38 / 58
第2章︙魔法都市編
月の女神
しおりを挟む『それで?貴方の手の中にあるその未完成のアンブロシアに奇跡を吹き込んでほしい……ということであってる?』
なんかすごい事になってしまった。
今俺の目の前には女神らしき女の人が。
隣には呆然としたレオンと大人しくおすわりしているシル。
そして何より……
「え、えと……えっと……さ、さっきはわるぐちいって、ごめんなさい!!おれ、むしするのしてるのかとおもて……」
この流れるような完璧な謝罪。
流石にこの状況でドヤってはいけないことくらいわかるが、余りにも完璧な大人の謝罪ができてほんの、ほんのちょっとニヤけてしまうのは仕方がない。
安心しろ。反省はしている。
汚い言葉を心の中とはいえ言ってしまったのは良くないことだ。
でも正直神様が全く返事しなかったのもいけないだろう。
うん。俺はしっかり反省している。
そんな俺の謝罪に感激したのかじっと見てくる女神様は、両手で俺の顔を挟んで頬をムニーッと伸ばしてきた。
『も……もちもち、だと…!?なんだこの至福の頬は!!けしからん!クロノス様がなんか隠していると思ったら、こういうことだったのね!!』
あ……この女神様、聖女の麗奈さんに性格というか雰囲気がそっくりだ…。
『ふう……取り敢えず、クロノス様が隠していたことについては後で問い詰めるとして、貴方に奇跡を起こしてあげるのは残念だけど……』
この少しばかり無念そうな顔にトーンの低い声、嫌な予感しかしない。
「め、めがみさまなら、できるでしょ?」
今度は俺がじっと女神様を見つめる。
今回はあのポンコツ……例のあの神様じゃないしきっと優秀な神様のはず。
手を結んで祈るようにじっと見ていると、女神様は気まずそうに少し視線を逸らして首を横に振った。
『これは私に捧げられたわけでもない魔力を使って無理やり顕現しているから……流石に【力】を使うと制約に違反することになるから…』
「な…!?お、おれのいままでのがんばりは……む、むだたったのか…」
俺ががっくりと項垂れて女神様から背を向ける。そしてレオンの方にトボトボと歩いてテントを片付けはじめた。
結局、アンブロシアを作ることができなかった…俺、すごい頑張ったのに最後の最後で出来なかった。
仕方ない。奇跡なんて起こせないんだ。どうせ俺には無理だったんだ。ここはもう、潔く諦めよう…
「お、お前、女神様を置いて帰るのか…!?」
「だいじょーぶだ……どうせめがみさま、いつでもかえれるんだからだーじょーぶ……はあ…」
俺は全てポシェットに入れ終わると、街に戻るためにシルを呼び寄せて歩き始めた。
足が重い。
今まで順調にいってたのに、急に駄目になったのだ。それはショックを受けて当然だろうと頭では分かっていても、どうしても落ち込んでしまう。
『あ、ち、ちょっと待って!!アンブロシアを作りたいのよね?そんなに落ち込まなくても、アンブロシアなら作れるかもしれないわよ!』
はぁ。どうせなにやったって無駄なんだ……なんだと!?
「そ、それって、うそじゃない?」
『えぇ。絶対にできるか分からないけど、アンブロシアの生成なら多分できるわ。このセレナーデの名に誓って本当よ』
さ……さすが女神様!!
あのポンコツとは違ってなんて優しいんだ!!あのポンコツは俺をちっちゃくして「あら…?ごめんね!!」の一言で終わらせたからな!!
それに比べて女神様…優しい神様だ。
「それで、おれ、なにすればいーんだ…?」
俺は期待に満ちた目で女神様を見ると、女神様はフッと笑って人差し指を唇に当てた。
『フフッ、貴方たちにやってもらいたいことは…神の儀式をやって貰いたいの』
女神様の説明曰く、俺たちが満月の夜、つまり今魔力を神に捧げる神の儀式をする。
そうすることで、偶々気づいた女神様が、俺達の一生懸命な儀式を見て偶然にもこの健気な姿に感銘を受けた。
そして捧げられた魔力を対価に女神様が祝福を授ける……とかなんとか。
これならギリギリ、グレーゾーンらしいけど……大丈夫か!
そうして女神と共同のアンブロシア生成計画が始まった。
----------------
セレナーデSIDE
ーあの子は特別だからくれぐれも外部の神に拐われないようにしないといけないんだよー
クロノス様がそう仰っていたときは内心呆れていたけれど、クロノス様が保護している子、クロノス様が仰っていたダイキという人間に接触した私はクロノス様の言っていることが分かった。
潜在能力、才能、容姿と様々な要因もそうだけれど、やはり一番はこの子の性格だろう。
その大胆であり、どこまでも純粋無垢で白い心は、聖なるものを司る私だからこそその希少性、いえ、唯一無二の価値をすぐに知ることができた。
この子は特別。悪いものも良いものも見境なく引き寄せてしまうほどの。
私は両手で目の前の子の顔を包みこんだ。
ぷにぷにした幼児特有の弾力。それだけでもたまらないのに清浄な魔力を宿らせているこの子は無意識的に周りの人達を癒やしている。
『も……もちもち、だと…!?なんだこの至福の頬は!!けしからん!クロノス様がなんか隠していると思ったら、こういうことだったのね!!』
これは駄目だ。色々とだめになりそうなほどに凄い。
それにさっきまで私に謝っていたのに、謝ったあとにドヤッとした顔をしていて……本人は隠しているつもりだったようだけど、すごい可愛かった。
これはもう女神会議で早急に対策を練らなければ。万が一ほかの神にさらわれたりなんてしたら、それこそ神としての失態、世界の損失に等しい。
取り敢えず渋々と頬から手を離してあげ、本題のアンブロシアを作りたいと言ったこの子は期待を込めたつぶらな瞳で私の方を見つめてくる。
「め、めがみさまなら、できるでしょ?」
はぅ……。こ、これは堪えるわね。
この聖なる女神を視線一つでダメージを与えられるなんて、なんて末恐ろしい子なのかしら。
後ろのハイエルフ……それも…原始の刻印がされている子はやはりずっと跪いた姿勢を崩さない。
それが普通の反応だ。この子が常識外れなだけで。
しかし残念ながら今の私はそんなこと出来ない。この体はこの子が打ち出した強大な魔力を無理やり取り入れてここに顕現しているのだ。維持するのも大変なのに女神の力なんて以ての外。
私は息を吐いて気まずげに視線をそらすと、なるべく傷つけないよう優しくできないと伝えてあげようとした。
『これは私に捧げられたわけでもない魔力を使って無理やり顕現しているから……流石に【力】を使うと制約に違反することになるから…』
だから仕方がない。そう言ってあげてもがっかりした顔は晴れなかった。
せっかく頑張っていたのに、全て諦めないといけないのは悲しいし、何より悔しい。
私は余りにも可哀想で咄嗟に声をかけていた。
『あ、ち、ちょっと待って!!アンブロシアを作りたいのよね?そんなに落ち込まなくても、アンブロシアなら作れるかもしれないわよ!』
この一言が私が永い間忘れていた『愛すること』だとはこの時はまだ気づきもしなかった。
…………………
いつも読んでくださりありがとうございます!!
ファンタジー大賞、ついに始まりましたね。
いつの間にか自分にもポイントが入っていて「誰が入れてくれた…?嬉しすぎる」と喜んでいた今日の朝でしたが、本当に投票してくれた方、ありがとうございました!!
そしてまだ投票していない方も投票してくれたら…嬉しいです!!
いつも読んでくださるだけで嬉しいですし、ハートを押してくださる方やエールしてくださる方もいつもありがとうございます!!
これからもよろしくおねがいします!
302
お気に入りに追加
1,433
あなたにおすすめの小説
異世界でチート無双! いやいや神の使いのミスによる、僕の相棒もふもふの成長物語
ありぽん
ファンタジー
ある異世界で生きるアーベル。アーベルにはある秘密があった。何故か彼は地球での記憶をそのままに転生していたのだ。
彼の地球での一生は、仕事ばかりで家族を顧みず、そのせいで彼の周りからは人が離れていき。最後は1人きりで寿命を終えるという寂しいもので。
そのため新たな人生は、家族のために生きようと誓い、そしてできるならばまったりと暮らしたいと思っていた。
そんなマーベルは5歳の誕生日を迎え、神からの贈り物を授かるために教会へ。しかし同じ歳の子供達が、さまざまな素晴らしい力を授かる中、何故かアーベルが授かった力はあまりにも弱く。
だがアーベルはまったく気にならなかった。何故なら授かった力は、彼にとっては素晴らしい物だったからだ。
その力を使い、家族にもふもふ魔獣達を迎え、充実した生活を送っていたアーベル。
しかし変化の時は突然訪れた。そしてその変化により、彼ともふもふ魔獣達の理想としている生活から徐々に離れ始め?
これはアーベルの成長物語、いやいや彼のもふもふ達の成長物語である。
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
可愛いけど最強? 異世界でもふもふ友達と大冒険!
ありぽん
ファンタジー
[お知らせ] 書籍化決定!! 皆様、応援ありがとうございます!!
2023年03月20日頃出荷予定です!! 詳しくは今後の刊行予定をご覧ください。
施設で暮らす中学1年生の長瀬蓮。毎日施設の人間にいいように使われる蓮は、今日もいつものように、施設の雑用を押し付けられ。ようやく自分の部屋へ戻った時には、夜22時を過ぎていた。
そして自分お部屋へ戻り、宿題をやる前に少し休みたいと、ベッドに倒れ込んだ瞬間それは起こった。
強い光が蓮を包み込み、あまりの強い光に目をつぶる蓮。ようやく光が止んできたのが分かりそっと目を開けると…。そこは今まで蓮が居た自分の部屋ではなく、木々が生い茂る場所で。しかも何か体に違和感をおぼえ。
これは蓮が神様の手違いにより異世界に飛ばされ、そこで沢山の友達(もふもふ)と出会い、幸せに暮らす物語。
HOTランキングに載せていただきました。皆様ありがとうございます!!
お気に入り登録2500ありがとうございます!!
異世界で新生活〜スローライフ?は精霊と本当は優しいエルフと共に〜
ありぽん
ファンタジー
社畜として働いていた大松祐介は、地球での30歳という短い寿命をまっとうし、天国で次の転生を待っていた。
そしてついに転生の日が。神によると祐介が次に暮らす世界は、ライトノベルような魔法や剣が使われ、見たこともない魔獣が溢れる世界らしく。
神の話しにワクワクしながら、新しい世界では仕事に追われずスローライフを送るぞ、思いながら、神によって記憶を消され、新しい世界へと転生した祐介。
しかし神のミスで、記憶はそのまま。挙句何故か森の中へ転生させられてしまい。赤ん坊姿のため、何も出来ず慌てる祐介。
そんな祐介の元に、赤ん坊の祐介の手よりも小さい蝶と、同じくらいの大きさのスライムが現れ、何故か懐かれることに。
しかしここでまた問題が。今度はゴブリンが襲ってきたのだ。転生したばかりなのに、新しい人生はもう終わりなのか? そう諦めかけたその時……!?
これは異世界でスローライフ?を目指したい、大松祐介の異世界物語である。
もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!
ありぽん
ファンタジー
いつも『もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!』をご愛読いただき、ありがとうございます。
10月21日、『もふもち』コミカライズの配信がスタートしました!!
江戸はち先生に可愛いジョーディ達を描いていただきました。
先生、ありがとうございます。
今後とも小説のジョーディ達、そしてコミカライズのジョーディ達を、よろしくお願いいたします。
*********
小学3年生の如月啓太は、病気により小学校に通えないまま、病院で息を引き取った。
次に気が付いたとき、啓太の前に女神さま現れて、啓太自身の話を聞くことに。
そして啓太は別の世界の、マカリスター侯爵家次男、ジョーディ・マカリスターとして転生することが決まる。
すくすくそだった啓太改めジョーディは1歳に。
そしてジョーディには友達がいっぱい。でも友達は友達でも、人間の友達ではありません。
ダークウルフの子供にホワイトキャットの子供に。何故か魔獣の友達だらけ。
そんなジョーディの毎日は、父(ラディス)母(ルリエット)長男(マイケル)、そしてお友達魔獣達と一緒に、騒がしくも楽しく過ぎていきます。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!
ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー]
特別賞受賞 書籍化決定!!
応援くださった皆様、ありがとうございます!!
望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。
そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。
神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。
そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。
これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、
たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる