【R18】逆上がりの夏の空

藤原紫音

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第5話「喧嘩していた妹と仲直りすること」

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「ただいま」

 玄関を開けると電気がついていた。リビングにいた妹の亜香里が廊下を駆けてくる。最近の記憶の亜香里より、ずっと背が小さい。ぼくの胸に飛びつく。泣きはらした顔でぼくを見上げる。

「お兄、どこ行ってたの?」
「ごめんね、クラスのお友達の家にいたの」
「よかった……誘拐されたかとおもった」

 亜香里がぼくの胸に顔を埋めて、涙をぐりぐり拭う。ぼくの服と身体にまとわりついた女の子の匂いに気づかれないか心配になる。ぼくはすぐにでもシャワーを浴びたい気分だったけれど、妹の前で平静を装って自分の部屋へ。

 ランドセルを下ろして、靴下を脱ぐ。着替えはどこだっけ。今朝まで男子寮の自室で生活していたから、自分の持ち物の場所がわからない。壁の時計は夜七時過ぎ。妹が部屋に入ってくる。ぼくのベッドに腰掛ける。ぼくが振り返るとすぐに腰を浮かす。

「ここにいてもいい?」
「いいよ、どうして?」
「お兄ちゃん、あたしのこと厭がるから」
「厭がる?」
「だって……」

 ぱっと記憶が戻る。
 亜香里はぼくのことが大好きで、いつも一緒にいたがる、どこにでもついてくる子だった。小学生の頃、それがなんだか煩わしくて、邪険に振る舞ったことがある。
 お風呂にも一緒に入ってくるようになって、出ていって!と強めに叱ってしまった。それ以来、妹はお父さんの連れ子に、赤の他人に戻ってしまった。あのときは、何日かすればまた元通りになるとおもったけれど、お互いよそよそしくなって、そのうちぼくは大政中学の寮に入ってしまった。

 ぼくは妹の隣に座る。眼の前に昔使っていた勉強机とオフィスチェア。机の上にはリップクリームとポケットティッシュしか置かれていない。机の上を散らかす子は勉強ができないと塾の先生から言われたから、いつも綺麗に整理整頓する。

「ごめんね。でも、ぼくたちもう高学年だから、一緒にお風呂に入るのはいけないことだとおもったんだ」
「どうして? 兄妹なのに」
「うーん、兄妹だから、なおさら……」
「なおさら、なに?」
「間違いがあったらいけないでしょ」
「間違いってなに?」
「それは……兄妹どうしで、好きになったり」
「あたし、お兄ちゃんのこと好きだよ」
「そういう好きとはちがって」
「お兄ちゃん、あたしもう四年生だから、わかるよ」
「じゃあ……」
「あたしとお兄ちゃんは血がつながってないから、大丈夫なんだよ」

 これ以上言い争うと、きっとまた亜香里は怒り出してしまう。いま仲直りしないと、朝起きても挨拶しない、一緒に御飯を食べない、洗濯物を混ぜない、顔を見て喋らない、伝えたいことを紙に書いて部屋の前に置く、という針のむしろのような毎日が戻ってくる。

「じゃあ、お兄ちゃんとお風呂入る?」
「うん! 入る」
「一緒に、お母さんのところに行く?」
「今から!?」
「今夜はもう遅いけど、明日か、週末にでも……」
「いいけど、先週行ったばかりだよ」
「ぼくが行きたいの」
「あたしは別にいいけど」

 ぼくのお母さんは阿佐ヶ谷駅の北側にある総合病院に入院している。子供の頃、お母さんの病気はいつかよくなって帰ってくることを待ち望んでいたけれど、それは叶わなかった。ぼくはお母さんが半年後に死んでしまうことをしっている。


 ぼくたちは一緒にキッチンへ行って、ネットスーパーで買ったレトルト食品を冷蔵庫で選ぶ。好きなものばかり食べないように、お見舞いに行った時にお母さんがタブレットで注文内容をみてくれる。今夜はハンバーグ、マッシュポテト、ひじきの煮付け、白ごはん、インスタントの味噌汁。お味噌汁のお湯はポットで作る。お父さんがガス台を使うことをひどく厭がる。赤ん坊じゃないから平気なのに。

「たまには外でなにか食べたいね」
「じゃあ、お見舞いに行くとき、何か食べる?」
「あたし、ハンバーガーがいい」
「いいよ」

 ぼくが中学受験に合格したときのお祝いではステーキを食べたいと言っていたのに、亜香里はぼくのふところを気遣う。お小遣いは毎月五千円で、参考書や服を買うお金も含まれている。海外出張で長期間家をあけるお父さんは、月に一度は帰宅して、ぼくと亜香里にお小遣いをくれる。

 リビングの脇にある食卓にお皿を並べて晩ごはんを食べる。亜香里は椅子を引いてぼくにくっついて食べる。目の前の壁にはお父さんがリトアニアで買ってきた絵が飾ってある。街の風景を描いた油絵で、空の色にラピスラズリが使われている。目に痛いほどのウルトラマリンの夏空は、今日、女子寮の窓から見えた空に似ていた。

 * * *

 みちゅるるるっ、ぼくのおちんちんが絵里衣の割れ目に音を立てて沈み、先端がなにか硬いしこりにぶつかる。ぼくを跨いだ絵里衣が更に腰を沈めて、ひとつまみ分を残して限界まで飲み込まれる。しんじられない、ぼく、小学生なのに、女子中学生とセックスしてる。

「は……あっ、乃蒼くん、おっき……」
「あっ、ぼく……あーっ」
「しーっ、声出さないで」
 ぼくの頭を跨いで、割れ目を拡げた玲蘭が言う。眼の前で咲いた玲蘭の秘花はなに、絵里衣の細い指が根元まで滑り込む。

 初めて包まれた女の子の粘膜の余韻に浸る暇もなく、絵里衣はお尻をぼくに打ち付けるようにスナップさせる。ぬちゃっ、ぬちゃっ、にちゃっ、肉のピストンが肉のシリンダを往復して、ベッドが上下に揺れる。ぼくの顔の真上で、玲蘭の割れ目に絵里衣の指が出し挿れされる光景をみせつけられ、絵里衣の潤んだ粘膜がぼくのおちんちんを吸い上げるように律動し、二人の甘い吐息と卑猥な音が、二人部屋の白い壁に響く。

「はーっ、はぁ、はぁ、玲蘭、やばいよ、乃蒼くんのちんぽ、めっちゃきもちいい」
「乃蒼くんもきもちよさそうだよ」
「乃蒼くん、きもちいい?」
 絵里衣が訊く。ぼくは頷くけど絵里衣にはみえない。
「きもちい……、あっ」
「中に出しちゃだめよ」
「え……?」
「あたしのおまんこに、ドピュッてしたらだめだよ、絶対。我慢して」

 セックスしてるのに射精するなと言われる。そうだ、ぼくたちは避妊していない。射精を我慢したところで、生でセックスすれば妊娠するリスクはあるのだけど、ぼくは黙って犯され、黙って射精を我慢する。
 顔を横に向けて、窓から差し込む夕陽のゆらめきを眺める。なにかセックスとは違うことを考えるべきだ。ぼくは頭の中でフィボナッチ数列をカウントする。黄金螺旋を思い浮かべる。
 絵里衣が腰を沈めて、ぐるぐると回転させる。おちんちんの先端が絵里衣の奥のコリコリに満遍なく刺激され、イキそうになる。

「ぐっ、だめっ、ダメダメダメ……あっ」

 絵里衣がびっくりして腰を浮かす。巨根が膣口から滑り抜けて、ぼくは限界まで仰け反って射精を堪える。きもちよくてたまらないのに、苦しくて仕方がない。
 絶頂の予兆が徐々に収まる。玲蘭が四つん這いになって、ぼくの熱り勃ったおちんちんを、手を使わずにちゅるりと飲み込む。下に視線を向けると、玲蘭がぼくのおちんちんを咥えた薄い顎と、喉仏が卑猥に蠢く姿を目撃する。おまんことは違う、底なしの柔らかさにおののく。

「ちゅるごっ、ちゅるごっ、じゅるるるっ、んはぁ……。絵里衣の味がするよ」
「玲蘭の汁も塗ってあげて……アハハッ」

 玲蘭がぼくをまたいで、絵里衣がぼくの濡れたおちんちんを掴んで支える。先っぽで玲蘭の割れ目をまさぐり、肉色の小陰唇がめくれて、くちゃくちゃと音をたてる。玲蘭が恍惚の表情でぼくをみおろす。腰を沈める。
 エロ動画でもみたことがない、幼い性器にじぶんの性器がめりこんでいく艷やかな光景は、紛れもなくぼく自身が当事者で、玲蘭の肉の質量がぎゅっと詰まってぼくを強く圧迫する。それは力、ではなく、重さだった。ぼくの想像上の女の子は、この質量を伴わない。

「ふーっ、めっちゃおっきい……」
「奥にあたるよね」
「いまこのへん、このあたりまで入ってる」
 玲蘭がじぶんのお腹を指差す。絵里衣が玲蘭の背中を抱いて、お腹を撫でる。
「動いてみて」

 玲蘭が身体を絵里衣に預けて、腰だけを巧みにスナップさせる。ぬちゃぬちゃと粘膜が音を立てて、玲蘭の下腹部が内側から衝かれて膨らむ。膣のぞりぞりしたひだがゲル状の流体のようにおちんちんを隙間なく覆い尽くして、ぼくの緊張を溶かしていく。ずっと力が入っていた両腕と両脚、それにお腹からも力が抜けて、女の子のベッドと肉に挟まれて、なすがまま、されるがまま。
 絵里衣が玲蘭の薄い乳房を両手で包んでマッサージする。乳首を摘む。二人は肩越しにキスをする。女の子どうしで、舌をくるくる絡ませる。その情緒的な動きが別の生き物みたいに独立してみえる。そうして女の子どうしで愛し合うあいだも、玲蘭の律動は絶え間なくぼくのおちんちんに女を塗り込んでいく。力を抜いてしまうと、途端に快感が溢れてとまらない。

「あの、お願いです……」
 ぼくがか細く声をあげると、上下する玲蘭がぼくを見下ろす。
「どうしたの?」
「もう逃げないから、これ解いてください……。腕が痛くて」
「騒がない?」
「静かにします」

 ぼくが言うと絵里衣がベッドの上を這って、ぼくの腕を縛った充電ケーブルとシャツを解く。ぼくは玲蘭に犯されながら、痺れた腕をゆっくりおろす。絵里衣がぼくの手を取って、じぶんの胸を触らせる。ぼくの胸を撫でる。ぼくにキスをする。

「乃蒼くん、セックスは初めて?」
「始めてです……」
「あたしたちも、男の子は初めてだよ」
「そうなんですか」
「今日、何時までいられる?」
 ぼくは壁の時計をみる。午後三時半。ここへ連れ込まれて三十分経った。いま、自宅でひとりでいる妹が心配。もう帰らなきゃ。だけど、さっき、もう逃げないから、と言って腕を自由にしてもらったばかり。
「四時くらい……」
「お母さんは家にいるの?」
「いえ、病気で入院してて……妹がひとりだから」
「ご両親は家にいないの?」
「いません……」
「じゃあ、夕方まで楽しもうよ。もっときもちよくしてあげるよ」

 絵里衣がぼくの乳首を舐める。左右を交互に指と舌で愛撫する。玲蘭が身体を起こして、腰をぐるぐる回転させる。玲蘭にも膣の底にコリコリしたものがあって、先っぽをぐりぐり刺激する。
 すぐに帰らなきゃという焦りと、また押さえつけられることへの恐れと、このまま二人の少女に犯され続けたいという秘めた欲求がい交ぜになって、身体が動かせない。お父さんとお母さんと、もちろん妹にも打ち明けられない重大な秘密ができた。この日のできごとは、一生口を噤んでだれにも言うべきでない。

 * * *

 その夜、ぼくは妹と一緒にお風呂に入る。
 先に服を脱いで、シャワーを浴びる。自宅からほど近い女子寮で二人の少女に四時間近く犯された痕跡を急いで洗い流す。湯船に浸かる。亜香里が後から入ってくる。シャワーも浴びずに湯船に浸かる。今夜の入浴剤はサンダルウッドの薫り。亜香里が細い身体をぼくに預けて、脚を伸ばす。

「お兄って、こんなに喋ったっけ?」
「よく喋ってる?」
「うん、だっていつも単語でしか会話してくれないじゃん」
 小学校のころのぼくはそうだった。口下手で大人しくて、人の言うことをよくきくけれど、誰にも心を開かない。
「それは、亜香里とまだ打ち解けていなかったからかも……」
「もう三年も一緒に暮らしてるのに」
「もうそんなに経ったんだね」

 亜香里が湯船の中で、ぼくの太腿を触る。後ろ手におちんちんを触る。昨日はこれで怒ったんだ。今夜は怒らない。あのときは触られて勃起してしまうことを畏れただけ。今日、ぼくは初めてセックスした。それも二人を相手に。ぼくの貞節は四時間に渡る逆輪姦で徹底的に溶かされ、もうもとに戻らない。ぼくは妹の背中から腕を回して、細いお腹を抱く。

「お兄ちゃん、いま、露杏奈ちゃんの隣なの?」
「そうだよ、なんで?」
「あの子、可愛い。モデルやってるよね」
「それは知らない。モデルなの?」
「ノッチェっていうお菓子のイメージキャラクターみたいなのやってるよ」
「マカロンみたいな形のチョコレートのお菓子?」
「そうそう」
「お見舞いのときに買っていこうか」
「どこか売ってるとこある?」
「中杉通りのパクパクモグモグって洋菓子店」
「あー、ケーキ屋さん」

 他愛のない会話をする間、亜香里はぼくのおちんちんをマッサージする。絵里衣と玲蘭に犯されたおちんちんはまだ射精していなくて、ムクムクと大きく硬く反り返り、亜香里の背中にあたる。
 ぼくは羞恥を誤魔化すために、亜香里の下腹部に手を滑らせる。つるつるで柔らかい割れ目を触る。指先でなぞる。陰核を摘んで震わせる。

「ついでに漫画買っていきたいから、靴屋さんのところの本屋さん寄りたい」
「いいよ……そういえば」
「なに?」
「あの本屋さん、無くなるんだ」
「えーっ、困る。他に本屋さん無いよ」

 中杉通りの南端にあるサブカル書店には、かろうじて漫画も置いてあるけれど、もっとディープな本が混沌と並ぶ独特なお店だ。今から四年後に閉店することを知っている。
 ぼくと妹は、お互いの性器を指先で愛撫しながら、無関係な日常の会話を続ける。どちらかが性的なことばを口にしたら、この繊細な拮抗が崩れて、兄妹が男女になってしまう。それは避けなければいけない。
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