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第1章︙精霊編
クロスの提案と訓練開始
しおりを挟む「あ、ダイキ様!お肉持ってきたよー!」
「ふむ。そこに、おいておきたまえ」
クロスの時間停止によりほかほかのままのパンに切り込みを入れていく。
精霊さんたちが新鮮なお肉を調達してきたので、俺はそこの台に置いてもらうよう合図し、鍋に水を入れてもらって沸かす。
勿論今回は俺が働いていると皆に見せつけるようにして動いているので、お昼のときみたいに俺が怠けてるなんて言えないよう根回しはバッチリだ。
……お肉は捌けんから、後でクロスたちが来たときにやってもらう予定とする。
「ねーねー、今回は何を作るの?」
「カレー?」
またカレーを食べたいだなんて、余程精霊さんはカレー好きだということが伺える。頭の良い俺にはすぐに分かったぞ。
しかし、残念だな。
「カレーじゃなくって……おにくサンドをつくろーと、おもっているのですよ」
「おにくサンド?」
「肉?肉を食うのか?」
精霊さん達はどうやら食については何も知らないらしい。フッ……どうやら俺が君たちに食に関する叡智を授けなければならないようだ。
「おにくサンドはな、おにくをサンドするのだよ。かんたんにつくれておーしいんだぞ!」
………どうやら俺の完璧とも言えるお肉サンドの説明にみんな衝撃を受けてポカーンとしているな。流石は俺。できる俺は料理の説明なんぞ大したことないのだよ。
「さーさー!パンをやいてくぞ!」
いまだにポカーンとしている精霊さん達を我に返らせ、せっせと手を動かしていく。
「主!僕も何か手伝うよ!」
「おそいぞクロス!おれ、ずっとまってたんだぞ!」
「ごめんね。ちょっと面倒くさいことになって時間がかかっちゃったんだよ」
火属性の精霊さん達が火を起こして、そこにパンを表面が少しカリカリになるまで焼き上げ、シルにもふもふをしてあげて、水を沸かしている鍋の火を調整して、シルと戯れる。
そしてクロスが捌いたお肉を茹で上げてから、火属性の精霊さん達に炙ってもらい皿に盛り付け、あのカレーソース応用版の、少ししょっぱく、そして甘く仕上げたソースをつけてパンに挟む。
「ふうー、おれ、がんばったぞ!」
俺が精霊さん達に向けて俺が胸を張ると、ほっこりした視線と共に拍手が送られる。
今回は俺の努力が認めてもらえたところで、皆でいただきますをして食べた。外はカリカリ、中はフワフワのパンに甘じょっぱいお肉が挟まれていてすごい美味しい。
「主。最近暇?ちょっと僕から提案があるんだけど」
うまうま食べているとクロスから何気なくそう尋ねられたので、俺は口いっぱいにお肉サンドを頬張ったままコクリと頷く。
するとクロスは精霊さんの魔法で作られた水の入ったコップを俺の口元に近づけた。
「喉に詰まらないように気をつけて」
「ん……ぷはぁー。おれ、そんなドジなことしないからだいじょうぶだぞ。それよりてーあんとはなんだね?」
「それはね………主に、魔法の訓練を受けてもらおうかなって思ってて……あ、もちろん強制はしないよ!自分がやりたいと思ったらでいいから」
………魔法、だと?
「ごほんっ!おれはぼーけんしゃになるため、たんれんしなければならない。………まほうか。まあ、いまのおれにはちょーどいーな!」
別に俺が魔法というエサに釣られたわけではない。これは将来冒険者になるために必要になるであろうと合理的に、かつ倫理的に判断した結果である。
それに俺は強い。魔法を取得したらまさに鬼に金棒ならぬ俺に魔法という最強の男が誕生するのだ。
結論として、最強の男は格好良い。
これはもう魔法の訓練を受けるしかないだろう。
俺は厳粛な顔つきでそうクロスに伝えると、クロスは少し心配そうな顔を一瞬覗かせ、ニコッと笑いながら「決まりだね」と嬉しそうに呟いた。
翌朝。
俺は今、精霊さんたちと朝のラジオ体操をしている。
理由は簡単。俺は大人の怖さを知っているから。
小さい頃は体が固いなんて言葉とは無縁だったのに、……いつからだろうか。
長座体前屈をやるたびに筋肉痛になるようになったのは。
そうやって大人の怖さを十分に思い知った俺は、子供の頃に戻った今こそ体の柔軟さを維持しようとラジオ体操を始めたのだ。
最初は一人でやっていたのだが、いつの間にか周りで精霊さんたちが俺の真似をしてラジオ体操をしていた。
やはりこれは俺のカリスマ性ってやつだろう。
そうして朝の体操を終え朝ご飯のパンに果物を食べ、準備バッチシな俺はクロスのあとをピタリとくっついて訓練するときにいつでもできるように準備していた。
……決して楽しみな気持ちであとをついて行ったわけではないのだ。
「えっと、じゃあ主。今回は少し早めに魔法訓練を始めようか?」
………俺には分かる。ここで「そうしよう!」なんて言ってしまえばコイツ楽しみにしてたんだと思われる。
つまりここはクールに受け流すべし。
「そーだな。はじめるとするか」
俺は腕を組んでクールに言葉を返す。
………何故かクロスや周りの精霊さん達が口元を押さえている。
魔法の訓練を始めるので魔法の呪文を唱えたいのかもしれない。それで口がムズムズしているのかも。
そんなに我慢しなくてもいいのに。
「ほら、まほうをとなえたいならいーぞ!ぞんぶんにじゅもんをはきだせ!」
「………え?なに言ってるんですかダイキ様?誰も魔法の呪文なんて唱えたいなんて思っていないですよ?」
………こ、今回は俺の予想がたまたま外れてしまったか。ま、まあ、俺も人間だし?
失敗することだってあるし?
だから……だから、俺は全然平気だし。
俺はほんの少し、本当にほんの少し落ち込んだ気持ちで魔法訓練を始めたのだった。
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