公爵令嬢のRe.START

鮨海

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第2章︙モスタニア連合国編

総ギルド戦6

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神級冒険者キルケ。

三大ギルドの一つ、ミルスギルドの団長であり、世界に数人しかいない神級冒険者の一人。
世界に君臨する「最強」。


しかし、今の彼女はたった一人の中級冒険者により苦戦を強いられていた。


「アイスフィールド」

極寒の領域を展開するとともに巨大な氷塊がいくつも吹き荒れる。

『アイスシールド』

そしてどんなに威力を込めて魔法を放とうが、ことごとく防がれる。
何より相手は同属性の防御魔法を使っていた。
それは、純粋に魔法技術が上だと誇示する行為であり、格下と見下す戦い方であった。


獄炎の秘剣イフリート

間を空けず放たれる超級魔法を対処することに時間がかかり、先ほどのように魔力で無理やり消滅させようとしたら右腕を貫かれた。

『ほら、契約者の腕をもぎ取ろうとしたんだよね?どう?自分の腕が貫かれる気分は。私は一度見た魔法は大体分かるからね。今更そんなナンセンスな魔力使いが通じると思わないほうがいいよ』

普通は魔力をとっくに切らしているはずのシアは依然として余裕の表情を見せている。
その姿はまさに、「最強」である者だった。

キルケはこの世界に生を授かって、いつも「勝ち」を歩んできた筈だ。
今回も己が勝つと信じて疑わなかった彼女に立ちはだかる異常グリモワールに初めて「負ける」という言葉が頭の片隅をよぎる。
そんなわけがない。私が負けるはずがないと言い聞かせていても、一度その考えが浮かんだらもう止めることはできなかった。

氷霊の聖槍フィオナ!!」

グリモワールが放ったときとは比べ物にならないほどの魔力含有量の超級魔法が放たれる。


「………!!」


そして直撃したはずのシアは依然として無傷。
本気の魔法を放ったにも関わらず、だ。
キルケは生まれてから一度も感じたことのなかった「焦り」に心が乱される。

『うん。今のはなかなかすごかったよ。流石は神級冒険者ってことかな。でも……で私を倒せるとでも思った?』

シアの身体からとてつもない魔力が放たれる。

『君の魔法は人より魔力が多く、魔法を扱う才能があっただけ。少しばかり自分が特別だからって何でもしていいわけじゃないんだよ』

今度は己より遥かに圧倒的な魔力をあてられ動けないキルケに、グリモワールは淡々と喋りかける。

『シアの魔力は君ほどの量はないよ。でも、魔力の「質」が極めて高い。まだ未熟なシアのことだからこの力を活かせていないけれどね。質が極めて高い魔力は、少しばかり薄めても何ら変わりはしない。だから……才能で言えば君よりこの子の方が何倍も優れている』

驚愕に目を見開くキルケに、グリモワールがニヤリと笑いながら口を開いた。

『だから、もう君が好き勝手出来るときは終わったよ。思い知るがいい。この世界には君より何倍も凄い人達がいるということを』


今にも意識が途切れそうになりながらも、キルケは最後の力を振り絞って問いかけた。

「貴方の名は……グリモワールと言いましたね。……本当に、グリモワールですか?」

息も絶え絶えにそう問いかけた彼女に、グリモワールは面白そうに目を瞬きながら首を傾げた。

「さあ、君の言っていることが何なのかよくわからないね」

グリモワールがそう素っ気なく返事をし、それを見たキルケはぼんやりと淡い笑みを浮かべる。


「まさか……あの方だなんて思わなかったわ。フフッ、これじゃあ私が負けるのも当然ね」

諦めるように清々しいほほ笑みで意識を失った彼女に、グリモワールが誰にも聞こえないように耳元に顔を寄せる。

『今回は許してやるけど、次私の契約者に手を出したら……殺すよ』


そうキルケに囁いたグリモワールは、誰にもその正体を見せず再び心のなかで眠りについた。





総ギルド戦、決勝戦。
突如の神級冒険者敗北の知らせは、試合を見ていた観客、そして街に瞬く間に広まっていった。
真っ先に脱落したミルスギルドに人々は驚愕し、誰がキルケを討ちとったのかと話題になるが、依然として仮面をつけた謎の冒険者の名を知るものはいなかった。


そして三大ギルドの一つが陥落したことにより、戦況が大きく動きはじめる。

三大ギルドのトールギルドの進行開始。三大ギルドであるミルスギルドが潰れたことにより強行突破に出ようとしたのである。
そして同時に動きはじめるギルド仲間であるアレス達。


行き先は一つ。シアとサリアスの救出、そして強奪を目的とした行進が始まっていた。



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