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第2章︙魔法都市編

面倒事の到来

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「これから、さくせんかいぎをはじめる」

屋敷のリビングでテーブルを囲んでいる俺達。
俺は腕に肘をついて厳粛に会議の開始を宣誓した。

時は1時間前。
俺達がいつものように冒険者ギルドで依頼を受けようとしていると、なんとレオン宛に便りが来ているんだと。
レオンはそんな手紙のやり取りする相手はいないと言うので、俺達は恐る恐る中身を見てみると、まさかのレオンがいたエルフの里かららしい。

でも、何故かレオンは険しい、それでいて複雑な顔をして手紙をじっと睨んでいる。

「どーした、レオン」

「……俺は家族との仲は良くない。そもそも俺が魔力の才能がないとわかった日から除け者にされていたんだぜ。今更なにがあるっていうんだ」

そこで初めて、俺はレオンの複雑な家族事情について聞かされた。
取り敢えず、レオンが手紙を声に出して読んでいく。

『大切な家族、レオナルドへ。
 
元気にしているか?あの日、突然姿を消してしまってとても悲しい思いをしたぞ。
それでも、お前がハイエルフの矜持を胸に冒険者として頑張っていて父は誇りに思う。女神様の件、それに最速冒険者ランクの昇格は私たちの耳にも届いたぞ。一度、君のパーティーの子と一度帰ってきて欲しい。
丁度ギガルド帝国の皇族が来てくださっている。これから宴が開かれるのでなるべく早く頼むぞ。
また会える日が待ち遠しいな。

アーサー・レオベルク』



まさに驚愕、びっくり仰天とはこのことか。
どんな皮の面したらこんなに失礼な手紙を書くことができるんだよ。

「ハッ、どうせ俺達がちょっと有名になったからって、自分達の手柄にしようとしてんだ。今更家族仲が悪いハイエルフって噂流されるのが怖いんだろ?」

レオンは冷たい表情で、でもほんの少し悲しそうな声でそう吐き捨てると、手紙をグシャッと握りつぶした。
どれだけ酷いことをされても、レオンにとってはたった一つの家族だから。どうしても踏ん切りがつかないのかもしれない。
それにレオンはまだ子供だから尚更。

「レオン…かわりにおれが、へんじをかいてやるぞ」

俺は神様特製ペンとグリモアを取り出して白紙のページを開くと、スラスラと返事の手紙を書き始めた。

「え、ちょ、待て!お前が返事を書くと色々ヤバそうだからヤメロ!」

「だーじょーぶだレオン。おれは、おとなだからな。てがみくらいよゆーだ」

そこから俺は暫く手紙の返事を書くのに没頭した。
そして、しっかりとした文体で、丁寧に書いてはっきりと伝わるように慎重に何度も確認し、俺はウンウンと頷いて手紙の返事を完成させた。
……これなら誰も文句は言えないだろう。高校生までにやってきた国語の文法に照らし合わせても間違いはないし、言葉遣いもはっきりとしているからな。

俺は紙をビリっと切り取って、それを折りたたもうとしたら横からレオンに掻っ攫われた。
まあ、確かに当事者のレオンは手紙の内容を知っているべきだと思うので、俺はビシッと腕を組んで優しく見守ってあげることにする。


「拝啓、レオンの家族へ。

いつもレオンがお世話になってます。このお子様は問題ばかり起こして大変ですが、俺は大人なのでしっかりと面倒を見てあげています。
それから、これからは家族面してこうやって手紙を送るのはやめてください。
本人が嫌がっているし、レオンが有名になったからと都合よく集ろうとする行為は見苦しいです。
いい年した大人がキモすぎる、とレオンも言っていました。
理解したならさっさとくたばれ。


レオンより……」


「……どーだ?かんぺきすぎるだろ?」

このスッキリとした文章ではっきりと自分の意志が伝わるようにかけていて、まさに欠点などない手紙の構成となっている。

「お前、口調はチビなのに字は綺麗なのか……じゃなくて!これは流石に失礼すぎるぞ!俺はキモいなんて一言も言ってないわ!」

「いーんだよそれは。どーせキモいって、おもってたでしょ?」

「思ってない。それにくたばれとか書くな!まずは丁寧に手紙をありがとうから書くんだよ!」

「んむ…?レオン、べつにてがみ、ありがとーっておもってないじゃん。だから、わざわざかくのいらないな」

それからもグチグチとレオンからのお小言が展開されるが、別に俺は間違ったことは書いていない。
思ったことをありのまま、正直に書いただけであって、俺は一切悪くないのだから。
俺は未だにお小言を言っているレオンから手紙を取り返すと、四つ折りにして紙飛行機を作ってヒョイッと投げた。

せっかく俺が書いた手紙の返事の紙で作られた紙飛行機は、鮮やかに空高く飛んで……飛んで…

「あれ?なんかすごいな」

気のせいだろうか。
何故か紙飛行機がとんでもない速度で空をかけているのだが、これ、異世界だからなのか?
あっという間に見えなくなった紙飛行機を俺がポカーンと見つめていることしかできなかった。

「あの、精霊王様……」

「まあレオナルド君、君が思っているとおりだと思うよ。主から微量の魔力が感知できたし、多分明日には……」

「ど、どうしたら……俺の家族はハイエルフなのでその……自尊心が高いので、もしかしたらダイキに…」

「大丈夫だよそれは。そんなこと僕が起こさせない。一番精霊の恩恵を享受している種族がまさか精霊王の契約者を害すことはないよ。もしそんなことしたら、エルフという種族には一切手を貸さないようにしてあげるからね」

「そ、それはとても心強いな……」


後ろでレオンとクロスがコソコソとおしゃべりしているところをみるに、驚いている様子はまったくない。
ということは、異世界の紙飛行機はあれが普通なのか。すごいな異世界。ちょっと文明が遅れていたから舐めてたけど、まさか紙飛行機がこんなに強いとは思わなかった。

「じゃあダイキ。取り敢えず俺は暫くの間出掛けてくるから、留守番頼んだぞ。くれぐれも屋敷を更地にしたり森を丸焼きにしないように」

「え?けっきょくいくのか?」

「俺も行きたくはない。でも、王族を盾にして俺に行くよう強制させている。
いかなかったら最悪王族を蔑ろにしたとかで、指名手配にされたりするから、今行ってきてちゃっちゃと帰ってきたほうがマシだ。王族がいるから流石に手荒なことはできないだろうしな」

王族か…確かに考えてみれば国をまとめる王様一族だもんな。敵に回したら面倒すぎる。
しかも虎の威を借る狐のように利用してくるレオンの家族もなかなかのクズ……

「……ここはしかたない。おれもいってあげよーではないか」

ここをお子様一人に任せるなんて不安だ。ここは大人の俺が一緒について行ってやらないと、まだ子どものレオンは汚い大人たちに飲まれてしまう。

「いや、ただでさえ面倒が起こったのにお前を連れて行くなんて無理。さっきお前が飛ばしてくれた手紙のおかげでもっとややこしくなったしな」

「いや、てがみにもあったしょ?パーチーのひとと、いっしょにきなさいって。おれもついていってあげるから」

「嫌だ。面倒事しか起こる気がしない」


俺が行く、レオンがいかないと意見が割れてバチバチしていると、クロスがのんびりとした口調でポツリと失礼なことを呟いた。

「どうせ主、勝手について行くだろうからこの話し合い必要?」

その一言でレオンが折れて俺も行くことが決定したのだった。




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いつも読んでくださりありがとうございます!

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