88 / 138
メバリング編
メバリング編2
しおりを挟む
日曜日の午前十一時、ヨシさんを会社の近くの自動販売機まで迎えに行った。
トークショーが始まるのが午後一時。ここからだと二時間もあれば余裕で着いて席も取れるだろう?と思っていたけれど、見積もりが甘かった。
昨今の釣りブーム。老若男女、かなりの大盛況でもちろん、椅子に座る事など出来る筈もなく、会場はパンパンだった。
凄い人気だ!と思いながら、会場を見渡す。最前列の椅子に座っている人達はいったい何時から待っているのだろう?そう考えていると、ふと見慣れた後頭部を見つけてしまった。
……いや。ただのそら似だろう。
ツルンツルンの頭の人なんて星の数のように多く居るんだし、それにメガネをかけていらっしゃるから、僕の知っているツルンツルン頭の人とは違うはず……。
……見なかった事にしよう。
うん!それがいい。見なかった事にしよう。
見なかった事にして、ステージを見ていると「おい。ヒロ。……あれ、しんちゃんだよね?」僕の肩を叩きながら、ヨシさんは僕が見なかった事にしたツルンツルン頭の人を指差して言った。
「いや、違う人ですよ。メガネかけていらっしゃるじゃないですか?似た人ですよ。似た人。」
「そ、そうかな?そ、そうだよね。」
僕がそう言うとヨシさんも自分を納得させるようにステージに目をやった。
そして、いよいよトークショーの始まりだ。
マイコさんとでんたつさんが司会の人の紹介でステージに上がる。
大きな拍手の中「マイコ~!!」とどこかで聞いた事のある声がこだまする。
……。
聞こえなかった事にしよう。
何かと面倒くさいから。聞こえなかった事にしよう。
ステージに上がったマイコさんは想像より小さく、でんたつさんは想像よりゴツかった。
渋いでんたつさんの声と可愛いマイコさんの声が周りに響き、会場の笑い声も重なり、大盛り上がりだった。新作エギの説明、春イカの攻略法など、勉強になる話も多く、凄く楽しかった。
トークショーも終わり、握手&サイン会の始まりだ。
僕はトークショーで言っていたエギを四本買い、ヨシさんもエギを五本買った。そして、サイン用の色紙を買って列に並ぼうとしたら、あのツルンツルン頭のおっさんと遭遇した。手にはダイミョウのポロシャツに上下のジャージ。色紙を大事そうに抱えている。
おっさんと目が合った。
あっ、やっぱり島田社長だ。
おっさんは目を逸らし、気まずそうに会釈をして、ささっと列に並んだ。
僕らも会釈をして、その少し後ろに並ぶ。
何とも気まずい空気。
そして、おっさんの握手とサインの順番になる。おっさんは買ったポロシャツ、ジャージの上下、色紙にサインをして握手をして貰おうとする。しかし、おっさんはあるまじき行為にでる。
おっさんはマイコさんと握手をしようとするが、寸前でかわす。それを何回も繰り返す。普通なら次の人!となる所なのだろうけど、何回も繰り返す。
なんだ?この異様な場の雰囲気は……。
周りは何かを期待していた。
それをしばらく繰り返していると、とうとうマイコさんがキレてあの名言が飛び出した。
「あんた、いい加減にしよし!おいどにエギ刺してフッキングさせますえ!!」
会場は一気に割れんばかりの歓声で埋め尽くされる。横に居るヨシさんでさえ、拳を突き上げて喜んでいた。
おっさん……いや、島田社長は感無量という表情でマイコさんとがっちり握手をし、でんたつさんに至っては、島田社長と熱い抱擁をかわしている。
こりゃ、マイコさんも大変だわ。
後のみんなは「ありがとうございます。」と頬を赤く染め、至福の表情で握手とサインをしていく。
そして、いよいよ僕の番がやってきた。
僕はサインをしてもらい、握手をした時に「大変ですね。大丈夫ですか?」と声を掛けた。
すると、マイコさんの瞳はみるみる大きくなり、握手をしてくれた両手には力が入った。
「ありがとうございます。何時もの事なんですけど……。」
「え?あのおじさん、何時も握手会とかに来るんですか?」
僕は無意識に会話をしてしまった。
「はい。ありがたい事なんですけど、九州内なら殆どお見えになります。」
マイコさんは何時もの京都弁とは違い標準語のような、イントネーションは京都弁な感じで話してくれた。
「ああなると皆さん凄く喜んで頂けるのですけれど、あなたみたいに心配してくれた人は初めてでした。ありがとうございます。」
僕とマイコさんの会話を見ていたのであろう、スタッフの方がなぜか写真を撮ってくれる事になった。
「あっ、私のスマホでも撮ってもらっていいですか?」
マイコさんはスタッフの方に自分のスマートフォンを渡し、僕と一緒の記念撮影を撮った。
「……あの~。お願いしたい事があるのですが、よろしいですか?」
「はい。なんでしょうか?」
「顔には分からないようにモザイクを掛けるので、私のSNSにアップしてよろしいでしょうか?」
マイコさんは上目遣いで僕に聞いてくる。
可愛い。反則的に可愛い。
僕は二つ返事でOKをだした。
「ありがとうございます!」
凄くマイコさんは喜んでくれた。もっと、お話しをしたいと思ったけれど、周りの視線が痛いように僕に突き刺さってきたので、「ありがとうございます。」と最後に伝え、でんたつさんの元へ向かった。
でんたつさんの手はマイコさんと違って、凄く固かった。
トークショーが始まるのが午後一時。ここからだと二時間もあれば余裕で着いて席も取れるだろう?と思っていたけれど、見積もりが甘かった。
昨今の釣りブーム。老若男女、かなりの大盛況でもちろん、椅子に座る事など出来る筈もなく、会場はパンパンだった。
凄い人気だ!と思いながら、会場を見渡す。最前列の椅子に座っている人達はいったい何時から待っているのだろう?そう考えていると、ふと見慣れた後頭部を見つけてしまった。
……いや。ただのそら似だろう。
ツルンツルンの頭の人なんて星の数のように多く居るんだし、それにメガネをかけていらっしゃるから、僕の知っているツルンツルン頭の人とは違うはず……。
……見なかった事にしよう。
うん!それがいい。見なかった事にしよう。
見なかった事にして、ステージを見ていると「おい。ヒロ。……あれ、しんちゃんだよね?」僕の肩を叩きながら、ヨシさんは僕が見なかった事にしたツルンツルン頭の人を指差して言った。
「いや、違う人ですよ。メガネかけていらっしゃるじゃないですか?似た人ですよ。似た人。」
「そ、そうかな?そ、そうだよね。」
僕がそう言うとヨシさんも自分を納得させるようにステージに目をやった。
そして、いよいよトークショーの始まりだ。
マイコさんとでんたつさんが司会の人の紹介でステージに上がる。
大きな拍手の中「マイコ~!!」とどこかで聞いた事のある声がこだまする。
……。
聞こえなかった事にしよう。
何かと面倒くさいから。聞こえなかった事にしよう。
ステージに上がったマイコさんは想像より小さく、でんたつさんは想像よりゴツかった。
渋いでんたつさんの声と可愛いマイコさんの声が周りに響き、会場の笑い声も重なり、大盛り上がりだった。新作エギの説明、春イカの攻略法など、勉強になる話も多く、凄く楽しかった。
トークショーも終わり、握手&サイン会の始まりだ。
僕はトークショーで言っていたエギを四本買い、ヨシさんもエギを五本買った。そして、サイン用の色紙を買って列に並ぼうとしたら、あのツルンツルン頭のおっさんと遭遇した。手にはダイミョウのポロシャツに上下のジャージ。色紙を大事そうに抱えている。
おっさんと目が合った。
あっ、やっぱり島田社長だ。
おっさんは目を逸らし、気まずそうに会釈をして、ささっと列に並んだ。
僕らも会釈をして、その少し後ろに並ぶ。
何とも気まずい空気。
そして、おっさんの握手とサインの順番になる。おっさんは買ったポロシャツ、ジャージの上下、色紙にサインをして握手をして貰おうとする。しかし、おっさんはあるまじき行為にでる。
おっさんはマイコさんと握手をしようとするが、寸前でかわす。それを何回も繰り返す。普通なら次の人!となる所なのだろうけど、何回も繰り返す。
なんだ?この異様な場の雰囲気は……。
周りは何かを期待していた。
それをしばらく繰り返していると、とうとうマイコさんがキレてあの名言が飛び出した。
「あんた、いい加減にしよし!おいどにエギ刺してフッキングさせますえ!!」
会場は一気に割れんばかりの歓声で埋め尽くされる。横に居るヨシさんでさえ、拳を突き上げて喜んでいた。
おっさん……いや、島田社長は感無量という表情でマイコさんとがっちり握手をし、でんたつさんに至っては、島田社長と熱い抱擁をかわしている。
こりゃ、マイコさんも大変だわ。
後のみんなは「ありがとうございます。」と頬を赤く染め、至福の表情で握手とサインをしていく。
そして、いよいよ僕の番がやってきた。
僕はサインをしてもらい、握手をした時に「大変ですね。大丈夫ですか?」と声を掛けた。
すると、マイコさんの瞳はみるみる大きくなり、握手をしてくれた両手には力が入った。
「ありがとうございます。何時もの事なんですけど……。」
「え?あのおじさん、何時も握手会とかに来るんですか?」
僕は無意識に会話をしてしまった。
「はい。ありがたい事なんですけど、九州内なら殆どお見えになります。」
マイコさんは何時もの京都弁とは違い標準語のような、イントネーションは京都弁な感じで話してくれた。
「ああなると皆さん凄く喜んで頂けるのですけれど、あなたみたいに心配してくれた人は初めてでした。ありがとうございます。」
僕とマイコさんの会話を見ていたのであろう、スタッフの方がなぜか写真を撮ってくれる事になった。
「あっ、私のスマホでも撮ってもらっていいですか?」
マイコさんはスタッフの方に自分のスマートフォンを渡し、僕と一緒の記念撮影を撮った。
「……あの~。お願いしたい事があるのですが、よろしいですか?」
「はい。なんでしょうか?」
「顔には分からないようにモザイクを掛けるので、私のSNSにアップしてよろしいでしょうか?」
マイコさんは上目遣いで僕に聞いてくる。
可愛い。反則的に可愛い。
僕は二つ返事でOKをだした。
「ありがとうございます!」
凄くマイコさんは喜んでくれた。もっと、お話しをしたいと思ったけれど、周りの視線が痛いように僕に突き刺さってきたので、「ありがとうございます。」と最後に伝え、でんたつさんの元へ向かった。
でんたつさんの手はマイコさんと違って、凄く固かった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる