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2章 魔法使いと戦争

14.魔物狩り

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 朝っぱら、もやがかかったように見通しが悪い野原を1人、俺は歩いていた。
 宣言通り、騎士が抜けたウルスア領を守るための見回りだ。

 先日、ガド含め半数以上の騎士たちが戦地へと旅立った。
 彼らとの付き合いは短いが、同じ屋敷で過ごした思い出は深い。
 あの中で何人が帰って来れるのか。
 そう考えると気持ちは重かった。

 それを振り払うためにも、そして彼らが帰ってきた時に故郷が魔物に踏み荒らされていないためにも、俺は俺の仕事をする必要があるだろう。

 まあしかし。
 この野原になんか出るのか、と聞かれればぶっちゃけ何も出ない。暇である。
 騎士団員さんの話によると、時々E級程度の魔物が出る程度だ。
 E級とは腕っ節の強い大人が1人で素手で勝てるレベルらしい。
 まあ雑魚だ。
 ゴブリンとかスライムとか、RPGで言えば金策にも経験値にもならないモンスターである。

 「お~~い!レイよ~!」

 この声は騎士団員のベルディエさんだ。
 優しい性格で人殺しどころかアリを踏むにも躊躇しそうな人である。
 そんなおかげで戦地にいかなくて済んだのだが。

 「どうかしました?」
 「いや、領主様からの呼び出しだよ。また何かやったのかい?」
 「またって何ですか。一回もそんな理由で呼ばれてませんよ」
 「ははは、ならいいがね」

 俺ってそんなイメージだったの?
 まあどうでもいいことなら良いが。



 と思ってたら本当に大したことでは無かった。
 領主様の話をまとめると、
 騎士団は1ヶ月に1回程、森の魔物を退治しに行っている。しかし戦争で騎士団がいないので魔物が増えてきて困った。だから残りの騎士団と君でやってくれ
 超級だからいけるよね?
 ガドと比べれば君は何もしてないもんね?

 と絶妙に煽られた。
 後で何となく知ったことだが、親友のガドが俺の身代わりになったせいで領主は内心穏やかではなかったらしい。
 
 ・・・夜道には気をつけよう。

 ともかく、そんな理由で魔物討伐に赴くことになった。
 と言っても森の魔物はD級程度の魔物しか出ないらしいので楽勝なんだが。
 野原とさして変わる事はないだろう。

 初めての魔物狩りだし楽しそうだ。

 そして狩りに行くにあたって諸注意を受けた。
 動物は殺してはいけない。森はできるだけ壊さない。デッドポイントと呼ばれるA級に会ったらすぐ逃げる。
 と言ったものだ。
 森は重要な資源だからな。許可なき侵入者が騎士に捕まり処罰を受けるのを何回も見た。
 魔物に闊歩されるのも戦闘で破壊されるのも困るんだろう。

 ところで最後の注意がフラグにしか聞こえないのは気のせいだろうか。
 まあA級はめったに現れないから大丈夫らしいしな。
 フラグにしか聞こえ....いや、気のせいだろう。

 俺は黄色のローブ、ブレスレットを付けると準備を整え終わった。

 さぁ!初めての魔物狩りだ!


      ーーーーーーーーー


 ガサガサガサッ!

 「こっちか!」

 ピョコン。
 と出てきたのはウサギだった。

 森に入って10分。
 今の所俺がビビりまくってるだけで魔物の姿は影も形も見えない。
 森は思った以上に大変だった。
 視界が悪い。音が多い。そして暗い。
 いつ何が現れるか気が気でないのだ。

 そんな俺をベルディエさんが微笑ましい目で見ている。
 これが経験者の貫禄と言うやつか。
 恥ずかしいからやめて下さい。

 今日、この森に入ったのは俺を合わせ、計5人だ。
 俺と騎士団4人。
 そんな少人数でも大丈夫らしい。

 「それにしても案外いないんですね。もっといると思ってました。」
 「うーーん。ここまでいないのは予想外だな。まあ居ないほうが良いに限るんだけど」

 あれ?ほんとはもっといるのか。
 何だか嫌な予感がするな。

 ガサッ!

 と思った矢先、急に茂みが揺れた。
 またウサギだろうーーと思ったのもつかの間現れたのは緑色の小柄なピッコ○みたいな生物。
 お察しの通りゴブリンだった。

 「ゴブリンだ!焦ることはない。確実に仕留めろ!」

 騎士の方からのアドバイス。
 俺は無詠唱で中級然魔法『投石岩フロンドロック』を目の前に作り出し、発射した。

 投石岩フロンドロックはそのまま一直線に飛び、ミニピッコ○の胸に突き刺さり、貫通して飛んでいく。
 緑の血がドボっと溢れる。
 グロいが緑なので意外と気持ち悪さはそこまで感じなかった。

 「ギョエエエ!!」

 ゴブリンは雄叫びをあげるとそのままパタンと倒れ、2度と動くことはなかった。
 よ、弱い。
 攻撃は避けないのか。
 なんか弱すぎて逆にびっくりしたぞ。

 「ゴブリンってあんなに弱いんですか?」
 「ああ、雑魚だ
 ———だが」

 らしいね。
 なんて思ってたら騎士の方がやけにピリピリしていた。

「どうしたんですか?」
「....ここからだ。さっきの雄叫びを聞いて集まってくるぞ。注意しろ」

 ゾンビ?

 そしてその言葉の通り、奴らは一斉にやってきた。

 「ギィィイイ!!」
 「!!?」

 突然の高音に驚いて振り返ると、ゴブリンが僅か数メートル先から飛びかかってきていた。

 まずい。
 焦る。
 落ち着け。まずは素数を数えるんだ...ってそれどころじゃねえ。
 俺は再び投石岩フロンドロックを作り出すと打ち込む。
 投石岩はゴブリンを貫通すると、ゴブリンは吹っ飛んで横たわる。
 ・・・やったか?

 ・・・やったらしい。
 危なかった。

 「ギョエエエ!!」

 次は左か。俺は左手を左に向けると魔法を放つ。

 「泥波マッドウェーブ!」

 地面の土が盛り上がり土の波ができる。
 それはゴブリンを飲み込むと固まり、窒息死させた。

 俺は左のゴブリンを倒したところで周りを見渡そうと

 「ギャッ!!」
 「うっ!?」

 ———したところで吹っ飛んだ。

 尻から着地する。骨がゴツンと痛む。
 どうやらゴブリンにタックルを見舞われたらしかった。油断していた。
 もし武器を振われていたと思うと....。
 ゾクっとする。
 一体何体いるんだ?

 「くっそ!!」

 ゴブリンはそのまま俺の方へ向かってくる。
 俺は体勢を立て直すとそのまま魔法を放った。

 「植物操作プラントオペレーション!」

 地面から這い上がる木の蔓がゴブリンの足に巻きつく。
 その間に俺は投石岩を作り出し、またゴブリンを一体葬った。
 息を整えて、周りを確認すると俺は騎士団員達と離れて戦っていたようだ。
 彼らは十数匹のゴブリンを一度に相手にしているのが見えた。
 手慣れている。
 が、楽そうには見えない。
 加勢に行かねば。

 俺は走り出すと同時に魔法を放つ。

 「風波ラフ!!」

 途端に風の刃が数匹のゴブリンを切り裂いた。
 ゴブリン相手だと小回りが効く魔法が良いのかもしれない。色々試してみよう。
 ゴブリンは後8匹ぐらいか。

 走りながら再び魔法を放つ。

 「氷柱アイシクル!!」

 水魔法を生み出し、つららがゴブリンを串刺しにする。

 「ギョエエエ!??」

 ゴブリンは大半の仲間がやられたのを知ると、武器も放り出し一目散に逃げ出した。

 「逃がすか!『氷結領域コンゲラートリージョン』!!」

 上級魔法を使う。対多人数相手には範囲魔法。
 理論では知っているのと実践で使うのは別だと実感する。
 パキパキっと最後のゴブリンが凍りつくすのを見届けた後、俺は周りを見渡した。

 側には大量のゴブリンの亡骸。
 俺が3匹殺している間に騎士達は10匹相当殺していたらしい。
 流石に大したもんだ。

 「うむ。こんなものか。レイもよくやった。実に手っ取り早かった」
 「いえいえ。そんなことないですよ」

 だって雑魚だしな。一撃くらったが。


 さらに森の奥に進むとゴブリンではなくウルフも出てきたが敵じゃなかった。
 しかしそいつらは不可解なことにチームを組んで襲ってくる。
 魔物に知能はほとんど無いはずなのに。

 「.......おかしいな」
 「何がですか?」
 「奴らは森の奥の何かを守るように陣形を組んでいるように見える」

 嫌な予感がする。
 魔物のボスでもいるんだろうか。
 ボス、というとガドが戦っていた大猿ゴリラがそうらしい。c級でボス。
 単体はともかく全員で戦えば怪我なく討ち取れるだろう。

「まあそろそろ森の奥だし、もう少し進んでみよう。危なそうだったら引き返せば———あ?」

 ドシュ。

 「え?」

 鈍い音がした。
 言葉を発していたベルディエさんの首が弾け飛んだ。
 首があった場所には鋭利な刃物、いや尻尾・・があった。
 そのままドサリとベルディエさんの体が崩れ落ちる。

 「......え?」

 何が起きたのかわからない。
 なぜいきなり尻尾が出てきた?
 なんでベルディエさんが死んで———

 「まずい!!距離を取れ!!」

 ハッとその声で我に返った。
 風を起こし飛ぶように後ろへ下がる。

 ドスッ
 俺がいた場所には鋭利な尻尾が再び突き刺さっていた。

 「なんだ!?何が現れたんだ!?」

 騎士が警戒しながら怒声を発する。

 そこに現れたのは白い鱗を纏った大蛇。
 デッドポイントだった。
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