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第1部
第16話「闇医者から治療と引き換えにセックスを求められる顛末」
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人工呼吸器と心電図の音。
イービスタウンの北外れにある薄汚れた売春街の片隅に、闇医者ウェンディの診療所があった。税金も払わず、保険にも入っていない自由民は、何かあれば闇医者を頼るしかない。
ハルトは包帯を巻かれ、ガラス越しにしかみることのできない集中治療室で、白いランジェリーのようなナース服を着た女型のアンドロイドから治療を受ける。
ぼくは診察室の椅子に腰掛け、サチは寝台に座り込む。待合室のソファにユリアとエレナが抱き合って寝そべる。
アキラとネム、ボリスはユリアたちが乗ってきた別の車で待機。穴だらけのトラックでキャンプに戻るわけにはいかない。
すっかり陽は暮れ、止まない雨が診療所の窓を流れ、向かいのディルドーショップとパーツショップのネオンサインが交互に光る。上半身ハダカの男がバーからつまみ出される。ガスマスクをつけたホームレスが荷車を引く。
ここに到着してから九時間が過ぎた。昨日から一睡もしていなかったぼくは、さっきまで待合室のソファに寝ていたのだけど、ユリアのフェラチオで目が覚めた。ユリアもエレナも場所をわきまえない。
雨の中、半裸に透明のレインコートを羽織った売春婦たちが、雑居ビルの庇の下で客引きしている。透明のレインコートの表面を、赤やオレンジの光が舐めるように明滅し、娼婦たちの裸体を際立たせる。クスリを売ってるロン毛の男が、警官から職質を受ける。
自由民たちの売春窟を、警官が歩いていることが不思議だった。そういう滅茶苦茶な風景を何時間も眺めていれば、常識が麻痺して、それが普通にみえてくる。
ほんのひと月前、ぼくは自宅で誕生日を祝ってもらった。その頃は、まだ純朴な高校生だった。
十七にもなって誕生日パーティなんて気恥ずかしかったけど、中二の妹と一緒にチョコレートケーキを作り、バタークッキーを焼いた。お父さんがぼくに欲しがっていたゲーム機を買ってくれた。これで妹のを借りなくて済むと思った。
妹は学校で好きな男がいるらしくて、写真をみせてくれた。兄ちゃんは男子校だから、好きな女子をみつけられないよと唇を尖らせたことを覚えている。そういう日々が、ずっと続くと思っていた。
黒いテディランジェリーに白衣を羽織った赤縁眼鏡の闇医者、ウェンディがタブレットを持って診察室に入る。ウェンディは偽名だろう。このひともユリアたちと同じで、色々混ざった無国籍顔だったけど、冷たい感じの美女だった。
紫色の唇に電脳煙草を咥えて、ぼくの前に座って、甘い香りの煙を吐く。
「前回の治療費もまだもらってないけど、今回は金あんの?」
ウェンディがぶっきらぼうに聞く。
「前回は睡眠薬と交換だったでしょ?」とサチ。
「足りないって言ったじゃん、ログ見る?」とウェンディがタブレットをぼくたちに向ける。
「いくら?」
「前回のとあわせて九万二千、人工ユニットじゃなくて機械化だったら八万五千に負けとく」
「たっけーよ!」
「じゃあ治療は中断」
「待ってよ、あたし絶対払うから、ツケて」
「いやよ」
「お願い、パーツと睡眠薬売ればなんとかなるし」
食い下がるサチを無視して、ウェンディはぼくをジロジロ見る。舌なめずり。また、嫌な予感がする。
「あんた……その身体、フェラーレだよね?」
「あ……はい」
「ふーん」
「なんですか?」
「あんたが一発ヤらせてくれるなら、ツケといてもいいよ」
この異世界の女たちは性欲がすごい。ぼくは待合室を振り返る。ユリアとエレナは抱き合って舌を絡め合う。エレナがぼくに振り返って言う。
「リオ、クスリあるよ。ヤったら?」
サチを見る。
「一発やるくらいならいいだろ、リオ、きもちよくなって、ツケてもらえる」
ぼくはウェンディに向き直って「いいですよ」と言う。
イービスタウンの北外れにある薄汚れた売春街の片隅に、闇医者ウェンディの診療所があった。税金も払わず、保険にも入っていない自由民は、何かあれば闇医者を頼るしかない。
ハルトは包帯を巻かれ、ガラス越しにしかみることのできない集中治療室で、白いランジェリーのようなナース服を着た女型のアンドロイドから治療を受ける。
ぼくは診察室の椅子に腰掛け、サチは寝台に座り込む。待合室のソファにユリアとエレナが抱き合って寝そべる。
アキラとネム、ボリスはユリアたちが乗ってきた別の車で待機。穴だらけのトラックでキャンプに戻るわけにはいかない。
すっかり陽は暮れ、止まない雨が診療所の窓を流れ、向かいのディルドーショップとパーツショップのネオンサインが交互に光る。上半身ハダカの男がバーからつまみ出される。ガスマスクをつけたホームレスが荷車を引く。
ここに到着してから九時間が過ぎた。昨日から一睡もしていなかったぼくは、さっきまで待合室のソファに寝ていたのだけど、ユリアのフェラチオで目が覚めた。ユリアもエレナも場所をわきまえない。
雨の中、半裸に透明のレインコートを羽織った売春婦たちが、雑居ビルの庇の下で客引きしている。透明のレインコートの表面を、赤やオレンジの光が舐めるように明滅し、娼婦たちの裸体を際立たせる。クスリを売ってるロン毛の男が、警官から職質を受ける。
自由民たちの売春窟を、警官が歩いていることが不思議だった。そういう滅茶苦茶な風景を何時間も眺めていれば、常識が麻痺して、それが普通にみえてくる。
ほんのひと月前、ぼくは自宅で誕生日を祝ってもらった。その頃は、まだ純朴な高校生だった。
十七にもなって誕生日パーティなんて気恥ずかしかったけど、中二の妹と一緒にチョコレートケーキを作り、バタークッキーを焼いた。お父さんがぼくに欲しがっていたゲーム機を買ってくれた。これで妹のを借りなくて済むと思った。
妹は学校で好きな男がいるらしくて、写真をみせてくれた。兄ちゃんは男子校だから、好きな女子をみつけられないよと唇を尖らせたことを覚えている。そういう日々が、ずっと続くと思っていた。
黒いテディランジェリーに白衣を羽織った赤縁眼鏡の闇医者、ウェンディがタブレットを持って診察室に入る。ウェンディは偽名だろう。このひともユリアたちと同じで、色々混ざった無国籍顔だったけど、冷たい感じの美女だった。
紫色の唇に電脳煙草を咥えて、ぼくの前に座って、甘い香りの煙を吐く。
「前回の治療費もまだもらってないけど、今回は金あんの?」
ウェンディがぶっきらぼうに聞く。
「前回は睡眠薬と交換だったでしょ?」とサチ。
「足りないって言ったじゃん、ログ見る?」とウェンディがタブレットをぼくたちに向ける。
「いくら?」
「前回のとあわせて九万二千、人工ユニットじゃなくて機械化だったら八万五千に負けとく」
「たっけーよ!」
「じゃあ治療は中断」
「待ってよ、あたし絶対払うから、ツケて」
「いやよ」
「お願い、パーツと睡眠薬売ればなんとかなるし」
食い下がるサチを無視して、ウェンディはぼくをジロジロ見る。舌なめずり。また、嫌な予感がする。
「あんた……その身体、フェラーレだよね?」
「あ……はい」
「ふーん」
「なんですか?」
「あんたが一発ヤらせてくれるなら、ツケといてもいいよ」
この異世界の女たちは性欲がすごい。ぼくは待合室を振り返る。ユリアとエレナは抱き合って舌を絡め合う。エレナがぼくに振り返って言う。
「リオ、クスリあるよ。ヤったら?」
サチを見る。
「一発やるくらいならいいだろ、リオ、きもちよくなって、ツケてもらえる」
ぼくはウェンディに向き直って「いいですよ」と言う。
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