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第3部
第24話「モナリザが人質を取る顛末」
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マオ・ユーハンのラボからリカ・アルダンに戻る。
エントランスから中に入ると、受付の中年女性が椅子に座ったまま眉間を撃ち抜かれて絶命していた。アトリウムの保安灯が消えている。ルシアとライラが銃を抜く。
「もう見つかったの?」とライラが呟く。
ぼくはバイザーをかけるけど、暗がりではバイザー自身が視界を認識しない。撃たれた女性の頭上の壁にあるモニタが点灯して、眉のない能面のような赤毛の女の顔がアップで映る。
「みえてるかしら? ハカマダ・リオ」
赤毛の女がカメラから引くと、最上階のぼくたちの部屋が映る。リビングのソファに縛られたユリアとエレナ、それにメアの姿がみえる。それに男たちが数人。
赤いドレスを着たモナリザが拳銃をエレナの頭に向ける。
「仲間がいるわね。ハカマダ・リオ、あんただけであがってきな」
モニタが消灯する。アトリウムへつながる入り口の壁にライラとルシアが肩をつける。二人は音声通信を開く。
「リオ、行くこと無いよ。残念だけど、助けられない」とライラ。
「警察に通報したら?」とルシアが提案する。
「逆効果だよ。アタシらが立ち去れば、あの子たちは人質として生き延びるかもしれない」
「相手は麻薬カルテルだよ、酷い殺され方するに決まってる」
「一人で行ってくるよ、待ってて」とぼくが言う。
ぼくは拳銃を抜いて、アトリウムへ進む。骨組みだけの天窓から雨が降り注ぎ、廊下を雨水が流れる。足首につけたステルスリングを起動し、足音を立てずに廊下を進む。バイザーからライラの声が響く。
「リオ、一人で行くなんて……」
「ライラ、ルシアと一緒に車を用意して」
「……わかったよ。危なくなったら、車ごと突っ込むからね」
音声通信を映像通信に切り替える。エレベータまで到達する。
手動の蛇腹式扉を開いて最上階のボタンを押し、エレベータの外に出て扉を閉めると、空のエレベータが動き出す。
ぼくは光学迷彩で姿を消して、階段を上る。階段自体が庇になって雨が降り込まない。それでも風に吹かれた雨がふれるたびに、ぼくの身体に虹色の光が走る。
最上階まであがると、正面がぼくたちの借りている部屋の扉。そこを素通りして、ぼくは通路を右に曲がる。突き当りをまた右に曲がると、ぼくが動かしたエレベータの前でテーザー銃を構える男が四人みえる。
ぼくは拳銃を構えて壁沿いに近づき、男たちを横から撃つ。アトリウムの広大な空間に、マグナム実包の爆音が響き渡る。三人が倒れ、一人がエレベータのカゴの中に逃げ込む。柱の陰でシリンダーを交換する。
ぼくたちの借りている部屋の扉が開いて、男が顔を覗かせる。射撃モードなのにバイザーが敵を検知してくれない。ポンコツめ。
ぼくは扉の男を扉越しに撃つ。ぎゃっ、という潰れた悲鳴を上げて扉の隙間に倒れる。別の男が扉から飛び出して、床を転がって鉢植えの陰に隠れる。銃口を向けるけど、照準の追尾が遅い。
柱の陰から飛び出し、エレベータのカゴを滅多撃ち。全弾撃ち尽くす。硝煙で何も見えない。雨粒があたって、ぼくの姿が虹色に光る。
鉢植えの男が身体を起こして、ぼくに銃口を向ける。バイザーが危害警告を鳴らす。冷や汗が噴き出す。駄目だ、撃たれる。
パン、パン、パン。
乾いた音が響いて、鉢植えの男が倒れる。向かい側のギャラリーにNKV8を構えたルシアの姿がみえる。薬莢が転がる音がアトリウムに響く。
ぼくはシリンダーを交換する。エレベータのカゴに近づく。格子状のカゴの隙間から、血を流して倒れた男の姿がみえる。
「ルシア、どうして来たの?」と音声通信で訊く。
「モナリザはアタシの仇でもあるんだよ」
「あの赤毛の女はリモート人形だよ、遠隔で動いているアンドロイドなんだ。本体は他にいる」
「人形を捕まえれば、その本体を辿れるかもしれないだろ」
ぼくは血のついたテーザー銃を拾う。腰のベルトに挟む。廊下を駆けて、部屋の扉の前へ。向かいでルシアが膝を突く。ぼくは姿を現して、床の上にテーザー銃を滑らせてルシアに渡す。
「殺したら意味がない、それで捕まえられるよ」
「リオ、モナリザを捕まえられたら……」
「うん」
「また、アタシをファックしてもいいよ」
「いいの?」
「いいよ、リオなら……。すごい良かったし」
ルシアが上目遣いで微笑む。ぼくは姿を消して、半開きの扉から男の死体を飛び越えて中に入る。広大なエントランスホールの真ん中で、無防備に散弾銃を構えた男が二人、入り口に銃口を向けたまま固まる。
ぼくは二人の射線から外れて、横から二人を撃つ。一人が倒れざまに散弾銃を撃ち、天井に当たって破片が散る。
周囲に銃を向ける。誰も来ない。映像通信で安全を確認したルシアが入ってくる。
「リオ、どこ?」
「これからリビングに向かう。先に入るから、ここで待ってて」
リビングに通じるドアを蹴破り、タイミングを見計らって内部に飛び込む。保安灯だけが灯る薄暗い部屋のソファに縛られたユリアとエレナ、メアの姿がみえる。その後ろに立つ赤毛の女と男たち。
「ハカマダ! 姿を消したって無駄だよ」
モナリザが叫ぶ。突然、爆音と共に天井からスプリンクラーの水が噴出する。
ぼくの姿が虹色に光り、キッチンカウンターの向こうから男たちが機関銃をぼくにむける。危害警告が三つも光り、重なった警告音が響く。その場に伏せる。
一斉に撃たれて背後の花瓶が砕け散る。床を転がってイオニア式の柱の陰に隠れる。キッチンの男たちとモナリザたちがぼくに向けて銃を乱射する。石でできた柱がみるみる削れて、銃弾が空気を切り裂く。
ルシアが飛び込んでテーブルの陰に転がる。キッチンの男たちを撃つ。一人が頭を撃ち抜かれて仰け反る。小銃を持った男は、機械化した腕で防御する。
ルシアの弾が尽きると、男たちがルシアに向けて発砲する。ルシアはアンティークテーブルを背にして、弾倉を再装填する。テーブルを貫通した弾がルシアの脇腹を撃ち抜く。
「いっ……」
ルシアが呻いて、弾倉を取り落とす。尻もちをつく。降り注ぐスプリンクラーの水がルシアの足元に血溜まりを作る。バイザーの視界共有に、血に塗れたルシアの左手が映る。
「ルシア!」
「いってえ……ごめん、撃たれたかも」
ぼくはバイザーを頭に上げて、アイアンサイトで柱の陰から男たちを狙う。撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、弾切れ。
ぼくはルシアの元へ床を滑るように駆ける。ルシアの背中を抱いて、円い柱の陰に引き摺る。ジラジラと目立つ光学迷彩を切る。もう弾が無い。
キッチンの男たちは、銃だけをカウンターから覗かせて、めちゃくちゃに乱射する。テーブルのグラスが弾け飛び、ピアノが穴だらけになり、壁にかかったリトグラフの額縁が床に落ちて、ガラスの破片を撒き散らす。
「一人で来いって言ったはずだよ!」
モナリザは男二人を伴って、ぼくを恐れず、ずかずかと近づいてくる。ぼくに銃口を向ける。赤いドレスが濡れてモナリザの身体に張り付く。ぼくと同じM5Rを細腕で支える。
「立ちな!」
モナリザがぼくに命令する。
後ろ手に縛られたままのユリアが立ち上がり、モナリザに突進する。背後から体当たりする。二人はもつれ合って転倒する。男二人がユリアに銃を向ける。
「リオ、逃げてっ!」
ユリアが叫ぶ。
「小賢しい真似するんじゃないよ」
モナリザが立ち上がり、うつ伏せのユリアの背中を撃つ。ドン、ドン、ドン、ドン、マグナム弾頭の凄まじい衝撃が響き、血煙が上がる。縛られたエレナが叫び声をあげる。ユリアはぼくを見つめたまま動かなくなる。
ぼくは銃をモナリザに向けて引き金を引く。カチ、カチとハンマーが虚しい音を立てる。
* * *
スプリンクラーの水が尽きる。
キッチンの男たちと、モナリザたちがぼくに銃口を向ける。うつ伏せのユリアの周囲に血溜まりが拡がる。ぼくに向けられた銃口に光る雫に、ルシアを抱くぼくの姿が映る。時間がゆっくりながれる。
「動くんじゃないよ、ちゃんと殺せないだろ」
モナリザが言う。
エリート家系に生まれ、人より恵まれたスタートラインに立ちながら、ぼくは奢ることなく与えられた環境で出来得る限りの最善を尽くした。そしてこの殺伐とした異世界でも、酸いも甘いも味わい尽くし、苦難から逃れることなく、幼稚な愚痴を零すこと無く、ぼくはぼくの役目を全うしたけれど、ぼくは女たちを救えなかった。
ネムを失い、サチを失い、ユリアまで目の前で殺された。そしていま、ぼくは自分の命を奪われようとしている。ぼくが殺されても構わない、メアだけは助けて欲しい。どうか、この世界に生きた証まで奪わないで欲しい。
そのとき、ぼくが入ってきた扉と反対側のドアがけたたましく蹴破られ、三人の男が殺到する。
「パーティ会場はここかい?」
真ん中の尖った髪の男が言う。両脇の大男がMG3を腰だめに構え、乱射する。バラララララッと非情な連射音が響き、カウンターの男たちが蜂の巣になって壁に叩きつけられる。
モナリザの両脇の男が撃ち返す。大男に命中するけど、ハ式のボディにはまるで効かない。二人の男は順番に撃たれて、糸の切れた人形みたいに床に崩れる。
モナリザが男たちに背を向けて、獣のようにぼくに飛びつき、首に腕を回す。
銃口をぼくの頭に突きつける。
「銃を捨てな!」とモナリザが言う。
「リオ、動くな」
髪をツンツン尖らせたハルトが言う。M24Rを構えて狙う。発砲する。頬を打つような衝撃波が通過し、ぼくの頭に銃を突きつけるモナリザの腕が吹き飛ぶ。腕を失ったモナリザが床の上を転がる。立ち上がって逃げる。
ルシアがテーザー銃を抜いて、モナリザの背に向けて撃つ。小さな光る電極が飛ぶ。
パン、と小さな音が響いて、モナリザの身体がつんのめり、額を床に激突させる。
エントランスから中に入ると、受付の中年女性が椅子に座ったまま眉間を撃ち抜かれて絶命していた。アトリウムの保安灯が消えている。ルシアとライラが銃を抜く。
「もう見つかったの?」とライラが呟く。
ぼくはバイザーをかけるけど、暗がりではバイザー自身が視界を認識しない。撃たれた女性の頭上の壁にあるモニタが点灯して、眉のない能面のような赤毛の女の顔がアップで映る。
「みえてるかしら? ハカマダ・リオ」
赤毛の女がカメラから引くと、最上階のぼくたちの部屋が映る。リビングのソファに縛られたユリアとエレナ、それにメアの姿がみえる。それに男たちが数人。
赤いドレスを着たモナリザが拳銃をエレナの頭に向ける。
「仲間がいるわね。ハカマダ・リオ、あんただけであがってきな」
モニタが消灯する。アトリウムへつながる入り口の壁にライラとルシアが肩をつける。二人は音声通信を開く。
「リオ、行くこと無いよ。残念だけど、助けられない」とライラ。
「警察に通報したら?」とルシアが提案する。
「逆効果だよ。アタシらが立ち去れば、あの子たちは人質として生き延びるかもしれない」
「相手は麻薬カルテルだよ、酷い殺され方するに決まってる」
「一人で行ってくるよ、待ってて」とぼくが言う。
ぼくは拳銃を抜いて、アトリウムへ進む。骨組みだけの天窓から雨が降り注ぎ、廊下を雨水が流れる。足首につけたステルスリングを起動し、足音を立てずに廊下を進む。バイザーからライラの声が響く。
「リオ、一人で行くなんて……」
「ライラ、ルシアと一緒に車を用意して」
「……わかったよ。危なくなったら、車ごと突っ込むからね」
音声通信を映像通信に切り替える。エレベータまで到達する。
手動の蛇腹式扉を開いて最上階のボタンを押し、エレベータの外に出て扉を閉めると、空のエレベータが動き出す。
ぼくは光学迷彩で姿を消して、階段を上る。階段自体が庇になって雨が降り込まない。それでも風に吹かれた雨がふれるたびに、ぼくの身体に虹色の光が走る。
最上階まであがると、正面がぼくたちの借りている部屋の扉。そこを素通りして、ぼくは通路を右に曲がる。突き当りをまた右に曲がると、ぼくが動かしたエレベータの前でテーザー銃を構える男が四人みえる。
ぼくは拳銃を構えて壁沿いに近づき、男たちを横から撃つ。アトリウムの広大な空間に、マグナム実包の爆音が響き渡る。三人が倒れ、一人がエレベータのカゴの中に逃げ込む。柱の陰でシリンダーを交換する。
ぼくたちの借りている部屋の扉が開いて、男が顔を覗かせる。射撃モードなのにバイザーが敵を検知してくれない。ポンコツめ。
ぼくは扉の男を扉越しに撃つ。ぎゃっ、という潰れた悲鳴を上げて扉の隙間に倒れる。別の男が扉から飛び出して、床を転がって鉢植えの陰に隠れる。銃口を向けるけど、照準の追尾が遅い。
柱の陰から飛び出し、エレベータのカゴを滅多撃ち。全弾撃ち尽くす。硝煙で何も見えない。雨粒があたって、ぼくの姿が虹色に光る。
鉢植えの男が身体を起こして、ぼくに銃口を向ける。バイザーが危害警告を鳴らす。冷や汗が噴き出す。駄目だ、撃たれる。
パン、パン、パン。
乾いた音が響いて、鉢植えの男が倒れる。向かい側のギャラリーにNKV8を構えたルシアの姿がみえる。薬莢が転がる音がアトリウムに響く。
ぼくはシリンダーを交換する。エレベータのカゴに近づく。格子状のカゴの隙間から、血を流して倒れた男の姿がみえる。
「ルシア、どうして来たの?」と音声通信で訊く。
「モナリザはアタシの仇でもあるんだよ」
「あの赤毛の女はリモート人形だよ、遠隔で動いているアンドロイドなんだ。本体は他にいる」
「人形を捕まえれば、その本体を辿れるかもしれないだろ」
ぼくは血のついたテーザー銃を拾う。腰のベルトに挟む。廊下を駆けて、部屋の扉の前へ。向かいでルシアが膝を突く。ぼくは姿を現して、床の上にテーザー銃を滑らせてルシアに渡す。
「殺したら意味がない、それで捕まえられるよ」
「リオ、モナリザを捕まえられたら……」
「うん」
「また、アタシをファックしてもいいよ」
「いいの?」
「いいよ、リオなら……。すごい良かったし」
ルシアが上目遣いで微笑む。ぼくは姿を消して、半開きの扉から男の死体を飛び越えて中に入る。広大なエントランスホールの真ん中で、無防備に散弾銃を構えた男が二人、入り口に銃口を向けたまま固まる。
ぼくは二人の射線から外れて、横から二人を撃つ。一人が倒れざまに散弾銃を撃ち、天井に当たって破片が散る。
周囲に銃を向ける。誰も来ない。映像通信で安全を確認したルシアが入ってくる。
「リオ、どこ?」
「これからリビングに向かう。先に入るから、ここで待ってて」
リビングに通じるドアを蹴破り、タイミングを見計らって内部に飛び込む。保安灯だけが灯る薄暗い部屋のソファに縛られたユリアとエレナ、メアの姿がみえる。その後ろに立つ赤毛の女と男たち。
「ハカマダ! 姿を消したって無駄だよ」
モナリザが叫ぶ。突然、爆音と共に天井からスプリンクラーの水が噴出する。
ぼくの姿が虹色に光り、キッチンカウンターの向こうから男たちが機関銃をぼくにむける。危害警告が三つも光り、重なった警告音が響く。その場に伏せる。
一斉に撃たれて背後の花瓶が砕け散る。床を転がってイオニア式の柱の陰に隠れる。キッチンの男たちとモナリザたちがぼくに向けて銃を乱射する。石でできた柱がみるみる削れて、銃弾が空気を切り裂く。
ルシアが飛び込んでテーブルの陰に転がる。キッチンの男たちを撃つ。一人が頭を撃ち抜かれて仰け反る。小銃を持った男は、機械化した腕で防御する。
ルシアの弾が尽きると、男たちがルシアに向けて発砲する。ルシアはアンティークテーブルを背にして、弾倉を再装填する。テーブルを貫通した弾がルシアの脇腹を撃ち抜く。
「いっ……」
ルシアが呻いて、弾倉を取り落とす。尻もちをつく。降り注ぐスプリンクラーの水がルシアの足元に血溜まりを作る。バイザーの視界共有に、血に塗れたルシアの左手が映る。
「ルシア!」
「いってえ……ごめん、撃たれたかも」
ぼくはバイザーを頭に上げて、アイアンサイトで柱の陰から男たちを狙う。撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、弾切れ。
ぼくはルシアの元へ床を滑るように駆ける。ルシアの背中を抱いて、円い柱の陰に引き摺る。ジラジラと目立つ光学迷彩を切る。もう弾が無い。
キッチンの男たちは、銃だけをカウンターから覗かせて、めちゃくちゃに乱射する。テーブルのグラスが弾け飛び、ピアノが穴だらけになり、壁にかかったリトグラフの額縁が床に落ちて、ガラスの破片を撒き散らす。
「一人で来いって言ったはずだよ!」
モナリザは男二人を伴って、ぼくを恐れず、ずかずかと近づいてくる。ぼくに銃口を向ける。赤いドレスが濡れてモナリザの身体に張り付く。ぼくと同じM5Rを細腕で支える。
「立ちな!」
モナリザがぼくに命令する。
後ろ手に縛られたままのユリアが立ち上がり、モナリザに突進する。背後から体当たりする。二人はもつれ合って転倒する。男二人がユリアに銃を向ける。
「リオ、逃げてっ!」
ユリアが叫ぶ。
「小賢しい真似するんじゃないよ」
モナリザが立ち上がり、うつ伏せのユリアの背中を撃つ。ドン、ドン、ドン、ドン、マグナム弾頭の凄まじい衝撃が響き、血煙が上がる。縛られたエレナが叫び声をあげる。ユリアはぼくを見つめたまま動かなくなる。
ぼくは銃をモナリザに向けて引き金を引く。カチ、カチとハンマーが虚しい音を立てる。
* * *
スプリンクラーの水が尽きる。
キッチンの男たちと、モナリザたちがぼくに銃口を向ける。うつ伏せのユリアの周囲に血溜まりが拡がる。ぼくに向けられた銃口に光る雫に、ルシアを抱くぼくの姿が映る。時間がゆっくりながれる。
「動くんじゃないよ、ちゃんと殺せないだろ」
モナリザが言う。
エリート家系に生まれ、人より恵まれたスタートラインに立ちながら、ぼくは奢ることなく与えられた環境で出来得る限りの最善を尽くした。そしてこの殺伐とした異世界でも、酸いも甘いも味わい尽くし、苦難から逃れることなく、幼稚な愚痴を零すこと無く、ぼくはぼくの役目を全うしたけれど、ぼくは女たちを救えなかった。
ネムを失い、サチを失い、ユリアまで目の前で殺された。そしていま、ぼくは自分の命を奪われようとしている。ぼくが殺されても構わない、メアだけは助けて欲しい。どうか、この世界に生きた証まで奪わないで欲しい。
そのとき、ぼくが入ってきた扉と反対側のドアがけたたましく蹴破られ、三人の男が殺到する。
「パーティ会場はここかい?」
真ん中の尖った髪の男が言う。両脇の大男がMG3を腰だめに構え、乱射する。バラララララッと非情な連射音が響き、カウンターの男たちが蜂の巣になって壁に叩きつけられる。
モナリザの両脇の男が撃ち返す。大男に命中するけど、ハ式のボディにはまるで効かない。二人の男は順番に撃たれて、糸の切れた人形みたいに床に崩れる。
モナリザが男たちに背を向けて、獣のようにぼくに飛びつき、首に腕を回す。
銃口をぼくの頭に突きつける。
「銃を捨てな!」とモナリザが言う。
「リオ、動くな」
髪をツンツン尖らせたハルトが言う。M24Rを構えて狙う。発砲する。頬を打つような衝撃波が通過し、ぼくの頭に銃を突きつけるモナリザの腕が吹き飛ぶ。腕を失ったモナリザが床の上を転がる。立ち上がって逃げる。
ルシアがテーザー銃を抜いて、モナリザの背に向けて撃つ。小さな光る電極が飛ぶ。
パン、と小さな音が響いて、モナリザの身体がつんのめり、額を床に激突させる。
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