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第2章︙魔法都市編

月の女神

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『それで?貴方の手の中にあるその未完成のアンブロシアに奇跡を吹き込んでほしい……ということであってる?』


なんかすごい事になってしまった。


今俺の目の前には女神らしき女の人が。
隣には呆然としたレオンと大人しくおすわりしているシル。

そして何より……


「え、えと……えっと……さ、さっきはわるぐちいって、ごめんなさい!!おれ、むしするのしてるのかとおもて……」


この流れるような完璧な謝罪。
流石にこの状況でドヤってはいけないことくらいわかるが、余りにも完璧な大人の謝罪ができてほんの、ほんのちょっとニヤけてしまうのは仕方がない。
安心しろ。反省はしている。
汚い言葉を心の中とはいえ言ってしまったのは良くないことだ。
でも正直神様が全く返事しなかったのもいけないだろう。

うん。俺はしっかり反省している。


そんな俺の謝罪に感激したのかじっと見てくる女神様は、両手で俺の顔を挟んで頬をムニーッと伸ばしてきた。

『も……もちもち、だと…!?なんだこの至福の頬は!!けしからん!クロノス様がなんか隠していると思ったら、こういうことだったのね!!』


あ……この女神様、聖女の麗奈さんに性格というか雰囲気がそっくりだ…。


『ふう……取り敢えず、クロノス様が隠していたことについては後で問い詰めるとして、貴方に奇跡を起こしてあげるのは残念だけど……』


この少しばかり無念そうな顔にトーンの低い声、嫌な予感しかしない。


「め、めがみさまなら、できるでしょ?」

今度は俺がじっと女神様を見つめる。
今回はあのポンコツ……例のあの神様じゃないしきっと優秀な神様のはず。
手を結んで祈るようにじっと見ていると、女神様は気まずそうに少し視線を逸らして首を横に振った。

『これは私に捧げられたわけでもない魔力を使って無理やり顕現しているから……流石に【力】を使うと制約に違反することになるから…』


「な…!?お、おれのいままでのがんばりは……む、むだたったのか…」


俺ががっくりと項垂れて女神様から背を向ける。そしてレオンの方にトボトボと歩いてテントを片付けはじめた。
結局、アンブロシアを作ることができなかった…俺、すごい頑張ったのに最後の最後で出来なかった。
仕方ない。奇跡なんて起こせないんだ。どうせ俺には無理だったんだ。ここはもう、潔く諦めよう…

「お、お前、女神様を置いて帰るのか…!?」

「だいじょーぶだ……どうせめがみさま、いつでもかえれるんだからだーじょーぶ……はあ…」


俺は全てポシェットに入れ終わると、街に戻るためにシルを呼び寄せて歩き始めた。
足が重い。
今まで順調にいってたのに、急に駄目になったのだ。それはショックを受けて当然だろうと頭では分かっていても、どうしても落ち込んでしまう。


『あ、ち、ちょっと待って!!アンブロシアを作りたいのよね?そんなに落ち込まなくても、アンブロシアなら作れるかもしれないわよ!』

はぁ。どうせなにやったって無駄なんだ……なんだと!?


「そ、それって、うそじゃない?」

『えぇ。絶対にできるか分からないけど、アンブロシアの生成なら多分できるわ。このセレナーデの名に誓って本当よ』


さ……さすが女神様!!
あのポンコツとは違ってなんて優しいんだ!!あのポンコツは俺をちっちゃくして「あら…?ごめんね!!」の一言で終わらせたからな!!

それに比べて女神様…優しい神様だ。


「それで、おれ、なにすればいーんだ…?」

俺は期待に満ちた目で女神様を見ると、女神様はフッと笑って人差し指を唇に当てた。

『フフッ、貴方たちにやってもらいたいことは…神の儀式をやって貰いたいの』


女神様の説明曰く、俺たちが満月の夜、つまり今魔力を神に捧げる神の儀式をする。
そうすることで、、俺達の一生懸命な儀式を見て姿
そして捧げられた魔力を対価に女神様が祝福を授ける……とかなんとか。


これならギリギリ、グレーゾーンらしいけど……大丈夫か!

そうして女神と共同のアンブロシア生成計画が始まった。





----------------

セレナーデSIDE


ーあの子は特別だからくれぐれも外部の神に拐われないようにしないといけないんだよー

クロノス様がそう仰っていたときは内心呆れていたけれど、クロノス様が保護している子、クロノス様が仰っていたダイキという人間に接触した私はクロノス様の言っていることが分かった。

潜在能力、才能、容姿と様々な要因もそうだけれど、やはり一番はこの子の性格だろう。
その大胆であり、どこまでも純粋無垢で白い心は、聖なるものを司る私だからこそその希少性、いえ、唯一無二の価値をすぐに知ることができた。

この子は特別。悪いものも良いものも見境なく引き寄せてしまうほどの。

私は両手で目の前の子の顔を包みこんだ。
ぷにぷにした幼児特有の弾力。それだけでもたまらないのに清浄な魔力を宿らせているこの子は無意識的に周りの人達を癒やしている。

『も……もちもち、だと…!?なんだこの至福の頬は!!けしからん!クロノス様がなんか隠していると思ったら、こういうことだったのね!!』

これは駄目だ。色々とだめになりそうなほどに凄い。

それにさっきまで私に謝っていたのに、謝ったあとにドヤッとした顔をしていて……本人は隠しているつもりだったようだけど、すごい可愛かった。

これはもう女神会議で早急に対策を練らなければ。万が一ほかの神にさらわれたりなんてしたら、それこそ神としての失態、世界の損失に等しい。

取り敢えず渋々と頬から手を離してあげ、本題のアンブロシアを作りたいと言ったこの子は期待を込めたつぶらな瞳で私の方を見つめてくる。

「め、めがみさまなら、できるでしょ?」


はぅ……。こ、これは堪えるわね。
この聖なる女神を視線一つでダメージを与えられるなんて、なんて末恐ろしい子なのかしら。
後ろのハイエルフ……それも…原始の刻印がされている子はやはりずっと跪いた姿勢を崩さない。
それが普通の反応だ。この子が常識外れなだけで。

しかし残念ながら今の私はそんなこと出来ない。この体はこの子が打ち出した強大な魔力を無理やり取り入れてここに顕現しているのだ。維持するのも大変なのに女神の力なんて以ての外。
私は息を吐いて気まずげに視線をそらすと、なるべく傷つけないよう優しくできないと伝えてあげようとした。

『これは私に捧げられたわけでもない魔力を使って無理やり顕現しているから……流石に【力】を使うと制約に違反することになるから…』

だから仕方がない。そう言ってあげてもがっかりした顔は晴れなかった。
せっかく頑張っていたのに、全て諦めないといけないのは悲しいし、何より悔しい。

私は余りにも可哀想で咄嗟に声をかけていた。


『あ、ち、ちょっと待って!!アンブロシアを作りたいのよね?そんなに落ち込まなくても、アンブロシアなら作れるかもしれないわよ!』


この一言が私が永い間忘れていた『愛すること』だとはこの時はまだ気づきもしなかった。




…………………

いつも読んでくださりありがとうございます!!

ファンタジー大賞、ついに始まりましたね。
いつの間にか自分にもポイントが入っていて「誰が入れてくれた…?嬉しすぎる」と喜んでいた今日の朝でしたが、本当に投票してくれた方、ありがとうございました!!

そしてまだ投票していない方も投票してくれたら…嬉しいです!!
いつも読んでくださるだけで嬉しいですし、ハートを押してくださる方やエールしてくださる方もいつもありがとうございます!!
これからもよろしくおねがいします!

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