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第2章︙魔法都市編
新たな住処と特訓
しおりを挟む「……これは」
「ごほんっ!!レオンくん。ここがこれから、おれたちのすみかになるばしょだ。よくおぼえておきたまえ」
「……もう嫌でも覚えたに決まってんだろ」
デオライトの別荘は案外近いところにあった。
魔法都市から少し離れた見渡しの良い草原にぽつんと建っていた屋敷は、近くの川の水を引いてあり生活に全く不便の無いよう、沢山の魔道具もあってとても住心地が良さそうだった。
勿論、ここは魔法都市の結界から外れているので、個別に魔物が入れない結界が張り巡らされている。
屋敷の中心に魔力供給の部屋があったので、恐らくそこから魔力を流せば屋敷の魔道具が使えるようになるんだと思う。
それにしても……一つ一つの家具から高級な感じがして、尚且つギルド長のセンスも申し分ないお陰で殆ど引っ越す手間が省けた。
ギルド長に中の家具を持っていくのか聞いたとき、『置く場所もないし使う予定のないものをわざわざ持っていくわけがないだろう。そのまま使っていいぞ』って言ってくれて、本当に良かった…
それにしても、本当に広いな。庭がちょっとしたグラウンドのような大きさなんだけど……よくしっかり手入れされているな。これが魔法ってやつか。
取り敢えず、ここに住むのは俺とレオン、それに子犬のシルだけなので、一階しか使っていない。
ニ階にも部屋は沢山あるんだけど、まあお客さんが来たときにでも使えるようにしとけばいっかと思い、一旦放置してある。
とにかく、俺たちはついに念願の拠点を手に入れたのだ。
それから数日後。
アンブロシアの一件から大分懐が温まった俺達は、一旦冒険者活動を休止することにした。
理由として、採集依頼が中心になっているので、各々の戦闘力をあげて討伐依頼を受けられるようにすること。
俺は討伐依頼が却下されていて、レオンも簡単な討伐依頼しか受けられなかったので、俺たちが強くなって実力で黙らせればいいと思ったのだ。
そこで早速ギルド長からの報酬の一つである、『講師をつけてもらう』ことにしたのである。
「これからお前達の講師を務めるレイクだ。俺は剣を使う。これから宜しく頼む」
「私はレイシア。同じく講師として依頼を承った……そう。この女冒険者の壮絶な戦いから勝ち取った座……弓と、一応魔法を担当しているわ。レイクとは双子の妹よ。宜しくね」
そして俺達に戦いかたを教えてくれる講師というレイクさんとレイシアさんがやってきた。
双子にしては体つきや身長、ましてや顔つきまであまり似ていないので、よくただの冒険者パーティーに間違えられるらしい。
まあ、強いていえばにている部分が目元というくらいだ。
「ふむ……これは、にらんせーのそーせーじ、だな。おれ、はじめてみたぞ」
「にらん……なんですって?」
やはりあまり文明が進んでいないらしい。
俺は簡単に双子について説明すると、感心しながらもすごい驚かれた。
多分だけれど、まだ子供に見える俺がなんでこんな知識を知っているのか不思議だったのかもな。
「まずは、あなた達の実力がどれくらいか確かめてみましょうか」
庭に出た俺達にレイシアさんは、十メートルくらい離れた場所レイクさんが立っている所を指差した。
「まずは、あそこに向かって矢を放ってみて。一人三回まで良いわ」
そう言われ子供用の弓と矢を渡される。
最初にレオンがすることになったけれど、今まで扱ったことがないのか一発もレイクさんの所へ届かなかった。
本人も初めてなので、それくらい当然と思っていたらしくそんなにショックは受けていない。そういうもんなのかもしれないな。
次に俺。
元日本育ちのお坊ちゃんに中世の世界の武器なんて到底……と思うだろう。フフンッ!!実は俺、案外できちゃうのですよ。
「いっしゃひっちゅー!!おれ、さいきょー!!」
掛け声とともに放った弓は、全てレイクさんの体にヒットした。
最後はちょっと手が滑ってド真ん中の股……違った。お股に直撃するところだったけど、神速で反応したレイクさんが叩き落としてくれてギリギリセーフだった。
「すごいわね!!変な掛け声だったけれど、あなた才能あるわ!!」
そうだろう、そうだろう。
だって俺、あの祭りの射的というもはやチートを使うしかないレベルの、超高難易度の射撃と渡り合っていた男ですから。
いやほんと、なんで直撃したのにピクリともしないのか不思議でならないけど、これしきで諦めることのなかった俺は、近所のおじさんから狩猟の中を借りて、おじさんの監視のもと撃たせてくれたのだ。
都会の子供からしたらびっくり仰天ものだけれど、ドがつくほどの田舎だと知り合いにそういう人がいればよくあること……だと思う。
つまり、俺は本場の銃で練習していたわけであるのだ。
反動の強いあの銃を小学生で扱えたんだから射的の銃くらい余裕………そう思っていた。
でも結局、俺はイカサマボッタクリという壁を打ち破ることはできなかったのだ。
「おれはな、あのひのむねんをむねに、ここでリベンジをはたすのだ」
「……なんかよく分からないけど、応援してるわね」
次に剣。
こちらも先にレオンがやることになって、レイクさんを相手に木刀で斬りかかることになったが、レオン、中々やるな。
自分よりずっと大きな相手にも怯まず、果敢に攻めている姿はいいな。特に動きが素早くて数で攻めてる感じがする。
ただ、ちょっと剣の振り方に拙さがあるのはこれから改善していけば良いことだ。今まで独学でここまで行けるなら、才能がありそうだけど……
素人目線の俺から見てもそう思うのだから、より専門のレイクさんはレオンの剣に関する潜在能力に気づいたのだろう。
少し口角を上げて楽しそうな表情をわずかに見せたけど、すぐに無表情に戻った。
「……才能はある。でも、才能があるからって驕っていたら駄目なのは分かるな?本当に強くなるためには死ぬほどの努力が必要だ」
これはこれは、手厳しいことで。
レオンは嬉しそうにしながらも緊張した顔で返事を返しているのが見えた。
レオン、頑張れよ。
次に俺の番になると、俺はレイクさんの元へ歩み寄って耳元で囁いた。
「おれ、けんもできるかも、だから……レオンとくらべること、いうのはやめてね」
「………あぁ、分かった」
これで一安心。
俺が高校生まで生きてきて培ってきた経験と、そしてなにより未来の最強の冒険者が剣を握ったのだ。これはもう使いこなして周りを尊敬の目で集める未来しか見えない。
……流石にレオンが俺と比べられるのは可哀想すぎるからな。
「それではいきます!!」
俺は剣を振りかぶってレイクさんに素早く近寄り、速攻攻撃を仕掛ける。
そしてこれまた速攻防がれた。
フンッ……俺では手加減ができないだろう。せいぜい全力で防御に回ることだな!!
その後も俺は攻撃を仕掛けようとしたけど、突然周りから慌ててストップが入った。
「いま、いーとこだったのに……なんでとめるんだよ」
「いや……」
「それにしても、おれ、すごかっただろ?あーあ、これでまたさいきょーに、ちかづいてしまったか」
「あ……あぁ。この自信満々な気持ちを維持し続ければ、いつか…最高峰の剣士になれるかもな……」
レイクさんも何故か絶句しながら俺に褒め言葉をくれる。
全く……レオンには厳しい言葉を言ったくせに、俺に向かっては褒め言葉だなんて、レオンが傷ついてしまったらどうするんだ。
俺はレオンの方を見ると、レオンも同じく絶句していた。
これは落ち込んでいるというよりは、なんか未確認飛行物体に遭遇したような顔だな。
いや……なんで?
お互いがお互いの顔を無言で見つめ合うという意味の分からない状況が出来上がっていた。
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