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第3部

第6話「紗英との逢瀬の回想」

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 無人精算のホテルは、間取りやデザインの違う部屋が三十部屋くらいあった。

 ぼくと紗英は毎週土曜日、しばしば日曜日も朝のサービスタイム開始からホテルに直行して、夕方までの九時間延々とセックスに溺れる。ぼくたちは恋人どうしではなく、セックスフレンドなんだから、相手に気兼ねなくきもちよくなるためにいろいろなことを試した。
 部屋のテレビでビデオオンデマンドをつけっぱなしにて、レンタルの電マで紗英の身体を責めて、挿入するときは必ずローションを使った。だけど、ぼくはほとんど避妊しなかった。紗英が何度かゴムをつけてくれたけれど、射精したあともピストンを続けていると、中で破けてしまう。毎回、十回以上するわけだから、部屋に備え付けの二個だけでは足りない。それに、生の方が遥かにきもちいいのだから、自然と避妊しなくなってしまった。

 一学期が終わって夏休みに入ると、ぼくはピアノ教室と家庭教師が来る日以外は、ほとんど毎日ホテルでセックスするようになった。
 紗英が生理のときは、長い禁欲の一週間を耐えた。セフレなんだから、セックスできないのに会うことはできない。一度セックスの最中に生理が来ちゃって、中出しして引き抜いた途端、体液と混ざった大量の血を派手にぶちまけて本気でビビった。

 七月末のその日は、連日の猛暑が和らいだ頃。ぼくたちはエアコンの効いたホテルのベッドの上でつながったまま抱き合い、ゆっくり律動しながら舌を絡め合う。

「気になってることがあるんだけど……」とぼくが切り出す。
「なに?」
「前、家出したことがあるって、言ってたよね」
「うん、高校入学前ね」
「先輩の家に泊まったって……」
「あー」
「男の人?」
「そうだよ」
「彼氏?」
「うん……でも、そのときはもう別れてたし」
「別れてた?」
「付き合って一ヶ月で浮気されちゃったの。だからキスもしてない」
「そうなんだ」
「キスもセックスも、全部梨央が初めてだよ」

 甘い声で囁いて、紗英はぼくの唇を舐める。舌を絡め合いながら、腰を上下させる。長い陰茎が紗英の子宮頸をゴリゴリ突き上げる。様々な角度で複雑に刺激されて、たまらなくきもちいい。紗英の髪がふわりと頬を撫でるたびに、女子高生の甘い匂いが舞い上がって、ぼくは紗英を抱きしめて夢中で突き上げる。

「あっ、あっ、あっ、りっ、梨央……、もしか、して」
「なに?」
「アタシのこと、好きになった?」
「最初から好きだよ、片思い」
「ウフフ……そうだね、こんなに何回もセックスしてるのに」
「紗英は、ぼくのこと好きじゃないの?」
「好きだよ、でも……」
「でも、なに?」
「つきあうのは、ちょっと責任伴うし、重いっていうか……」

 紗英の膣がぎゅーっと絞まる。棚の上の五十インチテレビには剛毛のオッサンが二人の女優さんにご奉仕を受ける映像が流れる。この部屋には窓がなくて外の様子がわからない。ヘッドボードの明かりに照らされた紗英の肩とお尻がぐぐっと引き攣って、前触れもなく紗英は絶頂する。

「重いの?」
「あっ……ぐっ」
「ぼくって、めんどくさい?」
「違う……よ」
「じゃあ、どうして?」

 紗英が起き上がる。身体を立てて、お尻だけを巧みに回転させる。陰茎の先端が子宮頸の周囲をぐるぐる周る。ぼくは手を伸ばして、紗英の乳房を両手で包む。

「あたしは、今がいいの。はーっ、きもちいい」

 紗英は腰を上下にスナップさせる。パツパツに拡がった大陰唇から小陰唇のビラビラがめくれて、二十二センチのぼくの陰茎をちゅるちゅると情熱的にマッサージする。紗英が指先でぼくの乳首を挟む。ぼくも紗英の乳首を摘む。お互いみつめあったまま律動する。

 ぼくはこんなふうに、何度か紗英との関係を恋人に格上げしたがったのだけど、紗英はいつもやんわり話を逸らす。あんまり強く言うと紗英を失うかもしれないという恐れもあって、いつしか身体だけの関係で満足するようになっていった。

 夏休みが終わり、秋になってもぼくたちは毎週逢瀬を重ねた。
 妹の友梨はぼくに彼女ができたと思って「家に連れてきなよ」と言った。少しずつ寒くなるにつれて、ぼくは紗英と逢えるのはその日が最後かもしれない、と焦燥に駆られるようになった。
 ぼくたちにとってはセックスがゴールなのだから、その先にはなにもない。いつか終わると確信しながら、朝から夕方まで愛し合うのは哀しくてたまらず、セックスの最中に涙を流すこともあった。紗英もきっとおなじことを感じていて、浴槽に座り込んで泣いていた。
 ぼくは泣いている紗英を慰めて、ますます激しくセックスに溺れた。やるせないことに、淋しさを感じるほどセックスはきもちよくなっていった。
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