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2章 魔法使いと戦争

15.デッドポイント

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 「な、なんでこんな所にデッドポイントが!!」

 騎士の一人が叫ぶ。
 そうだ。まだ森の中層にも入っていない。
 出会うはずが無かった。出会う準備もしていなかった。
 しかし『デッドポイント』と呼ばれるその大蛇は完全に臨戦態勢に入っていた。

 「まずい、みんな逃げ——」

 ドシュ。
 何かが高速で繰り出されると、守る暇もなくそれは騎士の胸に大穴が開く。
 貫いていたのは大蛇の鋭い尻尾だった。

 「ガハッ」

 貫かれた騎士は、目に力を失いそのまま息絶えた。

 突然のことに頭が追いつかない。
 2人が死んだ。
 ついさっきまで軽口を叩いていたベルディエさんまで———

 「おい!逃げるぞ!」

 残り3人になった今、戦うのは分が悪すぎる。
 そう判断したのか騎士は後ずさる。
 が、あっという間に回り込まれる。

 ダメだ。こいつからは逃げれない。動きが早すぎる。

 「くっそ!!戦うしかねえってか!」

 騎士は諦めて剣を構えた。
 もう戦うしか無い!

 「投石岩フロンドロック!」

 ノータイムで最大限に魔力を込め、俺は発射する。
 ゴブリンならば即死する攻撃。
 しかし大蛇は華麗にそれを避けると俺に飛びかかってきた。

 「うっ『植物操作プラントオペレーション』!!」

 蔓が大蛇に絡みつき、その動きを止めようと———止まらなかった。
 ブチブチっ蔓がちぎられる音がする。
 大蛇は蚊でも払っているかのように突き進んでくる。
 
 まずい。
 すんでのところで俺は風で横っとびし、死を逃れた。
 心臓が飛び跳ねるように痛い。

 「オラァァ!」

 横から騎士が剣を大蛇に突き立てる。

 ギィィイイイン
 と鎧に弾かれた音が弾け飛んだ。

 「なぜ刺さらねぇ!?」

 騎士は後ろに飛ぶと再び構える。
 くっ、援護したいが距離が近すぎて大きな魔法は使えない。
 他に何かないのか。

 「風波ラフ!!」

 風の刃が大蛇を切り裂こうとする。

 ギィィイイイン
 再び弾かれた。
 硬すぎる。
 一点突破の攻撃は交わされ、範囲攻撃になるとダメージが通らない。
 どうすればいいんだよ。

 「氷柱アイシクル!!」

 今度は氷の剣だ。

 が再び甲高い音が鳴る。
 氷の剣でさえ弾かれ貫くことは無かった。
 他にはなんだ?
 使い勝手が悪くても良い。今だけ通用するような魔法は...。

 取り敢えず風で後ろに吹っ飛び距離をとる。
 騎士が果敢に2人がかりで挑んでいるが刃は通りそうにない。
 このままでは全滅も時間の問題だった。

 「練成銀砲アゾットガン!」

 土よりも硬かったらどうだ!
 威力も照準も曖昧で使いにくい魔法だが硬さなら飛び級だ。
 最大威力で発射し、とんでもないスピードで飛んでいく。

 またしてもギィィイイイン
 と鳴ると思いきや練成銀砲は大蛇の尻尾に抉りこんだ。

 『シャアアアア!!』

 大蛇の雄叫びが鳴り響く。

 効いている!
 いける!この魔法だ!

 「練成ぎ——」

 その瞬間、俺はとてつもない衝撃を食らったかと思うと、木に叩きつけられた。
 目にも留まらぬ早さで尻尾で殴られたらしい。元俺がいたところには血を垂らした白い尻尾があった。

 「ぐっっ」

 そのまま倒れこむ。視界がグラグラする。
 頭が割れそうだ。肋骨も数本確実に折れているだろう。
 感じたことのない痛み。あまりの痛さに気を失いそうだった。

 「くっ......『そよ風ゼフィロス』」

 そよ風を起こして爆発しそうな脈を整える。
 体の感覚が麻痺して熱い。

 ゆっくり立ち上がると激烈な痛みが襲った。

 「あああああぁ」

 悲鳴でもあげなければ立ち上がれなかった。
 早く治さなければ。
 いや、大蛇を倒すのが先だ。
 もう騎士たちも満身創痍で戦っている。
 ここまでくれば、アレを出すしかない。

「離れてください!!」

 大声でそう言うと、とある魔法を出す準備をする。
 これは使いたく無かった。なぜなら未完成だからだ。
 未完成の魔法は暴発すると使用者どころか周囲の人間の命まで危ない。
 しかしそんなことを言ってられる状況では無かった。
 一か八か。食うか食われるかの瀬戸際だった。

 「わかった!!」

 騎士たちは素早く下がると威嚇しながら大蛇に向かい合う。
 大蛇は先程のダメージが尾を引いているようで無理に追撃しようとはしていなかった。
 つまり、千載一遇のチャンスだった。

 成功するかは分からない。だがここで決めなければならない。
 俺は渾身の魔力を込めると叫んだ。

 「いけっっ!!『雷撃トニトルスストローク』!!」

 ゴッッッッ
 という一瞬の音とともに最大の魔力がこもった輝く閃光の塊が大蛇を襲った。

 ドガァァァアア
 とくぐもった地響きを感じながら大蛇の行方を探る。
 魔法は成功した。今までにないぐらい成功した。
 この魔法が現時点の俺の最高火力だ。
 これでも死なないならもう打つ手がない。

 モクモクと舞い散る土埃が静まったころ、大蛇の姿が見えた。

 俺の想いも届かず大蛇は死んでいなかった。
 大蛇はゆっくり動き出すとこちらに向かって動き出す。

 死ななかったか。終わったな。
 もはや逃げる体力も残っていない。
 俺は目をつぶった。

 しかし、俺が死ぬことは無かった。
 恐る恐る目を開けると、そこには黒焦げで動かなくなった大蛇の姿があった。
 さっきのは最後の抵抗だったのか。

 俺はほっとすると一気に腰が抜けたように座り込んでしまった。

 「ほ、本当に倒したのか.....?」
 「...おそらく」
 「な、なんてことだ!A級を倒すなんて!い、いやそれより怪我は大丈夫か!?」
 「少し、いやだいぶやばいです」

 ホッとした途端に体の節々の激痛に気付く。
 正直踏ん張っていなければ意識がなくなりそうだ。

 俺は騎士に治癒魔法をかけてもらうと大蛇を観察した。
 全長は10mもあろうかという大きさ。
 白い鱗は黒焦げになり、嘔吐を誘うような気持ち悪い臭いがする。

 激しい戦いだった。始めて死にそうな思いをした。
 多少魔法が使えてもこんなにも危険なのか。

 それに2人死んだ。
 俺がもっと強かったら、彼らは死ななかったのかもしれない。
 傲慢だろうか。
 だが、多少魔法が使えたことで天狗になっていたのは間違いなかった。

 「ベルディエ、ドラン.....」

 騎士が悲しそうに呟いた。
 今まで横にいたはずの仲間。その姿が今は地面に横になっている。
 それは俺たちの心に重くのしかかり虚無感を生み出していた。
 デッドポイントを討伐したから何だというのだろうか。
 人が死んだ。それは変わらない。

 しかしいつまでもこうしてはいられなかった。

 「....帰ろう」
 「あぁそうだな」

 この世界では死んだ人間の魂が困らないように、肉体をその場で処理する習慣がある。
 俺たちは立ち上がると死んだ2人を丁寧に埋葬し、来た道を戻り始めた。



      ーーーーーーーーーー



 皆、満身創痍の中1時間ほど経っただろうか。
 ようやく城が見えるかという時、俺たちは気がついてしまった。

 「なっっ」
 「な、なんてことだ」
 「何が...起こって...」

 口々につぶやく驚きの声。

 その元となる城にはある異変が生じていた。

 「城が.....燃えている....!?」
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