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第2章︙魔法都市編
別館での料理
しおりを挟む「………フッ、すべてよそーどおりだ」
「なにが予想通りだ馬鹿!!お陰で別館が水浸しじゃねえか!!」
そんなに怒らなくてもいいじゃないか。
あれだけ埃ばっかあった汚い館を綺麗に掃除してあげたんだし、少しくらい濡れたって別にどうってことないだろ。
「キャンッ」
………流石はシル。一瞬でビショビショの別館がピカピカになった。俺がわざわざ魔法を使うまでもなかったな。
「………お前、まじでその魔物えげつないぞ。どうやって契約したんだよ」
「えげつないとはなんだ!!おれのかあいーシルは、ぜんぜんえげつなくないぞ!!まほうつかいわんこでキュートなこいぬだ」
「なーにが可愛い子犬だ。これが可愛いなら全世界の魔物が可愛いわ」
はぁー。さっきから失礼なことばっか言いやがって。さっきの男のギルド長さんもそうだけど、ハイエルフってやつは口が悪いのか?
そういえば俺が読んでた漫画もハイエルフはプライドが高くて傲慢って感じだったな。
「ハイエルフって、めんどっちいんだな」
「なんだとお前!!」
ボソッと聞こえないように呟いたはずなのに聞こえていたらしい。なんかメッチャ驚いた顔をして怒ってる。
「ま、まあ。さっききこえたのはそらみみだ。きにしなくていーぞ。ほら、そんなことよりりょーりだ」
「サラッと誤魔化すな。それに空耳なのになんでお前がわかるんだよ」
細かいことは気にしない。俺はゴソゴソとポシェットを探って何か食材がないか調べてみる。
あのときのキノコと……あとはパンでしょ……あとあの美味い赤い果物に……あれ?これだけ?
この中で何か作るとしたら……うーん。少しばかりお金を使うことになるけど大丈夫かな?
「なあー。ウインナーはかえるか?」
「は?ウインナー?なんだよそれ」
あれ?……あぁ。ウインナーっていう言葉がないのかも。たしかもっと別の言い方だと……
「あ、おにくをちょーづめしたやつ、あるか?」
「あぁ。腸詰めのことか。それなら雌ウルフの腸詰めが今沢山あるから安く買えるぞ。脂がのってて美味いからな」
「なら、それかってきてー」
やはりこれだけ材料が限られてくると、自作アレンジの料理が一番最適なんだよなー。シチューとか作ろうと思っても具がないからな。
取り敢えずパンを半分こして……包丁がないから神様ナイフでいっか。どうせ今のところ他に使い道もないし。
俺はパンを出してスパスパ切っていくと、鍋を取り出しキノコをドバドバ入れていく。
「おれ、まだひーもやすまほう、つかえないから……シル、できるか?」
「キャンッ!!」
一声鳴くだけで竈に火がついた。
………魔法だからなのか知らないが、薪もなにもないため宙に浮いているからまるでおばけの火の玉のように見える。
そんな不思議な火の玉は効果抜群で、激しくないのに温度が高いのかすぐにグツグツしだしたキノコたち。
暫く煮たあとに火を消してもらいキノコたちを水で洗っていく。
普通に水道は繋がっているので水を遠慮なくドバドバ出していく。
蛇口のようなものではなく、取っ手をギコギコ動かして水を出すので大変だ。
よく洗って煮て柔らかくなったキノコたちはシルに水気をとってもらいパンの上に乗せていく。
ここからが本番だ。
俺は神様特製の魔法瓶を取り出すと、キノコが乗ったパンの上にたっぷりと粉チーズをふりかける。
この際粉チーズは駄目なんて贅沢なことは言ってられないので、ここはもう量で勝負とどんどん振りかけていく。
「おーいダイキ。腸詰め買ってきた!!いいやつを安く買えたぞ」
「お、どれどれって……でか!!」
レオンが腸詰めを買ってきたけれど、大きさが半端ない。
というか太さが俺の腕より太い。なんかレオンも両腕で抱えてるし、これが本場の腸詰めなのかも?多分元の世界なら添加物一切ない高級品だし。
「………これもいっかい、あらうか?」
「いや、洗浄魔法がかけてあるから洗わなくても綺麗だぞ」
………洗浄魔法。
そんなもの知らない。なんでアクアは教えてくれなかったんだ。名前だけ聞いても役立つ匂いがプンプンするぞ。
「それじゃー、このパンのうえにのっけてくれる?」
「え……なんだこの粉。なんか変な匂いもするし、まさか毒じゃねえだろうな。あとこのキノコはなんだよ」
「うるさいな。おれもおなかすいたから、なんでもいーだろ。ほら、さっさとてをうごかす!!」
俺が丹精込めて作った料理を怪しがるなんてけしからん。
俺は厳格にビシッと注意し黙々動かす………と思ったが、このエルフ、全然料理ができないらしくなんか粉チーズが散らばってるんだが。
「もー、ダメダメだな!!おれがやる!!」
「だ、だって俺ハイエルフだぞ!!普通に考えて周りから敬われる種族なんだよ!!お前が俺を使いっ走りにさせたりするほうがおかしいだろ!!」
フンッ、ハイエルフだから怠けてもいいって?
そんなの時代遅れ、貴族の時代の話………あ、そんな時代なのか。
しかし!!『働かざる者食うべからず』だ。
高貴な存在だから働かなくていい理由なんてないし、なにより俺だけ働いてレオンがぐーたらしてるなんて想像するだけでムカついてくる。
「こんかいは、おとまりさせてくれるから、とくべつにゆるしてやる。でも、つぎはじぶんでもはたらけよ!!」
「………。お前、世話になってる立場のくせになんで偉そうなんだよ」
結局ギャーギャー話しているうちに、あとは焼くだけになってしまった。
俺はシルに火の玉をこっちに持ってきてもらい上から炙るようにして焼いていく。
具の下に敷いてあるパンはもうできてるし、キノコも煮て柔らかいから短時間焦げが少し付く感じに焼けば完成だ。
「よし!!これでかんせーだ」
俺はポシェットからお皿を出すと盛り付けて片方をレオンに押しつけた。
「お、これ俺のか?案外お前も優し……」
「なにいってるんだ。ここでたべるんじゃなくて、やどにもどってたべるぞ。ここはテーブルがないからな。ほら、さっさとはこぶぞ」
なんか唖然とした表情で俺を見てくるけど、冷めないうちに食べたいから早く運んで欲しいのだが。
「あ、あとそれはレオンのだから、おとさないようにきおつけるんだぞ」
「あ、あぁ。そうだよな……ありがとう」
「どういたしまして!!」
俺は並んで歩いて宿に戻ると、近くの椅子によじ登って座って手を合わせる。
「神の恵みに感謝しこの食材を与えてくださっ……」
「いただきます!!」
なんか長い祈りをはじめたのでそんなの気にせず俺はいただきますして食べると、またもや唖然とした顔で凝視してくる。
「お前、神への感謝の祈り、してないだろ。なんで食べてるんだ?」
………え?
「かみさま?なんでかんしゃ?おれ、じぶんでつくった。なのにおれをちっさくしたポンコツにかんしゃ?……いやだね」
アレに感謝するなら料理を手伝ってくれたシルに感謝したほうがよっぽどいい。
俺は首を横にブンブン振って祈りを拒否すると、レオンはなにかを諦めた表情で「そうだな。お前はそういうやつだったよ……」と言いながら恐る恐る料理を口に運んだ。
「………美味い」
今回作ったのはピザをアレンジしたものだ。
口からビヨーンとチーズを伸ばして美味いと言ってるレオンはなかなかに面白くてつい笑ってしまった。
粉チーズも熱して一体化したからしっかりとしたチーズになっており、普通に美味しい。
俺達は周りとは少し変わった食事を楽しんでいた。
そして周りの人達が興味津々なのに全く気づかなかったダイキと、視線を感じて少し食べづらいレオンという謎の状況になっていた。
--------
レオナルド(レオン)SIDE
あのチビ……ダイキは普通とは違う。
最初の方は「変わったやつだな……」程度だったが、何故だろう。
時間が経つにつれてどんどんと普通からかけ離れていく気がするのは。
ギルド長のハイエルフに向かって生意気な口をきくし、えげつない魔物を従えているのは勿論、俺をこき使ってくるやつは普通いないだろ。
それに料理に火の玉のようなものを出していたが、色が青色で二度見してしまった。
あんな魔法は知らない。というか恐らくない。
極めつけは神に祈りを捧げず、「いただきます」の一言で食べ始めたのには本当に驚いた。
何故祈らなかったのか理由を聞くと、『かみさま?なんでかんしゃ?おれ、じぶんでつくった。なのにおれをちっさくしたポンコツにかんしゃ?……いやだね』と言って、さらに驚愕してしまった。
神を知っているかのような口ぶりだったけど……まさかな。そんなはずない。
とにかく、そんな変わり者のダイキでも、作った料理はどれも一品ですごい美味しい。
出来立てだからか匂いもあたりに漂っていて、周りのお客の目を釘づけにしている。
ダイキはそんなこと気にもとめていない……いや、気づいていないのかもしれないが、シルとかいうえげつない魔物に欠片をあげたりと、一見すれば和やかな雰囲気で食べているが、周りを見ろ周りを。
暫くこの宿が噂になりそうだとしみじみ思ったレオンだった。
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いつも読んでくださりありがとうございます!!
だんだんと文字数が増えて……何故か増えていますが、楽しんで読んでいただければ幸いです!
宜しくお願いしますm(_ _)m
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