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第3部
第27話「モナリザが秘密を暴露し窮地に立たされる顛末」
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サチを殺したからだ、そう答えかけて、ぼくは冷や汗をかく。
棺桶の蓋を閉じられてもなお、この女は運命に抗おうとしている。こいつはぼくとサチが結ばれたことを知っている。ぼくが人狼だと気づいている。
「ハルトの代わりです」
『自分のためではないの?』
「仲間を殺されたのに、生かしておくわけないでしょう」
『優等生の言い訳ですね』
「何がいいたい?」とハルト。
『かわいそうですね、ハルト。あなたの恋人は、あなたが信頼しているその男娼に寝取られたんですよ』
ハルトがぼくを見上げる。ぼくは表情を変えない。生命の危機を何度もくぐり抜けてきたけれど、ここまで切羽詰まったことはない。一瞬でも狼狽えれば即死だ。ぼくの電脳がギュンギュン加熱して、老獪なババアと騙し合いのゲームを始める。
「それはつまり、ぼくとサチが……?」
『とぼけないでくださる?』
「何を言うかと思えば、悪あがきですか」
『こんな悪あがきしませんわ』
「いや、だって変ですよ。もしそんな切り札があるなら、どうしてそのことを病院騒動の後に使わないんですか?」
『どうやって?』
「ぼくとボリスはローニャと会っていますよ。ローニャを救ってぼくたちに仲間割れさせるチャンスじゃないですか」
モナリザが一瞬黙る。
「ひょっとして、クセノフィオフィラのサンプルを渡したことで、マジでそう思い込んでませんか。残念だけど、あのサンプルは使っていませんよ。サチはぼくと同じベッドで眠ることすら嫌がったのに……」
『嘘おっしゃい、息子は……』
「ぼくらドラッグが本物かどうかなんかどーでもよかったんです。シュウレイを巣穴から引きずり出せれば、どんな糞でも取引するつもりでしたから」
モナリザが沈黙する。どうやら証拠は握っていないようだ。あったとしても握りつぶしてやる。ガキだと思ってナメるな、ぼくはエリートだ、頭脳ゲームでお前なんかに負けない。そう思いながらも、心拍数は上がりっぱなし。バイオユニットの身体でなければ、膝が震えていただろう。
「それに、サチはハルトを愛していましたよ。最期の瞬間まで……」
血まみれのサチの姿がフラッシュバックする。サチの腹部をストールで押さえていた。血の海で、氷のように冷たくなった手を握り返した。
「ハルトに叱られるね……」
「叱らないさ、取引はうまくいったよ」
「リオ……ほんとは……」
あのとき、何を言いかけたのだろう。
ぼくの眼から涙が零れる。ハルトが立ち上がり、ぼくに手を差し出す。
「マチェーテを寄越せ」
ぼくは腰に下げたマチェーテを抜いて、ハルトに手渡す。こんなんじゃハルトは騙せないか。いいよ、ぼくの首を跳ねればいい。
「婆さん、適当な作り話してんじゃねーよ」
モナリザのしわくちゃな顔が下卑た笑みに歪む。ハルトがマチェーテを振り下ろす。細い首が一撃で切断され、鮮血が白い壁に飛び散る。ぼくは驚いて肩が跳ねる。
棺桶の蓋を閉じられてもなお、この女は運命に抗おうとしている。こいつはぼくとサチが結ばれたことを知っている。ぼくが人狼だと気づいている。
「ハルトの代わりです」
『自分のためではないの?』
「仲間を殺されたのに、生かしておくわけないでしょう」
『優等生の言い訳ですね』
「何がいいたい?」とハルト。
『かわいそうですね、ハルト。あなたの恋人は、あなたが信頼しているその男娼に寝取られたんですよ』
ハルトがぼくを見上げる。ぼくは表情を変えない。生命の危機を何度もくぐり抜けてきたけれど、ここまで切羽詰まったことはない。一瞬でも狼狽えれば即死だ。ぼくの電脳がギュンギュン加熱して、老獪なババアと騙し合いのゲームを始める。
「それはつまり、ぼくとサチが……?」
『とぼけないでくださる?』
「何を言うかと思えば、悪あがきですか」
『こんな悪あがきしませんわ』
「いや、だって変ですよ。もしそんな切り札があるなら、どうしてそのことを病院騒動の後に使わないんですか?」
『どうやって?』
「ぼくとボリスはローニャと会っていますよ。ローニャを救ってぼくたちに仲間割れさせるチャンスじゃないですか」
モナリザが一瞬黙る。
「ひょっとして、クセノフィオフィラのサンプルを渡したことで、マジでそう思い込んでませんか。残念だけど、あのサンプルは使っていませんよ。サチはぼくと同じベッドで眠ることすら嫌がったのに……」
『嘘おっしゃい、息子は……』
「ぼくらドラッグが本物かどうかなんかどーでもよかったんです。シュウレイを巣穴から引きずり出せれば、どんな糞でも取引するつもりでしたから」
モナリザが沈黙する。どうやら証拠は握っていないようだ。あったとしても握りつぶしてやる。ガキだと思ってナメるな、ぼくはエリートだ、頭脳ゲームでお前なんかに負けない。そう思いながらも、心拍数は上がりっぱなし。バイオユニットの身体でなければ、膝が震えていただろう。
「それに、サチはハルトを愛していましたよ。最期の瞬間まで……」
血まみれのサチの姿がフラッシュバックする。サチの腹部をストールで押さえていた。血の海で、氷のように冷たくなった手を握り返した。
「ハルトに叱られるね……」
「叱らないさ、取引はうまくいったよ」
「リオ……ほんとは……」
あのとき、何を言いかけたのだろう。
ぼくの眼から涙が零れる。ハルトが立ち上がり、ぼくに手を差し出す。
「マチェーテを寄越せ」
ぼくは腰に下げたマチェーテを抜いて、ハルトに手渡す。こんなんじゃハルトは騙せないか。いいよ、ぼくの首を跳ねればいい。
「婆さん、適当な作り話してんじゃねーよ」
モナリザのしわくちゃな顔が下卑た笑みに歪む。ハルトがマチェーテを振り下ろす。細い首が一撃で切断され、鮮血が白い壁に飛び散る。ぼくは驚いて肩が跳ねる。
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