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第七章 盛夏の逃げ水
第百三十八話 盛夏の逃げ水(3)
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せっかくザグリーがいろいろと教えてくれたが、エリッツの必要な情報はなかった。マリルはどうやら長らく役所には出勤してきていないようだ。見回りのシフトなどにも名前がなく家庭の事情があると聞いていると言っていた。
そもそも忙しい中、時間を見つけてまでなぜ役所に出勤していたのだろうか。
そして残念ながらゼインのこともわからないそうだ。ゼインはパーシーの友達ということで名前はよく聞くが顔はうろ覚えだという。ザグリーの知る限りゼインが役所に来たこともないらしい。
パーシーに会えればもう少し情報が得られるかもしれないが、可能性としてはかなり低くなる。
早くも手詰まりになってしまった。やはりレジス城下を歩き回るしかないのだろうか。ゼインがレジス城下にいるとしても当然動き回っているのだから、運が悪ければ行き違いを繰りかえしてずっと歩き回ることになるだろう。それによく考えるとゼインからマリルにすんなりと繋がる確証もない。
エリッツは南門付近の大通りをとぼとぼと歩いていた。日が暮れてきて人が少しずつ減っているが、夜の店などへ向かう方角にはまだたくさんの人が歩いている。
リファの店に行ってみるか。
エリッツは立ち止まって内ポケットを探る。かろうじて着かえてきたくらいでお金は昼食代程度しか入っていない。リファの店に行っても情報はただではもらえないのだ。
イゴルデの方がいいかもしれない。
飲食店が多く軒を連ねている方へと足を向けた瞬間――。
「あれ、今の」
背格好がゼインに似ている人を見た気がする。後ろ姿なので別人かもしれないが、ひょろりと高い背に赤毛であった。南門からの目抜き通りを小走りで駆けている。エリッツもあわてて走り出した。
「あ、すみません」
田舎育ちのエリッツは人通りの多い中を走るのが下手だ。「逃げる」のであればともかく「追う」のは特に難しい。人にぶつかりそうになりながら、もたもたと進んでいるうちに、どんどん離され、とうとう人混みで見えなくなってしまった。
だがここであきらめるわけにはいかない。
エリッツはその人物が向かった方角をしらみ潰しに探してみることにした。ただ通り沿いのすべての店に入って奥までくまなく探すなどはさすがにできない。店を入口から確認したり、細い路地をのぞきこんだり、できることは限られる。それでも見失ったのはついさっきのことだ。急げば見つかるかもしれない。
だがエリッツは忘れていた。間諜の関係者を追い回すものではないのだ。
「はい、誰だ?」
飲食店の多い通路を抜けて夜の店が立ち並ぶ一角の細い路地をのぞきこんだ瞬間、素早く背後からとらえられる。のど元に刃物を突き付けられているような感触があった。
またこれだ。
学習しないエリッツは以前と同じ状況に追い込まれていた。だが声で危険がないことがわかる。
「ゼインさん、おれです」
「お前か。ばたばたと下手くそな尾行しやがって。何のつもりだ」
追いかけただけで尾行したつもりはなかったのだが。しかしゼインは放してくれない。
「マリルさんを探しているんです」
ようやくゼインはエリッツを解放してくれる。
「ちょっと急いでるんだけど。それでマリルさんが何?」
めずらしく本当に忙しそうだ。いつものようにしゃべり散らしてこない。通りを照らしているランプの光に浮きあがるゼインの顔は何だか疲れているように見えた。
「マリルさんに、ちょっと、その、相談が……」
ゼインは深くため息をついて手のひらをエリッツにさし出した。
「え?」
「上司からの書状なり何なりないのか? いち事務官のお前が直接間諜の指揮官に会ってどうするつもりだ」
その上司が失踪中であることはマリル以外には言うことはできない。しかも緊急事態でラヴォート殿下からの指示も口頭によるものだし、殿下は指揮官に指示ができる立場にないと言っていた。マリルはエリッツの「お願い」を聞き入れる根拠はないことになる。
とにかくマリルに会わないことには始まらない。この状況を突破するためゼインに話すくらいは問題ないだろう。
「実はですね――」
エリッツが口を開きかけたとき、いつも通りの大仰な動作でゼインがそれをさえぎった。
「いや、待て。厄介事の臭いがする」
「厄介事ではあるんですけど、とりあえず話だけでも聞いてください。ゼインさんじゃなくてマリルさんに相談しないといけないんです」
「今は無理だ。ウィンレイク指揮官はまったく、これっぽっちも動けない。びくともしない。上司にそう報告しろ」
「えー! 何でですか。助けてくださいよ」
とりすがるエリッツをゼインは押しのけて路地から立ち去ろうとする。
「悪く思うな。無理なものは無理だ。もう本当に無理なんだ。出直せ」
あわてて追いかけようとゼインを追って路地を出るが、この辺りは夜になるとさらに人出が増えてくる。これでは先ほどの二の舞だ。必死に人混みをかき分けて追いかけるが、やはり見失ってしまった。
ゼインさえ見つければとりあえず先に進めると考えていたが、まさか話すら聞いてもらえないとは。エリッツはしばらくその場に立ちつくした。
すでに辺りは夜である。客引きの女性の嬌声や遠くで喧嘩が勃発しているらしき怒声、すでに酔った人々の大きな話し声などがエリッツを通過してゆく。
どうしよう。
もう直接マリルに当たるしか方法はない。だがあのゼインの様子では話を聞く余裕すらない状況のようだ。聞いてもらえないにしてもとりあえずマリルに会える方法はないものか。
ふとエリッツは森の家のことを思い出した。どういうわけかあそこには誰かが「留守番」をするルールになっているらしい。しかももともとはマリルの実家だという。そこに誰かがいればつないでくれる可能性もゼロではない。ただし知り合いのゼインですらあの反応だ。エリッツが相当うまく事情を話さないと取り次いでもらえないだろう。それどころか下手をしたら不審な侵入者だと思われて攻撃されるかもしれない。
「――ってぇ。なんだ、てめぇは。邪魔だ」
往来でぐじぐじと考え込んでいたら、背後から酔っ払いらしき人に激突された。
このままここにいても仕方ない。今からだと深夜になってしまうが、森の家に行ってみるしかない。
人混みの中でなければエリッツの足は速い。昼から半日街をうろうろして疲れてはいたが、今日以上に動き回った経験が何度かある。それに寮に戻ってゆっくり休んでまた明日というほどのんびりもしていられない。
暗い森の中を走るのは危険で、エリッツはイゴルデに立ち寄りランプを借りて走っていた。走る必要はないかもしれないが、夜の森は想像以上に恐ろしく早歩きから小走り、やがて駆け足になってしまっていた。早く人のいるあの家にたどり着きたい。
しかしもしも誰もいなかったら。誰かいても入れてもらえなかったら。この道を再度街へと駆け戻るはめになるかもしれない。想像するだけでぞっとする。
だがそれはとりあえず杞憂に終わった。深い木々の間に隠れるように立っている森の家には灯りがともっていた。話のわかる人がいるのかどうか不安だかここまで来たらやるしかない。
エリッツは緊張しながら扉をたたいた。
「夜分すみません。王命執行主席補佐官相談役の事務官のエリッツ・グーデンバルドです」
いきなり攻撃されたりしないように舌を噛みそうになりながらも名乗り、もう一度扉を叩く。しばらくして扉の前に人の気配を感じた。向こうもこちらの様子をうかがっているようだ。
「あの――」
エリッツがさらに言葉を連ねようとするのをさえぎるように扉が開いた。
「お前、案外しつこいな」
極度に緊張していたエリッツはその顔を見てくずれ落ちそうになるほどほっとした。しかし直後に怒りがこみ上げる。
「ゼインさん、忙しいって言って留守番じゃないですか。留守番っていつも絵をかいたり、好きな雑誌とか演劇のパンフレットとか見てるだけじゃないですか。ひどいです。ひどいです」
エリッツがどんな気持ちでここまで来たのか。臆病なエリッツが夜の森を一人で走ってきたのだ。
「静かにしろ。俺は忙しいとは一言も言ってない。言ったのは『急いでいる』と『ウィンレイク指揮官は動けない』の二点だけだ」
「そんなの揚げ足取りです。ひどいです。真っ暗だったんですよ。怖かった……」
目尻に涙をためるエリッツを見て、ゼインは大仰にため息をつく。
「まぁ、入れ」とエリッツを家に入れてくれた。テーブルには何も置かれておらず、もしかして本当に仕事をしていてエリッツが扉をたたいたときに片づけたのだろうか。
ゼインが温かいハーブティーを出してくれた。そういえば昼から何も食べたり飲んだりしていなかった。お茶を一口飲むと、ほっとして涙が出そうになる。だがほっとしている場合ではない。
「ゼインさん、あのですね――」
「あー、待った。大きな声出すなって。――というか、何も言うな」
「何でですか!」
「さっき話した通りだ。お前、声が大きい」
なぜ先ほどから声の大きさを注意されているのだろう。ハッとなってエリッツは耳をすませた。
人の気配を感じる。
エリッツが自室代わりに使わせてもらっていた部屋だ。
「誰かいるんですか」
ゼインは何ともいえない疲れた表情でゆっくりと首を振る。否定とも肯定ともわからないが、とにかくゼインにとって望ましい状況ではないようだ。
「もう何も言うな。あっちで寝て朝帰れ」
前にシェイルが使っていた書斎のような部屋をさす。
「そういうわけにはいかない事情があるんですよ。お願いですから話を――」
ドンと重い音が響いた。
この音は――エリッツの記憶が確かならベッドから落ちた音だ。あの部屋のベッドはわりと小さくてたまに落ちてしまうのだ。
反射的にエリッツはその部屋の扉を開けてしまった。助け起こしてあげるべきだと思ってしまったわけだが、即座に後悔した。これは、見てはいけない状況だった、かもしれない。
「ゼインさん……職場に女の人を連れ込んでたんですか」
そもそも忙しい中、時間を見つけてまでなぜ役所に出勤していたのだろうか。
そして残念ながらゼインのこともわからないそうだ。ゼインはパーシーの友達ということで名前はよく聞くが顔はうろ覚えだという。ザグリーの知る限りゼインが役所に来たこともないらしい。
パーシーに会えればもう少し情報が得られるかもしれないが、可能性としてはかなり低くなる。
早くも手詰まりになってしまった。やはりレジス城下を歩き回るしかないのだろうか。ゼインがレジス城下にいるとしても当然動き回っているのだから、運が悪ければ行き違いを繰りかえしてずっと歩き回ることになるだろう。それによく考えるとゼインからマリルにすんなりと繋がる確証もない。
エリッツは南門付近の大通りをとぼとぼと歩いていた。日が暮れてきて人が少しずつ減っているが、夜の店などへ向かう方角にはまだたくさんの人が歩いている。
リファの店に行ってみるか。
エリッツは立ち止まって内ポケットを探る。かろうじて着かえてきたくらいでお金は昼食代程度しか入っていない。リファの店に行っても情報はただではもらえないのだ。
イゴルデの方がいいかもしれない。
飲食店が多く軒を連ねている方へと足を向けた瞬間――。
「あれ、今の」
背格好がゼインに似ている人を見た気がする。後ろ姿なので別人かもしれないが、ひょろりと高い背に赤毛であった。南門からの目抜き通りを小走りで駆けている。エリッツもあわてて走り出した。
「あ、すみません」
田舎育ちのエリッツは人通りの多い中を走るのが下手だ。「逃げる」のであればともかく「追う」のは特に難しい。人にぶつかりそうになりながら、もたもたと進んでいるうちに、どんどん離され、とうとう人混みで見えなくなってしまった。
だがここであきらめるわけにはいかない。
エリッツはその人物が向かった方角をしらみ潰しに探してみることにした。ただ通り沿いのすべての店に入って奥までくまなく探すなどはさすがにできない。店を入口から確認したり、細い路地をのぞきこんだり、できることは限られる。それでも見失ったのはついさっきのことだ。急げば見つかるかもしれない。
だがエリッツは忘れていた。間諜の関係者を追い回すものではないのだ。
「はい、誰だ?」
飲食店の多い通路を抜けて夜の店が立ち並ぶ一角の細い路地をのぞきこんだ瞬間、素早く背後からとらえられる。のど元に刃物を突き付けられているような感触があった。
またこれだ。
学習しないエリッツは以前と同じ状況に追い込まれていた。だが声で危険がないことがわかる。
「ゼインさん、おれです」
「お前か。ばたばたと下手くそな尾行しやがって。何のつもりだ」
追いかけただけで尾行したつもりはなかったのだが。しかしゼインは放してくれない。
「マリルさんを探しているんです」
ようやくゼインはエリッツを解放してくれる。
「ちょっと急いでるんだけど。それでマリルさんが何?」
めずらしく本当に忙しそうだ。いつものようにしゃべり散らしてこない。通りを照らしているランプの光に浮きあがるゼインの顔は何だか疲れているように見えた。
「マリルさんに、ちょっと、その、相談が……」
ゼインは深くため息をついて手のひらをエリッツにさし出した。
「え?」
「上司からの書状なり何なりないのか? いち事務官のお前が直接間諜の指揮官に会ってどうするつもりだ」
その上司が失踪中であることはマリル以外には言うことはできない。しかも緊急事態でラヴォート殿下からの指示も口頭によるものだし、殿下は指揮官に指示ができる立場にないと言っていた。マリルはエリッツの「お願い」を聞き入れる根拠はないことになる。
とにかくマリルに会わないことには始まらない。この状況を突破するためゼインに話すくらいは問題ないだろう。
「実はですね――」
エリッツが口を開きかけたとき、いつも通りの大仰な動作でゼインがそれをさえぎった。
「いや、待て。厄介事の臭いがする」
「厄介事ではあるんですけど、とりあえず話だけでも聞いてください。ゼインさんじゃなくてマリルさんに相談しないといけないんです」
「今は無理だ。ウィンレイク指揮官はまったく、これっぽっちも動けない。びくともしない。上司にそう報告しろ」
「えー! 何でですか。助けてくださいよ」
とりすがるエリッツをゼインは押しのけて路地から立ち去ろうとする。
「悪く思うな。無理なものは無理だ。もう本当に無理なんだ。出直せ」
あわてて追いかけようとゼインを追って路地を出るが、この辺りは夜になるとさらに人出が増えてくる。これでは先ほどの二の舞だ。必死に人混みをかき分けて追いかけるが、やはり見失ってしまった。
ゼインさえ見つければとりあえず先に進めると考えていたが、まさか話すら聞いてもらえないとは。エリッツはしばらくその場に立ちつくした。
すでに辺りは夜である。客引きの女性の嬌声や遠くで喧嘩が勃発しているらしき怒声、すでに酔った人々の大きな話し声などがエリッツを通過してゆく。
どうしよう。
もう直接マリルに当たるしか方法はない。だがあのゼインの様子では話を聞く余裕すらない状況のようだ。聞いてもらえないにしてもとりあえずマリルに会える方法はないものか。
ふとエリッツは森の家のことを思い出した。どういうわけかあそこには誰かが「留守番」をするルールになっているらしい。しかももともとはマリルの実家だという。そこに誰かがいればつないでくれる可能性もゼロではない。ただし知り合いのゼインですらあの反応だ。エリッツが相当うまく事情を話さないと取り次いでもらえないだろう。それどころか下手をしたら不審な侵入者だと思われて攻撃されるかもしれない。
「――ってぇ。なんだ、てめぇは。邪魔だ」
往来でぐじぐじと考え込んでいたら、背後から酔っ払いらしき人に激突された。
このままここにいても仕方ない。今からだと深夜になってしまうが、森の家に行ってみるしかない。
人混みの中でなければエリッツの足は速い。昼から半日街をうろうろして疲れてはいたが、今日以上に動き回った経験が何度かある。それに寮に戻ってゆっくり休んでまた明日というほどのんびりもしていられない。
暗い森の中を走るのは危険で、エリッツはイゴルデに立ち寄りランプを借りて走っていた。走る必要はないかもしれないが、夜の森は想像以上に恐ろしく早歩きから小走り、やがて駆け足になってしまっていた。早く人のいるあの家にたどり着きたい。
しかしもしも誰もいなかったら。誰かいても入れてもらえなかったら。この道を再度街へと駆け戻るはめになるかもしれない。想像するだけでぞっとする。
だがそれはとりあえず杞憂に終わった。深い木々の間に隠れるように立っている森の家には灯りがともっていた。話のわかる人がいるのかどうか不安だかここまで来たらやるしかない。
エリッツは緊張しながら扉をたたいた。
「夜分すみません。王命執行主席補佐官相談役の事務官のエリッツ・グーデンバルドです」
いきなり攻撃されたりしないように舌を噛みそうになりながらも名乗り、もう一度扉を叩く。しばらくして扉の前に人の気配を感じた。向こうもこちらの様子をうかがっているようだ。
「あの――」
エリッツがさらに言葉を連ねようとするのをさえぎるように扉が開いた。
「お前、案外しつこいな」
極度に緊張していたエリッツはその顔を見てくずれ落ちそうになるほどほっとした。しかし直後に怒りがこみ上げる。
「ゼインさん、忙しいって言って留守番じゃないですか。留守番っていつも絵をかいたり、好きな雑誌とか演劇のパンフレットとか見てるだけじゃないですか。ひどいです。ひどいです」
エリッツがどんな気持ちでここまで来たのか。臆病なエリッツが夜の森を一人で走ってきたのだ。
「静かにしろ。俺は忙しいとは一言も言ってない。言ったのは『急いでいる』と『ウィンレイク指揮官は動けない』の二点だけだ」
「そんなの揚げ足取りです。ひどいです。真っ暗だったんですよ。怖かった……」
目尻に涙をためるエリッツを見て、ゼインは大仰にため息をつく。
「まぁ、入れ」とエリッツを家に入れてくれた。テーブルには何も置かれておらず、もしかして本当に仕事をしていてエリッツが扉をたたいたときに片づけたのだろうか。
ゼインが温かいハーブティーを出してくれた。そういえば昼から何も食べたり飲んだりしていなかった。お茶を一口飲むと、ほっとして涙が出そうになる。だがほっとしている場合ではない。
「ゼインさん、あのですね――」
「あー、待った。大きな声出すなって。――というか、何も言うな」
「何でですか!」
「さっき話した通りだ。お前、声が大きい」
なぜ先ほどから声の大きさを注意されているのだろう。ハッとなってエリッツは耳をすませた。
人の気配を感じる。
エリッツが自室代わりに使わせてもらっていた部屋だ。
「誰かいるんですか」
ゼインは何ともいえない疲れた表情でゆっくりと首を振る。否定とも肯定ともわからないが、とにかくゼインにとって望ましい状況ではないようだ。
「もう何も言うな。あっちで寝て朝帰れ」
前にシェイルが使っていた書斎のような部屋をさす。
「そういうわけにはいかない事情があるんですよ。お願いですから話を――」
ドンと重い音が響いた。
この音は――エリッツの記憶が確かならベッドから落ちた音だ。あの部屋のベッドはわりと小さくてたまに落ちてしまうのだ。
反射的にエリッツはその部屋の扉を開けてしまった。助け起こしてあげるべきだと思ってしまったわけだが、即座に後悔した。これは、見てはいけない状況だった、かもしれない。
「ゼインさん……職場に女の人を連れ込んでたんですか」
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