布なのだが。
ゆっくりと体を起こすと、優しい日差しが窓から差し込んでいたのが見えた。
いつもと何も変わらない朝だ。
おかしいな。昨日ギルドに行ってからの記憶が曖昧だ。俺ちゃんと帰ったけな?飲み会に行った次の日みたいな感覚だ。

まあいいか。帰れてるんだし。
俺はぐっと伸びをするとため息を吐きながらベッドに手をおろすーーーーー

ムニュッ

とてもベッドの感触には思えない手触りに、首をギギギギギとロボットのように回し、隣を見る。

「はあ?」

そこにいたのは緑色の髪をした可愛らしい女の子。
そう。ギルドで会ったメンヘラ系の幼女だ。
なぜここにいる.....?
あれか?酔っ払って部屋に連れ込んじゃうドラマでみる修羅場のあれか!?
俺まだ10歳なんですけどーー!!!

っと思ったが別に服装の乱れもないしそんな記憶もない。
これはこの子を起こして問いただす必要があーーー
ほほへぇはふひへぇこの手外してえ!」
もう起きていたようだ。
俺の固まっていた手が顔のほっぺを押さえ込んでいたらしい。

幼女はほっぺをさすさすしながらチラッと俺を見た。
そんな幼女にさっそく聴いていく。
「あのーなんでここに?」
俺の問いに幼女は頬を染めた。なんだその思わせぶりの反応は。
「なんでって、君が私を離さなかったから.....」
なにっ!?
「まっっっっったく記憶にないです。人違いではーー?」
「じゃあなんで私がここにいるの?」
いや、俺が聞きてえわ。
「いや、ほんと記憶にないんですが....」
「そんなっ!昨日あれだけ激しくしたのに....!!」
ーーーーーえっ?マジスカ?
「えっ?でもっえっ?いや?」
なにをーーーというのはとても聞けない。
だがな、俺10歳.....

「ぷっ...アハハハハハハハハハ!!!」
俺が落ち込んでいると急に幼女が笑い出した。ほんとになんなんだこの子。

「アハハ。ごめんっ!そんなに間に受けるとは思わなかったからさ」
幼女は腹を抱えながら笑いのこもった声で言った。
なにがなんだがさっぱりわからん.....

「だから君と私はそういうこと・・・・・・を何もしてないって事だよ。それとも今からしてみる?」
「イヤ、イイデス」
「だよねっー!ほんと余りに思い通りにアワアワしてたから吹き出しちゃった。」
今もなお、思い出したのか顔をピクピクと綻ばせる幼女。
ただ俺はひたすらにイラっとした。

「で?結局だれ?」
俺の質問に幼女は一瞬ポカーンとした顔をすると顔の上に電球がピコーンとなった。
「そういえば自己紹介はまだだった・・・・・ね。私はマーリン。世界最強の魔法使いよ!!!」
「へーーーー」
「いや!嘘じゃないから!!」
いや、こんな幼女が世界最強?ありえねえ。それかあれか?ロリ婆か?
「ロリ婆とか失礼だな!こう見えてもまだ250歳なんだぞ!」

………ん?なぜ心の中がーーー
「読めるんだよねー。世界最強だから。」
特別な体質とかかな?こんな幼女が世界最強なわけないし。
「なかなか認めないなー。仕方ない。アブダラカブダラーホイッ!」
幼女がなにかを唱えると同時に幼女の周りに白い煙が纏われた。

煙が晴れた中にいたのはーーーー
「.......まじかよ」
緑色の長髪に大人びた顔立ち、スタイルはスラッとしていて、その胸にはなにかが激しく主張されていた。
そしてなぜか服はピチピチだ。
健全な男の子なら黙って目をそらすだろう。目に毒だからな。

「ーーーどちらさまですか?」
「私マーリン。だいたい25歳ぐらいの時の体だよっ」
「...........うん?」
「世界最強だからこんなこともできるんだよねー。」
ドヤァ、と腕を組み上から自慢気に見下ろす女性。態度と声色そのものはあの幼女だが、うーん。もしかしたらそういう種族なのかもしれない。
「だからっーーーー」

バアーーン!!!

いきなり扉が勢いよく開かれた。
予想外の出来事に俺と謎の女性は呆気にとられる。
入ってきたのは長い銀髪をいつもとは違い、後ろに流し、羽衣的なものを纏う少女だった。

「あ、マーリンさん」
「おー、シル。久しぶりだねー」
「ーーー知り合い?」
シルクと謎の女性は知り合いだったようだ。シルクをシルと愛称で呼んでいるしな。
「うん。レイもマーリンさんと寝室で何やってたの?」
答え次第では2度と関わらない的な眼差しを向けられる俺。向けて欲しいのは俺じゃなく隣の緑色の髪の毛のかたなんですが。

「え、いや寝てたら隣にこの人がいつの間にか居た。」
「え?私を君が連れ込んだんじゃん」
「はあ?」
ふっ、と隣を見るとそいつがニヤニヤと笑っていた。あとでしばこう。
「レイ。とりあえず死んで?」
空気をも凍らすシルクの視線がビンビンと突き刺さる。というか小さい氷のかけらも突き刺さっていた。
「誤解だよ!」
「アハハハハハ。冗談冗談。シルはいっつも真面目すぎだよー。もっとユーモラスにいこゴフッッ!」
俺はシルクからの視線と氷が解けたのを感じ、隣のやつにとりあえず腹パンした。

「説明してもらいましょうか?」
お腹を抱えてうずくまるそいつを見下しながら言い放つ。
「わかった!わかったから怒らないでっ!」
少し涙目になっていた謎の変人マーリンはギブアップを宣告。俺は勝利と潔白をもぎ取った。

「えーっと、今まではかくかくしかじか....」
要約すると、
まずギルドで抱きついた時に麻痺性の魔法をかけ、俺を眠らせる。
そして姿を透明にし、ここまで運んで一緒にベッドに入ったという。
最後に至っては本当にただの変態だ。

「で、何故俺なんですか?」
「面白そうだったから」
きっぱりと答えるマーリン。面白そうの理由でここまでするこの人が怖い。
「というのは冗談で魔力量が凄かったからかなゴフッッ!!」
とりあえずムカついたので、もう一発腹パンしておいた。

「で、シルク。この人結局だれ?」
本人に聞いてもラチがあかないのでシルクに聞く。
「この人は魔法使いのトップ、マーリンさんよ。別名天雲の魔法使い。気分が天気のようにコロコロ変わることからそう言われてるわ。主に悪い意味で」
「最後のいらないっ!」
本当に世界最強だと......!?
「ふっふっふっ!思い知ったか!私の力ぁ!この私こそがーーー」
「それでレイ。今はもう18時よ。仕事は?」
「今起きたから行けませんでした。全てこの人の責任です」
「大魔法使いマーリンーーーって私!?」
「そうね。後で2人とも罰則ね」
「俺もかよ!」
シルクは厳しい目つきで俺と隣の変人マーリンを一瞥すると、明日は来なさいよ、と言い踵を返し部屋から出て行った。

「「・・・・・・・・・・」」

俺の部屋に沈黙が流れる。
「あ、あのーーー」
「カブダラアブダラーホイッ!」
ボヒュボヒュん
空気の抜ける音がして、隣の女性変人幼女変人に戻っていた。
「シルも変わらないなあ。あの真面目さは、わたしゃー苦手だよ。」
「マーリンさんそれで結局何の用です?」
「君もゆとりがないねー」
ちなみに俺はゆとり世代だ。

「まあいいか。魔法には通常魔法と治癒魔法、召喚ー特殊とあるじゃん?」
「ありますね」
「君ももう全部使えるでしょ?」
「まあ、多少なら」
召喚は使えないが。
「そこでね、いいお知らせ!君に五つ目の魔法を教えてあげる!その名も.....」
そこで言葉を切り、ニヤッと笑うマーリン。大変うっとうしい。

「その名も"魔導"!」
「魔導?そんなの聞いたこともないんですが?」
「まあ、認知してるのはトップクラスの実力者だけだからねー。どう?興味ある?」
ない、といえば嘘になる。
正直興味ありありだ。認知されていない特別な魔法?これぞ男心をくすぐるファンタジー!って感じだ。

「あり.........ます」
目の前のドヤ顔が腹立たしすぎて素直に答えるのが癪になってくる。
「ふふふ。じゃあ特別に教えてあげるよー。仕方ないなぁーーー」
ニヤニヤが猛烈に腹たつが、俺よ、ここは我慢の時だ。腹パンして一本背負いしたい衝動を抑えるんだ俺!

「それじゃー、一回見せてあげるよ。」

俺は特別な魔法と言ってもなめていた。
少し違うだけで、通常魔法とそんな変わりはないだろうと。
しかし、その日俺はとんでもないものを見ることになったのだった。




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