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早苗!想いをクリームコロッケに溶かします!!編

早苗!想いをクリームコロッケに溶かします!!編4

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 ちょっと暇になっちゃったなぁ。
 まだ、お昼前。今日『かもめ』は営業しているから、昼ご飯食べに行こうかな……。いや、それだと、何か凄く恥ずかしいような気がする。やはり、閉店時間、間際に行くのがベスト……かな。
 そうしたら、昼ご飯どうしよう?まだお腹もあまり減ってないしなぁ。どうしょう?近くのお店に行こうかな?カップ麺でもいいかな?とか考えながら、クッションに座り、意味もなく天井を見上げる。
 そこには、何も変わらない天井。それは、今の私にも言える事なのかもしれない。そう思った。
 マスターと知り合ってから、ほとんど関係性の変わらないまま、春、夏、秋と、もう三つの季節が流れようとしている。
 私はそっと瞳を閉じて、これまでの事を思い出す。
 
 最初に食べたオムライス。美味しかったなぁ。一番最初に思い出すのはこの事だった。
 あの時は、なんて心のこもった、あたたかい料理を出す人なんだと思って、帰り際に握手しちゃったのを覚えてる。丁度、その頃、お仕事にも疲れちゃってて……このまま、お仕事を続けちゃっていいのかな?って、悩んでいた時期でもあった。それが、一口、オムライスを食べた時に、悩んでいた心がほぐされるような、とろふわのオムライスのように溶けていくような。そんな気がした。そして……救われたような気がした。
 それから、自然と足が向くようになり、嫌な事、辛い事、嬉しい事、何か無くても、お店に行くようになっていた。自然と常連さん達とも仲良くなって、凄く居心地の良い場所になった。マスターと愛奈さんも何時も笑顔で迎えてくれて、つまらないであろう、私の話や愚痴なんかも一生懸命に聞いてくれた。
 そして、何時からか……恋に落ちてしまっていた。
 それがどのタイミングだったかは分からないし、覚えてもいない。でも、素敵だ。と思った日の事は覚えている。
 
 夏のある日。
 それは、パンケーキを静江さんに振る舞う日だった。
 景子さんから連絡をもらって、私は『かもめ』へ向かった。
 パンケーキを食べた静江さんは直通さんとの思い出を思い出して、色々と話をしてくれて……。静江さんの気持ち。それを直通さんに伝えられなかった事を悔やんでいる。そう聞いた時、みんな泣いていた。
 それを見て、静江さんはこの話を終えようとしたけれど、マスターは優しく、静江さんの心に手を差し伸べるように、直通さんとの事を話しましょう。聞かせて下さい。と言った。
 私はそれを聞いて、見て、素敵だと思った。本当に優しい人なんだと思った。
 もし、あの時、マスターが静江さんに、この言葉を掛けていなかったら、静江さんはまだ元気になっていなかったのかもしれない。私は、マスターが静江さんを救ったと思った。私にもマスターみたいな素敵な人が側に居てくれたらなぁ。と思った……。
 瞳を開けて、天井を見つめる。やはり、何も変わらない。
 そう言えば、よくよく考えたら、私。マスターの携帯の電話番号も知らない。愛奈さんのは知っているけど……。肝心なマスターのは知らない。趣味も知らないし、この前、やっと好きな食べ物を聞けたくらい。
 ……そう言えば、お泊まりしたあの日も突然だったなぁ。
 
 あの日は、たまたま、私のお仕事の休みと『かもめ』の定休日が重なった日。
 その前日。私は何時ものように『かもめ』に居た。
 話の中で、予定がないから買い物にでも行こうかな?って言いつつ視線で、チラッと『誘ってくれないかな?光線』を出したのに気付かれなかった。
 でも、猫探しという変なイベントが発生しちゃって……。
 希望とは違うかたちになっちゃったけど、マスターと愛奈さん、それに私でミィちゃんを探す事になった。なかなか見つからず、大変だったけど、海でランチをして、ピクニックをしている気分になって、ちょっと浮かれてしまった。
 その後、偶然に見つけた白猫を追い掛けて、ミィちゃんを見つけて、木を登って、助けた。までは良かったのだけれど、泥まみれになって、最後には木から落ちそうになって、マスターに抱きしめられるかたちになっちゃって。何時もの事だけれど、最後にやらかしちゃって……あれは恥ずかしかったなぁ。
 そして、流れるままに、お風呂もお世話になり、晩ご飯も、お酒も、そして、お泊まりまでしてしまった。もしかして、私って、流されやすいのかもしれない?
 そして、偶然に夜中、喉が渇いて、一階に降りた時にマスターと二人きりになった。何を話していいか、少し分からなかった。当たり障りのない会話しかしていなかった気がする。緊張して。
 それでも、嫌な空気ではなかった。むしろ、落ち着く空間だった。
 その中で、マスターは私の事が優しいと言ってくれた。
 でも、私はマスターの言葉を否定するように、優しくなんかはない。そう思った。
 仮に、私が優しい。と思われるているのであれば、それはマスターだから。愛奈さんや、良くしてくれる常連さんだから。私は万人に同じ事が出来る訳ではない。好きだから、そうしたい。ただ、それだけ……。
 もしかしたら、倒れて居る人が居ても、私は手を差し伸べる事をしないかもしれない。
 悪口だって言う。愚痴だってこぼす。怒る事もある。テレビ越しで見ている私とは違う。優しいと言うのは、イメージだ。私はそう思っている。
 私は優しくなんか……ない。
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